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Dead End ユ キ・サクラ (36)

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そしてぇ!待ちに待った新月の夜!お昼寝もちゃっかりしてあるから眠くないぜ!!
前回、彼が現れた時刻、よりも少し早めに!心待ちにしながら!広場に到着してます!
はい!こちら現場!お月様は出ていません!

何処を探しても、見えないお月様…見えないだけで本当は何処かにいるお月様が今は、どのあたりにいるのか探しつつ、夜空に輝く星々を眺めていく

地球には星座と言う文化がある、でも、私達にはそういったロマンティックな話はない。
なので、そういうモノが此方でも作れないかなーって星を見て、星座を描いてみようかと思ったりしたこともあるんだけどさ、輝く星々が多すぎて、段々とさ、どれがどれだかわかんなくなっちゃうんだよねー…

地球の人はどうやって星を固定して観察する技術を得たのだろうか?始祖様はそういう部分に興味を持ってくれないみたいでわかんないんだよなー…

ベンチに座って星を眺めていると、特殊な空間が形成されるのを感じたと思ったら
「こんばんは、姫様、わざわざご足労頂き感謝の極みってやつだな」
流れる様に現れたかと思ったら、優雅に華麗に私の隣に座れど、隣に居る私に座った衝撃を伝えずに座るあたり、この人はできると言わざるを得ない。
そんな事を感じながらも、勇気は、優雅に軽く挨拶をしてくれる
「おはよう、勇気、くん」
何でだろうか、呼び捨てしようと声に出そうとしたんだけど、その、ちょっとした抵抗があってくん付でよんでしまう…やっぱり呼び捨てって苦手かも…
うん、これからは勇気くんって呼ぶことにしようかな?うん、うん、それがいいよね?
「そうか、おはようのほうが…正しいのかもな、俺も敬称で呼ばずに名前で呼んだ方がいいか?」
軽い挨拶、軽い会話、されど、勇気くんは此方の事をしっかりと考えてくれているのが嬉しいと感じてしまう。
敬称かー、確かにね、上下関係が生まれたような感じがしたけれど、私達の関係は対等でありたいから姫様呼びってどうなのかな?

一瞬だけ意見を取る様に自分の心に投げかけてみると大多数が名前で呼んで欲しいのか名前で呼んでーっと叫んでいる…
「二人だけの時は名前で呼んで欲しいかな」
たった、これだけなのにちょっと気恥ずかしく感じてしまう。
「そうなると、イラツゲの方か?それともサクラの方か?」
イラツゲも名前だけどさ、名前って言うよりもカテゴリーって感じで、その名前で呼ばれるのは実は、好きじゃないんだよね。
お前は聖女の血筋だっていう区分けされてるって感じがしちゃって、う~ん?って感じなんだよね。

私は初代聖女様のように聖人君子になれるわけがないもん…教会の教えなんて守ってたら世界を救えない。

ルは、私の故郷で力に目覚めたものっていうか、何かしら特別な役職に就いたものに与えられる名前だから、これもカテゴリーって感じで冷たい感じがするから、実はあまり、好きじゃないんだよね。っていうか、単音で人を呼ぶな!って気持ちになんない?

継いできた名前の重みや責任に関しては嫌いじゃないよ?何年も何世代も、繋げてきた希望の糸、それを毛機嫌いすることなんて出来るわけがない。
ただ、物みたいに区分けされている感覚が嫌いってだけなんだよね、個を見てない、全しか見てない感じがしてさ、後、その名前を受け継いでいるのだから、こうしなさい在れしなさいって言われるのも嫌い!私は私!個人として見て欲しいの!全として見ないで欲しいかな!

だから、私は始祖様が名付けてくれたサクラって名前が好き、唯一無二だから…
好きすぎて、好意を持っていない相手から名前で呼ばれるの嫌いだったんだけどさ…
お父様にサクラって呼ばれるの嫌だったもん、まだ、オイって呼ばれる方がましってくらい…
親しくない人から呼ばれるのは、嫌だけど…

その、勇気くんなら特別に名前で…呼んで欲しい、かも…

でも、お願いするのって苦手かも、声にどう出していいのかわかんない…

どうしようかとチラチラと勇気くんに視線を向けると
「決めかねているのなら、サクラって呼ばせてほしい、駄目かな?」
優しく微笑みながらそんなこといわれたら、駄目なんて言えないよね?こういうところずるいなぁって思っちゃうんだよなぁもー、お願いされちゃったら仕方がないよねー?ねー?にへへ

「んじゃ、サクラで、よろ、しく…ね?」
改めて声に出すのって、なんでこう、喉がきゅっと締まるような感じがするんだろう?うはー、頬があつーい
気恥ずかしさからか、嬉しさからなのか、どっちなのかわからないけれども、胸の奥は暖かくなり、それにつられて頬がピンクに染まる

ほんの一瞬だけ惚けてしまったけれど、勇気くんの時間は長くないから、話を進めないと
心の中で頬を叩き、思考回路を蕩けている状態からいつも通りの姫様思考に切り替えていく
「ん、んぅ、えっとね、一か月の間、起きた出来事とか、新着状況とかの報告会、してもいいかな?」
「ああ、頼む」
たったの一言二言だっていうのにさ、胸に響くというかストンっと落ちてさ、すんなりと受け止めちゃうこの感じ!
発言の仕方や声のトーンを間近で聞いて痛感する、王として君臨していた人なのだと。
向こうも仕事モードとして直ぐに姿勢を変えてくれるから此方としても話しやすい

淡々と、会議室のように現状報告、今後の予定、目的、狙いなどを説明していく。
勇気くんも全ての説明が終わるまで真剣な表情で話を聞いてくれている
一通り説明が終わると、問題点や改善点などで気になる部分を質問してくれる。

問題点として、医療の分野として飛躍的に人命救助として活躍すること間違いなしの新技術だが、未知の技術を運用することに対して危険性はないのかって部分を指摘される
うん、正直、敢えて無視した部分なんだよね、地球で言うところの副作用、後天的作用ってやつだよね?
正直、どうなるかなんてわからない、だって魔女も完成する前に討伐されたから、完成して経過観察したデータってわけじゃないもん。

安全性なんて無いよ

この場をしのげればいいっていう短絡的な思考も否定できない。
そう伝えると、そこまで考えていなかったっと驚いた表情をしていた。
勇気くんが考えた危険性が具体的にどういうモノなのか確認すると

「悪用されないかってことだよ」

その一言で目が点になってしまう、そうだよね、私はこの技術を外に漏らすつもりなんて一切なかったけれど、私の管理を離れる可能性もあるってことじゃん。
嗚呼、なるほど…この技術を使って人の悪意として何処かで運用されてしまう恐れを危惧してってことか…
見てる視点が違うなぁ…どうなんだろう?どういう風に悪用できるのだろうか?

試しにどの様に悪用が可能なのか空想の段階で良いので思いつく内容を聞いてみると

拷問に使える
拷問を過度に行い指とか、足先を失うケースが多いが、それを逆手に取る。
敢えて、苦痛を与えて壊死させてから再生させてやれるという希望という名の条件をチラつかせることが出来るので、今まで以上に冷酷な拷問が行える

人体実験を手軽に行える
意思なき肉体を作れるっという事は、意思なき肉体のデータもサンプルも手軽に取れるようになる
つまりは、毒薬、劇薬などを手軽に人体実験ができるっという事は、危険な毒の開発が手軽に行えてしまう

死者蘇生or若返り
魂を移す技術も確立しようと思えばできる、その技術の片鱗を俺は知っているし…君も何となくだけれど知っているだろう?
生前と同じ肉体を産み出せば、死んだ者も蘇るし、死んだ直後で在れば更に容易くなるだろうし
老いた権力者に若い頃の肉体を提供することが出来る

つまりは、永遠の独裁政権を作ることが出来る

「っとまぁ、直ぐに思いついたのはこれくらいだ」
自分の思慮の甘さを突かれたことに軽いショックを受ける。
そうだよ、そういう事に転用しようと思えばできるじゃん…

人の悪意に晒されてきたと思っていたけれど、もっともっと、残酷で酷い世界を勇気くんは経験してきているのだろう…
そう考えると、私達の世界は大昔に比べたら平和なのだろう、人類共通の敵がいるって部分だけで表面上は手を取り合えている

それが、無くなると、人対人…戦争が起きるのだろう、私はその先も見据えて動かないといけないってことになる。
考えていないわけじゃなかったけれど、なる様になる、それよりも倒すべき敵を倒すってことに固執し過ぎていたってことになる?

「提案しておきながらだが、サクラ、深く考えないで欲しい、可能性だけで人を測るのは良くない、どんな技術で在れ悪用しようと思えば出来てしまう」
慰めるように頭を撫でてくる、どうやら、私の表情は今にも泣きそうな感じなのだろう
「俺たちの目的はただ一つ、人類の敵を駆逐することだ、我らが生存することを第一に考えよう、その後は、人の善性を願おう、それを導ける人に未来を委ねたらいい」
その後はってのが、耳が痛い…
勇気くんとしては、初代聖女様が望んだ真なる平和を目指して生き抜いてきた、でも、何百年経過してこの世界を垣間見た時に

人は成長しておらず、愚かな歴史を繰り返しているのを目の当たりにしている
それでも、人の善性を信じようとしている

私じゃ、一度裏切られたら信じようなんて思えれないのに、本当に清い人だよね…

「だから、君は君しか出来ないことに全力になればいい、技術者っていうのは自分本位で良いんだよ、悪性を考えたら何もできなくなってしまうからね、弓矢だって元は狩猟を目的としていた、向ける刃は明日を生きる為の糧だった、そうだろう?」
優しく抱きしめるように肩を抱かれ私を自分の胸元へと引き寄せる
…私そんなに辛そうな顔をしていたのかな?…それとも、勇気くんの中で何か思い当たることでもあったのかな?

絞り出す様にうんっと声を出すと肩をぽんぽんっと優しく撫でるように叩いてくれる。
父性を感じる…勇気くんの子供たちは幸せだったろうなぁ…

少しの間、寄り添う、彼の優しさ、父性に包まれているだけで、心が落ち着き甘えたくなる。
…私って、父性や母性に弱いのかもなぁ…

何時までもこうしていたいけれど、時間が無いって言うのが切ないなぁ…毎日、抱きしめて欲しいのになぁ…

「そのままでいい、俺の独り言だと思ってくれたらいい、でも、出来れば聞いておいてくれ」
何だろうと思いながら彼の心音を感じつつも耳を傾けると…内容がとっても、とっても…辛い内容で、語る途中から徐々に彼の心音が怒りを表す様にドンドンっと力強い音を奏でるようになっていった。

その話を聞いて私の心臓も強く怒りを表す様にドンドンと激しい音を奏で始める。

淡々と説明しようと努めてくれていたけれど、憤りを感じないわけが無く、語尾を荒げたり、私の肩に触れている手が震えていたりと、彼が抱く感情が痛く伝わってきた。
心清く寛容な彼の心が荒波を描くほどに、外道で非道な話だった…

その全てを吐き出した後は
「すまない、俺の時間は…ここ迄のようだ、ユキが起きようとしている…ありがとうサクラ」
立ち上がったときは、何とも言えない、悲しそうな憤るような、絶望するような、でも、希望を忘れないように懸命に笑顔を作ろうとしていた。
別れ際は作り笑顔だとわかっていても、懸命に目元だけでも、口元だけでも笑顔にして手を振って去って行った…

凍り付いた笑顔…他者を悲しませないようにする作られた笑顔…なんて、切ない笑顔なのだろうか…

彼が遠くに行ったのを確認した後、私の足は感情を顕わにして何度も何度も地面をドンドンっと踏み抜く様に踏んでしまう。
許されざるは外道…やはり獣共は人の心なんて持ち合わせていない、下法にも程がある!あいつらは人類の敵だ…

湧き上がり立ち上る様に殺意が込み上げてくるのを抑える術を持ち合わせていない
何度も何度も地面を叩く様に踏み、気が晴れる迄、いいや、これは晴れる気がしない…

自分の足が痛くなってきたので地面を踏むのをやめ
ベンチの背もたれに体重を預け見えないお月様に悪態をついてしまいたくなる

「…ユキさんを救いたい」

零れ出る言葉は、同情からなのか?それとも、初めてできた同世代の友達を憂いてなのか…正直に言えばわからなかった。


勇気くんが教えてくれた、語ってくれた内容を思い出す。忘れる事の出来ない事実…

ユキさんは獣サイドが何処からか用意した魂
その魂の出自はこの世界ではない、何処か別の世界からの魂
幼くして死んでしまった…世界を自由に遊びたかった少女の魂

それゆえに、彼女の魂は止まったまま、幼き頃から成長しようと藻掻いていても成長しきれない永遠なる未熟な魂…そうなるように縛られた魂…

そして、ユキが見ている夢は、多くの子供達と遊ぶ夢だ…
でも、ユキは子供達と遊んだ経験が豊富ではない、おいかけっことか、泥遊びとか、そういった遊びしか知らない。
殆どが家の手伝いなどをしていたのでユキにとってはそれが遊びのようにも感じていた…
だが、夢の中ではそういった遊びは、夢の中にいる多くの子供達からは不評で、どうやって遊んだらいいのかわからない。

多くの子供達を楽しませることが出来ないことに対しても、ユキは悩み苦悩し、涙を流し続けている…

その都度、俺は、俺の知る昔の遊びをユキに提案して道具を用意し子供達と遊ばせているのだが、子供達も同じ遊びを繰り返すのは好きじゃない子もいる。
その為に新しい遊びを探しているのだが、俺の子供のころは川遊びに海遊びに木登り、後は、草笛とか、草を編んで作ったボールのようなものを投げあったり、その程度しか知らないから、無理もない話だと悩みを打ち明けてくれた。

徐々に徐々にユキの心が曇っていくのを感じていた、きっかけは恐らく、敬愛する父の死がもたらした環境の変化
母は臥せり、今までは周りも暖かく接してくれていたのが突如、憐みの目で腫物を扱う様に接されて壁を感じたのもストレスだったのだろう
この街に来てから、獣共からの干渉が強くなってきて、ユキの心がどんどん濁っていき過度なストレスによって自我が崩壊しかねない程に心の叫びが強くなってきた
俺は、それを解消するために、敵からの干渉を防ぐために結界を産み出し、ユキの心のケアに勤めようとしていたんだよ。

そんな時に、君が駆けつけてくれた

正直、嬉しかったよ…っか…ついつい、彼の言葉を一語一句思い出しちゃった…そんな風に締めくくられると胸が締め付けられちゃうじゃん…
まぁ、それ以上に憤りを感じちゃったけどね!!…ユキさんを救ってあげたい彼女を救済してあげたい、敵から解放してあげたい…

はぁ、それにしても、未来の私から飛んできたワードを考えるとさー、ちょっと、っていうか、確実に良くない出会い方してそーだよね。

きっと、一度目は敵意丸出しで接してさ
きっと、二度目は疑心暗鬼で接してさ
そして、三度目は素直に受け止め彼にとっても救世主のように感じたのだろう。
彼と心を重ねたからこそ、彼も私の苦悩を知ってくれている…

じゃないと、こんな突拍子もないことを語ろうなんて思わないよね、普通に考えれば信じてもらえるわけがないって思っちゃうよね…
それ程までに、あり得ない話、それ程までに…人の心を…魂を弄び…翻弄し過ぎている…非人道的な話…

…敵と幾度となく戦い続けてきた、敗北し続けてきた私でしか信じることが出来ない話

こんな話を私以外の人に話したところで狂人扱いされる狂った話…
はぁっと溜息漏れる、溜息からは怒りからくる熱量を帯びていた熱かった…

この全ての怒り、悲しみ、絶望を敵にぶつけこの世界から欠片一つ残さず消し飛ばすまで、きっと私の心は、晴れないだろう…


この恨み晴らさでおくべきか!!ってね!
お前たちがこの星にいる人類全てを敵としている様に、私だってお前たちを全人類の敵とみなす様に動き続ける。
壁が出来てから、人類は忘れているんだよ、あいつ等の事を…見くびりすぎているんだよ、悪魔どもを…


尻尾を出す前に殺しつくてやりたい!!
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