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冷めた茶
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コウの話では今後の予定はすべて未定だそうで儀式が無事完了するのかも不確か。
未だ本部は混乱中。
部屋に戻る。
「大変なことになりましたね先生」
助手はいつになく神妙な面持ち。不確実だが岩男氏は殺害され一葉さんが行方不明。
これでは連続殺人を疑わざるを得ない。
「ああ。本当に頭が痛いよ。断言しよう。これは殺人だ」
「その根拠は? 」
助手らしい合いの手を入れるので助かるが根拠などある訳がない。
ただの勘以外の何物でもない。ただ一つ言えるとすれば……
「もちろんこの手紙だ」
事務所に送りつけられた一通の手紙をポケットから取り出し見せつける。
「まあそうっすよね」
長い髪を振り回し納得したように頷く。
「そうなんだが…… 連続殺人事件になるだろう。岩男氏はもちろん一葉も……
そうかそれなら手紙から察するに二姫さんも三貴さんも狙われる恐れがある」
手紙の内容は我々しか知らない。コウ君には詳細は伏せている。
もしこの挑戦状を見せたら儀式を中止してくれるかもしれない。
ただもちろん第一村人もこの村のどこかに居るはずだから慎重にする必要がある。
「そうっすねとりあえず早く殺人事件だと気づかせて警戒するよう呼びかけた方がいいですよね」
「ああコウ君にでも言って…… 」
「いやこの村の者を信用するのはどうでしょう。まあコウは隣村か」
鋭い指摘。これではどちらが探偵か分からない。いつの間にレベルアップしたのか。
これも私の日頃の指導の賜物という訳だ。
「そうだな。今度の事件はもう少し慎重に動いたほうが良さそうだ」
「コウには黙ってろってことですね? 」
「そうは言ってない。ただ…… 」
どう説明すればいいのか難しい。コウ君を疑いたくはないが彼だって立派な容疑者。
探偵としては疑わざるを得ないから辛い。一人の友人としてもちろん信じている。
コウを疑うのは本意ではない。ただこの村では誰も信じられないのも事実。
ただそのことをコウ君に悟られてはならない。
せっかくの協力者。失うには惜しい。
「分かりましたよ。コウには言いません」
「いや、時期が来たら話そう。今はその時ではない」
助手は経験がない。連続殺人と断定していいのかは分からない。
とにかく経験がものを言う世界。やはり助手には荷が重すぎる。
そう言う私も探偵としての経験があってないようなもの。彼よりも幾分マシレベル。
もうすでに第一村人の手の中で踊ろされているそんな気がしてならない。
挑戦状によれば最低でもあと一人は殺される。
これ以上の犠牲を出したくない。何としても我々の手で食い止めなくては。
「あの…… 自分がどうかしましたか? 」
コウは自分の仕事を終え戻ってきた。
「いや何でもないよコウ君。ははは…… 気が利くね」
「本当だ。コウこっちも」
お盆に乗せお茶を運んできた。
「うーん。ぬるい」
立ち聞きをしていたのか持ってきてくれた茶がぬるくなってしまっている。
「ちょうどいいところに来てくれた。もう少し詳しい話を聞かせてくれないか」
やはり山湖村で頼れるのは何と言ってもコウ君だけなのだ。
「はい。さっきは人目もあって話しづらかったんですがどうも村人の間で噂になっていまして…… 」
三人で一緒に茶菓子をパリパリ、冷めきった茶を啜る。
「ぬるい…… 」
ついつい正直な感想が口を吐く。
コウが申し訳なさそうに頭を掻く。
「済まない。続けてくれ」
この際お茶がぬるかろうが出がらしであろうが関係ない。
コウの持ってきた話に耳を傾ける。
「話ではこれはサライちゃんの仕業に違いないそうです」
ついに現れたサライちゃん伝説。
「サライちゃん? 」
昨晩悪夢にうなされた助手の血の気が引くのが分かる。震えが止まらない。
まだ何も聞いていないのに耳を塞いでいる。
「大丈夫でしょうか? 」
コウは助手の異変を察知する。
「サライちゃん伝説ですね。確かこの村で語り継がれているお話でしたっけ? 」
「そうそう。それそれ。良く知ってますね。長くなりますがよろしいでしょうか」
こっちは良いが助手の顔から血の気が引くのが分かる。
さすがに刺激が強すぎるか。
コウはポツポツと語り始めた。
待ってましたとやけくその助手が手を叩く。
もしもの時は聞き流すように指示をする。
難しい注文だが英語と同じで聞き流すことも可能だろう。
新しいお茶を入れ直しゆっくり昔話に浸かる。
続く
未だ本部は混乱中。
部屋に戻る。
「大変なことになりましたね先生」
助手はいつになく神妙な面持ち。不確実だが岩男氏は殺害され一葉さんが行方不明。
これでは連続殺人を疑わざるを得ない。
「ああ。本当に頭が痛いよ。断言しよう。これは殺人だ」
「その根拠は? 」
助手らしい合いの手を入れるので助かるが根拠などある訳がない。
ただの勘以外の何物でもない。ただ一つ言えるとすれば……
「もちろんこの手紙だ」
事務所に送りつけられた一通の手紙をポケットから取り出し見せつける。
「まあそうっすよね」
長い髪を振り回し納得したように頷く。
「そうなんだが…… 連続殺人事件になるだろう。岩男氏はもちろん一葉も……
そうかそれなら手紙から察するに二姫さんも三貴さんも狙われる恐れがある」
手紙の内容は我々しか知らない。コウ君には詳細は伏せている。
もしこの挑戦状を見せたら儀式を中止してくれるかもしれない。
ただもちろん第一村人もこの村のどこかに居るはずだから慎重にする必要がある。
「そうっすねとりあえず早く殺人事件だと気づかせて警戒するよう呼びかけた方がいいですよね」
「ああコウ君にでも言って…… 」
「いやこの村の者を信用するのはどうでしょう。まあコウは隣村か」
鋭い指摘。これではどちらが探偵か分からない。いつの間にレベルアップしたのか。
これも私の日頃の指導の賜物という訳だ。
「そうだな。今度の事件はもう少し慎重に動いたほうが良さそうだ」
「コウには黙ってろってことですね? 」
「そうは言ってない。ただ…… 」
どう説明すればいいのか難しい。コウ君を疑いたくはないが彼だって立派な容疑者。
探偵としては疑わざるを得ないから辛い。一人の友人としてもちろん信じている。
コウを疑うのは本意ではない。ただこの村では誰も信じられないのも事実。
ただそのことをコウ君に悟られてはならない。
せっかくの協力者。失うには惜しい。
「分かりましたよ。コウには言いません」
「いや、時期が来たら話そう。今はその時ではない」
助手は経験がない。連続殺人と断定していいのかは分からない。
とにかく経験がものを言う世界。やはり助手には荷が重すぎる。
そう言う私も探偵としての経験があってないようなもの。彼よりも幾分マシレベル。
もうすでに第一村人の手の中で踊ろされているそんな気がしてならない。
挑戦状によれば最低でもあと一人は殺される。
これ以上の犠牲を出したくない。何としても我々の手で食い止めなくては。
「あの…… 自分がどうかしましたか? 」
コウは自分の仕事を終え戻ってきた。
「いや何でもないよコウ君。ははは…… 気が利くね」
「本当だ。コウこっちも」
お盆に乗せお茶を運んできた。
「うーん。ぬるい」
立ち聞きをしていたのか持ってきてくれた茶がぬるくなってしまっている。
「ちょうどいいところに来てくれた。もう少し詳しい話を聞かせてくれないか」
やはり山湖村で頼れるのは何と言ってもコウ君だけなのだ。
「はい。さっきは人目もあって話しづらかったんですがどうも村人の間で噂になっていまして…… 」
三人で一緒に茶菓子をパリパリ、冷めきった茶を啜る。
「ぬるい…… 」
ついつい正直な感想が口を吐く。
コウが申し訳なさそうに頭を掻く。
「済まない。続けてくれ」
この際お茶がぬるかろうが出がらしであろうが関係ない。
コウの持ってきた話に耳を傾ける。
「話ではこれはサライちゃんの仕業に違いないそうです」
ついに現れたサライちゃん伝説。
「サライちゃん? 」
昨晩悪夢にうなされた助手の血の気が引くのが分かる。震えが止まらない。
まだ何も聞いていないのに耳を塞いでいる。
「大丈夫でしょうか? 」
コウは助手の異変を察知する。
「サライちゃん伝説ですね。確かこの村で語り継がれているお話でしたっけ? 」
「そうそう。それそれ。良く知ってますね。長くなりますがよろしいでしょうか」
こっちは良いが助手の顔から血の気が引くのが分かる。
さすがに刺激が強すぎるか。
コウはポツポツと語り始めた。
待ってましたとやけくその助手が手を叩く。
もしもの時は聞き流すように指示をする。
難しい注文だが英語と同じで聞き流すことも可能だろう。
新しいお茶を入れ直しゆっくり昔話に浸かる。
続く
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