『第一村人』殺人事件

二廻歩

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第一の消失 一葉

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東の館。

感想を述べる暇も無く見張り役の門番ににらまれる。

これはまずいと一歩引くが許してくれそうにない。

ロックオン。

「おい、お前らは昨日の怪しい奴ら。情けない二人組だな」

随分な言われよう。怪しくも情けなくもない。

「何しに来やがった? まさか…… 今は取り込み中だ。出直して来い」

なぜか昨日よりも余計ピリピリした男が棒を滅茶苦茶に振り回し威嚇する。

何をそんなに怒っているのだろうか? 昨日とは明らかに違う。様子がおかしい。


充分距離をとり不思議そうに眺めていると今度は独り言。

「俺じゃない。俺じゃない。俺は関係ない」

訳の分からないことを喚き始める。

ストレス? 村を支配する悪い空気? 疲れ?

彼の精神が徐々にむしばまれて行くのが分かる。

助手が余計なことを言ってトラブルになる前にいったん退散するしかないな。


「探偵さん」

どこからともなく聞覚えのある声。

息を切らし叫んでいるのは間違いないコウ君だ。

「やはりここでしたか。急に居なくなったからビックリしました」

「何だコウか。どうかした? 」

コウは助手を無視し早く戻りましょうと急かす。

「ここはまずい。今は本当にまずいんです。特に今はね」

コウは理由も言わずに引っ張っていく。

余程のことがあるのだろう。大人しく従うことにする。

山湖村ではコウ君だけが頼り。彼の助けなしでは充分な情報収集もできない。

何が何やら分からないまま本部に連れていかれる。


「コウ君。一体何があったんだい? 詳しい事情を説明してくれないか」

本部の一室に通される。

お茶を一口含み落ち着いたところで話を聞く。

「実は…… 」

「話は俺からさせてくれ」

仲間がコウを制止し話し始める。

彼は話し方からも分かるようにコウ君よりも十歳以上も先輩の村の者。

肌は浅黒く体も引き締まったアスリート体形。この祭りの責任者だ。

見た目や話し方が威圧的で委縮してしまう。

彼が昨夜の出来事の一部始終を語り始めた。


「いいか落ち着いてよく聞いてくれ」

そう言いながら滴る汗を懸命に拭う男。暑くはないはずだが。

ハンカチはもうじっとりと濡れている。

仕方なく助手のハンカチを渡してやる。

「済まない。どうも汗が引かなくてな。暑い。暑い」

「それで何があったんですか? 」

落ち着いたところで話を聞く。


「あれは昨夜遅く…… 東の館の長女一葉さんの屋敷から連絡が。

最初は儀式を終えたことを報告する電話だと思ったが違った。緊急連絡だった」

緊急連絡とは穏やかではない。

「どう言うことですか? 一葉さんに一体何が? 」

もったいぶってるつもりはないのだろうが話が進まない。

できれば話を整理してからにして欲しいものだ。

それにしても話でしか聞かない一葉をまるで親戚かのように取り乱すのもおかしい。

だがコウの話で大体の人物像を得ているのでどうしても感情的になってしまう。

すかさず助手が抑えて抑えてと冷静な対応。らしくない。


男は一度話を切り額の汗を拭うと深呼吸をし再び語り始めた。

「いいから話を最後まで聞いてくれ。彼の話では儀式終了予定時刻を一時間超えても

出て来ず心配になり仲間と共に部屋に向かったそうだ。

部屋には誰の姿もなく一葉さんが忽然と姿を消したことになる」

男は汗が止らずコウも下を向き元気が無い。

「コウ。まだ殺しって決まった訳じゃないんだからそう落ち込むなよ」

「お前。殺されたと思ってるのか? 」

助手の余計な一言で男が怒り狂う。

「いや…… そんなことありませんよね先生? 」

とんでもないパスを寄越す助手。

このままだと私まで殺されたと思っているみたいじゃないか。実際そうだけど……

「とにかく一刻も早く一葉さんを見つけることが先決です」

何とかごまかすことに成功。


「たぶん今見張りの者が事情を聞かれているところです」

コウが現在の状況の詳細を語る。

事情聴取は駐在が担当することに。

「あの男も終わりましたね」

助手は横柄な態度を取った見張りの者が許せないのだとか。

つい余計なことを口にするのが悪い癖。

その上私を巻き込もうとするから厄介だ。


「とりあえず駐在所で詳しい話を聞き村長を交え話し合うそうです。

これも他言無用でお願いします。村人が不安がりますのでどうぞよろしく」

コウは冷静だ。汗を未だに掻き続けている男よりもよっぽど適任。

「それから…… 」

押し黙ってしまった。何か言いたそうだが他の者の手前遠慮しているように見える。

勘違いかもしれないがたぶん間違いないだろう。

事情を察した我々は一旦二階で待機することに。

                 続く
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