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Dead End ユ キ・サクラ (5)
しおりを挟むだが、そうは甘くない…
「ぬっぐうぐぐ」
何でよ!何でものの見事に傷一つなく罠を回避してるのよこいつ!!!
急ぎ足で準備し、何とか新月の夜に間に合わせた罠が機能は、していた、発動もしていたと思われるが…
目標の人物には何一つダメージを与えることが出来なかった
澄ました顔で講演のど真ん中で舞い上がった埃を払う様に手を動かしながら
「まったく、これ、姫様が仕掛けたのか?駄目だろ?ここって誰もが休める為に用意した公園なのだろう?危ないぞ?誤作動か?」
仮称ユキはトントンっとつま先で地面を叩きながら床に転がる矢や、とある術式を埋め込んだ、壊されたであろう魔道具を指さしている
今の目の前の状況を喜んでよいのか、悔しがるべきなのか、相反する感情が湧き上がっていて、混乱しそうになる。
喜ぶべきなのが、新月の夜に仮称ユキは現れるという仮説が正しかったこと
悔しがるべきなのが、丁寧に丹念に用意した罠が全て意味をなさなかったことだ…
淡々と勝ち誇るわけでもなく、困った顔で…そう、悪戯する子供を叱るような余裕のある大人の表情で此方を見つめてくる、その姿がお母さんと重なり少し身構えてしまう。
「何にせよ、俺じゃなかったら怪我人が出てたかもな…話を聞いてるのかい悪戯好きのレディ?」
これから怒られるのだろうと感じ、少しでも威厳を保つために仮称ユキを睨みつけているとポンポンっと頭を叩く様に撫でられる…この動作が完全に!下に!見られているみたいで腸が煮えくり返りそうになる。
「ふぅ、まったく、体を動かしすぎてしまったか、済まないがレディ、後の事は前みたいに頼むよ?」
睨みつけている相手がカクンっと膝が折れそうになるのを慌てて支えようと手を伸ばしたら抱き着く形で受け止めてしまった、ほのかな汗の香りが鼻をくすぐったが…いやな気持にはならなかった。
「はぇ?…あれ?…ひめ、さま?」
重たいような軽いような体を受け止めたと思ったら、直ぐに、前回と同じようにユキさんが表に出てくるので
「大丈夫?ユキさんって睡眠時遊行症とかだったりする?」寝ぼけながら歩いてしまう人、通称、夢遊病かもしれないっという雰囲気を出すと
「…?」
眠そうに首を傾げている、どうやら、完全に寝起きって感じで言葉の意味を理解していない。ユキさんはもしかしたら、寝起きは悪い方なのかもしれない。よかった、誤魔化しやすい…
前回と同じように手を引いて自室に送るために歩き始める…が、途中でまたも反省する。
寝ぼけている状況だからと言って甘やかす必要ないじゃん!命令すればいいのに…それに、何?誤魔化しやすいって?誤魔化す必要ってあるの?本人に正直に伝えるべきじゃないの?
歩きながらも湧き上がる疑問に自問自答する。
自分自身でも、自分の行動原理が良くわからない、初めての体験続きに自分の事なのに自分がわからないことに溜息をつきながらも、寝ぼけた妹のような男性を部屋まで誘導していく。
こんな時に何気ない小粋な洒落た会話が出来たりするのが大人としての余裕なのだろうけれども、今の私はユキさんにその様な大人の余裕を見せれる余裕が無かった。
何も言わないで大人しく後ろを付いてくるユキさんには申し訳ないけれど、頭の中はずっと、仮称ユキの事ばかりを考えていた、次はどうやって罠を構築してやろうかってね…
自問自答するときに、包み隠さず私の感じている感情が何か把握するのが変に拗らせないコツだというのは幾度となく死の絶望を経験してきたからこそ得た教訓
…正直に言えば、叶わない相手にどうやって負けを認めさせるのかって言う部分に対して、楽しいと感じている。
敵の先兵なのに、私の心は、少しずつだけれど、仮称ユキに対して興味が湧いてきている・・・
認めたくないけれど、うん、こういうのは認めないと前に進めないよね。うん。
今回のは、敵に何もできなかったのは非常に悔しかったけれど…私の中にはもう一つの感情が湧き上がっているという事実もまた、何とも言えない悔しさがある。
だって、次もまた新月は訪れるという事実によって胸が高まるのと頬が少し熱くなる…
こんな夜更けに、失敗したって言うのに…夜風の涼しい風に頬を撫でられ高揚した体には心地よいと感じている。
ユキさんをユキさんと隠し子の共同部屋へ連れて行ったあと、直ぐに回れ右をして現場検証をするために公園に向かって駆けだす。
何処が失敗なのか推測し次に繋げる為に、駆け出している間もああしてやろう、こうしてやろうと、頭の中はいっぱいだった。
現場に到着して直ぐに浮かんだ反省点として、無駄足になろうとも、現場で、待機しておけばよかったという反省点が出てくる。
今回、どうして、それをしなかったのか、理由は単純に、新月に現れるという確証が無かったし、どのルートを通ってくるのか予想できなかったから下手に隠れて鉢合わせするわけにもいなかったので、部屋で待機していたのが失敗だったかも。
現れないという覚悟を持って…待ちぼうけっていう寂しい結果になったとしても、現場近くで見張っておけば良かったのかもしれない。
そうすれば、何時ごろにやってくるのか、進行方向は決まっているのか色々と情報が手にはいった可能性があった。
でも、今回ので完全にその情報が得られなかったわけじゃない、現場の状況を見ることによって推測はできる。
進行ルートは凡そだけれど把握出来た、仮称ユキは自室から真っすぐこの公園に向かって歩いてきている、特に寄り道もせずに真っすぐに…この部分から推測できるのは彼は時間が無いのかもしれない、寄り道するような時間の余裕が無いってことだね。
っということは、次は今回と同じ場所にセットすればいい…のだろうか?警戒されない?いや、しない気がする、前回と言い今回と言い相手は私の事を下に見ていそうだから警戒なんてしないでしょ?そこを突く!
そうだよ?今回設置した場所は可能性として一番高そうだった場所!
公園と自室に一番近い場所にセットしたんだけど…
壊されたと思われる魔道具を土の中から取り出しながら、現状を再確認するために再度見回す。
公園の土が乱れていないという現場の状況から見て、今回用意した魔道具は敵に効果がなかったのだろう。
壊されていたと思っていた魔道具も良く見ると壊されていない、けれど、セットしてある魔石の中身は空っぽだ。
何故なら、魔道具が一度だけ発動するだけの魔石をセットしてある、今も作動するかどうか確認する為に起動しても術式が発動しない、っということは、魔石の中は空っぽだというのがわかる。
用意した魔道具は対人用に作り上げたやつだから自信はあった。
術式によって敵の三半規管目掛けて特殊な音波を当てて、耳石によって酩酊するような感覚を相手に発生させる魔道具なんだけどなぁ。
効果がレジストされたのか、単純に通用しなかったのか、理由は色々とありすぎてわからないけれどわかることは一つだけ、ふらつき眩暈なんて一切なく、綺麗に地面を蹴って弓矢を避けているのが地面の凹み具合でわかる…
策として、敵が近くに来たら三半規管を狂わせてよろめいたところを、矢の先端に小さな窪みがこさえられている毒矢が敵の足、主に太ももを狙って弓矢が飛ぶようにセットしてあったんだけど、駄目だったか。
毒は痺れ毒で死にはしないけれど、体内に入れば、動くが鈍る程度の神経毒で殺傷能力は低い、捕縛が目的だからね?一応。
仮によけられたとしても次策として用意してあった罠も避けられている。
ほんっと、見事に避けられたのか術式が効かなかったのか、わからないが用意した全ての罠が良い結果に繋がらなかった
常人であれば、ほぼ確実に仕留めれる自信があったし、此方の術式を霧散させる術を持っているのは前回のでわかっていた、てっきり、私の頭の中で組み上げている術式を何かしらの方法で介入して発動を邪魔するような方式かと思っていたけれど、術式そのものを発動させないっていう術なのかもしれない。
そうなると…魔道具が全て意味をなさないことになる気がする…それはそれで、やりようがあるから良いけれど、そんな事って出来るの?
視線を他の罠に向ける、敵が弓矢を避けた場合、または、違う方向からやってきた場合に備えてセットしておいた鉄製のトラバサミも土の中に埋め込んであって、此方はしっかりと作動して閉じてある、避けたのか、何かをぶつけて先に罠を作動させたのかこの状況からは推測できない…全ての魔道具は巧妙に隠したはずなんだけどなぁ、土を掘り返したなんて夜中だよ?見えないと思うんだけどなぁ?
当然、トラバサミにも毒は塗り込んである、閉じた時に鋭い歯の部分が敵の足に食い込むことを想定して、歯には小さな凹みをこさえてあり、そこに毒が塗り込んである。
…当然ながらね、当たらなければ、毒の意味ってないよね。こっちは保険みたいな感じでセットしていたから期待は左程していなかったけれども!…作動していないならまだしも、きっちりと見破られて作動しているのってのがムカつく!私の手の内なんてお見通しってこと!?うぎぃ!はらたつなぁ!!
瞬間的に沸騰しそうな感情を何度か深呼吸をして落ち着かせ、冷静に思考を巡らせる。
今回、時間が無い中、用意できたのがこの三つの罠だけ…
次の新月まで、時間はある!なら、もっと数多くを用意するべきなのか?それとも、殺傷能力を上げるべきなのか?
…獣相手だったら容赦なく殺す事に特化した罠でいいんだけどさー、ユキさんの命を奪わない範囲の罠って言うのが難しい。
弓矢は死なないのかって?うーん、頭に当たったとしても頭蓋骨を貫くほどの威力じゃないから大丈夫、計算しているから、大丈夫だよ?目?…だいじょうぶだよ。
もう一人の私から鋭い指摘を受けてしまうが、聞かなかったことに…出来ないよね、うーん、殺傷能力はもう少し下げよう、術式もレジストされてしまう可能性も考慮しよう。
得られた情報をまとめ乍ら、魔道具をセットした際に生まれた穴を綺麗に埋めなおし、何事もなかったかのように綺麗に公園を元通りにしてから、部屋に戻る。
部屋に戻ると、馴れない肉体労働からくる疲労感のせいで凄く眠たくなる。
汚れているのだから、お風呂に入って泥を落としてから寝るべきなのに、つい、ソファーだったら汚れてもいいやの感覚でソファーで寝てしまう。
眠りにつくときに、すっと頭に手をやり、撫でられた感覚を思い出してしまう…胸に宿るのは…
悪くない感情だった
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