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二日目 異変
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黒電話が鳴る。
今度こそ我々の役目を果たさなくては。一宿一飯の恩を返すチャンス。
こんなこと子供でもできる。ただもし失敗すれば追い出されかねない。
いくら優しいコウ君だってブチ切れることだってあるだろう。
失望されたくはない。
緊張から汗が滴る。
助手を見る。例のごとくやる気が無い。何の為に助手にしたのか分からない。
電話対応ぐらいしろよ。
さあどうする? もう本当に緊張するな。
「はい。もしもし」
「あんた誰よ。まあいいわ。今物凄く寒いの。何とかならない」
「そんなこと言われましても…… 」
「できるだけ早くお願い。コウにお願いして早く」
何て失礼な女。人の話は聞かずに言いたいことだけ言って切ってしまう。
「どうしました? 」
コウはドア付近から様子を窺っていた。やはり我々に任すのは不安なのだろう。
「女の人が出まして…… 物凄い寒いそうで何か温かくなるものを持ってきて欲しいとのこと。あなたを指名してきましたよ」
「そうですか。その方は二女の二姫さんかと。きつくありませんでした? 」
確かに随分と尊大な物言い。自分以外を召使か何かと思っているのか当たりが強い。
印象は最悪。村の者にも日頃から当たり散らしているのかとさえ思える。
「ええお世辞にも素敵な方だとはちょっと…… かなり上からで相当な我がまま娘と見ました」
私がそう言うとにやけ、苦笑しつつ仕方ありませんよ二姫さんですからと擁護する。
助手も怖そうですねと苦笑い。
再びけたたましい音が響き渡る。
一瞬ドキッとする。慣れてしまえばどって事ないのだろうけど時代錯誤の黒電話。
今どき使っているのは日本広しと言えどもこの村ぐらいなものだろう。
もはや昭和の遺物でしかない。
音も激しすぎて心臓に良くない。ただ耳の遠いお年寄りには都合がいいのか。
後れを取りコウ君に任せる形に。
「あの…… 岩男さんが亡くなったって本当だか? 儂らに何か手助けできることはねえか? 」
隣村からお見舞いの電話がかかってきた。
岩男氏死亡の事実がもう隣村にも伝わったらしい。
「大丈夫です。今のところ問題ありません。詳しいことは儀式が終わり次第発表しますのでどうぞよろしく」
隣村からの援助の申し出を断る。コウ君一人の判断ではなくやはり村の総意?
これ以上の混乱は避けねばならない。
せっかく待機したがその後はかかってくることはなかった。
コウは頼まれた防寒具を用意して西の館がある湖の方へ。
「お疲れ様」
コウが湖から戻って来たのは九時近くになっていた。
ずいぶん時間が経ってしまったがそれだけ渡しは大変だと言うことだろう。
コウ君は体力を使い果たしたのか倒れ込む。
「あれから何かありましたか? 」
「いや…… その後は特に何も。電話が鳴ることはありませんでした」
報告するにも何もなければ虚しい。別にサボっていた訳ではない。
本当にうんともすんとも言わなかったのだ。
「おいおい。それはいくらなんでもおかしいんじゃねいか」
コウと共に入ってきたリーダ。責任者の男が吠える。
「確かにそうですねまだ一葉さんから連絡がありません。昨日はどうでしたか? 」
「いや。昨日は問題ないさ。定時連絡は寄越してきたからな。
まあ一日ぐらいどうってことねえがな。
もうあと三時間もすれば部屋から出てくる訳だしまあいいだろう」
そう言って部屋を出ていく男。
一葉は二日前から部屋にこもり日が変わるころに儀式を終え皆の前に姿を現す予定。
「大丈夫ですかね一葉さん」
「心配いりませんよ」
心配するのは本来間違っている。なぜなら見張りが寝ずの番をしているのだ。
急病で倒れでもしてない限り若く持病がある訳でもない彼女に心配は無用だとか。
「気難しい人ですからね。本当に気分屋でお嬢様。
周りの者を見下して村の者を見下している怖い人ですよ。
まあそう言う意味では二姫さんもそっくりですがね」
心配する振りをして批判を展開するコウ君。
あまり良い感情は持っていないのだろう。それはコウ君だけなく村人たちの総意。
村の権力者の美人姉妹の噂は絶えない。
コウ君が代表して一葉さんを語る。
続く
今度こそ我々の役目を果たさなくては。一宿一飯の恩を返すチャンス。
こんなこと子供でもできる。ただもし失敗すれば追い出されかねない。
いくら優しいコウ君だってブチ切れることだってあるだろう。
失望されたくはない。
緊張から汗が滴る。
助手を見る。例のごとくやる気が無い。何の為に助手にしたのか分からない。
電話対応ぐらいしろよ。
さあどうする? もう本当に緊張するな。
「はい。もしもし」
「あんた誰よ。まあいいわ。今物凄く寒いの。何とかならない」
「そんなこと言われましても…… 」
「できるだけ早くお願い。コウにお願いして早く」
何て失礼な女。人の話は聞かずに言いたいことだけ言って切ってしまう。
「どうしました? 」
コウはドア付近から様子を窺っていた。やはり我々に任すのは不安なのだろう。
「女の人が出まして…… 物凄い寒いそうで何か温かくなるものを持ってきて欲しいとのこと。あなたを指名してきましたよ」
「そうですか。その方は二女の二姫さんかと。きつくありませんでした? 」
確かに随分と尊大な物言い。自分以外を召使か何かと思っているのか当たりが強い。
印象は最悪。村の者にも日頃から当たり散らしているのかとさえ思える。
「ええお世辞にも素敵な方だとはちょっと…… かなり上からで相当な我がまま娘と見ました」
私がそう言うとにやけ、苦笑しつつ仕方ありませんよ二姫さんですからと擁護する。
助手も怖そうですねと苦笑い。
再びけたたましい音が響き渡る。
一瞬ドキッとする。慣れてしまえばどって事ないのだろうけど時代錯誤の黒電話。
今どき使っているのは日本広しと言えどもこの村ぐらいなものだろう。
もはや昭和の遺物でしかない。
音も激しすぎて心臓に良くない。ただ耳の遠いお年寄りには都合がいいのか。
後れを取りコウ君に任せる形に。
「あの…… 岩男さんが亡くなったって本当だか? 儂らに何か手助けできることはねえか? 」
隣村からお見舞いの電話がかかってきた。
岩男氏死亡の事実がもう隣村にも伝わったらしい。
「大丈夫です。今のところ問題ありません。詳しいことは儀式が終わり次第発表しますのでどうぞよろしく」
隣村からの援助の申し出を断る。コウ君一人の判断ではなくやはり村の総意?
これ以上の混乱は避けねばならない。
せっかく待機したがその後はかかってくることはなかった。
コウは頼まれた防寒具を用意して西の館がある湖の方へ。
「お疲れ様」
コウが湖から戻って来たのは九時近くになっていた。
ずいぶん時間が経ってしまったがそれだけ渡しは大変だと言うことだろう。
コウ君は体力を使い果たしたのか倒れ込む。
「あれから何かありましたか? 」
「いや…… その後は特に何も。電話が鳴ることはありませんでした」
報告するにも何もなければ虚しい。別にサボっていた訳ではない。
本当にうんともすんとも言わなかったのだ。
「おいおい。それはいくらなんでもおかしいんじゃねいか」
コウと共に入ってきたリーダ。責任者の男が吠える。
「確かにそうですねまだ一葉さんから連絡がありません。昨日はどうでしたか? 」
「いや。昨日は問題ないさ。定時連絡は寄越してきたからな。
まあ一日ぐらいどうってことねえがな。
もうあと三時間もすれば部屋から出てくる訳だしまあいいだろう」
そう言って部屋を出ていく男。
一葉は二日前から部屋にこもり日が変わるころに儀式を終え皆の前に姿を現す予定。
「大丈夫ですかね一葉さん」
「心配いりませんよ」
心配するのは本来間違っている。なぜなら見張りが寝ずの番をしているのだ。
急病で倒れでもしてない限り若く持病がある訳でもない彼女に心配は無用だとか。
「気難しい人ですからね。本当に気分屋でお嬢様。
周りの者を見下して村の者を見下している怖い人ですよ。
まあそう言う意味では二姫さんもそっくりですがね」
心配する振りをして批判を展開するコウ君。
あまり良い感情は持っていないのだろう。それはコウ君だけなく村人たちの総意。
村の権力者の美人姉妹の噂は絶えない。
コウ君が代表して一葉さんを語る。
続く
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