『第一村人』殺人事件

二廻歩

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囚人のヤーミー

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鐘が響き渡った。

「おお三時の鐘だ」

隣の男の声で目が覚める。

現在時刻は午後三時。

足音が迫っている。

「降りてくる。飯の時間だ。早く。早く」

男が騒ぎ出した。

昼食の時間らしい。

少し遅いのは男の言では準備に戸惑っているからだとか。

一気に三人増え、五人になったのだから当然か。

ただ実際は残飯の回収に時間がかかったのが原因かと私は見ている。

村長は罪人には甘くない。残り物でも出しておけと考えても不思議はない。

私としてはこの際残飯でも文句はない。もちろんおいしいに越したことはないが。

仮にまずくても食えるだけ有難い。


「飯の時間だ。順番だからな」

「やった」

助手の声がした。喜んで踊っているのだろう。単純な奴で恥ずかしくなってくる。

小さな隙間から銀の皿が差し入れられる。

メニューは冷めたご飯と温くなった味噌汁、漬物にメインの鶏のから揚げが二個も。

まあまあかな。これが牢の飯であるならば合格点だ。

できればデザートとサラダがあればもっといい。それはいくら何でも贅沢過ぎるか。

我々はこれでいいのだが問題はルーシー。慣れない和食。と言うか残飯。

手をつけずに衰弱していく彼女の姿が目に浮かぶ。

「大丈夫か? 口に合わないなら取り換えてもらうといい」

「サンクス イッツグッド」

「ははは! 心配し過ぎだぜ。人間極限状態では何でも喰うものさ」

「しかし…… 」

「ヤーミー ヤーミー 」

「ほらやっぱり。心配のし過ぎだよ探偵さん」

「ヤーミー 闇 ヤーミー 闇」

「冗談言ってやがる。ははは! 」

まあいいか。

ルーシーは全部平らげた。相当お腹が空いていたのだろう。


三十分後皿の回収にくる。

「ホラ奥に行くんだ。そこで座ってろ」

勝手が分からずに苦労する。

どうやら回収の時に襲われないように注意しているらしい。

確かに持ってくる時よりも回収する時の方が危険度は増す。

それには囚人の心理も関係してるだろう。

人間腹が減っていれば大人しく従う。

これが回収の時では満腹でお預けを喰らう恐れもない。

一気に襲い掛かかろうと邪心が芽生えても不思議ではない。

もちろん我々がそんな野蛮な訳ない。隣の男ならいざ知らず。


「俺らを信用できないのか。このチキン野郎」

男が挑発する。

腹いっぱいになって食後の運動がしたくてしょうがないらしい。困ったな。

「まったく嫌になるぜ。なあ皆」

挑発し続けるが乗ってこない。この手の輩の扱いには慣れているのだろう。

馬鹿の言うことは聞かないと相手にしない。

回収作業を終え再び五人だけになった。


「これは…… 」

「どうした探偵さん」

「いやついつい隙間が気になりまして。なぜこの隙間が必要なのか分かります? 」

「そりゃ飯や何かを配るのに便利だからだろ。それ以外考えられねえ。

いちいち牢の鍵を開けるのは面倒だしな脱獄する恐れだってあるしよ」

そう彼の言う通り。もちろんそれくらい分かっている。

だが問題はこの状況が何かに似てないかと言うこと。

「この隙間がもう少し大きければ通り抜けられる。そうは思いませんか? 」

「はあ? 脱走してえのか。それじゃあこの何倍もの隙間が必要になってくるな。

奴らだって馬鹿じゃないさ。実際この隙間で…… うわあ」

実際に通り抜けようと体を張るが案の定挟まりそうになり息を切らす。

「そう。逆に言うとどのような人間でも通り抜けるのは不可能。

もちろん見張りもいてこの館から脱出するのは至難の業ですが」

「ほう面白いな」

男は暇つぶしにと戯言に付き合ってくれる。

「でも虫なんかどうでしょう。楽々入ってこられませんか? 」

「まあな。虫なんかはよう隙間から入り放題。出て行くのも自由だ」

ネズミが食いカスを求めてやってくる。蟻が列になってやってくる。

油断してると盗まれたりかじられたりする。寝てる時が一番厄介。

あとはハエや蚊に悩まされることも。


なぜ牢の者が外に出れないのか?

それはいくら隙間があったとしても引っかかってしまうから。

当然のことで仕組みを理解しているから我々はそんな無駄で愚かしい真似をしない。

約一名を除いて。

我々もあと二、三日もすれば出してもらえると信じている。だからまだ余裕がある。


少し疲れた。隣の男も話しに飽きたのか横になっている。

ルーシーが大人しいのが気になるが私も男に倣い横になるとしよう。


                 続く
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