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Dead End ユ キ・サクラ (7)

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そんな疑問を、消せない不安を胸に抱えながら部屋に戻り、仕事を再開しようとするのだが…手が動く気配は無かった。


そんな事を考えているせいもあって仕事が疎かになり、罠を用意するような時間を作りだすことが出来ず、あと三日もすれば新月になるという状況になってしまう。
今から、罠を用意したとしても殺傷能力を落とす為に何度か試験をしないといけないのだが、それをする時間も無い。
今回は罠を用意せずに…やっぱり、話を、彼の言葉に耳を傾けてもいいのかもしれない…

私は、思い違いをしているのではないか?局面を見誤っているのではないか?という真綿で〆られている様なじわじわと抜けれない不安が、ここ数か月、消えることが無かった。


絡まった紐が解けない部分に関しては致し方ない、もやもやとして、不安ばかりが募っていく、永遠と降り注ぐ埃のように積もっていき、汚れとなってこびり付くような感覚が倦み疲れる気分になってしまっている。

だけど!もうすぐ、新月の日!用意はできている!
彼と会話する内容はある程度、まとめることが出来た、後は、当日を迎えるだけ。

今までとは違う感情で彼を待ち望み続ける日々、そんな日々を送っていると
夕暮れに近づく時間、用事で外を歩いていた、すると、あの時と同じように広場にユキさんがベンチに座って俯いているのが目に留まる。

その姿を見ると確信だと、やっぱり、私の推測が正しいのではないかと感じてしまう。故に、湧き上がってしまう個の尊重を軽んじてしまったことに…罪悪感が心臓を掴もうとしていくる。
私達の対応は間違えたのではないかという罪悪感を胸に抱きながら、悲しそうにしている女性に、どうやって声を掛けたらいいのか、そういった経験が浅い私には思い浮かばなかった。

なんてね、失敗してもいいじゃん、こんなことで、悩んでいないで勇気を振り絞って一歩前に進む!
…もしかしたら、彼は彼女であって、私達の思い違いによる被害者かもしれないのだから。実は、助けを求めている可能性があるんだから。

同じ女性として、年齢の近い人として、彼女の悩みを聞いて上げれる人物は私以外、いないのかもしれない。
なら、気取らず何も考えず、失敗しても良い、彼女の心に寄り添ってあげるのが、この街で共に歩む戦友ってことじゃん?

ゆっくりと、歩み寄り、優しく声を掛ける
「ユキさん?大丈夫?」
俯いている、彼…ううん、彼女に声を掛けると、声は聞こえているはずなのに反応が無く、俯いたまま動く気配が無い。

無視されているわけではないと思いたいけれど、何も反応が無いのはこっちも辛い…
もしかしたら、今は一人にして欲しいのかもしれない、そっとしてあげるべきなのかもしれない、そうであるのであれば、この場から離れるべきなのだろう

確認の為に、もう一度だけ、声を掛けようか、そっと肩を叩いて声を掛けようかと、手を伸ばそうか…悩んでいると
『今すぐ離れろレディ!!』
何処からともなく声が聞こえてきたような気がし、た、そして、ユキさんがこちらにゆっくりと目を向けた…

真っ黒で真っ暗闇で、底が見えない色だった…そこから…




私の意識は途絶えた…





『大丈夫かレディ!?意識はあるか!?正常か?小生意気に反論できるか!?』
何処からともなく聞こえてくる声ではっと、するような感じで唐突に我に返る、だが…

眼前に広がる絶望で叫び狂いそうになる

『叫ぶな!叫ぶと気づかれる!頼む!レディだけが最後の頼みなんだ!レディだけが、この状況を打破できると俺は感じている!!』
遠くで燃え広がる光景によって、心臓がバクバクと大きく鳴り響き、その音だけが脳を揺さぶられるような気がしてしまう。
呼吸が荒く細くなりそうなのを必死にこらえ、呼吸を正そうとするのだが…

眼前に広がる、信じられない、あり得ない、地獄に…体と心の制御ができそうにない。


目の前に広がる地獄を受け止めることが出来ない…だって、私はさっきまで私達の街に居たのに…ここは、ここは
王都のど真ん中…

そして、王都全てが、ありとあらゆる建物が半壊?いや、全壊している…
視線を彷徨わせながら、もう一度、間違いであって欲しいと願いながら、私達の街がある方角を見ると


現実を受け止めることが出来ず、空っぽの胃から、何もないのに吐きそうになってしまう…胃に穴が開いてしまったのかもしれない程に、胃から何かが込み上げてくる。


間違いではなかった、目覚めた時に見えた光は炎の光だった…
畜産の王と色んな方に呼ばれるほどに、この大陸の…王都に住む全員の腹を満たす為に、全身全霊をかけて作るべく頑張った畑や…畜産エリアが…ララさんが頑張り続け開拓し続けてきた広大な農場から、空に向かって煙が昇り続けている…


消えない煙と炎が真っ暗な空を輝かせようと、新たな開拓エリアとして空に挑もうとしているようにみえるほど、全てが燃え続けている…


天を覆いつくそうとしている煙で、その先が見えにくいけれど、暗闇の中でも光が見える…
その光が見えるという事は…私達の街も燃えているのだろう、それも…誰も鎮火しようとしないのだと状況分析が出来てしまう。

こんな状況でも冷静に分析しようとする私がいる、こればかりは致し方ない、度重なる未来からの断片的な情報に感情に、私の心は分離している…

呼吸を落ち着かせようとし、幾度となく死を経験してきた私が声を掛けてくれるので少しずつ、体と心を冷静にすることが出来た。
視線を悟られない様に周りを見渡すと多くの人が居るのが分かるのだが…一言で言えば狂気を体に宿している…

こんな状況だというのに高らかに歌ったり、踊ったりしているし、誰もがその場にいるのに人目を気にせず行為を開始している人もいれば、ハンマーを振り回しながら建物を叩きつけている人もいる…

各々が快楽を求めて暴れ回っている?快楽を抑止することなく本能のままに楽しんでいる?


状況を何となく掴み始めてくると声が聞こえてきた…
『レディ…済まない、この状況を打破する術が無いか?あの街を治めてきたその頭脳であれば…この状況をひっくり返すことは出来ないか?』
何処から聞こえてくるのかわからない声にどう反応すればいいのかわからない…
言葉の意味をそのままにとらえるのであれば、この状況をひっくり返そうにもまず、どうしてこうなったのか元凶を知らない限りどうすることも出来ない…

私の声が聞こえているのなら応えて欲しいどうしてこうなったのか
『元凶か…言葉で言うのは容易い、だが、疑り深いレディに言葉だけで信用してもらうのは難しいっか…なら、教会のある広場に足を運んで欲しい』
その言葉に頷き、ゆっくりと教会がある広場に向かって歩いていく…
その道中も多くの人が各々が快楽を得られる術を実行している姿を見て、取りめくこの、環境に、現状を見て肌で感じ、本能的に感じてしまう


獣だと…理性を無くせば人もまた、獣なのだと…


広場に到着すると同時に胃の中身が全て出てしまいそうになるが、何処からともなく聞こえてくる声によって堪えることが出来た…
広場には…



私の大切な人達が磔にされて死んでいたから…



そう、あの街で、私達の街で必死に生きてきた人達…
人類の未来を守るために闘ってきた幹部達や仲間たちが十字架を背負わせるかのように十字に組んだ丸太に硬い紐で磔にされ、槍で喉と心臓を貫かれている…

誰一人、例外も無く、確実に殺されている…

食堂のおばちゃん、ルッタイさん…
私があの街に来た時から中々成長しない私の体を憂いて栄養のあるメニューを日夜、考えて笑顔で用意してくれた優しい人

医療の父、セレグさん…
私を本当の孫みたいに接してくれて、健康診断も丁寧に優しく本当のお爺ちゃんみたいに暖かった、いつも陰ながら見守ってくれた暖かい人

医療の父の奥さん、研究塔の長、フラさん…
私の術式の先生、あの人が書いたはじめてのじゅつしきのおかげで私の今がある、何時だって無茶ぶりをうんうんと頷いて頑張ってくれた支え続けてくれた人

街の非戦闘員だろうが、関係なく、鏖にされている…
新兵達も、医療班も、戦士の人達も騎士の人達も、誰であろうと例外なく同じ殺され方をしている…

そこに憎しみがないのかもしれない、事務的に殺されたような感じがまだ救いを感じ取れた…
快楽の為に殺されたのではなく、殺さなくてはいけないから殺したような無機質な感じだけが救いだった






それは手前だけだった





教会の近くに行くと、殺された人達は快楽の為?ストレスを発散する為?恨みを晴らす為?惨たらしい殺され方をしていた…
顔や残されたわずかな肉片を見て、その身体的特徴でも判断が出来るほど、私は…その肉片が…彼らが誰かわかる、長年共に戦ってきた仲間だから…

狂いそうになる、全てがどうでもよくなる、この世界は終わったのだと悟る…この状況下を、どうやって建て直せばいいのか?出来るわけがない…

私では無理だ、心が折れてしまっている、この世界線では何も救えない…次の私に託すしか術がない…
『術があるのか、なら、そのまま進んでくれレディ…そこに全ての始まりが居る』
教会に辿り着くと、教会も見るも無残に壊され、その上には…


ドラゴンが愉悦のように、恍惚とした表情で、ユキさんを舐る様に喰らっていた…


ドラゴンの近くには、幾つもの体だったものが転がっている…

嗚呼、ああ、ああああああああああああAAあああ嗚呼あああああああああAAAAAAAAAAAAAあああ

ドラゴンの周囲を見た瞬間、絶望し全てを諦めた私の心に消えることのない殺意が膨らむ、目が朱に染まる、ありとあらゆる全てを捨ててでも目の前にいる敵を殺しつくしたくなる…!!

あいつは、お母さんを!マリンさんを!ベテランさんを!遊ぶように四肢を!内臓を!引きちぎってその場に捨ててやがる!食べるという行為すらどうでもいい、ただただ、恨みを晴らす為に!!快楽の為に殺しつくしやがった!!!!


許せるわけがない!!!!!


感情が昂り、ありとあらゆる手段を考え始めた脳に声が響く…
『レディ、あれを殺せそうか?俺の持てる全てを渡してもいい、俺は、俺達が、あの二人に託され築き上げた国を滅ぼしたアレを許すことが出来ない!!』
その言葉には同意という感情しか、わかない!!出来る事なら全ての持ちうるものを犠牲にしてでも殺したい!!!
でも、この状況を経験しているであろう未来の私が、断片的に残された記憶達が”挑むのはよせ”と言ってくる…
敵うわけが無いと制止してくる…その声のおかげで何とか踏みとどまることが出来ている…

…私は策を巡らせて格上の敵に勝っているだけ、それも、初戦に関しては全て全敗していると言っても過言じゃない!!
大事な、人類の全てが…命運がかかっている時に関しては私は何時だって

一手遅い

…取り返しのつかない状況で、あの時、あの一手を打っていれば、ばっかりだ…もう、この世界は滅ぶ、人類の負けだ、詰んでいる、冷静に考えろ、情報を過去の私に送るのが正解、恨みだけで動いては未来は勝ち取れないと、私達は幾度となく魂に刻まれる様に知っているはずだ。

戦うことを諦め、過去の私に何を送ればいいのか考え始めると、声が割り込んでくる

『…そうか、勝つ術ではないのだな、そうか…なら、俺だけでも最後の抵抗をさせてもらおう、肉体はなくとも、死体ならあるからな…』
この絶望的な状況でも諦めない、その心意気は凄いと思う、私も過去に干渉する術が無かったら同じことを考えたと思う、なら、この状況で貴方は…

何をするの?

『この場に無残に屈辱的な殺され方をしている全ての死体を操る…人が扱うべきではない、下法を使う…レディなら気が付いているだろう?俺が、敵が持つ下法を扱うことが出来るのを』
やっぱり貴方は…私の予想が正しいのだと肯定してくる、だとすれば、貴方はユキさん?敵の先兵じゃないの?親玉に噛みついていいの?
『違うさ、俺は…俺の本当の名前は柳、この国を興した王の一人だ』
…ギナヤじゃなくて?やなぎ?
『レディには、本当は色々と相談したかったんだがな、もう、過去の事だ、もし、次があれば、俺の話を聞いてくれよ?…さようならだ、レディ』
声が聞こえなくなると、近くに感じていた何かが感じ取れなくなった…

何処からともなく聞こえてくる存在を感じることが出来なくなると、磔にされていた人達が次々と動き出し、自身に刺されていた槍を体から抜き、乾いた血が付いた槍を両手に持ちドラゴンへと駆け出していく…


人類が持つ防衛本能を無視した攻撃をもってしても、ドラゴンの皮膚を傷つけることはできなかった…


全力で投げつけた槍は弾かれ、人類が持つ唯一の凶器である歯によって噛みついたとしても歯型すらつくことはなかった
絶望的に勝ち目はない状況でも、多くの屍が次々とドラゴンに襲い掛かるが、ドラゴンからすれば恐れるに足らない相手らしく、気にすることなくユキさんを舐るように食べていく…

その表情は恍惚として得も言われぬほどの快楽を得ている様に伝わってくる。

このドラゴンが始祖様と対峙し、あの北の極地に迄、追いやられてしまった個体なので在れば、始祖様に瓜二つであるユキさんを喰らうことは至上の歓びなのだろう…
だからなのか、周りで何が起きようか気に留めることなく、夢中になって貪り喰らっている…
夢中になりながら、血の一滴すら逃すまいとドラゴンの癖に卑しく血を啜る様に無我夢中で捕食し続けている…
その無防備な状況で屍達が飛び掛かり、ありとあらゆる屍の攻撃など見向きもしない。

出来るのなら、私も攻撃に参加したかった…だけど、この場に残された魔力リソースは限られているので無駄には出来ない。

その状況で私が出来ることは、私に残された少ない魔力で過去の私に思念を飛ばす事…
死体たちは全て操られているので魔力に昇華出来ない、魂は既にこの大地から離れているのか感じられない、力を借りることはできない。
あの時は、多くの死者から魔力を借りることが出来た、あの時は、儀式に残された漂う魔力を拝借することが出来た…だが、今回は魔力リソースは私の体だけ…

過去に飛ばせれる情報は少なくなってしまう、だけど、今回に関してはそれでいい…
どうしてこうなってしまったのか、知るすべが私には無い、なら、飛ばす思念は一つだけ


『柳の話を聞け』


願うは狭間

乞う願いはただ一つ

時空への干渉

時への介入、過去に私の思念を飛ばす、時空干渉術式をここに発動する

始祖様『  』寵愛の巫女が願い奉ります


────────── 私の持ちうる全ての臓器を魔力へと昇華し過去の私に言葉を託した…


薄れゆく意識の中、数多くの山にもなりそうな屍達がドラゴンに飛び掛かる映像を見ながら…私は息絶えた

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