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元村長の告白 疑惑のルーシー
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トントン
トントン
旅の疲れに取り調べ、村人や刑事との諍いに投獄と来れば体も頭も追いつかない。
いつの間にか眠ってしまった。
まさか隣のうるさいのと同じ行動をとっているなんて情けなくなってくる。
暗くて今が昼なのか夜なのかさえ分からない。
聞くにも人がいない。
不便だ。苦痛だ。
一言だけ言いたい。
私は探偵だぞ。
あれからどれだけ経ったのだろうか?
ルーシーも疲れて寝ているようだ。
足音が聞こえる。
一人? 二人?
解放される?
「オウオウ、よそ者が捕まったと聞いたがお主らだったか」
元村長の爺の声が響き渡る。
老人の出現で皆目を覚ます。
うーん。惜しい。村長なら無実を訴えれば出してくれただろう。
しかし元村長のこの爺では何ともならない。
冷やかしに笑いもの。または暇つぶしあるいは嫌がらせ。
まったく暇を持て余さずに茶でも啜って囲碁でもしていて欲しいものだ。
はっきり言って邪魔でしかない。
老人には失礼だが役立たずの烙印を…… いや待てよ何かあるのか?
「どうだ居心地は? 」
嫌味に耐えきれずに熱くなった助手が喰って掛かろうとする。
だが老人も馬鹿ではない。充分に距離を取っているため届くことはない。
すぐコウによって制止させられる。
「ハッハッハ…… 愉快愉快。そうじゃろう? 」
老人の後に控える影の薄い大人しい男に同意を求める。
そう言えば一昨日だったか道の真ん中で若者といざこざを起こしていたっけ。
騒いでいた血の気の多い老人がこの男だったよな。
誰にでも突っかかっていくとんでもない爺だ。
一体何の恨みがあると言うのだろう?
今回もただの嫌がらせや憂さ晴らしの一環だとしたら堪ったものではない。
コウ君の話では後ろの影の薄い男は老人の孫のはず。
随分大人しい。訓練されている。教育されていると言っていいかもしれない。
そんな影の薄い孫は老人の命令に従うのみ。合いの手を入れるだけ。頷くのみ。
「おいそこのよそ者」
目の前までやってくるとどこからか持ってきた椅子に腰を下ろす。
ゆっくりしていくつもりらしい。困った。
お帰り下さいと言えば激高して余計手に負えなくなるだろう。
ここは老人の気が済むまで我慢我慢。
「おいよそ者」
こっちの迷惑を省みずに喚き散らす。
老人の相手をするほど暇じゃあないんだけどなあ。
「お前が犯人か? 」
「何を…… 私は関係ない。いや我々は無関係だ」
「お前がやったな? 」
「はああ? 」
「黙っててやるから大人しく吐くがよい」
「失礼な。私の訳ないでしょう」
「お前じゃな? 」
しつこく何度も何度も。その道のプロなのか。ただの嫌がらせなのか。
はたまた、ただの物忘れなのか。迷惑この上ない。
「ふふふ…… ならばそこの娘。お前はどうじゃ? 金髪のねーちゃん」
酒でも飲んでいるのか舌なめずりをし嫌らしい目で見る。
まだ枯れていないようだ。
これだから爺は困る。世話が焼ける。
「オー、クレージーオールドボーイ」
ルーシーは日本語が分からない振りをしてからかう。
馬鹿にされたと受け取った老人が鬼の形相で叫ぶ。
「お前がやったに違いない」
「オーノー アイドンノー」
「ふざけやがって。日本語ができるのは知っておるわ。お主はアリサの娘じゃろ?
違うか? だから昔お前の母がやったようにお得意の妖術で隠した」
老人がいくら吠えようともルーシーは意に介さない。
「知ってるぞ。あの妖術。いやトリックを使えば神隠しの一つや二つ訳もない」
「オーノー」
「この女」
息を切らし椅子に深く腰掛け直す。
「何を見当違いのことを。確かに事件が起きたのですから犯人はいるのでしょう。
ですがそんなに人を疑っても意味がありません。ルーシーにはアリバイが。
最初の消失の時隣村に居たそうです。これは調べればすぐ分かることです」
ルーシーに代わってこの無礼な老人に意見する。
「ふん。よそ者には分かるまい。そんなものトリックでどうにでも…… うん? 」
老人は何かに気付いた?
「どうしました? 」
「まあ良い。また来るとしよう。さあ行くぞ」
老人の様子がおかしい。何かに気付いたのかそれともただの思い過ごしか。
迷惑な老人は孫を連れ、去って行く。
我々は再び狭くて暗い地下牢に意味もなく取り残された。
続く
トントン
旅の疲れに取り調べ、村人や刑事との諍いに投獄と来れば体も頭も追いつかない。
いつの間にか眠ってしまった。
まさか隣のうるさいのと同じ行動をとっているなんて情けなくなってくる。
暗くて今が昼なのか夜なのかさえ分からない。
聞くにも人がいない。
不便だ。苦痛だ。
一言だけ言いたい。
私は探偵だぞ。
あれからどれだけ経ったのだろうか?
ルーシーも疲れて寝ているようだ。
足音が聞こえる。
一人? 二人?
解放される?
「オウオウ、よそ者が捕まったと聞いたがお主らだったか」
元村長の爺の声が響き渡る。
老人の出現で皆目を覚ます。
うーん。惜しい。村長なら無実を訴えれば出してくれただろう。
しかし元村長のこの爺では何ともならない。
冷やかしに笑いもの。または暇つぶしあるいは嫌がらせ。
まったく暇を持て余さずに茶でも啜って囲碁でもしていて欲しいものだ。
はっきり言って邪魔でしかない。
老人には失礼だが役立たずの烙印を…… いや待てよ何かあるのか?
「どうだ居心地は? 」
嫌味に耐えきれずに熱くなった助手が喰って掛かろうとする。
だが老人も馬鹿ではない。充分に距離を取っているため届くことはない。
すぐコウによって制止させられる。
「ハッハッハ…… 愉快愉快。そうじゃろう? 」
老人の後に控える影の薄い大人しい男に同意を求める。
そう言えば一昨日だったか道の真ん中で若者といざこざを起こしていたっけ。
騒いでいた血の気の多い老人がこの男だったよな。
誰にでも突っかかっていくとんでもない爺だ。
一体何の恨みがあると言うのだろう?
今回もただの嫌がらせや憂さ晴らしの一環だとしたら堪ったものではない。
コウ君の話では後ろの影の薄い男は老人の孫のはず。
随分大人しい。訓練されている。教育されていると言っていいかもしれない。
そんな影の薄い孫は老人の命令に従うのみ。合いの手を入れるだけ。頷くのみ。
「おいそこのよそ者」
目の前までやってくるとどこからか持ってきた椅子に腰を下ろす。
ゆっくりしていくつもりらしい。困った。
お帰り下さいと言えば激高して余計手に負えなくなるだろう。
ここは老人の気が済むまで我慢我慢。
「おいよそ者」
こっちの迷惑を省みずに喚き散らす。
老人の相手をするほど暇じゃあないんだけどなあ。
「お前が犯人か? 」
「何を…… 私は関係ない。いや我々は無関係だ」
「お前がやったな? 」
「はああ? 」
「黙っててやるから大人しく吐くがよい」
「失礼な。私の訳ないでしょう」
「お前じゃな? 」
しつこく何度も何度も。その道のプロなのか。ただの嫌がらせなのか。
はたまた、ただの物忘れなのか。迷惑この上ない。
「ふふふ…… ならばそこの娘。お前はどうじゃ? 金髪のねーちゃん」
酒でも飲んでいるのか舌なめずりをし嫌らしい目で見る。
まだ枯れていないようだ。
これだから爺は困る。世話が焼ける。
「オー、クレージーオールドボーイ」
ルーシーは日本語が分からない振りをしてからかう。
馬鹿にされたと受け取った老人が鬼の形相で叫ぶ。
「お前がやったに違いない」
「オーノー アイドンノー」
「ふざけやがって。日本語ができるのは知っておるわ。お主はアリサの娘じゃろ?
違うか? だから昔お前の母がやったようにお得意の妖術で隠した」
老人がいくら吠えようともルーシーは意に介さない。
「知ってるぞ。あの妖術。いやトリックを使えば神隠しの一つや二つ訳もない」
「オーノー」
「この女」
息を切らし椅子に深く腰掛け直す。
「何を見当違いのことを。確かに事件が起きたのですから犯人はいるのでしょう。
ですがそんなに人を疑っても意味がありません。ルーシーにはアリバイが。
最初の消失の時隣村に居たそうです。これは調べればすぐ分かることです」
ルーシーに代わってこの無礼な老人に意見する。
「ふん。よそ者には分かるまい。そんなものトリックでどうにでも…… うん? 」
老人は何かに気付いた?
「どうしました? 」
「まあ良い。また来るとしよう。さあ行くぞ」
老人の様子がおかしい。何かに気付いたのかそれともただの思い過ごしか。
迷惑な老人は孫を連れ、去って行く。
我々は再び狭くて暗い地下牢に意味もなく取り残された。
続く
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