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ルーシーの狙い
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結局やって来た助手に後を任せ一人っきりで事件のおさらいをする。
確か手紙では三人。少なくてもあと一人が消えるなり亡くなるなりするはず。
ただ若いと言っていたが果たして岩男氏はその一人に入るだろうか?
どう考えても無理がある。
彼よりも年上なのは限られている。主要人物の中では前村長ぐらい。
彼からすれば岩男氏もまだまだ若造と言えるかもしれない。
だがそれではあまりにも間抜けすぎる。
自分が犯人の第一村人だと告白してるようなものだ。
だとすれば岩男氏殺害は想定外?
この後二人が消える計算。
果たして誰が?
順当に行けば二女の二姫。三女の三貴になるが。
うーん? 犯人の狙いは何だ? 完全犯罪なのか?
確かに第一の岩男氏殺害はまだ何とも。第二の事件は消失。
ただの失踪事件ではないだろう。間違えなく殺されている。
うん。いや逆か。
第一村人は何らかの意図があって殺人だと思わせたいのかもしれない。
本当は生きていてただ失踪しただけ。理由があって逃げ回っている。
少なくてもこの村に留まっているはずだ。隣村に抜けるには関所がある訳だし。
うーん。分からない。分からな過ぎる。
情報が足りない。もっとかき集めなければダメだ。
これ以上第一村人の思い通りにはさせる訳にはいかない。
それにしても遺体さえ見つかれば殺人事件として大々的に捜査できるのに。
肝心の遺体が見つからないもどかしさ。
いやそれではあまりに不謹慎か。
一葉さんが無事見つかるように願うのが人情。まだ諦めるのは早い。
堂々巡りするばかりで一向に気持ちが晴れない。
「先生。先生ってば。先生」
「うん。もう戻って来たのかもっとゆっくりしていればよかったのに」
助手の後にルーシーの姿がある。
助手は終始照れてしまい可愛いものだ。イケメンも形無しだな。
「そんな釣れないこと言わないで。昼飯にしましょう。ルーシーさんと一緒にね」
助手の手に余るらしい。気の無い返事で返す。
「どうしたんですか? 早く行きましょう。遅いぐらいですよ」
ルーシーと三人でソバ屋へ。
ルーシーはソバの啜り方も上手で食べ方も豪快だが悪くない。
助手に釣られてお代わりをする。
彼女から好き嫌いは無いと聞かされたがさすがにわさびはきついのだろう。
ちょっとでもくっ付くと手で取ってしまう。
しかしその手を忘れ舐めて大失態。店のおばちゃんも大笑い。
「ハッハッハ。ルーシーったら」
助手が笑い飛ばすがルーシーの気を引こうと真似して手でわさびを取り除いていた
ものだから油断した彼は自分の手を舐めてしまい大げさに転げる。
立ち上がると顔を赤くし頭を掻く。それでごまかされる訳もなく笑われてしまう。
終始和やかな雰囲気。
食事を終え中央の館へ。
中央の館では儀式の真っ最中。
亡くなった岩男氏の代わりを村長が務める。
何かを唱えたかと思ったら急に静まり返り室内は厳かな雰囲気に包まれる。
よそから来た者にはこの儀式の意味も価値も神聖さも分からない。
ただの昔からのカビの生えた儀式。しかもこれは何十年に一度の忘れられた儀式。
はっきり言って現代にはそぐわない。村人も何人が理解していることか。
このさえ中止すべきでは?
この儀式によって何人の尊い命が奪われることになるか分からない。
「ようこそ」
邪魔にならないように大人しく見守っていると村長が話しかけてきた。
自己紹介を済ませ用を伝える。
村長については事前にコウから聞いている。岩男氏に取り入った喰えない奴。
村長は数秒押し黙って何か考えている様子。
打算的な村長のことだどうすべきか考えあぐねているのだろう。
「これは失礼。私が当主の代役を務めています。
そうですかあなたの母上が亡くなりその報告にこんな辺鄙な村まで……
こんな時です。あまり時間は取れませんが詳しい内容をお聞かせください」
儀式用の白の袴に身を包み巨大な黒っぽい帽子をかぶる。手に持った棒の長いこと。
儀式中に突然押しかけた非礼をお詫びする。
「彼女の話では生前随分お世話になったそうです。彼女の父は不明なのだとか。
そうだとすれば彼女は岩男氏との間にできた娘。この家の正式な跡取り候補に」
ルーシーの話を元に勝手に解釈する。彼女の気持ちを汲み取ったつもりだ。
「そうですか…… 」
言葉を切る。何かを絞り出そうと頭を捻るこざかしい村長。
「岩男氏は若いころから女性関係が激しかったので何人かはいると思っていました。
そうですか。ははは…… しかしご心配なく。
長女の一葉さんは失踪していませんが少なくとも二女の二姫さんは元気です。
相続で揉めるとは思えませんが。私も岩男氏が急逝され困っていたところです。
儀式が完了すれば晴れて新当主が決まります。
それ以外の者はたとえどんな事情があろうとも当主に従う決まりです。
無用な争いごとは避けねばなりません。
そうだ。私も岩男氏の代わりに言わねばなりませんね。
どうぞお引き取り下さい」
そう言うとお付の者に後を任せ元の位置に戻った。
「怖そうな村長。ちびりそうです」
「オオ ダンディね」
二人の感想を耳にし追い出されるように中央の館を後にする。
続く
確か手紙では三人。少なくてもあと一人が消えるなり亡くなるなりするはず。
ただ若いと言っていたが果たして岩男氏はその一人に入るだろうか?
どう考えても無理がある。
彼よりも年上なのは限られている。主要人物の中では前村長ぐらい。
彼からすれば岩男氏もまだまだ若造と言えるかもしれない。
だがそれではあまりにも間抜けすぎる。
自分が犯人の第一村人だと告白してるようなものだ。
だとすれば岩男氏殺害は想定外?
この後二人が消える計算。
果たして誰が?
順当に行けば二女の二姫。三女の三貴になるが。
うーん? 犯人の狙いは何だ? 完全犯罪なのか?
確かに第一の岩男氏殺害はまだ何とも。第二の事件は消失。
ただの失踪事件ではないだろう。間違えなく殺されている。
うん。いや逆か。
第一村人は何らかの意図があって殺人だと思わせたいのかもしれない。
本当は生きていてただ失踪しただけ。理由があって逃げ回っている。
少なくてもこの村に留まっているはずだ。隣村に抜けるには関所がある訳だし。
うーん。分からない。分からな過ぎる。
情報が足りない。もっとかき集めなければダメだ。
これ以上第一村人の思い通りにはさせる訳にはいかない。
それにしても遺体さえ見つかれば殺人事件として大々的に捜査できるのに。
肝心の遺体が見つからないもどかしさ。
いやそれではあまりに不謹慎か。
一葉さんが無事見つかるように願うのが人情。まだ諦めるのは早い。
堂々巡りするばかりで一向に気持ちが晴れない。
「先生。先生ってば。先生」
「うん。もう戻って来たのかもっとゆっくりしていればよかったのに」
助手の後にルーシーの姿がある。
助手は終始照れてしまい可愛いものだ。イケメンも形無しだな。
「そんな釣れないこと言わないで。昼飯にしましょう。ルーシーさんと一緒にね」
助手の手に余るらしい。気の無い返事で返す。
「どうしたんですか? 早く行きましょう。遅いぐらいですよ」
ルーシーと三人でソバ屋へ。
ルーシーはソバの啜り方も上手で食べ方も豪快だが悪くない。
助手に釣られてお代わりをする。
彼女から好き嫌いは無いと聞かされたがさすがにわさびはきついのだろう。
ちょっとでもくっ付くと手で取ってしまう。
しかしその手を忘れ舐めて大失態。店のおばちゃんも大笑い。
「ハッハッハ。ルーシーったら」
助手が笑い飛ばすがルーシーの気を引こうと真似して手でわさびを取り除いていた
ものだから油断した彼は自分の手を舐めてしまい大げさに転げる。
立ち上がると顔を赤くし頭を掻く。それでごまかされる訳もなく笑われてしまう。
終始和やかな雰囲気。
食事を終え中央の館へ。
中央の館では儀式の真っ最中。
亡くなった岩男氏の代わりを村長が務める。
何かを唱えたかと思ったら急に静まり返り室内は厳かな雰囲気に包まれる。
よそから来た者にはこの儀式の意味も価値も神聖さも分からない。
ただの昔からのカビの生えた儀式。しかもこれは何十年に一度の忘れられた儀式。
はっきり言って現代にはそぐわない。村人も何人が理解していることか。
このさえ中止すべきでは?
この儀式によって何人の尊い命が奪われることになるか分からない。
「ようこそ」
邪魔にならないように大人しく見守っていると村長が話しかけてきた。
自己紹介を済ませ用を伝える。
村長については事前にコウから聞いている。岩男氏に取り入った喰えない奴。
村長は数秒押し黙って何か考えている様子。
打算的な村長のことだどうすべきか考えあぐねているのだろう。
「これは失礼。私が当主の代役を務めています。
そうですかあなたの母上が亡くなりその報告にこんな辺鄙な村まで……
こんな時です。あまり時間は取れませんが詳しい内容をお聞かせください」
儀式用の白の袴に身を包み巨大な黒っぽい帽子をかぶる。手に持った棒の長いこと。
儀式中に突然押しかけた非礼をお詫びする。
「彼女の話では生前随分お世話になったそうです。彼女の父は不明なのだとか。
そうだとすれば彼女は岩男氏との間にできた娘。この家の正式な跡取り候補に」
ルーシーの話を元に勝手に解釈する。彼女の気持ちを汲み取ったつもりだ。
「そうですか…… 」
言葉を切る。何かを絞り出そうと頭を捻るこざかしい村長。
「岩男氏は若いころから女性関係が激しかったので何人かはいると思っていました。
そうですか。ははは…… しかしご心配なく。
長女の一葉さんは失踪していませんが少なくとも二女の二姫さんは元気です。
相続で揉めるとは思えませんが。私も岩男氏が急逝され困っていたところです。
儀式が完了すれば晴れて新当主が決まります。
それ以外の者はたとえどんな事情があろうとも当主に従う決まりです。
無用な争いごとは避けねばなりません。
そうだ。私も岩男氏の代わりに言わねばなりませんね。
どうぞお引き取り下さい」
そう言うとお付の者に後を任せ元の位置に戻った。
「怖そうな村長。ちびりそうです」
「オオ ダンディね」
二人の感想を耳にし追い出されるように中央の館を後にする。
続く
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