『第一村人』殺人事件

二廻歩

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密室の抜け穴

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地下牢では何もやることがないので隣の男の話をじっくり聞くことにする。

「関わりたくない? 自身が撒いた種ですよ。

しっかり警備していればこんな事にはならなかった。違いますか? 」

かわいそうだが追及の手を緩める訳にはいかない。

彼が事件に向き合ってくれなければいつまでたっても解決しない。

当然ここの者の救出も遅れることになる。

「では失踪にはまったく関わっていないと? 」

「当たり前だ。さっきから何度も何度も同じこと言いやがって。

無関係なんだよ俺は。もう嫌になる」

どうやら本気らしい。まあ彼が演技できる人間な訳ないか。

「分かりました。信じましょう。

では誰かに行動パターンを教えたとか知り得た人物はいませんか? 」

「あり得ない。言うはずも分かるはずもないだろう」

即答する男。

「動きを読まれたとか? 」

「知るかよ。もういいだろう。不愉快だぜまったく。大人しく寝かしてくれよ」

「まあ仮にそうだとしても最後の夜の可能性が高いですね。

二日目では不確かで少々不安があります。実行するにはリスクがあり過ぎます」


待てよ。確か二日目も一葉から電話があったはず。

だからもし何もなかったのならその時彼女は東の館に居たことになる。

仮に最終日の三日目以外で失踪していた場合電話はどこから?

一日目なら二日目はして三日目をしないのはおかしい。

二日目だとしても三日目に電話しないのはやはりおかしい。

村を脱出する前に気付かれては元も子もない。

仮にもっと前に村を離れていたら最初から電話をかける意味さえ無い。

彼女自身が失踪に絡んでいたとすれば三日目の夜。

それ以外ならばもうすでにこの世にいないことになる。

第一村人の計画通りという訳だ。


「この俺が言うのもおかしいが確かにそうだな」

「おお…… 乗ってきましたね」

「うるせい。もう眠るぞ」

悪態を吐く男。コントロールが難しい。

「他に…… 方法は? 」

「方法? 知るかよ」

難しいことは考えたくないらしい。


「確かに三日目の夜に抜け出した可能性が高い。ただそれも一つの仮説でしかない。

あなたがいつ戻ってくるか把握してたとしても確実ではない。急に戻ってくる事も。

間抜けなあなたなら有り得ます。絶体に見つからない方法を取ると思いませんか?」

「クックック…… 一体他にどんな方法があるって言うんだ? あるはずない」

名探偵であるこの私の推理を鼻で笑った。

許し難き侮辱。このまま許せば探偵の名折れ。

「いいでしょう。お答えしましょう」

「バカかお前。ある訳ないだろう。そんな魔法のような方法」

思考を停止しては事件は解決しない。

ありとあらゆる可能性を検証する。仮に不可能だとしても。それが探偵だ。

「例えば…… 抜け穴とか? 」

「バカかお前は? 」

この男に馬鹿にされるのが我慢ならない。

口癖のように「バカかお前は」を繰り返す大ばか者。

「抜け穴。良いと思ったんですが……  」

「だってよ抜け穴だろ? 俺調べたよ。なかったよ。以上。

他の奴だって調べてる。見落とすなんてこと有り得ない」

笑いながら完全否定にかかる。


「いい考えだと思ったんだけどなあ。どこかに抜け穴か秘密の部屋などは? 」

「とんでもない探偵だな。お前本当にそれでも探偵か?
 
抜け穴? 秘密の部屋? そんなものあるはずがないだろう。

あそこは東の果て。どこに通じていると言うんだ?

秘密の部屋に今でも隠れてるのならかくれんぼは終わったって叫ぶんだな」

男は相手にしない。

「うーん。いい考えだと思ったんだけどなあ」

「はっはは。楽しませてくれるぜ探偵さんはよ。俺はそう言うの好きだぜ」

完全に舐められている。


「出口は一か所だけ? 裏口などありませんか? 」

「庭から外に行けなくもないがどっちみち俺の目に留まるだろうな」

「庭から隣の家に直接行くなんてことは? 」

「不可能じゃない。ただそれだと隣の者が気づく。

隣の庭は広くない。協力でもしない限りはまず不可能。まあ例外もあるがな」


「協力すれば可能と」

書き留める。筆記用具と紙は没収されていない。

ここはあくまで地下牢。規則の厳しい刑務所ではない。

                続く
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