『第一村人』殺人事件

二廻歩

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サライちゃん伝説

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サライちゃん伝説。

昔、この辺り一帯の集落はそれはぼろく貧しい生活を強いられた。

家々はどこも似たようなもので夏は快適だが冬は隙間風が吹き込む過酷な環境。

耐えかねた村人たちは穴を塞ごうと知恵を絞るが簡単ではない。

風がほんの僅かでも入ってくると体はもう震えあがってどうしようもない状態。

努力に努力を重ねた結果冬はほとんど隙間風も入ってこず快適に。

逆に夏は寝苦しくなってしまった。


村に冬を報せる真っ白な雪が降り出すと雪掻きに追われる厳しい冬の到来。

トントン
トントン

「おや一体誰かの」

トントン
トントン

「婆さんお客さんじゃ。寒いだろうに。早く入れてやりなさい。

こんな夜ではさぞお困りであろう」

「でもお爺さん。今しがた確認しましたが誰も居ませんでしたよ」

「そうか。そうか勘違いか。では寝るとしようかの」

トントン
トントン

「もう静かにせぬか。何用じゃ? 」

爺さんが外へ行ってみるが誰も居ない。怪現象。

トントン
トントン

半時間経って再びドアを叩く音がする。

外を確認するがやはり誰も居ない。

おかしいと思いつつも眠気には勝てず。

「さて寝るかの」

トントン 
トントン

「うるさい。孫が起きてしまうだろう」

ドンドン
ドンドン

積もった雪が融け何かにぶつかった音なのだと老夫婦は思うことに。

実際。当時は雨から雪になったばかり。

家の外に放置した農具に当たった音だったのかもしれない。


翌朝。一晩中悩まされたあの奇妙な音が止んでいた。

やはりただの聞き違い。いや幻聴だろうか。

結局昨夜の物音は何だったか疑問が残る。

もしかすると自分たちは幻聴に導かれているのかもしれない。

嫌な予感がする。物凄く不吉な予感。


「婆さんや。婆さん。どうした? 」

顔面蒼白の老婆。これが連れ合いとは。もはやただの醜い化け物。

「お爺さん。あの…… 」

「どうした? 」
 
「一郎ちゃんは? 」

孫の一郎が遊びに来ていた。そう言えば見かけないがどうしているのか。

「寝てるんだろ。まだ小さい。放っておけばよいわ」

「いえお布団には姿が無くて。お爺さん」

「ならばその辺で遊んでいるんだろう。そのうち帰ってくる。心配するな」

「こんな吹雪でどこに行くと言うんです」

「知るか。だったら勝手に帰ったんだろ」

そうでないことぐらい分かる。

だが他に考えられないのだ。もう夜のうちに帰ったと思う他ない。


「お爺さん」

「だから帰ったんだと言ってるじゃろ」

「一人でこんな吹雪の中を? 自殺行為ですよ」

「知るかそんなこと」

「お爺さん。ねえお爺さん」

「だから知らん」

頑なに認めようとしない爺さん。しかし一郎が姿を消したのであれば間違えなく外。

この大雪の中普通は考えられないが。

だが右も左も分からない幼子。寒さや恐ろしさより好奇心が勝ることもあり得る。


おーい
おーい

村の若い衆で一郎捜索隊が組織される。

一郎や。

おーい。一郎。

おーい。おーい一郎。

遊びに来ていた一郎が行方不明に。呼びかけても反応が無い。

「どこだ」

「一郎ちゃん出ておいで」

光がある。

「こっちだ。うわああ」

一郎を探しに飛び出した二人は白銀の世界に吸い込まれていった。


これがことの始まり。

その翌年から幼い子供が次々消えていく神隠しが起こる。

村人は子を守るため家に代わりとしてサライちゃん人形を置くようになった。

そして夜中に何か音がする時には耳を塞ぎ決して中に入れないようお触れが出た。

トントンと言う合図を聞いてはならない。

サライちゃんを置くことを忘れてはならない。

もし代わりにサライちゃん人形を持って行かれたら再び同じ人形を作り防衛する。

年に一回サライちゃん人形を取り換え子供の大きさを上回る人形を新たに作るべし。

村人はその教えを守りその後幼い子供が消える神隠し事件は途絶えたかに思えた。

だが今でもその教えを守ろうとしない一部の不届き者が悲劇に見舞われることも。


村に伝わる昔話より。

多少の脚色もあり人によって微妙に話が違ってくる場合がある。

ただ大筋はこんなところ。

大変貴重で興味深い話を聞くことができた。

                    続く
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