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Dead End ユ キ・サクラ (77)
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あんまり、っていうか、出来ればここの天井は…見たくないなぁ…
左腕を伸ばしてベッドの脇にある手すりを握り、上半身を起こす。
体に違和感を感じる、痛みが無い…よく見ると左腕に点滴が刺さっている。痛み止めなどが投与されているのだろう。
そっと、ゆっくりと…左手を右目に触れる様に動かす…瞼を押すと眼球の感触が伝わってくることなく沈む…本来あるべきものはなく空洞となっている。
空洞となってしまった部位から失ってしまった喪失感が溢れ出てくるように感じてしまう…
喪失感に包まれ、心が乱されないように、自分自身に言い聞かせる
右目一つで、救えたのだから後悔はない。
左手で点滴を近くに寄せ、ベッドから立ち上がる。
右腕は上半身に巻きつけられるように固定されている、更には上半身もがっちりと肋骨が広がらないように固定されている。
右腕を動かすことは出来ないし、今は深呼吸も良くないだろう、更には、首を右側に傾けることもできない。
右半身を激しく打ち付けたというのが良くわかる。だけど、幸いに足は動かせれる、これで足も動かなくて車いすだったら、目も当たられない所だった。
患者衣から露見している箇所を観察しようにも、右足どころか見える範囲全てに包帯で巻かれていて素肌を診察できない。今わかるのは、包帯のあちこちに赤い点がある。
赤い点があるけれど、足は折れていない、立ち上がっても痛みが無いのがその証拠、って言いたいけれど、痛み止めで感じていないだけかもしれない。
もしかしたら折れてしまっている足で歩いてしまっているかもしれないと、念のためにゆっくりとすり足で歩いてみるが、何とか歩けるので、折れてはいないだろう…
病室の扉をゆっくりと開き、点滴スタンドを左手で握りしめ…すり足で歩いていく。
病棟の外に出て、周囲を観察する、念のために魔力のピンを打つ…返ってこない。
もしもの時に勇気くんと打ち合わせしていた、緊急連絡手段、お互いこの魔力波を感知したらピンを打ち返すって決めていたやつ…返ってこない。
胸の奥が締め付けられる、眩暈がする。涙が溢れそうになる。息をすることすら忘れてしまいそうになる。
ふらふらと、ふらふらと、何処かに向かって歩いていく…耳を澄ますと音なんてしない…静かな夜。ううん、もう少ししたら夜明けかな?時間がよくわからない。
何処からも音がしない、静かな夜…月夜に照らされた、多くの人達によって踏み固められた道を歩いていく…ふらふらとふらふらと、視界の半分が見えない影響なのか、距離感も掴みにくく、ふらふらと、ふらふらと…彷徨う迷い子のようにふらふらと…誰かがいるかもしれない広場へと救いを求めるように…松明に吸い寄せられていく羽虫のように…歩いていく。
ふらふらと、何時もの数倍時間をかけて到着した広場には火が炊かれている…煙が何時もと違う、嗚呼、そうだよね…こういう時の火は特別だもの…
火を囲むように大小さまざまな人が火を見つめている…この光景を私は…知っている…これが何を意味するのか、考える迄も無い。
右腕が無い大きな背中は地平線の彼方に吸い込まれていく月ではなく、空を泳ぐように漂う煙を眺め続けている…
大きな背中なのに小さく感じてしまう背中に声を掛ける
「ごめんね」
大きな背中はずっと空を見上げている
「あやまるこたぁないさ…姫ちゃん…姫様だって…違う、そうじゃねぇ…姫様は悪くないさ」
無くした右腕、そっと右肩に左手を添え、彼女と共に宙に向かって漂う煙を眺めると懺悔するかのように自然と喉から音が零れ出てくる…
「傲慢だってわかってる、でも、私がもっともっと…皆を守れる鎧を作っていたら…敵よりも強大な力を持っていたら…こうはならなかった、ならかったはずなんだよ」
胸が締め付けられる、喉が震えてしまう、気が付くと嗚咽が止まらなくなってしまう。
「わだ、わだじが…もっと、もっと…あだ、ま…よがっだら、まりんさんの…うで、うでが…みんなが、わだじをじだってくれだ、人をしな、死なせずにすんだのに」
事前情報なしだと、私は弱い…思考超加速が使えない私は凡人だ…どうして、どうして…
私の体はこんなにも弱いのだろうか?
どうして、私は魔術を…数々の…幾多の…他の世界の知識を得ているのに、生かしきれないのだろうか?
どうして、魔力が私には無いの?全ての人を救う術を持っているのに、実現するための魔力が無いの?
どうして、私は何時だって一手遅いの?
己の無力さに嫌気がする、吐き気がする!こんな弱い私を縊り殺したくなるほどに嫌気がする!!
「姫様は良くやってるよ、姫様じゃなかったら、さっきの敵は倒せなかったとあたいは、感じているよ、あんな…あんな強力な魔道具…あたいは見たことがねぇ…姫様がいなかったらあたいらは全滅していた…勝ち目なんて無かったさ…」
ない筈の右腕で抱きしめられていると錯覚してしまいそうに成程、彼女の心は温かい。
この暖かさは、戦士の心じゃない…彼女の心は雄々しいわけじゃない、繊細な女性なんだ、今だって小さく震えている。
必死に、隣で泣き叫ぶ幼い少女を励ます為に…自分だって、辛い筈なのに励まそうと心を奮い立たせて泣き叫ぶ少女を支えようとしてくれている。
この健気な姿勢を私は知っている…ずっと、傍で見守ってくれた人たちが居るから…知っている…
嗚呼、そうだった、そうだったじゃん、彼女は…母なんだ、お母さんなんだ…出撃する前だって、恐怖に震えていたのに…私は、見て見ぬふりをした…
今だって、失いたくない大切な人を失って悲しいはずなんだ、泣きたいはずなんだよ、でも、彼女は、母として耐えている…
私は、こんなにも、こんなにも…か弱い女性を戦場に連れて行ってしまったんだ、今までも、命の危険がある場所へ連れて行ってしまっていたんだ。
この人は…戦うべきじゃない…誰よりも繊細で優しい心の人なんだ、過酷な戦場に出るべきじゃない、非戦闘員なんだ、闘うことが出来る心を持った私達が…
守るべき人達なんだ…
大切な母の右腕を見る、あの逞しい腕は三角筋から先…全て無くなってしまっている。
これじゃ、もう、大好きな娘を抱きしめる事も出来ない、大好きな旦那さんを支えることも出来ない…
私のせいだ…私が見誤ったからだ、私が…適切な指示を出せなかったからだ、私が…彼女を頼りにし過ぎたからだ…
心臓がぎゅっと握られたような痛みが走る。喉の奥が閉まり呼吸することを拒むかのように苦しい…
彼女の肩に額を付け、涙を流し続けてしまう、己の弱さを噛み締め乍ら、己の無能さを罵りながら、
この気持ちを胸に、脳に、魂に…深く深く、何があろうと忘れないと刻み込む
か弱き乙女二人、お互いを慰めあう様に、空が明るくなるまで、弔いの火を眺め続けた…
病室で寝てる時間すら、勿体無い、研究を再開しよう…
大好きな母の一人、大切な人の右腕を再生するために…
失った未来を取り戻す、本来、あるべきものを再生させるための医療、なるほど、再生医療って名付けよう…
包帯でぐるぐる巻きの状態でも、研究はできる、セレグさんに頼んで、点滴とか、包帯とか、魔力とかの協力をお願いし、快く引き受けてくれた。
地下の研究所に籠っている間、鐘が鳴ることは無かった、と言っても、あれから経ったの二日しか経過していない。
幸いなことに、アレが…ジョーカーだったのだろう、目的を達したのか、失敗したのかは、定かではないが、敵の猛攻は徐々に徐々に落ち着いて行った。
メイドちゃんから渡された、今回の被害レポートを左手で持ち、心に刻み込む様に叩き込む…次はこうはさせない、完封するために。
死者…5名
重症…5名
この数字だけを見れば大勝利と声を高らかにしても良いだろう…
あれ程の、未曽有の危機を、この程度の被害で脱したのだから…
危険な魔道具持ちをたったのこれだけって、考えれば幹部連中も王族も…重畳だと言うだろう…
だが、中身を細分化すると非常に最悪だ…頭を抱えてしまい、明日を諦めてしまいかねない程に…
死者5名のうち、2名はこの街を代表しても問題ない歴戦の戦士、幾度となく戦場へ赴き、幾度となく人型を倒してきた猛者であり、窮地を幾度となく私と共に駆け抜けてくれた人だ…忘れてはいけないはずなのに、頭をぶつけた影響か、はたまた、思い出すのが辛いのか、彼らの本当の名前と顔がはっきりと思い出せない…
一人は、私を庇って…私の代わりに月の裏側へ旅立って行った…
一人は、ユキさんを庇って…最初の現場を調査した際に、半身以上が吹き飛び何処かにいってしまっているのを発見された…
発見するきっかけとなったのが。
カジカさんが、ユキさんをサポートするために一人戦士を付けていたと、悲しそうに捜索隊を組んでくれるように願ったからだ…そして、探した結果が…
カジカさんも、そういう結果になるだろうとわかっていて捜索願を出した、きっと、あの死の大地で独り静かに取り残されているのが不憫だと感じたからだろう…
長く、ながく…共に研鑽を積み、共に戦ってきた仲間だからこそ…弔ってあげたかったのだろう…
他の死者3名は、今後、活躍が期待されている武家出身の若手兵士…
ユキさんなら、次代の戦士長となるべく人物なら…
きっと、彼らを守り通してくれるだろうと、共に研鑽を積み羽ばたいてくれるだろうと、押し付けるように期待を寄せ、幹部連中が手放しで任せた結果がこれだ…
こうなることを誰が予想できるのか…予想できたのなら教えて欲しい…私達は何処を間違えたのか。
重症5名…
一人は、伝説と謳われる粉砕姫がその名を示す剛腕、その右を失った…
一人は、伝説の戦士長、この街に古くからいる人物なら誰しもが知り、尊敬と感謝を絶やすことが無い人物、その一人子が未来を閉ざすほどの怪我を負ってしまった。
幸いに一命を取り留めたが、左腕を無くし、左足を無くし、左目が失明した。それだけじゃない、彼の美貌も失われた…何故なら、皮膚の7割ほどが火傷し爛れてしまったからだ。
一人は、前腕が折れ、全身の4割ほど火傷を負ってしまう。
一人は、全身が焼けただれ、声と鼓膜を失った、かろうじて生きているという状態。
一人は、右腕を複雑骨折し、肋骨を3本折り、鎖骨も折り、右膝の皿にヒビを作ってしまい、体の多くを擦過傷となる、更には、何かの衝撃で右目が消失した。
…私を守ってくれた戦士、ユキさんを守ってくれた、二人は、月の裏側へ逝ってしまった
…彼らとの思い出は数多くある、もう、彼らの声を聞くことが出来ないのが…残念だよ…
最後くらい…彼らを傍で見送ってあげたかったけれど、気絶している間に、お別れ会は終わってしまっていた…
報告書に涙がつかないように一度、机の上に置き、机の上に置いてあるハンカチで止まらない涙を…ハンカチに吸わせていく…
嗚咽を出しながら、報告書にもう一度、手を伸ばす。
…最悪を回避した、そう思わないとやってらない。けれども、代償が大きすぎる、、、
この先の未来を見据えたら、この街の戦力として期待していた…その殆どが削られたと言っても過言じゃない。
左腕を伸ばしてベッドの脇にある手すりを握り、上半身を起こす。
体に違和感を感じる、痛みが無い…よく見ると左腕に点滴が刺さっている。痛み止めなどが投与されているのだろう。
そっと、ゆっくりと…左手を右目に触れる様に動かす…瞼を押すと眼球の感触が伝わってくることなく沈む…本来あるべきものはなく空洞となっている。
空洞となってしまった部位から失ってしまった喪失感が溢れ出てくるように感じてしまう…
喪失感に包まれ、心が乱されないように、自分自身に言い聞かせる
右目一つで、救えたのだから後悔はない。
左手で点滴を近くに寄せ、ベッドから立ち上がる。
右腕は上半身に巻きつけられるように固定されている、更には上半身もがっちりと肋骨が広がらないように固定されている。
右腕を動かすことは出来ないし、今は深呼吸も良くないだろう、更には、首を右側に傾けることもできない。
右半身を激しく打ち付けたというのが良くわかる。だけど、幸いに足は動かせれる、これで足も動かなくて車いすだったら、目も当たられない所だった。
患者衣から露見している箇所を観察しようにも、右足どころか見える範囲全てに包帯で巻かれていて素肌を診察できない。今わかるのは、包帯のあちこちに赤い点がある。
赤い点があるけれど、足は折れていない、立ち上がっても痛みが無いのがその証拠、って言いたいけれど、痛み止めで感じていないだけかもしれない。
もしかしたら折れてしまっている足で歩いてしまっているかもしれないと、念のためにゆっくりとすり足で歩いてみるが、何とか歩けるので、折れてはいないだろう…
病室の扉をゆっくりと開き、点滴スタンドを左手で握りしめ…すり足で歩いていく。
病棟の外に出て、周囲を観察する、念のために魔力のピンを打つ…返ってこない。
もしもの時に勇気くんと打ち合わせしていた、緊急連絡手段、お互いこの魔力波を感知したらピンを打ち返すって決めていたやつ…返ってこない。
胸の奥が締め付けられる、眩暈がする。涙が溢れそうになる。息をすることすら忘れてしまいそうになる。
ふらふらと、ふらふらと、何処かに向かって歩いていく…耳を澄ますと音なんてしない…静かな夜。ううん、もう少ししたら夜明けかな?時間がよくわからない。
何処からも音がしない、静かな夜…月夜に照らされた、多くの人達によって踏み固められた道を歩いていく…ふらふらとふらふらと、視界の半分が見えない影響なのか、距離感も掴みにくく、ふらふらと、ふらふらと…彷徨う迷い子のようにふらふらと…誰かがいるかもしれない広場へと救いを求めるように…松明に吸い寄せられていく羽虫のように…歩いていく。
ふらふらと、何時もの数倍時間をかけて到着した広場には火が炊かれている…煙が何時もと違う、嗚呼、そうだよね…こういう時の火は特別だもの…
火を囲むように大小さまざまな人が火を見つめている…この光景を私は…知っている…これが何を意味するのか、考える迄も無い。
右腕が無い大きな背中は地平線の彼方に吸い込まれていく月ではなく、空を泳ぐように漂う煙を眺め続けている…
大きな背中なのに小さく感じてしまう背中に声を掛ける
「ごめんね」
大きな背中はずっと空を見上げている
「あやまるこたぁないさ…姫ちゃん…姫様だって…違う、そうじゃねぇ…姫様は悪くないさ」
無くした右腕、そっと右肩に左手を添え、彼女と共に宙に向かって漂う煙を眺めると懺悔するかのように自然と喉から音が零れ出てくる…
「傲慢だってわかってる、でも、私がもっともっと…皆を守れる鎧を作っていたら…敵よりも強大な力を持っていたら…こうはならなかった、ならかったはずなんだよ」
胸が締め付けられる、喉が震えてしまう、気が付くと嗚咽が止まらなくなってしまう。
「わだ、わだじが…もっと、もっと…あだ、ま…よがっだら、まりんさんの…うで、うでが…みんなが、わだじをじだってくれだ、人をしな、死なせずにすんだのに」
事前情報なしだと、私は弱い…思考超加速が使えない私は凡人だ…どうして、どうして…
私の体はこんなにも弱いのだろうか?
どうして、私は魔術を…数々の…幾多の…他の世界の知識を得ているのに、生かしきれないのだろうか?
どうして、魔力が私には無いの?全ての人を救う術を持っているのに、実現するための魔力が無いの?
どうして、私は何時だって一手遅いの?
己の無力さに嫌気がする、吐き気がする!こんな弱い私を縊り殺したくなるほどに嫌気がする!!
「姫様は良くやってるよ、姫様じゃなかったら、さっきの敵は倒せなかったとあたいは、感じているよ、あんな…あんな強力な魔道具…あたいは見たことがねぇ…姫様がいなかったらあたいらは全滅していた…勝ち目なんて無かったさ…」
ない筈の右腕で抱きしめられていると錯覚してしまいそうに成程、彼女の心は温かい。
この暖かさは、戦士の心じゃない…彼女の心は雄々しいわけじゃない、繊細な女性なんだ、今だって小さく震えている。
必死に、隣で泣き叫ぶ幼い少女を励ます為に…自分だって、辛い筈なのに励まそうと心を奮い立たせて泣き叫ぶ少女を支えようとしてくれている。
この健気な姿勢を私は知っている…ずっと、傍で見守ってくれた人たちが居るから…知っている…
嗚呼、そうだった、そうだったじゃん、彼女は…母なんだ、お母さんなんだ…出撃する前だって、恐怖に震えていたのに…私は、見て見ぬふりをした…
今だって、失いたくない大切な人を失って悲しいはずなんだ、泣きたいはずなんだよ、でも、彼女は、母として耐えている…
私は、こんなにも、こんなにも…か弱い女性を戦場に連れて行ってしまったんだ、今までも、命の危険がある場所へ連れて行ってしまっていたんだ。
この人は…戦うべきじゃない…誰よりも繊細で優しい心の人なんだ、過酷な戦場に出るべきじゃない、非戦闘員なんだ、闘うことが出来る心を持った私達が…
守るべき人達なんだ…
大切な母の右腕を見る、あの逞しい腕は三角筋から先…全て無くなってしまっている。
これじゃ、もう、大好きな娘を抱きしめる事も出来ない、大好きな旦那さんを支えることも出来ない…
私のせいだ…私が見誤ったからだ、私が…適切な指示を出せなかったからだ、私が…彼女を頼りにし過ぎたからだ…
心臓がぎゅっと握られたような痛みが走る。喉の奥が閉まり呼吸することを拒むかのように苦しい…
彼女の肩に額を付け、涙を流し続けてしまう、己の弱さを噛み締め乍ら、己の無能さを罵りながら、
この気持ちを胸に、脳に、魂に…深く深く、何があろうと忘れないと刻み込む
か弱き乙女二人、お互いを慰めあう様に、空が明るくなるまで、弔いの火を眺め続けた…
病室で寝てる時間すら、勿体無い、研究を再開しよう…
大好きな母の一人、大切な人の右腕を再生するために…
失った未来を取り戻す、本来、あるべきものを再生させるための医療、なるほど、再生医療って名付けよう…
包帯でぐるぐる巻きの状態でも、研究はできる、セレグさんに頼んで、点滴とか、包帯とか、魔力とかの協力をお願いし、快く引き受けてくれた。
地下の研究所に籠っている間、鐘が鳴ることは無かった、と言っても、あれから経ったの二日しか経過していない。
幸いなことに、アレが…ジョーカーだったのだろう、目的を達したのか、失敗したのかは、定かではないが、敵の猛攻は徐々に徐々に落ち着いて行った。
メイドちゃんから渡された、今回の被害レポートを左手で持ち、心に刻み込む様に叩き込む…次はこうはさせない、完封するために。
死者…5名
重症…5名
この数字だけを見れば大勝利と声を高らかにしても良いだろう…
あれ程の、未曽有の危機を、この程度の被害で脱したのだから…
危険な魔道具持ちをたったのこれだけって、考えれば幹部連中も王族も…重畳だと言うだろう…
だが、中身を細分化すると非常に最悪だ…頭を抱えてしまい、明日を諦めてしまいかねない程に…
死者5名のうち、2名はこの街を代表しても問題ない歴戦の戦士、幾度となく戦場へ赴き、幾度となく人型を倒してきた猛者であり、窮地を幾度となく私と共に駆け抜けてくれた人だ…忘れてはいけないはずなのに、頭をぶつけた影響か、はたまた、思い出すのが辛いのか、彼らの本当の名前と顔がはっきりと思い出せない…
一人は、私を庇って…私の代わりに月の裏側へ旅立って行った…
一人は、ユキさんを庇って…最初の現場を調査した際に、半身以上が吹き飛び何処かにいってしまっているのを発見された…
発見するきっかけとなったのが。
カジカさんが、ユキさんをサポートするために一人戦士を付けていたと、悲しそうに捜索隊を組んでくれるように願ったからだ…そして、探した結果が…
カジカさんも、そういう結果になるだろうとわかっていて捜索願を出した、きっと、あの死の大地で独り静かに取り残されているのが不憫だと感じたからだろう…
長く、ながく…共に研鑽を積み、共に戦ってきた仲間だからこそ…弔ってあげたかったのだろう…
他の死者3名は、今後、活躍が期待されている武家出身の若手兵士…
ユキさんなら、次代の戦士長となるべく人物なら…
きっと、彼らを守り通してくれるだろうと、共に研鑽を積み羽ばたいてくれるだろうと、押し付けるように期待を寄せ、幹部連中が手放しで任せた結果がこれだ…
こうなることを誰が予想できるのか…予想できたのなら教えて欲しい…私達は何処を間違えたのか。
重症5名…
一人は、伝説と謳われる粉砕姫がその名を示す剛腕、その右を失った…
一人は、伝説の戦士長、この街に古くからいる人物なら誰しもが知り、尊敬と感謝を絶やすことが無い人物、その一人子が未来を閉ざすほどの怪我を負ってしまった。
幸いに一命を取り留めたが、左腕を無くし、左足を無くし、左目が失明した。それだけじゃない、彼の美貌も失われた…何故なら、皮膚の7割ほどが火傷し爛れてしまったからだ。
一人は、前腕が折れ、全身の4割ほど火傷を負ってしまう。
一人は、全身が焼けただれ、声と鼓膜を失った、かろうじて生きているという状態。
一人は、右腕を複雑骨折し、肋骨を3本折り、鎖骨も折り、右膝の皿にヒビを作ってしまい、体の多くを擦過傷となる、更には、何かの衝撃で右目が消失した。
…私を守ってくれた戦士、ユキさんを守ってくれた、二人は、月の裏側へ逝ってしまった
…彼らとの思い出は数多くある、もう、彼らの声を聞くことが出来ないのが…残念だよ…
最後くらい…彼らを傍で見送ってあげたかったけれど、気絶している間に、お別れ会は終わってしまっていた…
報告書に涙がつかないように一度、机の上に置き、机の上に置いてあるハンカチで止まらない涙を…ハンカチに吸わせていく…
嗚咽を出しながら、報告書にもう一度、手を伸ばす。
…最悪を回避した、そう思わないとやってらない。けれども、代償が大きすぎる、、、
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