45 / 109
囚人のヤーミー
しおりを挟む
鐘が響き渡った。
「おお三時の鐘だ」
隣の男の声で目が覚める。
現在時刻は午後三時。
足音が迫っている。
「降りてくる。飯の時間だ。早く。早く」
男が騒ぎ出した。
昼食の時間らしい。
少し遅いのは男の言では準備に戸惑っているからだとか。
一気に三人増え、五人になったのだから当然か。
ただ実際は残飯の回収に時間がかかったのが原因かと私は見ている。
村長は罪人には甘くない。残り物でも出しておけと考えても不思議はない。
私としてはこの際残飯でも文句はない。もちろんおいしいに越したことはないが。
仮にまずくても食えるだけ有難い。
「飯の時間だ。順番だからな」
「やった」
助手の声がした。喜んで踊っているのだろう。単純な奴で恥ずかしくなってくる。
小さな隙間から銀の皿が差し入れられる。
メニューは冷めたご飯と温くなった味噌汁、漬物にメインの鶏のから揚げが二個も。
まあまあかな。これが牢の飯であるならば合格点だ。
できればデザートとサラダがあればもっといい。それはいくら何でも贅沢過ぎるか。
我々はこれでいいのだが問題はルーシー。慣れない和食。と言うか残飯。
手をつけずに衰弱していく彼女の姿が目に浮かぶ。
「大丈夫か? 口に合わないなら取り換えてもらうといい」
「サンクス イッツグッド」
「ははは! 心配し過ぎだぜ。人間極限状態では何でも喰うものさ」
「しかし…… 」
「ヤーミー ヤーミー 」
「ほらやっぱり。心配のし過ぎだよ探偵さん」
「ヤーミー 闇 ヤーミー 闇」
「冗談言ってやがる。ははは! 」
まあいいか。
ルーシーは全部平らげた。相当お腹が空いていたのだろう。
三十分後皿の回収にくる。
「ホラ奥に行くんだ。そこで座ってろ」
勝手が分からずに苦労する。
どうやら回収の時に襲われないように注意しているらしい。
確かに持ってくる時よりも回収する時の方が危険度は増す。
それには囚人の心理も関係してるだろう。
人間腹が減っていれば大人しく従う。
これが回収の時では満腹でお預けを喰らう恐れもない。
一気に襲い掛かかろうと邪心が芽生えても不思議ではない。
もちろん我々がそんな野蛮な訳ない。隣の男ならいざ知らず。
「俺らを信用できないのか。このチキン野郎」
男が挑発する。
腹いっぱいになって食後の運動がしたくてしょうがないらしい。困ったな。
「まったく嫌になるぜ。なあ皆」
挑発し続けるが乗ってこない。この手の輩の扱いには慣れているのだろう。
馬鹿の言うことは聞かないと相手にしない。
回収作業を終え再び五人だけになった。
「これは…… 」
「どうした探偵さん」
「いやついつい隙間が気になりまして。なぜこの隙間が必要なのか分かります? 」
「そりゃ飯や何かを配るのに便利だからだろ。それ以外考えられねえ。
いちいち牢の鍵を開けるのは面倒だしな脱獄する恐れだってあるしよ」
そう彼の言う通り。もちろんそれくらい分かっている。
だが問題はこの状況が何かに似てないかと言うこと。
「この隙間がもう少し大きければ通り抜けられる。そうは思いませんか? 」
「はあ? 脱走してえのか。それじゃあこの何倍もの隙間が必要になってくるな。
奴らだって馬鹿じゃないさ。実際この隙間で…… うわあ」
実際に通り抜けようと体を張るが案の定挟まりそうになり息を切らす。
「そう。逆に言うとどのような人間でも通り抜けるのは不可能。
もちろん見張りもいてこの館から脱出するのは至難の業ですが」
「ほう面白いな」
男は暇つぶしにと戯言に付き合ってくれる。
「でも虫なんかどうでしょう。楽々入ってこられませんか? 」
「まあな。虫なんかはよう隙間から入り放題。出て行くのも自由だ」
ネズミが食いカスを求めてやってくる。蟻が列になってやってくる。
油断してると盗まれたりかじられたりする。寝てる時が一番厄介。
あとはハエや蚊に悩まされることも。
なぜ牢の者が外に出れないのか?
それはいくら隙間があったとしても引っかかってしまうから。
当然のことで仕組みを理解しているから我々はそんな無駄で愚かしい真似をしない。
約一名を除いて。
我々もあと二、三日もすれば出してもらえると信じている。だからまだ余裕がある。
少し疲れた。隣の男も話しに飽きたのか横になっている。
ルーシーが大人しいのが気になるが私も男に倣い横になるとしよう。
続く
「おお三時の鐘だ」
隣の男の声で目が覚める。
現在時刻は午後三時。
足音が迫っている。
「降りてくる。飯の時間だ。早く。早く」
男が騒ぎ出した。
昼食の時間らしい。
少し遅いのは男の言では準備に戸惑っているからだとか。
一気に三人増え、五人になったのだから当然か。
ただ実際は残飯の回収に時間がかかったのが原因かと私は見ている。
村長は罪人には甘くない。残り物でも出しておけと考えても不思議はない。
私としてはこの際残飯でも文句はない。もちろんおいしいに越したことはないが。
仮にまずくても食えるだけ有難い。
「飯の時間だ。順番だからな」
「やった」
助手の声がした。喜んで踊っているのだろう。単純な奴で恥ずかしくなってくる。
小さな隙間から銀の皿が差し入れられる。
メニューは冷めたご飯と温くなった味噌汁、漬物にメインの鶏のから揚げが二個も。
まあまあかな。これが牢の飯であるならば合格点だ。
できればデザートとサラダがあればもっといい。それはいくら何でも贅沢過ぎるか。
我々はこれでいいのだが問題はルーシー。慣れない和食。と言うか残飯。
手をつけずに衰弱していく彼女の姿が目に浮かぶ。
「大丈夫か? 口に合わないなら取り換えてもらうといい」
「サンクス イッツグッド」
「ははは! 心配し過ぎだぜ。人間極限状態では何でも喰うものさ」
「しかし…… 」
「ヤーミー ヤーミー 」
「ほらやっぱり。心配のし過ぎだよ探偵さん」
「ヤーミー 闇 ヤーミー 闇」
「冗談言ってやがる。ははは! 」
まあいいか。
ルーシーは全部平らげた。相当お腹が空いていたのだろう。
三十分後皿の回収にくる。
「ホラ奥に行くんだ。そこで座ってろ」
勝手が分からずに苦労する。
どうやら回収の時に襲われないように注意しているらしい。
確かに持ってくる時よりも回収する時の方が危険度は増す。
それには囚人の心理も関係してるだろう。
人間腹が減っていれば大人しく従う。
これが回収の時では満腹でお預けを喰らう恐れもない。
一気に襲い掛かかろうと邪心が芽生えても不思議ではない。
もちろん我々がそんな野蛮な訳ない。隣の男ならいざ知らず。
「俺らを信用できないのか。このチキン野郎」
男が挑発する。
腹いっぱいになって食後の運動がしたくてしょうがないらしい。困ったな。
「まったく嫌になるぜ。なあ皆」
挑発し続けるが乗ってこない。この手の輩の扱いには慣れているのだろう。
馬鹿の言うことは聞かないと相手にしない。
回収作業を終え再び五人だけになった。
「これは…… 」
「どうした探偵さん」
「いやついつい隙間が気になりまして。なぜこの隙間が必要なのか分かります? 」
「そりゃ飯や何かを配るのに便利だからだろ。それ以外考えられねえ。
いちいち牢の鍵を開けるのは面倒だしな脱獄する恐れだってあるしよ」
そう彼の言う通り。もちろんそれくらい分かっている。
だが問題はこの状況が何かに似てないかと言うこと。
「この隙間がもう少し大きければ通り抜けられる。そうは思いませんか? 」
「はあ? 脱走してえのか。それじゃあこの何倍もの隙間が必要になってくるな。
奴らだって馬鹿じゃないさ。実際この隙間で…… うわあ」
実際に通り抜けようと体を張るが案の定挟まりそうになり息を切らす。
「そう。逆に言うとどのような人間でも通り抜けるのは不可能。
もちろん見張りもいてこの館から脱出するのは至難の業ですが」
「ほう面白いな」
男は暇つぶしにと戯言に付き合ってくれる。
「でも虫なんかどうでしょう。楽々入ってこられませんか? 」
「まあな。虫なんかはよう隙間から入り放題。出て行くのも自由だ」
ネズミが食いカスを求めてやってくる。蟻が列になってやってくる。
油断してると盗まれたりかじられたりする。寝てる時が一番厄介。
あとはハエや蚊に悩まされることも。
なぜ牢の者が外に出れないのか?
それはいくら隙間があったとしても引っかかってしまうから。
当然のことで仕組みを理解しているから我々はそんな無駄で愚かしい真似をしない。
約一名を除いて。
我々もあと二、三日もすれば出してもらえると信じている。だからまだ余裕がある。
少し疲れた。隣の男も話しに飽きたのか横になっている。
ルーシーが大人しいのが気になるが私も男に倣い横になるとしよう。
続く
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

磯村家の呪いと愛しのグランパ
しまおか
ミステリー
資産運用専門会社への就職希望の須藤大貴は、大学の同じクラスの山内楓と目黒絵美の会話を耳にし、楓が資産家である母方の祖母から十三歳の時に多額の遺産を受け取ったと知り興味を持つ。一人娘の母が亡くなり、代襲相続したからだ。そこで話に入り詳細を聞いた所、血の繋がりは無いけれど幼い頃から彼女を育てた、二人目の祖父が失踪していると聞く。また不仲な父と再婚相手に遺産を使わせないよう、祖母の遺言で楓が成人するまで祖父が弁護士を通じ遺産管理しているという。さらに祖父は、田舎の家の建物部分と一千万の現金だけ受け取り、残りは楓に渡した上で姻族終了届を出して死後離婚し、姿を消したと言うのだ。彼女は大学に無事入学したのを機に、愛しのグランパを探したいと考えていた。そこでかつて住んでいたN県の村に秘密があると思い、同じ県出身でしかも近い場所に実家がある絵美に相談していたのだ。また祖父を見つけるだけでなく、何故失踪までしたかを探らなければ解決できないと考えていた。四十年近く前に十年で磯村家とその親族が八人亡くなり、一人失踪しているという。内訳は五人が病死、三人が事故死だ。祖母の最初の夫の真之介が滑落死、その弟の光二朗も滑落死、二人の前に光二朗の妻が幼子を残し、事故死していた。複雑な経緯を聞いた大貴は、専門家に調査依頼することを提案。そこで泊という調査員に、彼女の祖父の居場所を突き止めて貰った。すると彼は多額の借金を抱え、三か所で働いていると判明。まだ過去の謎が明らかになっていない為、大貴達と泊で調査を勧めつつ様々な問題を解決しようと動く。そこから驚くべき事実が発覚する。楓とグランパの関係はどうなっていくのか!?
神暴き
黒幕横丁
ミステリー
――この祭りは、全員死ぬまで終われない。
神託を受けた”狩り手”が一日毎に一人の生贄を神に捧げる奇祭『神暴き』。そんな狂気の祭りへと招かれた弐沙(つぐさ)と怜。閉じ込められた廃村の中で、彼らはこの奇祭の真の姿を目撃することとなる……。
ヘリオポリスー九柱の神々ー
soltydog369
ミステリー
古代エジプト
名君オシリスが治めるその国は長らく平和な日々が続いていた——。
しかし「ある事件」によってその均衡は突如崩れた。
突如奪われた王の命。
取り残された兄弟は父の無念を晴らすべく熾烈な争いに身を投じていく。
それぞれの思いが交錯する中、2人が選ぶ未来とは——。
バトル×ミステリー
新感覚叙事詩、2人の復讐劇が幕を開ける。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》


魔法使いが死んだ夜
ねこしゃけ日和
ミステリー
一時は科学に押されて存在感が低下した魔法だが、昨今の技術革新により再び脚光を浴びることになった。
そんな中、ネルコ王国の王が六人の優秀な魔法使いを招待する。彼らは国に貢献されるアイテムを所持していた。
晩餐会の前日。招かれた古城で六人の内最も有名な魔法使い、シモンが部屋の外で死体として発見される。
死んだシモンの部屋はドアも窓も鍵が閉められており、その鍵は室内にあった。
この謎を解くため、国は不老不死と呼ばれる魔法使い、シャロンが呼ばれた。

後宮生活困窮中
真魚
ミステリー
一、二年前に「祥雪華」名義でこちらのサイトに投降したものの、完結後に削除した『後宮生活絶賛困窮中 ―めざせ媽祖大祭』のリライト版です。ちなみに前回はジャンル「キャラ文芸」で投稿していました。
このリライト版は、「真魚」名義で「小説家になろう」にもすでに投稿してあります。
以下あらすじ
19世紀江南~ベトナムあたりをイメージした架空の王国「双樹下国」の後宮に、あるとき突然金髪の「法狼機人」の正后ジュヌヴィエーヴが嫁いできます。
一夫一妻制の文化圏からきたジュヌヴィエーヴは一夫多妻制の後宮になじめず、結局、後宮を出て新宮殿に映ってしまいます。
結果、困窮した旧後宮は、年末の祭の費用の捻出のため、経理を担う高位女官である主計判官の趙雪衣と、護衛の女性武官、武芸妓官の蕎月牙を、海辺の交易都市、海都へと派遣します。しかし、その最中に、新宮殿で正后ジュヌヴィエーヴが毒殺されかけ、月牙と雪衣に、身に覚えのない冤罪が着せられてしまいます。
逃亡女官コンビが冤罪を晴らすべく身を隠して奔走します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる