上 下
11 / 22

完全満開

しおりを挟む
翌日もその翌日もヨシノ先輩に出会うことは無かった。

桜並木をゆっくりゆっくり歩く。

ヨシノ先輩がいないか。声をかけてもらえないか。

もはやどうすることもできず無為に時間が過ぎていった。

虚しい毎日だった。

桜も随分やせ細った。

このまま行けば今週中にもすべて散ってしまうだろう。

上手く行けば来週までは持ちこたえるかもしれないが。それでも大差ない。

強風が吹けばまた来年のお楽しみとなる。

まあ全国にはまだ桜の見られる箇所も残っている……

ただ僕にはその金銭的余裕もなければ時間も取れない。虚しい限りだ。

出来たらまたヨシノ先輩と桜を見られたらなあ。

彼女は今どこにいるのか。

そんな事ばかり考える。


今日までテニスサークルには一度も顔を出さないヨシノ先輩。

幽霊部員も中には数人いると言っていたが彼女がその一人である可能性は低い。

なぜならヨシノと言う部員は存在しないからだ。


久しぶりサークルに参加。

男女混合のダブルスが行われていた。

試合を見ながらボーっとしているといきなりボールが飛んできた。

避ける暇も無ければその気力も無い。ただ迫ってくるボールを顔面で受け止める。

僕の左頬に強烈なスマッシュが打ちこまれた。

「痛い! 痛いよう…… 」

酷く腫れた左頬を抑えながら大声で喚く。

「大丈夫? ごめんね」

「悪い。悪い」

駆けつけた女の子に付き添ってもらい手当てをする。

隣には同じく心配そうに見守る張本人の先輩。

球が直接当たったのではなくバウンドして命中。

だから痛みの割には大したことはない。

しっかり処置をしてもらい事なきを得る。


張本人の先輩は軽症で助かったと一言残し戻っていった。

「大丈夫歩ける? 」

「ああ問題ないよ。ありがとう」

同じ一年で先日もペアを組んだ女の子。

世話焼きなのか心配そうに付き合ってくれる彼女に好感をもった。

今日は相棒が欠席しており僕をからかう者はいない。

もちろん奴の頼みで代わりに参加したのだが……

言い方は良くないが邪魔者はいない。彼女の好意をありがたく受け取る。

「本当に大丈夫? 無理しないで」

奇跡的にメガネは吹っ飛んだだけで傷は付いたものの問題はない。

だが一時的に外すしかない。

視力が年々落ちていることもありぼんやりとしか分からない。

今彼女に支えられて歩いている。

情けないが仕方ない。今は彼女に頼るしかない。

時折くっついているせいか彼女の柔らかい胸が当たって苦労する。

嫌がるのも変なので苦笑いでごまかす。

「ありがとう。もう大丈夫だよ」

元の場所へ戻りメガネをかけ直し微笑む。

一緒に帰ろうと言う誘いを断り一人帰宅の途につく。


今日はついているようなついてないようなそんな一日だった。

当たったような当たってないような。

痛いやら気持ちいいやら。

何ともよくわらない一日だった。

もしかして僕…… いや俺はモテ期? 何てね。まあそんな訳ないか。

結局ヨシノさんに会えずじまい。

桜は散りどんどんその数を減らしていく。

明日またサークルに行こう。

明日にはヨシノ先輩に会えるかもしれない。

わずかでもチャンスがあるならそれに賭けるべきだ。

何となくだが予感がする。

ただそれが良いのか悪いかはっきりしない。

明日も確実に花が散っていく。

もちろん次の日もまた次の日も。その流れが止まることは無い。

止める手段などない。ただひたすら見守るだけ。

また来年。

果たしてその来年があるかも分からない。


翌日

「さあ行くぞ」

相棒に引っ張っれる前に自分からサークルへ。

「おい、面倒臭そうにしてたのによ。昨日何かあったのか? 」

嗅覚は鋭い。僕のサークル参加意欲が上がったことに疑問を持っている。

だが相棒にとって僕が積極的なのは大歓迎なのだ。

「まあいいや。俺も引き立て役が欲しい欲しいって思ってたんだ。

お前がいろいろとへまをしてくれれば俺の存在価値が高まるのよ」

「いやそれは無理ってものじゃないか。顔を見ろよ」

「うん? 顔がどうしたって? 顔って言えばその痣みたいのは何だ」

「ちょっとね。ははは…… 」

濁す。昨日の失態を話せば笑われるに決まっている。

「急ぐぞ。遅れちまう」

ウキウキといったところか相棒のスピードが速い。何をそんなに焦る必要がある。

まったくせっかちな奴だ。前回だって一番乗りだったはず。困ったものだ。


着いたと同時に女の子に話しかけに行ってしまった。

僕はその様子を観察することにした。

いったい彼のどこにそんな度胸があると言うのか。

僕がサボっている間に親しくなったのか自然な会話が成り立っている。

少し離れて見守る。

彼の趣味は意外にもよく、選ぶ相手はかなり美人だ。奴にはもったいない。

積極性は認めよう。だが相手にされているかは別でうまくあしらわれている様子。

奴が望むような発展はなさそうだ。脈なしと見るのが自然だ。

悪いな相棒。客観的事実だ。頑張れ。

心の中で励ます。

無意味とまでは思わないがほどほどにしたほうが身のため。

もちろん彼の努力は認めるが。

僕もこれくらい…… 無理だ。


相棒の視線が移った。

まったく贅沢な奴だ。

次から次に。見てるこっちが恥ずかしい。

うん? 

一人の少女。

誰だっけ?

なぜかこっちに向かってくる。

まさか……

ダメだこっちに来るな!

残酷な運命が僕を、いや、僕たちを……

「どうも」

「ああどうも」

挨拶だけと思いきや素通りせずに立ち止る。

止まっちまった。

相棒の目の動きも止まった。

僕の心臓も一瞬。

時が止まったようだ。

汗が噴き出る。

おそらく相棒の第一候補。それは昨日付き添ってくれた女の子。

間違いない。最悪だ。

友情と愛情どっちを取れと言うのだ。

もちろん友情に決まっているが。

僕にはヨシノさんがいる。裏切れない。

「昨日は大丈夫だった」

「はい。大丈夫です。ありがとうございます。助かりました」

なるべく自然に。感情が入らないように。

怒っているだろうな。しかし僕のせいではない。

相棒を見ることができない。


「先に行ってるぞ」

他の者は準備を終えコートに。部屋は三人だけになった。

「ねえ今日は一緒に帰ろうよ」

「しかし僕にも都合が…… 」 

嫌われるにはどうすればいい?

嬉しい気持ちを抑え断る。

「じゃあ今週暇ある? 」

「はいもちろん」

嘘はつけない。

相棒の本命は間違いない。彼女だ。

視線が辛い。

「ならデートしよう」

「デート? デートですか…… もちろんいいですよ」

彼女は相棒の存在を無視している。

そう言う僕も無視してないとは言えない。

もう相棒はこちらを見ていない。いやもうここに存在していない。

いじけて帰ったらしい。僕はどうすることもできない。

「やった! 絶対だよ」

「こちらこそ」

デートぐらいどって事ない。

彼女主導のデート。結果は見えている。

すぐに振られるに決まってる。そうすれば相棒も笑って許してくれるだろう。

                      続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サイコーにサイコなカノジョ。

須藤真守
恋愛
大学4年生の青年・武田 孝介はバイト先の高校2年生の美少女・相澤 穂香に片思いしていた…はずだったが…。サイコサスペンスラブコメディが始まる…!衝撃のラストを目撃せよ!

となりの吸血鬼がぼくの血ばかり吸ってくる

白い彗星
恋愛
 平凡な日常、普通の生活。  ぼくの周りは、しかし少し普通とは違っている。  幼馴染であるサキ、その正体はなんと吸血鬼。  サキの家に厄介になっているぼくは、彼女とある行為をしている。 「ねぇ、もう我慢できないの……」  吸血鬼である彼女の日課は、ぼくの血を吸うこと。  今日も今日とて、ぼくと彼女の、普通の日常は過ぎていく。  吸血鬼の彼女との、ちょっぴりドキドキの青春作品です。  全5話ですので、気軽に見てもらえたらなと思います。  小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも連載しています!

お見合い相手は極道の天使様!?

愛月花音
恋愛
恋愛小説大賞にエントリー中。  勝ち気で手の早い性格が災いしてなかなか彼氏がいない歴数年。  そんな私にお見合い相手の話がきた。 見た目は、ドストライクな クールビューティーなイケメン。   だが相手は、ヤクザの若頭だった。 騙された……そう思った。  しかし彼は、若頭なのに 極道の天使という異名を持っており……? 彼を知れば知るほど甘く胸キュンなギャップにハマっていく。  勝ち気なお嬢様&英語教師。 椎名上紗(24) 《しいな かずさ》 &  極道の天使&若頭 鬼龍院葵(26歳) 《きりゅういん あおい》  勝ち気女性教師&極道の天使の 甘キュンラブストーリー。 表紙は、素敵な絵師様。 紺野遥様です! 2022年12月18日エタニティ 投稿恋愛小説人気ランキング過去最高3位。 誤字、脱字あったら申し訳ないありません。 見つけ次第、修正します。 公開日・2022年11月29日。

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

きみの人生を買ったなら。

やなぎ怜
恋愛
終戦後、不要となった「ドール」と呼ばれる使い捨ての兵士だったジジを買い取ったのは、元オーナー……もとい元パートナーの人間兵・エイトだった。流されるままに始まったふたり暮らし。穏やかに過ぎゆく日々……。手術によって「人間」になったジジは己の中に生まれた感情に戸惑う。そんなとき、エイトが業務中の事故で意識不明の重体となってしまう。面会も叶わない中、ジジは己の中にある気持ちを上手く処理できず――「武者修行」に出ることにした。……そうして三ヶ月後、どうにか意識を取り戻したエイトが知らされたのは、もぬけの殻となった部屋と、一枚の書き置きで――。 ※異世界だけど現代日本風異世界です。メインはほのぼのラブコメディーですが、戦争に関する記述は暗かったり残酷(地の文でだけ主人公たち以外のモブに対する性暴力描写あり)だったりしますので、その点あらかじめご承知おきください。 ※他投稿サイトにも掲載。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

裏世界の蕀姫

黒蝶
恋愛
理不尽な家族の元から逃げ出した月見(つきみ)は、絶望の淵にたっていた。 食べるものもなく公園で倒れていたところを助けてくれたのは4人の男性たち。 家族に見つかるわけにはいかないと不安になる月見に、救いの手が差し伸べられる。 「大丈夫だよ。僕たち『カルテット』は簡単に人に話したりしないから」 彼等には秘密があった。 それは、俗に言う『裏社会』に関わる『カルテット』と呼ばれるチームメイトであるということ。 彼等の正体を知った瞬間、月見は自らの能力を使いながら共に蕀の道を突き進んでいくことになる。 「これから先、一緒にどこまでも堕ちてくれる?」 星空の下、彼と真実の愛を誓う。 ──さあ、あなたは誰の手をとりますか? ※念のためR-15指定にしてあります。

処理中です...