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二日目 一葉
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「お前ら隣村の回し者だな。分かっているんだぞ。邪魔して儀式をぶち壊そうとしているんだろ? そうは行くか。まったく何て奴らだ」
勝手に話を作り勝手に憤る困った男。
自己紹介を済ませる。
「お前らがよそ者だと言うのは分かった。だからこそ余計にここは通せない」
「見学は? 」
恐れを知らない助手が突っかかる。
「バカか? 受け付けているはずあるか」
「何だと」
これ以上は喧嘩になるので私が引き取る。
「観光で参りました。儀式の見学をさせてもらえないかと。
関係各所を巡っていましてここは確か長女の一葉さんが籠っているはずです。
どうかその様子を一目見せて頂けないでしょうか」
少々無理があるが強引に頼み込む。
「何だと。そんなこと許される訳がないだろう。常識はないのか。とっと消え失せろ馬鹿どもめ」
門番は怒り狂う。
この村で最も重要な代替わりの儀式をよそ者が汚すなどあり得ない。
彼らには彼らなりの思いがある。それを土足で踏みにじるのは確かに頂けない。
もちろんそれくらいこちらも理解している。しかし第一村人からの手紙の件もある。
「そんなこと言わずにお願いしますよ」
冷静さを取り戻した助手が下手に出る。その調子。
うまくすり寄って気に入ってもらえれば何か聞き出せるかもしれない。
「どうです。一目一葉さんとお話しできませんか」
「何度も言わせるな。そんなことが許される訳ないだろ。神聖な儀式を汚す愚か者め。さっさと失せろ」
「そんなこと言わずほんの少しだけでも。一分。いえ見るだけでも構わないんです」
助手の頑張りが第一村人の障壁になるはず。もっとだ。もっと突っ込め。
「いいかよく聞け。俺だって固く入出を禁じられているんだ。誰がお前らみたいな得体の知れないよそ者を中に入れてやる馬鹿がいると言うんだ」
やはり不可能か。事件が起きる前に何とかしたかったが無理そうだ。
「先生…… 」
ボソボソと余計なことをつぶやく。
「おい。聞こえてるぞ。誰がバカだ。とっとと帰りやがれ」
助手の軽口が彼の神経を逆なでする。
「まあまあ。落ち着いてください」
助手の不始末は私の不始末。
「うるさい。馬鹿にしやがって」
酷く興奮した男が棒を持って襲い掛かる。
これはやり過ぎた。助手の手を取り一目散に逃げる。
「待て」
冗談ではない。なぜこんな目に?
全力疾走で追跡者を引き離す。
後を振り返ると男は何と元の場所に戻っていた。
そう彼には門番としての役目がある。持ち場を勝手に離れられない。
はあはあ
ふうふう
肩で息をする。
「危なかったですね先生」
「ああ。下手したら大怪我では済まないぞ。まったく君と言う奴は」
「そんなに怒らないでくださいよ」
笑っている。この状況でなぜ笑う?
「本当に今回はやばかったですね」
まだ笑っている。原因を作ったのは自分だと気づいていないのか。
一葉は諦めて次へ。
北に向かう。
山湖村は中心から半径約三キロメートルの小さな村で人はあまり住んでおらず林や
沼や湖が広がる自然豊かな土地。人は二百人余り。世帯数も五十から六十と言った
ところかぽつぽつと点在する家がある程度でほとんどが中心街に集中している。
祭りは年に二回。初夏に行う夏至祭りと秋に隣の村と合同で行う伝統ある豊作祭。
数年前には村の若者が中心となって花火大会も計画されたが一、二回やって以降
執り行われなくなった。そのような祭りの時にも東西北の館が何かしらの形で利用
されていた。今回の代替わりの儀式も当然のように使用されている。
「そろそろですかね」
村の者に北の館への行き方を教わり地図を頼りに先を急ぐ。
ただほぼ一本道なのでよっぽどのことが無い限り迷うことはない。
方向音痴の私でも安心だ。まあ助手が導いてくれるのでついて行くだけなのだが。
「あれだ。間違いない」
他の家とは格違いの立派な館。
陽の光によって金色に輝くクラシカルな建物が目の前に聳え立つ。
続く
勝手に話を作り勝手に憤る困った男。
自己紹介を済ませる。
「お前らがよそ者だと言うのは分かった。だからこそ余計にここは通せない」
「見学は? 」
恐れを知らない助手が突っかかる。
「バカか? 受け付けているはずあるか」
「何だと」
これ以上は喧嘩になるので私が引き取る。
「観光で参りました。儀式の見学をさせてもらえないかと。
関係各所を巡っていましてここは確か長女の一葉さんが籠っているはずです。
どうかその様子を一目見せて頂けないでしょうか」
少々無理があるが強引に頼み込む。
「何だと。そんなこと許される訳がないだろう。常識はないのか。とっと消え失せろ馬鹿どもめ」
門番は怒り狂う。
この村で最も重要な代替わりの儀式をよそ者が汚すなどあり得ない。
彼らには彼らなりの思いがある。それを土足で踏みにじるのは確かに頂けない。
もちろんそれくらいこちらも理解している。しかし第一村人からの手紙の件もある。
「そんなこと言わずにお願いしますよ」
冷静さを取り戻した助手が下手に出る。その調子。
うまくすり寄って気に入ってもらえれば何か聞き出せるかもしれない。
「どうです。一目一葉さんとお話しできませんか」
「何度も言わせるな。そんなことが許される訳ないだろ。神聖な儀式を汚す愚か者め。さっさと失せろ」
「そんなこと言わずほんの少しだけでも。一分。いえ見るだけでも構わないんです」
助手の頑張りが第一村人の障壁になるはず。もっとだ。もっと突っ込め。
「いいかよく聞け。俺だって固く入出を禁じられているんだ。誰がお前らみたいな得体の知れないよそ者を中に入れてやる馬鹿がいると言うんだ」
やはり不可能か。事件が起きる前に何とかしたかったが無理そうだ。
「先生…… 」
ボソボソと余計なことをつぶやく。
「おい。聞こえてるぞ。誰がバカだ。とっとと帰りやがれ」
助手の軽口が彼の神経を逆なでする。
「まあまあ。落ち着いてください」
助手の不始末は私の不始末。
「うるさい。馬鹿にしやがって」
酷く興奮した男が棒を持って襲い掛かる。
これはやり過ぎた。助手の手を取り一目散に逃げる。
「待て」
冗談ではない。なぜこんな目に?
全力疾走で追跡者を引き離す。
後を振り返ると男は何と元の場所に戻っていた。
そう彼には門番としての役目がある。持ち場を勝手に離れられない。
はあはあ
ふうふう
肩で息をする。
「危なかったですね先生」
「ああ。下手したら大怪我では済まないぞ。まったく君と言う奴は」
「そんなに怒らないでくださいよ」
笑っている。この状況でなぜ笑う?
「本当に今回はやばかったですね」
まだ笑っている。原因を作ったのは自分だと気づいていないのか。
一葉は諦めて次へ。
北に向かう。
山湖村は中心から半径約三キロメートルの小さな村で人はあまり住んでおらず林や
沼や湖が広がる自然豊かな土地。人は二百人余り。世帯数も五十から六十と言った
ところかぽつぽつと点在する家がある程度でほとんどが中心街に集中している。
祭りは年に二回。初夏に行う夏至祭りと秋に隣の村と合同で行う伝統ある豊作祭。
数年前には村の若者が中心となって花火大会も計画されたが一、二回やって以降
執り行われなくなった。そのような祭りの時にも東西北の館が何かしらの形で利用
されていた。今回の代替わりの儀式も当然のように使用されている。
「そろそろですかね」
村の者に北の館への行き方を教わり地図を頼りに先を急ぐ。
ただほぼ一本道なのでよっぽどのことが無い限り迷うことはない。
方向音痴の私でも安心だ。まあ助手が導いてくれるのでついて行くだけなのだが。
「あれだ。間違いない」
他の家とは格違いの立派な館。
陽の光によって金色に輝くクラシカルな建物が目の前に聳え立つ。
続く
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