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とある人物達が歩んできた道 ~ 余談 ~ ①

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そのきっかけは、驚きでもあったわね、まさか、彼が…浸透水式に対して適性があったのよ。
それも、恐らくだけれど、私や、姫ちゃんよりも…恐らくだけれど

高い!悔しいけれど、長年研鑽を積んできたプライドなんて一瞬で砕かされそうになるほどに高かった、この分野に関しては姫ちゃんの次、いいえ、世界中から見て二番手と言えるほどに自信を持てる技術だったのに、ね。認めたくないけれど、認めざるを得ない程の適正値の高さだったわね

この浸透水式は彼の為に生まれたのではないかと考えてしまう程に適正値が高すぎた。
つまり、私達が待ち望んでいた能力を持つ人物ってことになるのよね…それもまた、複雑な感情よ、彼の魂が穢れなき曇りなき魂であれば、手を放して大喜び、彼に抱き着いて頬擦りしたいほどよ!…なんて、なんて、残酷なんでしょうね。

医療班としても新しい団長候補として暖かく迎えれる資格を持ち合わせていたってことになるのよね。
世代交代、しなければいけないって何年も何年も考えていた…まさか、騎士様の息子さんがそうなるなんてね、想像だにしていなかったわね。

浸透水式の結果、これを持って、彼を私の後継者、待ち望んだ医療班団長として育成するって幹部達が納得できるだけの最高の理由を叩きつけて誰も彼もが納得してくれたわね。
って、ことで、医療班の人も、幹部の人達も、ベテランのやつも彼の志願を直談判されて揺れ悩んで引くに引けない状態だったけれども、これにて納得したわ。

ほんっと、彼の境遇が複雑すぎて、幾ら、彼が医療班を希望していたとしても、周りがそれを易々と許すわけにはいかなかったの、絶対的な理由が必要だったのよね。
…ほんっと、全て彼の為に用意されたと感じてもおかしくない程に都合がよすぎる、私達にとっても必要不可欠な技術だけれど、もしかして、未来ではこれによって彼に何か不幸があったのかもしれない、それを打破するために姫ちゃんが用意したのだと考えれば

辻褄が合うのよね…

ほんっと、突然ねじ込まれた姫ちゃんの指示通りに、本来であれば絶対にしないテストをいきなりこの街に来て間もない新兵達に浸透水式の適性検査をするなんて、何かしらの意図を感じていたから、私も協力的に強引にねじ込んで実施してみたら、驚きの結果だったってわけね…

彼の適正値の高さには、本当に驚きしか無かったわね、まさか、初手から、意識を浸透水式の中にダイブさせることが出来るなんてね。
意識をダイブできるなんて豪語するものだから、姫ちゃんが出来るわけが無いと思って水槽の中に入れた葡萄を入れて、茎と実を話してごらんって挑発すると、さらっと葡萄の実を外すだけじゃなく、皮と身を分離するなんてこともやってのけたのよ…

水の中に意識をダイブさせるだけじゃなく物質を掴んで切り離すなんていう私達でも会得するのに凄く大変だったのを初手でやってのけるだけじゃなく、誰とでも直ぐに意識をリンクすることも出来た…

医療班の中で最も適性が高い人でも、意識を飛ばすのはギリギリ出来る、意識を共有するリンクにまでは至れていない。
私と姫ちゃんであれば意識を繋げるのはとても容易で、その経験があるからこそ、他に人ともリンクすることが出来ている。
その経験なしでいきなり、リンクが出来るなんてね…

私と姫ちゃんだけ特別なのは、ちょっとした理由があるのよ、とある事情で魂が特殊な繋がりが出来てしまったからこそ、リンクしやすいってだけなのに、彼は…

更に、リンクした際に発生してしまう現象…同調現象も発生しなかった、他者の心を理解する能力が恐らく欠如しているのか、人の心が理解できないのかもしれないわね。


獣が用意した魂だから…人の心が理解できない様に調整されている恐れもあるってことなのよね。

彼の特異な才能、獣が用意した魂、騎士様の血を受け継いでいる肉体…

正直に言えば、私と姫ちゃんとって、こんなにも!こんなにも興味がそそられる素体っていうと失礼だけれど!今まで見たことのない不思議を目の前にして好奇心が溢れてきてしまっているのよね、お陰様で今も、もうもう!大変なのよ!好奇心が抑えきれない程に彼の事が気になって仕方が無いのよ!

特殊な魂に、特殊な肉体という特異な生き物が目の前にいるってことに湧き上がる研究心が常にざわついてしまって、お互いどうやって彼を検査したり、肉体を調べる為の実験を出来ないか話し合う方が多い程よ。

申し訳ないけれど、彼を騎士様の息子っていうよりも、研究対象として見てしまっている部分の比重が多いっていうのも、あったわね…この湧き上がる感情ってのは、流石に恋ではないわね。

これに対して、姫ちゃんが悲しそうな、暗い表情で語っていたわね
「どうして、彼が魅了の力…チャームが授けられたのか私なりに考えてみたんだけどね、恐らくだけれど、器が壊されるのを避ける為と、この稀有な存在が、私達のような人達に気が付かせないため…って、私は思うんだよね」
これに関しては私も同意よ…彼の特異性に目を付けられて人体実験の為に攫われたりしないようにしてたのでしょうね。

困ったことにね、私達が彼から感じた内容、その全てが彼自身が持つ魅力とは違う部分、肉体として持ち合わせている性能の方に興味しか行かなくなってしまったのよね。
今までの私達が持ちえていた常識から大きく逸脱し過ぎている、彼しか持ちえていない異常性にしか目が行かないってことなのよね。

ある意味、女将の再来よね…

そんなとんでもない状況になってしまった騎士様の息子さんに対して心の中でため息を漏らし、その日は、お互い何も言わずに解散したのよね…


そうそう、これで思い出したけれど、余談だけどね、姫ちゃんが恋煩いをした相手が誰なのか後日に聞く機会があったのよ!


色々と問題だらけの彼を、医療班に所属させることが会議で決まった夜に、突如、手土産片手に、何時もの様にノックもせずに部屋の中に我が物顔でやってきたのよね。
手に持って来た手土産である、大量の資料をどかっと笑顔で私の机に置いて
「お仕事!よろしく!ね!」
笑顔で断らせない空気にして渡す辺り、あの子は自分の武器を熟知しているのよね!

直ぐに部屋から出ていくのかと思ったらソファーに座ってソファーの前にあるテーブルをコンコンっと叩くけれども!その意味を私が知っているからってねー!あなたねー!私は貴女の侍女じゃないのよ?お茶を用意しろって合図を私に送らないでくれるー?
まったく仕方が無いわね私も仕事を一旦置いといて休憩するとしましょう

こういったことが役目であるメイドの小娘を連れてこないで、話をするためにソファーに座るってことは、小娘に聞かせるわけにはいかない話って事ね?

考えるまでも無いわね、あの小娘に知られるわけにはいかない内容ってことは、非人道的な内容になるのよね。

声に出さない要望通りに、紅茶と焼き菓子を用意してソファーの前にある机の上に置いてあげると、珍しく紅茶に手を付ける前に本題を切り出す。
「医療班に彼を所属させることには納得だけど、彼が、もしも!私の研究に興味を持ったらお母さんと同じようにフリーに動いてもらってもいいよね?」
真剣な顔で念押しする様に確認するってことは、今後の彼についての相談をしたいってことね。てっきり、人様に言えない内容かと思ったじゃない。

「構わないわよって言いたいけれど、まずは、彼を立派な医療従事者に成長させてからでもいいかしら?私もね予定があるのよ。彼を次の団長にして、私は永遠の二番手、そうね、No2とでも名乗ろうかしら?」
ソファーに座りながら此方の思惑を伝えると、姫ちゃんも彼が次の団長として相応しい才を持ち合わせていると感じているのか頷いてくれる。
「そうだね、その方が、今後、お母さんも動きやすくなるもんね」
…医療班団長の座を退くと、今よりも仕事が増えそうな予感がするのは気のせいよね?
私からの返答が最悪の内容じゃなかったみたいで緊張の糸が抜けたのか嬉しそうに紅茶を口につけているのだけれど、何か違和感を感じるわね…

違和感が何か、視界で違和感を感じるのであれば、何かが違うのでしょうね…
姫ちゃんに気取られない様に、何時もと変わらない表情で姫ちゃんを観察していると、一点だけ何時もと違う違和感がある。

…気のせいかしら、この子…いや、気のせいじゃないわね!普段しない口紅つけてるじゃない!!
小さな変化も見逃さないのが恋の伝道師よ!これはつつきがいがあるわねー

「珍しくお色が乗っている様子ですけれどー、どうしたのかしらー?」
姫ちゃんには、内緒にしていたけれど、あれ以来、徐々に、というか、些細な変化だけれど、いろんな色が前よりも見えるようになってきているのよ
騎士様が居た時と同じくらいって程ではないけれど、色を感じ取れるのよね。

唐突な攻撃を浴びせると、その言葉の意味を瞬時に理解したみたいで、口をカップに着けながら動きがピタッと止まる。
止まるってことは、どういう風に言い訳しようか考えているってことよねー?っていうことはー聞かれたくないってことかしらー?そんな感じよねー?茶化されるの嫌いなのかしらー?んー?どうなのよ?どうなのよ?

「べっつにー?ただー、新作が出来たから試してみただけだしー?他意なんてないもーん」
カップをゆっくりとテーブルに置いてそっぽを向くけれどね~
言い訳が言い訳になっていないわよ?表情は語るのよ?

薄っすらと頬を染めちゃってまぁまぁ、お母さんは嬉しいわよ?貴女に好きな人が出来るなんてね…そりゃぁ、騎士様の息子さんだもの、美しくて当然よね。
なによもー、チャームだか、なんだか知らないけれど、ちゃ~んと惚れちゃってるんじゃないの

「何!?何なの?ニヤニヤというか、ニマニマというかー!なにー?なんで口角上がってるのー?ほんとに他意はないのー!」
照れ隠しにクッキーを一枚手に取って端っこを齧るけれど、更に頬が赤くなってるじゃないの
余り茶化し過ぎるのは良くないわね、その現場に居合わせてしまったら手のひらでしっしっと追い払われちゃいそうね

「もう、そんなんじゃないしー…ぁ、そうそう!さっき渡した資料ね…」
照れ隠しなのか話題を変えたいのか、急に仕事の話をし始める辺り、からかわれるのは嫌いみたいね
初恋は甘酸っぱいものだし、ここ数年になってからよね?年齢の近い人がこの街にやってくるようになったのは
そうね、そうよね、年の近い人もいなかったから恋するきっかけも無かったのでしょうね。
外に出たとしても、取引する相手なんて、姫ちゃんから見たら年上ばかり、縁談の話なんて姫ちゃんの財産目当てばっかり、力を手に入れたいっていう意図しか見えないのが嫌だったでしょうしね。

この街が活性化していったらきっと年齢の近い人とこれから交流する機会も増えていくでしょうね。

姫ちゃんの青春はこれからなのだと、うんうんっと、心の中で首を振っている時にふと、思い出してしまう、好きになってしまった人には特殊な力が宿っていることに…
彼がチャームの力を持っているのだったら他の女性も彼に恋い焦がれるというか…いや、でも待って、彼女って姫ちゃんは言っていたし、仕草がどう考えても女性って感じだけれど…?

やっぱり、肉体は男性で心は女性なのかしらね?

うーん、それに対して問題はないのでは?お互い惚れてしまったのならいいんじゃないのかしら?
まぁ、同性愛者っていうのは昔から居るのは知っているからお母さん、そういう偏見は無いわよ?だから、文句は言わないけれど、困ったことに息子さんは男として振舞おうとしているってところなのよねー…あれ?そのまま男性として振舞い続けてくれれば姫ちゃんも結婚しやすい?どうなのかしら?貴族であれば多少噂されるだけで特に問題はなさそうね…なら、その点に関しては心配いらないわね。

問題点が無いか、考えていくと少しずつ、考えても考えても答えが出てこない問題が湧いてくる状況に自然と表情が険しくなっていく

…でも、そうよね?あれ、そうよね?今って、そうよね?女性って扱いをしていないのよね?それって、彼女の心に多大なストレスを与えていないかしら?

湧き上がる疑問の一つ、初めて見る症例と向き合っている時と同じくらい、何が正しく、何が間違いなのかわからない

今の生活環境によってストレスを感じているのだとしたら、配慮が足りていないわよね?うん、そうよね。
普通に考えたら、女性の魂を宿しているのに男性と一緒の部屋だとよろしくないんじゃないかしら?
でも、同室である人物が王族の隠し子だし、特殊な性癖が無いのであれば、息子さんを見ても何も感じないから、現状では問題は、ないのかしら?
いいえ、そうじゃないでしょう、息子さんが娘さんであることを考えてあげないと、かといって、理由も無く動くのは…どうしたものかしら?

普段考えた事も無い、特殊な状況、私の短い人生で一度も直面したことがない状況…答えのない迷路。
考えても考えても、内容が内容なので、生まれて初めて考える問題だから、どういう風に配慮すればいいのかわからない…ややこしい。

答えのない迷路に迷い込んでしまい、目の前にいる人の話を聞いていないのが伝わってしまったのか、それとも、仕事の話の内容に自分が気が付いていない何かミスがあったのか心配そうな声色が耳に入ってくる
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