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とある人物達が歩んできた道 ~ 金襴紫蘇 ~ ④
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ちらりと、視線を下げると、何も言わずにじっと、彼を見続ける、それはもう、初めて恋を知った初心な女性が心奪われる様に世界が止まったと感じている様な
「あ、やっぱりそうだ、これ!」
突如、言葉を発したと思ったら、駄目よ!?それ以上の言葉は!!嗚呼そんな
「チャームだこれ」
こ!!ぃ?…ぇ?ちゃーむ?なにそれ?聞き間違い?何かの比喩?何かの隠語?何かの略語?CHARM?
「…ん~…うん、そうだよ、これ…うっわまじかぁ…」
難しそうな声を出すけれど、状況がよめないんですけど?唐突な流れにお母さんは困惑中よ?
「えっとね、これね」姫ちゃんが此方を見上げて説明をしようとすると
「幹部達がこんな日陰でこそこそと何をしているのであるか?」
唐突に後ろから声を掛けられて心臓がバクンっと跳ね上がる!?
「っだ、ベテランさん!?あんた、なんで、アンタこそ何でこんな場所にいるのよ!?」
驚いた余りに言葉遣いが一瞬乱れちゃったじゃないの!
「それは、こっちのセリフである、吾輩は支度が終わってこれから、皆の訓練に出向こうとしていたところである、そしたら、建物の裏で何かが動いているのが見えたのである」
嗚呼、不審者が居るからとっちめに来たら、私達が覗き込んでいたからどうやって声を掛けたらいいのか悩んでいたってことね?
「まったく、お尻を突き出して、吾輩以外だと誘っているのかと思われるのであるぞ?劣情を催した悪漢が生まれても知らぬであるぞ?」
「っは、そんな勇気ないでしょ?」貴方の敬愛する戦士長が愛した女に手を出せる勇気ないでしょ貴方?
「いえいえ、吾輩がそんなそんな、大それたことできるわけがないのである、安心するのである、吾輩が心配しているのは姫様である」
何言ってんだこいつみたいな態度を渡した意思てとるなんて、はっはーん、お姉さんかっちーんって頭にきちゃうわー?いいの?貴方が手を出した数々の女性たちの名前全部、把握してるのよ、こちとら?送っても良いのよ?貴方の愛する奥様にねぇ!?
お互いの視線が交差し、どの様な攻防が繰り広げられるのかと、あの当時のメンバーが居たら野次を飛ばしていただろう、だけど、ここに居るのは私達と姫ちゃんだけ、私達二人のじゃれあいなんて、即座に止められる
「はいはい、二人で何かよくわかんない喧嘩しないのー、ごめんね?ちょっと気になる人が居たから様子見てただけ、ほら?私達さ、一応、先日あいさつしたばかりの幹部でしょ?その二人が揃って近くで様子を見ていたら誰だって、緊張しちゃうじゃん?私たちなりに気を使ってたんだよ?悪気は無いよ?」
予想通り、姫ちゃんにこの場を鎮められる、これ以上ヒートアップしないように制してくれる…昔もこうやって騎士様や女将に鎮められたことがあったわね。
私達からすれば、この程度なら軽口を言ってるって感じなんだけどね、この軽口を言えるくらい、坊やも少し心に余裕がかえってきたってことね。
それにしても、流石、姫ちゃんね、鎮める為の理由も至極当然で、されど、私達に対して配慮しているのが伝わってくるわね。
こんな態度を年下で、尚且つ、この街の統治者に言われてしまったら何も言い返せないわね。
「う、む、その配慮は当然理解しているのである、なので、吾輩も軽口を叩いただけであるよ、この間、愛する妻からちょ~っとお小言の手紙を頂いたのでな、それの仕返しである」
バツが悪そうに反論する辺り、最低限の意地ってやつ?まったく、何時までも貴方は坊やね…威厳ある言葉で隠そうとしても、叱られている姿は坊やのままね。
それにしても、言い訳がそれって…ぁーぁ~。うん、それは、その、ごめんなさいとしか言えないわね…
乙女ちゃんからちょっと、そういった内容の手紙が来てたから、つい、ありのままを書いてしまったという、配慮に欠け浅慮をした私が悪いですけれど~…
だって、流石の私も見過ごせないことをした坊やが悪いのよ?自分を慰めて欲しい心の弱さを忘れる為だっていう利己的な考えによって生まれた毒牙をさ、向けてしまったのよね。
いくら何でも、向けてはいけない相手がいると思わない?私の大事な医療班に所属している男馴れしていない生娘に甘い声をかけた、坊やが悪くないかしら?責任取る気ないんでしょ?一晩の遊びにそんな、初心な子を選ぶのは良くないでしょ?
そんな事をされたら、釘を指してほしくなるじゃない?まったく…
反論する気も無く、じっとしていると、姫ちゃんがこの場をまとめてくれる
「はい!ごめんなさい。これでいいよね?まったく、姉弟喧嘩は後でした方がいいよ?ここで声を荒げると新人達に見つかるよ?」さすが姫ちゃんね、ちゃんと物事の本質を理解している。
感心していると、ほら、行くよっと手を引っ張られてしまう。
これ以上、この場に居ると私がヒートアップするのも姫ちゃんにはわかっているのね、私の声って少し遠くまで届いちゃうものね。
まぁ、お姉さんとしては、この程度の反抗期くらい何とも思っていないからいいわよ…早く、元気になるのよ、貴方がこの街で一番強いのでしょう?あの女将は、もうすぐ、あの恐怖を克服するわよ?きっと、ね。
「まったく、幹部らしく新兵達に呆れられない様に振舞って欲しいモノである、次からは堂々と見学に来るのである!それくらいの緊張感に負けてるようでは」
ベテランのやつが何か注意ごとを言っているような気がするけれど、姫ちゃんはそれに付き合う気はまったくないみたいで、無視するようにスタスタと歩き続けていくと、徐々に声が聞こえてなくなってくる…追いかけてくるのを諦めた様ね。そのまま流れる様に、私の部屋と真っすぐに歩いていく。
「はーもう、疲れたー!お母さんお茶!」
ぼふっと音を出しながらベッドに飛び乗って横になるけれど、貴女って子は、人の目が無ければ前と変わらずに甘えてくる癖は変わらないわね。
まぁ、私も急ぎ足で歩いてきちゃったからっていうよりも、本気で、喉が渇いているから喉を潤すものを用意するつもりでいたからいいけどね。
そうと決まれば、多めに紅茶を淹れましょう。
炊事場に向かうと、どうして自分が喉がこんなにも渇いていたのか思い出してしまう。
そう、よ。姫ちゃんの初恋事情はどうしたらいいのかしら?
もしかしたら、騎士様の息子さんは娘さんってこともあるってことでしょ?
同性愛者は…居るというのは知っているけれど、ぇ?でも、体が男性の場合はどうなるの?ぇ?これ、ど、どうしたらいいの?
思い出したかのような湧き上がる混乱に包まれながら、紅茶を沸かす為に茶葉の入った箱のスイッチを入れてカップに水を入れて捨てる…
嗚呼だめだもうダメ何やってんの私!?
深呼吸してから、一つ一つの動作を確認しながら動く。
ポットに水を入れて お湯を沸かす スイッチをいれて 嗚呼だめゆび、指震える、紅茶を淹れる為のティーポットに茶葉を淹れようとしても震えてカッチャカチャっとスプーンが音を鳴らすじゃないの…
姫ちゃんにバレない様に心を落ち着かせようとしているのだけれど、なかなか思い通りにいかない、昔から心の動揺に弱いのよね。
俗にいう土壇場に弱いのかもしれない、特に…大事な人にとって大切な分岐点っという時に。
思い返せば、そういう土壇場でいっつも選択肢を間違えてきた気がする…
お湯が沸くまでの間、何度も何度も、鳴り響く心臓を落ち着かせるために胸を叩いたり、鼻からゆっくりと息を吸い込んで、ゆっくりと吐いたり、騎士様の事を思い出して心を落ち着かせようとしたりするのだが、こういう時に思い出そうとする思い出って恥ずかしかった思い出とか、緊張していた時の思い出ばっかり思い出してしまう…
若い頃の嬉し恥ずかしを思い出してしまい、混乱はより加速していく…
ポットから湧き出る湯気を見つめながら、お湯を溢さない様に紅茶を淹れる為の器にお湯を注ぐのだけれど、震える腕はお湯を乱し、そこそこ零れ、跳ねたお湯のしぶきが指にかかってしまう
即座に水を流してお湯に触れてしまった部分を冷静に冷水で流して火傷が深くならないように適切に処置する…
医療班として長い間、活動していたからこそ、どんな時でもどんな土壇場でも、怪我とか病気に対しては冷静に処置できるってのが経験ってやつよね。
この一連の流れによって乱れた心が落ち着きを急速に取り戻すことできた、この流れを掴むきっかけとなった騎士様に感謝を捧げ
紅茶セットの準備を終えて、運ぼうとしたとき、ふと、肩を叩かれるような気がした、それも、落ち着いたような感じではなく、急ぎ、緊急性がある叩かれ方だった。
だって、叩かれた瞬間に心臓がきゅっと一瞬だけ音が消えるくらい止まったかのように感じたら、次の瞬間には跳ね上がるように心臓がドクンと跳ねる
何事かと、慌てて部屋の中を見回す、特に大きな変化はない?外の様子がおかしいのかしら?もしかしたらと、思い、鐘の音が鳴り響いていないか、耳を澄ませると
微かに部屋の片隅から聞こえてくる音だけが私に伝わってくる
かひゅーかひゅーと短く小さな連続とした呼吸音…
頭の中が真っ白になると同時に音がする場所へ駆け出し、ベッドで苦しんでいる姫ちゃんを抱き起して、落ち着かせるように優しく抱きしめ
「大丈夫、大丈夫」
背中を摩りながら適切な指示を小声で落ち着かせるように囁き続ける
姫ちゃんがこういう状況なるのは一度や二度じゃない、原因は分かっている…
その原因が突如飛来するたびに、常人では耐えられないストレスに晒されている…
普通ではありえない程のストレスから起こってしまう症状、心のトラウマとか、過去の忘れられない残痕とは比べ物にならないストレス。
姫ちゃんだけに突如訪れる、未来からの耐えがたい心のストレス…今回は、誰が亡くなったの?
この子の精神構造は常人では計り知れない程に強固で強靭である、故に自分自身が死んだ程度ではもう、心が揺り動かされることがない…
つまり、彼女は私の知らない所で何度も何度も死んでいる。死の経験を数えきれないほど体験してしまって馴れてしまった…
そんな事を彼女は一つ一つ語らない、何故なら私が心配してしまうから…
語ろうとしないけれど、言葉の節々で察してしまうのよ、何度も何度も敵によって蹂躙され悉く滅ぼされ続けているのを何となくだけれど伝わってくるのよね…
私だけが彼女の苦しみを何となくだけれど感じてはいる、その全てに対して共感は、出来ないけれども、苦しいと感じてはいるのは伝わっているわ。
…普通に考えたら、言葉にできるわけ無いわよね、自分が死んだ経験なんて。
誰だって、思い出したくもないでしょうに、私の部屋から離れて自分の部屋を用意したのも、私に心配かけない様に独り立ちしようとしているからなのかもしれないわね。
だから、私が知らない場所で、誰にも理解されずに、誰にも縋ることなく、独り、体を丸めながら苦しんでいたのでしょうね。
こういうことが起こりえるから、姫ちゃんと部屋を離すのは反対だったのよ…
でも、でも、この子の未来を考えたら、お母さんとずっと一緒っていうのも、良くないってのはわかっているけれど
しんぱいなのよ もう たいせつな ひとが かなしみ くるしみ なきさけぶような
そんな時に何もできないのは嫌なのよ…
そりゃぁ、姫ちゃんからすれば、そんな状況を見せるのも辛いわよね…
私の心だって厳しいわよ、心が圧し折れてしまいそうになるわよ。
そういうのが無いのが一番なのはわかっているけれど、姫ちゃんのこれに関してはどうしようもないのよ…
人類が怨敵である獣共を全て殲滅するまで、姫ちゃんの未来は悲しみに包まれ続けるのでしょうね。
優しく優しく、丁寧に、呼吸が落ち着かせるように声を掛け続けると、少しずつ呼吸が落ち着いてきたと感じる。
呼吸が落ち着いてくると、私の服を力強く掴まれるので、つい、私の心が張り裂けそうにい鳴るので彼女を抱きしめる力が強くなってしまう。
愛する娘も私の力に後押しされる様に、抱き着いてくる、私の大きな胸に顔を埋めると、すすり泣く様な声が漏れ出てくる。
抱きしめ続けると、服が湿り、冷たく感じるほどの涙を流し続け、目を瞑り彼女の苦しみを少しでも分かち合う為に耳を澄ましていると…
漏れ出る言葉が耳に入った瞬間に、その言葉の意味と重みを知ってしまったら、姫ちゃんの頭を撫でながら私も涙を流してしまった
だって
【はじめ、はじめての、すきな、すきなひとがしんじゃったよぉ…はじめ、てのかんじょうだったのに】
この言葉を聞いて、未来で起きてしまった全てを悟ってしまったから
「あ、やっぱりそうだ、これ!」
突如、言葉を発したと思ったら、駄目よ!?それ以上の言葉は!!嗚呼そんな
「チャームだこれ」
こ!!ぃ?…ぇ?ちゃーむ?なにそれ?聞き間違い?何かの比喩?何かの隠語?何かの略語?CHARM?
「…ん~…うん、そうだよ、これ…うっわまじかぁ…」
難しそうな声を出すけれど、状況がよめないんですけど?唐突な流れにお母さんは困惑中よ?
「えっとね、これね」姫ちゃんが此方を見上げて説明をしようとすると
「幹部達がこんな日陰でこそこそと何をしているのであるか?」
唐突に後ろから声を掛けられて心臓がバクンっと跳ね上がる!?
「っだ、ベテランさん!?あんた、なんで、アンタこそ何でこんな場所にいるのよ!?」
驚いた余りに言葉遣いが一瞬乱れちゃったじゃないの!
「それは、こっちのセリフである、吾輩は支度が終わってこれから、皆の訓練に出向こうとしていたところである、そしたら、建物の裏で何かが動いているのが見えたのである」
嗚呼、不審者が居るからとっちめに来たら、私達が覗き込んでいたからどうやって声を掛けたらいいのか悩んでいたってことね?
「まったく、お尻を突き出して、吾輩以外だと誘っているのかと思われるのであるぞ?劣情を催した悪漢が生まれても知らぬであるぞ?」
「っは、そんな勇気ないでしょ?」貴方の敬愛する戦士長が愛した女に手を出せる勇気ないでしょ貴方?
「いえいえ、吾輩がそんなそんな、大それたことできるわけがないのである、安心するのである、吾輩が心配しているのは姫様である」
何言ってんだこいつみたいな態度を渡した意思てとるなんて、はっはーん、お姉さんかっちーんって頭にきちゃうわー?いいの?貴方が手を出した数々の女性たちの名前全部、把握してるのよ、こちとら?送っても良いのよ?貴方の愛する奥様にねぇ!?
お互いの視線が交差し、どの様な攻防が繰り広げられるのかと、あの当時のメンバーが居たら野次を飛ばしていただろう、だけど、ここに居るのは私達と姫ちゃんだけ、私達二人のじゃれあいなんて、即座に止められる
「はいはい、二人で何かよくわかんない喧嘩しないのー、ごめんね?ちょっと気になる人が居たから様子見てただけ、ほら?私達さ、一応、先日あいさつしたばかりの幹部でしょ?その二人が揃って近くで様子を見ていたら誰だって、緊張しちゃうじゃん?私たちなりに気を使ってたんだよ?悪気は無いよ?」
予想通り、姫ちゃんにこの場を鎮められる、これ以上ヒートアップしないように制してくれる…昔もこうやって騎士様や女将に鎮められたことがあったわね。
私達からすれば、この程度なら軽口を言ってるって感じなんだけどね、この軽口を言えるくらい、坊やも少し心に余裕がかえってきたってことね。
それにしても、流石、姫ちゃんね、鎮める為の理由も至極当然で、されど、私達に対して配慮しているのが伝わってくるわね。
こんな態度を年下で、尚且つ、この街の統治者に言われてしまったら何も言い返せないわね。
「う、む、その配慮は当然理解しているのである、なので、吾輩も軽口を叩いただけであるよ、この間、愛する妻からちょ~っとお小言の手紙を頂いたのでな、それの仕返しである」
バツが悪そうに反論する辺り、最低限の意地ってやつ?まったく、何時までも貴方は坊やね…威厳ある言葉で隠そうとしても、叱られている姿は坊やのままね。
それにしても、言い訳がそれって…ぁーぁ~。うん、それは、その、ごめんなさいとしか言えないわね…
乙女ちゃんからちょっと、そういった内容の手紙が来てたから、つい、ありのままを書いてしまったという、配慮に欠け浅慮をした私が悪いですけれど~…
だって、流石の私も見過ごせないことをした坊やが悪いのよ?自分を慰めて欲しい心の弱さを忘れる為だっていう利己的な考えによって生まれた毒牙をさ、向けてしまったのよね。
いくら何でも、向けてはいけない相手がいると思わない?私の大事な医療班に所属している男馴れしていない生娘に甘い声をかけた、坊やが悪くないかしら?責任取る気ないんでしょ?一晩の遊びにそんな、初心な子を選ぶのは良くないでしょ?
そんな事をされたら、釘を指してほしくなるじゃない?まったく…
反論する気も無く、じっとしていると、姫ちゃんがこの場をまとめてくれる
「はい!ごめんなさい。これでいいよね?まったく、姉弟喧嘩は後でした方がいいよ?ここで声を荒げると新人達に見つかるよ?」さすが姫ちゃんね、ちゃんと物事の本質を理解している。
感心していると、ほら、行くよっと手を引っ張られてしまう。
これ以上、この場に居ると私がヒートアップするのも姫ちゃんにはわかっているのね、私の声って少し遠くまで届いちゃうものね。
まぁ、お姉さんとしては、この程度の反抗期くらい何とも思っていないからいいわよ…早く、元気になるのよ、貴方がこの街で一番強いのでしょう?あの女将は、もうすぐ、あの恐怖を克服するわよ?きっと、ね。
「まったく、幹部らしく新兵達に呆れられない様に振舞って欲しいモノである、次からは堂々と見学に来るのである!それくらいの緊張感に負けてるようでは」
ベテランのやつが何か注意ごとを言っているような気がするけれど、姫ちゃんはそれに付き合う気はまったくないみたいで、無視するようにスタスタと歩き続けていくと、徐々に声が聞こえてなくなってくる…追いかけてくるのを諦めた様ね。そのまま流れる様に、私の部屋と真っすぐに歩いていく。
「はーもう、疲れたー!お母さんお茶!」
ぼふっと音を出しながらベッドに飛び乗って横になるけれど、貴女って子は、人の目が無ければ前と変わらずに甘えてくる癖は変わらないわね。
まぁ、私も急ぎ足で歩いてきちゃったからっていうよりも、本気で、喉が渇いているから喉を潤すものを用意するつもりでいたからいいけどね。
そうと決まれば、多めに紅茶を淹れましょう。
炊事場に向かうと、どうして自分が喉がこんなにも渇いていたのか思い出してしまう。
そう、よ。姫ちゃんの初恋事情はどうしたらいいのかしら?
もしかしたら、騎士様の息子さんは娘さんってこともあるってことでしょ?
同性愛者は…居るというのは知っているけれど、ぇ?でも、体が男性の場合はどうなるの?ぇ?これ、ど、どうしたらいいの?
思い出したかのような湧き上がる混乱に包まれながら、紅茶を沸かす為に茶葉の入った箱のスイッチを入れてカップに水を入れて捨てる…
嗚呼だめだもうダメ何やってんの私!?
深呼吸してから、一つ一つの動作を確認しながら動く。
ポットに水を入れて お湯を沸かす スイッチをいれて 嗚呼だめゆび、指震える、紅茶を淹れる為のティーポットに茶葉を淹れようとしても震えてカッチャカチャっとスプーンが音を鳴らすじゃないの…
姫ちゃんにバレない様に心を落ち着かせようとしているのだけれど、なかなか思い通りにいかない、昔から心の動揺に弱いのよね。
俗にいう土壇場に弱いのかもしれない、特に…大事な人にとって大切な分岐点っという時に。
思い返せば、そういう土壇場でいっつも選択肢を間違えてきた気がする…
お湯が沸くまでの間、何度も何度も、鳴り響く心臓を落ち着かせるために胸を叩いたり、鼻からゆっくりと息を吸い込んで、ゆっくりと吐いたり、騎士様の事を思い出して心を落ち着かせようとしたりするのだが、こういう時に思い出そうとする思い出って恥ずかしかった思い出とか、緊張していた時の思い出ばっかり思い出してしまう…
若い頃の嬉し恥ずかしを思い出してしまい、混乱はより加速していく…
ポットから湧き出る湯気を見つめながら、お湯を溢さない様に紅茶を淹れる為の器にお湯を注ぐのだけれど、震える腕はお湯を乱し、そこそこ零れ、跳ねたお湯のしぶきが指にかかってしまう
即座に水を流してお湯に触れてしまった部分を冷静に冷水で流して火傷が深くならないように適切に処置する…
医療班として長い間、活動していたからこそ、どんな時でもどんな土壇場でも、怪我とか病気に対しては冷静に処置できるってのが経験ってやつよね。
この一連の流れによって乱れた心が落ち着きを急速に取り戻すことできた、この流れを掴むきっかけとなった騎士様に感謝を捧げ
紅茶セットの準備を終えて、運ぼうとしたとき、ふと、肩を叩かれるような気がした、それも、落ち着いたような感じではなく、急ぎ、緊急性がある叩かれ方だった。
だって、叩かれた瞬間に心臓がきゅっと一瞬だけ音が消えるくらい止まったかのように感じたら、次の瞬間には跳ね上がるように心臓がドクンと跳ねる
何事かと、慌てて部屋の中を見回す、特に大きな変化はない?外の様子がおかしいのかしら?もしかしたらと、思い、鐘の音が鳴り響いていないか、耳を澄ませると
微かに部屋の片隅から聞こえてくる音だけが私に伝わってくる
かひゅーかひゅーと短く小さな連続とした呼吸音…
頭の中が真っ白になると同時に音がする場所へ駆け出し、ベッドで苦しんでいる姫ちゃんを抱き起して、落ち着かせるように優しく抱きしめ
「大丈夫、大丈夫」
背中を摩りながら適切な指示を小声で落ち着かせるように囁き続ける
姫ちゃんがこういう状況なるのは一度や二度じゃない、原因は分かっている…
その原因が突如飛来するたびに、常人では耐えられないストレスに晒されている…
普通ではありえない程のストレスから起こってしまう症状、心のトラウマとか、過去の忘れられない残痕とは比べ物にならないストレス。
姫ちゃんだけに突如訪れる、未来からの耐えがたい心のストレス…今回は、誰が亡くなったの?
この子の精神構造は常人では計り知れない程に強固で強靭である、故に自分自身が死んだ程度ではもう、心が揺り動かされることがない…
つまり、彼女は私の知らない所で何度も何度も死んでいる。死の経験を数えきれないほど体験してしまって馴れてしまった…
そんな事を彼女は一つ一つ語らない、何故なら私が心配してしまうから…
語ろうとしないけれど、言葉の節々で察してしまうのよ、何度も何度も敵によって蹂躙され悉く滅ぼされ続けているのを何となくだけれど伝わってくるのよね…
私だけが彼女の苦しみを何となくだけれど感じてはいる、その全てに対して共感は、出来ないけれども、苦しいと感じてはいるのは伝わっているわ。
…普通に考えたら、言葉にできるわけ無いわよね、自分が死んだ経験なんて。
誰だって、思い出したくもないでしょうに、私の部屋から離れて自分の部屋を用意したのも、私に心配かけない様に独り立ちしようとしているからなのかもしれないわね。
だから、私が知らない場所で、誰にも理解されずに、誰にも縋ることなく、独り、体を丸めながら苦しんでいたのでしょうね。
こういうことが起こりえるから、姫ちゃんと部屋を離すのは反対だったのよ…
でも、でも、この子の未来を考えたら、お母さんとずっと一緒っていうのも、良くないってのはわかっているけれど
しんぱいなのよ もう たいせつな ひとが かなしみ くるしみ なきさけぶような
そんな時に何もできないのは嫌なのよ…
そりゃぁ、姫ちゃんからすれば、そんな状況を見せるのも辛いわよね…
私の心だって厳しいわよ、心が圧し折れてしまいそうになるわよ。
そういうのが無いのが一番なのはわかっているけれど、姫ちゃんのこれに関してはどうしようもないのよ…
人類が怨敵である獣共を全て殲滅するまで、姫ちゃんの未来は悲しみに包まれ続けるのでしょうね。
優しく優しく、丁寧に、呼吸が落ち着かせるように声を掛け続けると、少しずつ呼吸が落ち着いてきたと感じる。
呼吸が落ち着いてくると、私の服を力強く掴まれるので、つい、私の心が張り裂けそうにい鳴るので彼女を抱きしめる力が強くなってしまう。
愛する娘も私の力に後押しされる様に、抱き着いてくる、私の大きな胸に顔を埋めると、すすり泣く様な声が漏れ出てくる。
抱きしめ続けると、服が湿り、冷たく感じるほどの涙を流し続け、目を瞑り彼女の苦しみを少しでも分かち合う為に耳を澄ましていると…
漏れ出る言葉が耳に入った瞬間に、その言葉の意味と重みを知ってしまったら、姫ちゃんの頭を撫でながら私も涙を流してしまった
だって
【はじめ、はじめての、すきな、すきなひとがしんじゃったよぉ…はじめ、てのかんじょうだったのに】
この言葉を聞いて、未来で起きてしまった全てを悟ってしまったから
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