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第一章

26.思い出したおうじさま(前編)

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【皇子side】

パチリと目を覚ますと何時の間にか自分はベットの上で寝ていた。
確かアイツらの情報で危険だと言われている森に入ってアベルを探していたはずなのに。

ズキズキと体が痛いが無理やり起き上がると専属のメイドが入ってきて僕の姿を見て、身を清める道具を落として叫んで出て行ってしまった。

数分すると医者と執事が入ってきて治療されながら今の状況を聞く。

「医者よ僕は何時まで眠っていたんだい」

「3週間程でございます」

「……そうか、ご苦労だった。」

「いえ、では失礼させていただきます」

一礼をしたあとに医者は居なくなった。
まさか3週間も眠っていたなんて。
これじゃあ今頃ミカも寂しがっているだろうな。

「僕が眠ってる間に何か問題があったか?」

そう聞くと執事がビクッと肩を震わせて恐る恐る口にする。

「……皇子様が率いた騎士達が全滅しました」

「………知っている。他には」

「それが…その事が市民の間でかなり噂になっていまして。王族の信頼が下がられたそうです」

「本当か!?」

ドクドクと心臓が痛い位に早く動いていて冷や汗も止まらない。

「は、はい。それと…」

何故だろう嫌な予感がする。

「なんだ!早く言え!!」

「ミカ様の事なのですが、エヴァン様が昏睡状態になられた直後に手紙を残されて行方不明になりました」

「……………は?」

「それをきっかけに王は大変お怒りになり、アベル公爵様とミカ様を捜索中との事です」

「………」

「後でミカ様の手紙をお持ちしますので、それまでお休みになって下さい。では失礼致します」

ぺこりとお辞儀をして退室した。

体の力が一気に抜けて頭痛が止まらない。

愛するミカが居なくなった?なぜ?どうしてなんだ??分からない!! まさか僕の権力だけが欲しかったのか??

なら簡単じゃないか。

「【僕は愚かだったのか】」

その瞬間、とてつもない程の頭痛が襲い幻覚と幻聴がする。

「ぐぅっ」

【エヴァン】

「っ!??」

【エヴァン…愛してるよ】

「ぐぅ、アベ…ル?、違ぅ!!」

【なんでデビュタントであの性悪と同じ格好で婚約者以外をエスコートしたんだ!!】

「ぐっ…!!」

【ミカを虐めるな?…ふふ、僕のことは信じてくれないのに性悪の事は信じるんだね】

「それは、」 

【ミカァァァ殺してやる!!エヴァンも絶対に許さない!!ずっと愛して信じてたのに!!!】

自分の知らない記憶が一斉に甦った後に全ての事を思い出して泣いて叫んだ。

「アベル…アベル!!」

今世でも自分がまた愚かな過ちを犯したせいで愛すべき相手は傍に居ない。
ギリィと歯を食いしばって過去を思いだした。

全部ミカに騙されるまでは本当に愛していた。

初めて出会った頃から我儘で傲慢な所もあった。
でも僕は美して秀才で根が真っ直ぐなアベルを心の底から誇らしくて、毎日アベルが僕のお姫様になるなんて夢みたいだと何度も思った。
それに、素直に甘えられないアベルに僕が彼の分まで愛を囁いた。
愛を囁く度に頬を染めながら僕にしか出さない甘い声や瞳で時々囁いてくれる愛の言葉や名前を呼ばれるのが1番好きだった。

だが、ミカが転校して来てから全て変わった。

彼は明るくて小動物みたいで可愛らしい子だった。
それに僕に良く懐いてくれていたから弟が居たらこんな感じなのかなと思いながら会話をするにつれて段々と仲良くなる度に友から親友になった。

それからアベルとの時間は徐々に減った。

段々と一緒にいる時間が少なくなってくると表情が暗くなっていくアベルに気づいた。

「愛してるのに不安にさせてしまったからミカに会うのは控えないとな」

ミカには悪いがこれからはアベルを優先しようと廊下を歩いていたら泣いてるミカが居て傍によって話を聞いた。

「ミカどうしたんだ?」

「ぐすっ、アベル様が」

「アベル?」

「僕がエヴァン様と居るのが気に食わないって」

「なんだって!?」

「僕の婚約者だからこれ以上近づくなって」

「そうか、代わりに僕が謝るから許してくれ」

確かに今の状態のアベルが言いそうだなとは思ったが愛してる故に半信半疑で聞いていると衝撃の言葉が出てきた。

「だけど!僕はいつか皇妃になるだからお前がエヴァン様を誘惑したらなれないから邪魔だって」

「…アベルが、本当に言ったのか?」

「はい。だからアベル様はエヴァン様の事を権力しか愛してないんだなって思ったら悲しくて」

……アベルは最初から僕の権力だけしか見てなかったのか?
その瞬間、愛してるアベルに裏切られた気持ちで頭がいっぱいになり心に亀裂が入った。

「…そうだったのか。教えてくれてありがとう」

「いえ、エヴァン様の事大好きですから!」

僕はその笑顔の裏に隠された顔に気づかず。
優しい偽りのないミカに心を奪われていった。

デビュタント間近になり、人生に一度しかないと思ったら。愛しているミカと一緒に迎えたくなってアベルのエスコートを断った。
アベルは気高く振る舞いながら隠していたが表情は泣きそうだった。
だけど僕は気づかない振りをした。

そしてアベルは同じ格好で入場した僕達の姿を見て、シャンパンを浴びせて怒鳴った。

思い出した今は、アベルは退場した後に密かに泣いていたのだろうと考えただけで心が痛くなった。

だけど過去僕はアベルはミカと僕との間を邪魔する存在にしか思わなくなった。

それから月日が経ち、愛したミカが妊娠をした。
アベルがいる限り結婚出来ないを不快に思い。
お腹に宿った子の為に嘘で塗り固めた罪で泣き叫ぶアベルを殺した。

僕は望んでいた「しあわせ」を掴んだ。

だが、その「しあわせ」は嘘で塗り固められた物だと後々気づく事になる。

そして、本当に幸せにするべきだった相手を自分が間違えて殺してしまったことを。

続く…
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