『第一村人』殺人事件

二廻歩

文字の大きさ
上 下
49 / 109

新章突入 胸を貫く光

しおりを挟む
解決編

新章 遅れてきた名探偵。


白いもやがかかっていて視界が悪い。

辛うじて近くに人影があることが分かる。

もしここが山なら一瞬で遭難するだろう。

もちろんここはそんな危険な場所ではない。屋内だ。

女湯。お客は私と同年代の方がほとんど。

若い人もいるのだろうけどそれだって私と比べればって話。

なぜかお馴染謎の湯気のもやが物語を演出している。

テレビ対応かしら?

テレビって言えば白黒なんですけど。これが普通なの?

電話に至っては一台も見当たらない。

とんでもないところに来てしまった。


やっぱり温泉はいい。秋から冬がベストシーズン。でも春だって悪くない。

今は三月。暖かくなってきてもいいもの。

さすがに夏は無理だろう。

うん気持ちいい。白濁の湯が実に気持ちいい。

温泉とは名ばかりの大浴場。

効能はメガネを外したので大きな文字しか。

肩こり。腰痛。神経痛。リュウマチ。

ここまでしか分からない。後は細かくて細かくて。

うん。まあこれだけでも十分期待が持てそう。

最近本当に腰が酷くなってきたから本格的に湯治でも始めようかしら。

今回は観光? にはならないでしょうね。またこき使われるのが目に見えてる。


ふう。気持ちいい。

長旅の疲れが一気に吹き飛ぶ。

うんいい。

つい唸ってしまう。

「どちらから? 」

せっかく一人で満喫しているところに邪魔が入る。

「あらお邪魔でしたかしら」

「いえいえ。暇を持て余したものですからはい」

話を合わせる。

さあ切り替え。切り替え。せっかくだから情報収集に取り掛かりましょう。

「それでどちら? 」

「東の方から参りました。あなたは? 」

「東京? まあどうしましょう。私は地元なんですよ」

ちょうどいい。

「長旅で疲れてしまいました。今さっきついたんですよ」

「それはそれは大変でしたわね奥さん」


十時間近い移動を重ねようやくたどり着いた極楽の地。

秘湯と噂されている温泉郷。

そこの露天風呂ではなくなぜか旅館の方の大浴場。

迷いに迷って選択。迷い過ぎておかしなところを選ぶ。

後で大浴場しかないことに気付いたがこれ以上は一歩も動きたくない。

仕方ないのでここで一晩過ごすことにした。

長期の滞在になるだろうからまだいくらだってチャンスはある。

自分の運の悪さにはほとほと呆れてしまうが。


それにしても長かった。遠かった。

この年齢ではとうに限界を超えている。

ああ疲れる疲れる。

これが最近の口癖。

先生に指摘されて恥ずかしい思いをしたっけ。

先生って言っても形だけのひよっこ。

「実は時間をかけてゆっくり体の疲れと痛みを取ろうと思いまして」

「あらまあ」

「奥さんもそうなんですか? 」

「いえ。地元だから思いついたらふらっと入りに」

「本当は露天風呂に行く予定だったんですよ」

「ここも悪くありません。地元の者が勧めるんだから間違いありません」

そうですかと適当に相槌を打つ。

ここの温泉郷に来る客の七割が湯治で長居をしている。それ以外は観光客。

残りが地元の方。


「ねえあなた。ここに来るのは初めて? 」

「ええ。体の調子が悪いもので特に腰と背中と膝が良くないんです」

「あらまあ大変ね。そんな人が大半なのよ」

地元の常連さんは色々世話を焼きたがるから困ってしまう。

できたら放っておいて欲しい。大した情報もくれないし。

でも私がいくら態度で示してもきっと理解してくれないだろうな。

さあどうしましょう。

もうおばあちゃんなのよ。静かにしてもらいたい。

でもここで騒ぎを起こして目立てばこれから動きにくくなってしまう。

最初が肝心と言うけど頷ける。

仕方なく裸の付き合いを続ける。もちろん謎の光が私の胸を貫くのだけど。


「ここはね。いいところよ奥さん」

長話の予感。

「東京から来たから少し不便に思うかもしれないけどいいところばかり。

空気もきれいだし何より自然が豊かで水だって飲めるのよ。

観光客にも人気のスポットがたくさん。明日案内してあげましょうか」

丁重にお断りする。これ以上付きまとわれては迷惑でしかない。

それに私はおばあちゃんだけどあなたよりしっかりしてる。

頭だって切れるし計算もできる。

侮ってもらっては困る。

それに東の方からと最初にぼかしたのに東京から来たと勝手に決めつけるのは迷惑。

いいところと言うけどこんな山奥の田舎なら当然空気もきれいで水だって美味しい。

いいところって他に何がある? 教えて欲しいわね。


私だって先生のお世話で仕方なく来てるだけ。

本当はこんな不便なところ嫌だったの。

電話の一つも置いてないんだから。

あーもう。イライラする。

聞こえた?

もう年だもの。我慢したら体に悪い。ねえそうでしょう?


              続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

幼馴染、幼馴染、そんなに彼女のことが大切ですか。――いいでしょう、ならば、婚約破棄をしましょう。~病弱な幼馴染の彼女は、実は……~

銀灰
恋愛
テリシアの婚約者セシルは、病弱だという幼馴染にばかりかまけていた。 自身で稼ぐこともせず、幼馴染を庇護するため、テシリアに金を無心する毎日を送るセシル。 そんな関係に限界を感じ、テリシアはセシルに婚約破棄を突き付けた。 テリシアに見捨てられたセシルは、てっきりその幼馴染と添い遂げると思われたが――。 その幼馴染は、道化のようなとんでもない秘密を抱えていた!? はたして、物語の結末は――?

聖なる者~王女ルナの恋

夢織人
ミステリー
どの宗教も最後には、救世主が現れ、この世を救うことになっている。 この物語は、幼き日頃、「聖なる者」の生まれ変わりと認定されたがゆえに、政府に拉致された少年を題材にした現代ファンタジー小説です。“救世主”と噂される兄を持つ流浪の王女ルナが出会った初恋は、美しくも哀しい宿命を背負う青年だった。

ジンクス【ZINKUSU】 ―エンジン エピソードゼロ―

鬼霧宗作
ミステリー
本作品は縁仁【ENZIN】―捜査一課 対異常犯罪交渉係―の続編にあたります。本作からでもお楽しみいただけますが、前作を先にお読みいただいたほうがなおお楽しみいただけるかと思います。 ※現在、色々と多忙につき不定期連載 週に3から4日は更新します。 平成。 今や過ぎ去りし過去となる時代。 累計で99人を殺害したとされる男。 名は坂田仁(さかたじん)。 これは、彼の若かりし時代に起きた、とある事件の話。 縁仁【ENZIN】―捜査一課 対異常犯罪交渉係―より10年以上の時を経て、ようやく続編開始。 【第一話 コレクター】《連載中》 全ての始まりは、彼が若き頃につるんでいた不良グループのメンバーが、変死体で見つかるという事件が起きたことだった。 特に殺害されたメンバーの第一発見者となった坂田は、その普段からの素行のせいで、警察や仲間内から犯人ではないかと疑いをかけられ、確証もないままに仲間内から制裁を受けることになってしまう。 そこに身を挺して助けに入ったのが、以前よりの悪友である楠野鐘(くすのしょう)だった。 坂田と楠野は、かつての仲間達をかわしつつ、坂田の身の潔白を証明するために犯人を探し始める。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

処理中です...