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一族の噂 難あり 劣らず難あり 地味
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引き続き岩男氏とその娘たちについて話を聞く。
やはり良い噂は耳に入ってこない。
今も親子間に不穏な空気が流れている。
情けないことに反論できずにいる男。
娘たちの怒涛の反撃に撃沈。
父としての威厳も人生の先輩としての立場もぶち壊されてしまう。
それだけ彼女たちにとって噂程度だとしても許せないのだ。
長女から二女へ話が移る。
「ええっ? 二女ねえ。まあ長女に劣らずそれはおきれいでいらっしゃること。
美人姉妹ですからね」
「そして長女に劣らず気も強く性格も歪んでいて男好き。ただ長女ほど酷くないわ。
長女の方はもう病気だから。隠すことさえしなくなってる」
話から察するに実際に見たのは数える程度。
噂の姉妹像が勝手に出来上がってしまっている。
「ああ。娘たちのはあくまで個人的な意見だから気にしないでやってください。
本当に噂好きで困ってしまいますよ。あはは…… 」
きれいだと何かと大変。美人姉妹となれば注目の的。
良くない真偽不明の噂が広がるのも頷ける。
「二人とも落ち着け。興奮しすぎだぞ」
見かねた若者たちが男の擁護に回る。
美人に厳しい姉妹と美人に弱い男たちの対立構図。
「あんたたち何言ってるの? 常識じゃない。本当に男は美人に弱いんだから。
でもねあんたたちがいくら肩を持っても相手されないわよ。
長女は特にそう。若くてかわいい大人しいタイプが好きなんだから。笑っちゃう」
「本当にそう。男の子がお気に入りなの。クックック」
「申し訳ない。噂を信じる性質でね。結局は嫉妬ですよ。
我が娘ながら怖いものですよ女の嫉妬って言うのは」
どちらも決めつけが激しく参ってしまう。
男が同意を求めてくるものだから言い争いに巻き込まれかねない。
まあ話を聞いた手前責任が無いわけではないが…… それにしても……
長女と二女の話は十分集まった。
これくらいでいいだろう。ひたすら不快な話しか出てこなかったが。
「三女? これと言った印象は残ってない。変な噂もないしいい子なんじゃない。
あれだけ性格が悪い姉たちと一緒に育てば嫌でもまともな性格になるでしょ。
ただの想像だけど」
「姉たちからお下がりを譲り受けてたりして。フフフ…… どうあり得る? 」
「うそー。冗談でしょう。笑わせないでよね」
自分を殺し聞き役に徹することで誰にも感情移入せずに済む。
長女も二女もこれは一筋縄では行きそうにない。
まとめる。
長女。性格に難あり。
二女。長女に劣らず恐ろしい。
三女。まっすぐ育った。比較すると地味な女の子。
結局イメージが先行してしまい噂の域を出ない。
もう少し具体的なエピソードがあると助かる。
次のグループに移る。
畑仕事に精を出しているお爺さん連中の話を聞く。
「第一村人? 何じゃそれ聞いたことないわ」
「そうじゃそうじゃ。知らんはそんな訳の分からない奴。
聞いたことも見たこともない」
「第一村人など知らんわ。他を当たってくれ」
「第一村人? それならばあんたが最初に出会った者が第一村人であろう。
難しく考える必要も無いさ」
「昔この村と隣の村は一つの村だった。
権力争いによって山湖村が生まれた訳じゃが境界があいまいでな。
何度となく争いの原因になり、その都度話し合が持たれ今の形が出来上がった。
だから隣村での第一村人こそが本当の意味での第一村人なのさ」
「山湖村での第一村人? それはたぶん門番かと。
あそこは両村を行き来する唯一の道だからな。
もちろんそれ以外でも行き来できない訳ではないが。
命がけのルート。普通の人間はそんな選択はしない」
他には……
「元村長や一族ならもしかしたら秘密のルートを開拓してるかもしれない。
まずそんなことはないと思うがな」
「元村長? 」
「ああ。彼は一族と対立してしまい村長職を追われた身。
憎んでいたに違いない。
そして第一村人の要件も十分に満たしている。
気をつけるといい。
彼もそうだがその孫も何を考えてるか分からない。祖父に良いように操られている。
もしその第一村人が今度の長女失踪に関係があるなら彼らは限りなくクロであろう」
老人たちの戯言を聞くようになって大分経った。
時刻は間もなく四時。
続く
やはり良い噂は耳に入ってこない。
今も親子間に不穏な空気が流れている。
情けないことに反論できずにいる男。
娘たちの怒涛の反撃に撃沈。
父としての威厳も人生の先輩としての立場もぶち壊されてしまう。
それだけ彼女たちにとって噂程度だとしても許せないのだ。
長女から二女へ話が移る。
「ええっ? 二女ねえ。まあ長女に劣らずそれはおきれいでいらっしゃること。
美人姉妹ですからね」
「そして長女に劣らず気も強く性格も歪んでいて男好き。ただ長女ほど酷くないわ。
長女の方はもう病気だから。隠すことさえしなくなってる」
話から察するに実際に見たのは数える程度。
噂の姉妹像が勝手に出来上がってしまっている。
「ああ。娘たちのはあくまで個人的な意見だから気にしないでやってください。
本当に噂好きで困ってしまいますよ。あはは…… 」
きれいだと何かと大変。美人姉妹となれば注目の的。
良くない真偽不明の噂が広がるのも頷ける。
「二人とも落ち着け。興奮しすぎだぞ」
見かねた若者たちが男の擁護に回る。
美人に厳しい姉妹と美人に弱い男たちの対立構図。
「あんたたち何言ってるの? 常識じゃない。本当に男は美人に弱いんだから。
でもねあんたたちがいくら肩を持っても相手されないわよ。
長女は特にそう。若くてかわいい大人しいタイプが好きなんだから。笑っちゃう」
「本当にそう。男の子がお気に入りなの。クックック」
「申し訳ない。噂を信じる性質でね。結局は嫉妬ですよ。
我が娘ながら怖いものですよ女の嫉妬って言うのは」
どちらも決めつけが激しく参ってしまう。
男が同意を求めてくるものだから言い争いに巻き込まれかねない。
まあ話を聞いた手前責任が無いわけではないが…… それにしても……
長女と二女の話は十分集まった。
これくらいでいいだろう。ひたすら不快な話しか出てこなかったが。
「三女? これと言った印象は残ってない。変な噂もないしいい子なんじゃない。
あれだけ性格が悪い姉たちと一緒に育てば嫌でもまともな性格になるでしょ。
ただの想像だけど」
「姉たちからお下がりを譲り受けてたりして。フフフ…… どうあり得る? 」
「うそー。冗談でしょう。笑わせないでよね」
自分を殺し聞き役に徹することで誰にも感情移入せずに済む。
長女も二女もこれは一筋縄では行きそうにない。
まとめる。
長女。性格に難あり。
二女。長女に劣らず恐ろしい。
三女。まっすぐ育った。比較すると地味な女の子。
結局イメージが先行してしまい噂の域を出ない。
もう少し具体的なエピソードがあると助かる。
次のグループに移る。
畑仕事に精を出しているお爺さん連中の話を聞く。
「第一村人? 何じゃそれ聞いたことないわ」
「そうじゃそうじゃ。知らんはそんな訳の分からない奴。
聞いたことも見たこともない」
「第一村人など知らんわ。他を当たってくれ」
「第一村人? それならばあんたが最初に出会った者が第一村人であろう。
難しく考える必要も無いさ」
「昔この村と隣の村は一つの村だった。
権力争いによって山湖村が生まれた訳じゃが境界があいまいでな。
何度となく争いの原因になり、その都度話し合が持たれ今の形が出来上がった。
だから隣村での第一村人こそが本当の意味での第一村人なのさ」
「山湖村での第一村人? それはたぶん門番かと。
あそこは両村を行き来する唯一の道だからな。
もちろんそれ以外でも行き来できない訳ではないが。
命がけのルート。普通の人間はそんな選択はしない」
他には……
「元村長や一族ならもしかしたら秘密のルートを開拓してるかもしれない。
まずそんなことはないと思うがな」
「元村長? 」
「ああ。彼は一族と対立してしまい村長職を追われた身。
憎んでいたに違いない。
そして第一村人の要件も十分に満たしている。
気をつけるといい。
彼もそうだがその孫も何を考えてるか分からない。祖父に良いように操られている。
もしその第一村人が今度の長女失踪に関係があるなら彼らは限りなくクロであろう」
老人たちの戯言を聞くようになって大分経った。
時刻は間もなく四時。
続く
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