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第二の消失 迎えの儀完了せず
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深夜十二時。
コウを見送った男たちは次に備え食事を取る。
これも儀式には欠かせない慣習のうち。
後はコウが西の館から戻ってくるのを待てばいい。
この儀式の為に大量のお酒と豪勢な食事が用意されている。
それを皆で食い尽くす。
もちろん地酒に鶏肉とこの土地の物で代わり映えしないが一年に一度のご馳走。
男たちの目の色が変わる。
「うめーぞこの肉は」
「バカ野郎。お前のはそっちだろうが」
「へへへ…… 悪い悪い」
「全部食いつくすなよな。コウの分もあるんだからな」
「分かってるって。へへへ…… 」
「まったくこいつは」
村を挙げて盛大に行われている代替わりの儀式も明日まで。
これからが本番と言えなくもない。どんどん忙しくなる。
二姫を連れ中央の館へ。そこで明日まで不眠不休の任に当たる。
「お前俺のを横取りしただろ? 」
「うるせい。そっちが先じゃねいか」
喧嘩が始まる。
「いいぞいいぞ。やれやれ」
酔っぱらうと収拾がつかなくなる。
「バカ野郎。何をやってる。勝手に始めやがって」
この儀式の責任者で皆を取りまとめる汗っかき男登場。
「リーダ。そう怒らないでくださいよ。俺たちは儀式を盛り上げてるんですよ」
「いいから静かにしろ。酔っぱらって任務が務まるか」
ご馳走を平らげると横になり一休みする者も。
「なあ遅くないか? 」
「ああそうだな。もう一時過ぎたぞ。何やってんだコウの奴は」
「うるさい静かにしろ」
「しかしリーダー。コウの奴遅すぎはしませんか? 」
「確かにな…… だが問題ないさ。それよりもこれから忙しくなる。準備は怠るな」
「やっぱり何かあったんじゃねいか? 」
一葉の失踪は村の皆に知れ渡っている。
「そう思うか? 俺も同じだ」
「そこ。私語は慎め。儀式の最中なんだぞ」
どれだけ注意しても一旦始まったら止められないのが人間の性。
一族の話となれば尚更。それをツマミに盛り上がる。
「しかし一葉さんやそのおやじだって…… 」
そうだそうだの大合唱。
「うるさい。分かった。おい誰か外へ行って見てきてくれないか」
酔っぱらっていないまともな奴。下戸の男が外へ。
もう一時を回っている。
どんなに手間取ったとしてももう帰って来ていい。これ以上は……
「大丈夫ですって。着いたら音がしますから絶対分かるはずです」
「しかし…… 」
外を見るが暗くて分かる訳もない。
「さあ気にしないでもっと飲みましょう。儀式を盛り上げるのも我々の仕事ですよ」
「よしみんな盛り上がっていこう」
「おう」
勝手に決めやがって。それにしても遅いなあコウの奴。
少年のような見た目の若者が肉を片手に酒を浴びる。
つられるように他の連中も追加で来たご馳走を平らげにかかる。
もちろんコウの分は取り分けているので問題ない。
船が出発してからもう二時間と言ったところ。
いや正確には一時間四十分経過した頃、外から物凄い音が。
「おうやっと帰って来たか。心配させやがって」
皆で出迎えに行く。
こうして迎えの儀が無事何事もなく完了…… する訳もなく。
「うん? コウだ。コウがいたぞ」
「どうした一人か? 二姫さんは? 」
「すみません…… 」
コウが船の陰で顔を青くし呆然としている。
その様子からして何かが起きたのは間違いない。
儀式は再び悲劇に見舞われる。
「どうしたコウ。一体何があったんだ? 答えろ。答えるんだ」
この儀式の責任者でリーダーの男が声をかける。
「分かりません。本当に何も…… 」
いつも冷静なコウが取り乱している。
「分からないじゃないだろ。二女の二姫さんは? 一緒じゃないのか? 」
男にとってもコウにとっても想定外の出来事。一体誰が予見できたのか。
「分かりません。西の館には誰もいませんでした。どこを探してもいないんです。
忽然と消えたとしか…… 」
呆然自失のコウ。操作を誤り船を激しくぶつけたのも頷ける。
「ははは…… 何を言っている? 人が簡単に居なくなるはずがないだろ。
よく見たのか? ちゃんと調べたのか? 」
男がいくら追及しようがいないものはいない。
「全部見て回りました。屋敷も外も。でも本当に誰もいなかった。二姫さんを発見できず仕方なく戻ってきた次第です。 自分は…… どうすれば? 」
コウを落ち着かせ話を聞いてやる。
「コウよ。お前は悪くない。儀式に則って迎えに行っただけだ。それよりもこのことを何と説明すればいいか…… 」
男は頭を抱える。
東の館に続き西の館でも消失が起きてしまった。責任重大だ。
結局、二姫失踪の件を上に報せたのは朝になってからだった。
村長の指示のもと二姫捜索が開始される。
続く
コウを見送った男たちは次に備え食事を取る。
これも儀式には欠かせない慣習のうち。
後はコウが西の館から戻ってくるのを待てばいい。
この儀式の為に大量のお酒と豪勢な食事が用意されている。
それを皆で食い尽くす。
もちろん地酒に鶏肉とこの土地の物で代わり映えしないが一年に一度のご馳走。
男たちの目の色が変わる。
「うめーぞこの肉は」
「バカ野郎。お前のはそっちだろうが」
「へへへ…… 悪い悪い」
「全部食いつくすなよな。コウの分もあるんだからな」
「分かってるって。へへへ…… 」
「まったくこいつは」
村を挙げて盛大に行われている代替わりの儀式も明日まで。
これからが本番と言えなくもない。どんどん忙しくなる。
二姫を連れ中央の館へ。そこで明日まで不眠不休の任に当たる。
「お前俺のを横取りしただろ? 」
「うるせい。そっちが先じゃねいか」
喧嘩が始まる。
「いいぞいいぞ。やれやれ」
酔っぱらうと収拾がつかなくなる。
「バカ野郎。何をやってる。勝手に始めやがって」
この儀式の責任者で皆を取りまとめる汗っかき男登場。
「リーダ。そう怒らないでくださいよ。俺たちは儀式を盛り上げてるんですよ」
「いいから静かにしろ。酔っぱらって任務が務まるか」
ご馳走を平らげると横になり一休みする者も。
「なあ遅くないか? 」
「ああそうだな。もう一時過ぎたぞ。何やってんだコウの奴は」
「うるさい静かにしろ」
「しかしリーダー。コウの奴遅すぎはしませんか? 」
「確かにな…… だが問題ないさ。それよりもこれから忙しくなる。準備は怠るな」
「やっぱり何かあったんじゃねいか? 」
一葉の失踪は村の皆に知れ渡っている。
「そう思うか? 俺も同じだ」
「そこ。私語は慎め。儀式の最中なんだぞ」
どれだけ注意しても一旦始まったら止められないのが人間の性。
一族の話となれば尚更。それをツマミに盛り上がる。
「しかし一葉さんやそのおやじだって…… 」
そうだそうだの大合唱。
「うるさい。分かった。おい誰か外へ行って見てきてくれないか」
酔っぱらっていないまともな奴。下戸の男が外へ。
もう一時を回っている。
どんなに手間取ったとしてももう帰って来ていい。これ以上は……
「大丈夫ですって。着いたら音がしますから絶対分かるはずです」
「しかし…… 」
外を見るが暗くて分かる訳もない。
「さあ気にしないでもっと飲みましょう。儀式を盛り上げるのも我々の仕事ですよ」
「よしみんな盛り上がっていこう」
「おう」
勝手に決めやがって。それにしても遅いなあコウの奴。
少年のような見た目の若者が肉を片手に酒を浴びる。
つられるように他の連中も追加で来たご馳走を平らげにかかる。
もちろんコウの分は取り分けているので問題ない。
船が出発してからもう二時間と言ったところ。
いや正確には一時間四十分経過した頃、外から物凄い音が。
「おうやっと帰って来たか。心配させやがって」
皆で出迎えに行く。
こうして迎えの儀が無事何事もなく完了…… する訳もなく。
「うん? コウだ。コウがいたぞ」
「どうした一人か? 二姫さんは? 」
「すみません…… 」
コウが船の陰で顔を青くし呆然としている。
その様子からして何かが起きたのは間違いない。
儀式は再び悲劇に見舞われる。
「どうしたコウ。一体何があったんだ? 答えろ。答えるんだ」
この儀式の責任者でリーダーの男が声をかける。
「分かりません。本当に何も…… 」
いつも冷静なコウが取り乱している。
「分からないじゃないだろ。二女の二姫さんは? 一緒じゃないのか? 」
男にとってもコウにとっても想定外の出来事。一体誰が予見できたのか。
「分かりません。西の館には誰もいませんでした。どこを探してもいないんです。
忽然と消えたとしか…… 」
呆然自失のコウ。操作を誤り船を激しくぶつけたのも頷ける。
「ははは…… 何を言っている? 人が簡単に居なくなるはずがないだろ。
よく見たのか? ちゃんと調べたのか? 」
男がいくら追及しようがいないものはいない。
「全部見て回りました。屋敷も外も。でも本当に誰もいなかった。二姫さんを発見できず仕方なく戻ってきた次第です。 自分は…… どうすれば? 」
コウを落ち着かせ話を聞いてやる。
「コウよ。お前は悪くない。儀式に則って迎えに行っただけだ。それよりもこのことを何と説明すればいいか…… 」
男は頭を抱える。
東の館に続き西の館でも消失が起きてしまった。責任重大だ。
結局、二姫失踪の件を上に報せたのは朝になってからだった。
村長の指示のもと二姫捜索が開始される。
続く
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