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Dead End 6Ⅵ6の世界(2)
しおりを挟む先ほどまで触れていた手のぬくもりを感じながら、手を振りあいして…地下の入り口がゆっくりと閉まるのを見送った後、パニックになった頭を落ち着かせるために一度、先ほどの席に戻り紅茶を飲む…
カップに注いだ紅茶を飲み干すと少しだけパニックに陥っていた思考が落ち着いてくる。
落ち着いてきた頭で先の、彼女の一挙手一投足を思い出す…いったい、彼女の、イラツゲ様の身に何が起こっているのか?
昨日と今日、比べてみても、何が起きたのかパニックを起こしてしまいそうなくらい変化の差が激しすぎる、あ、あの温和なイラツゲ様からは感じ取れない程の憎悪…
お。俺が、愛した、尊敬した、生きがいとなる…イラツゲ様は、ど、どこへ?
愛している人から初めて向けられる明確な殺意、冗談ではなく本気で俺を殺そうとする意志を感じた…
ゆっくりと袖を捲るが未だに鳥肌が立っている…パニックから立ち直ろうとしていても尚且つ、指が震えている…
ポットから紅茶をカップに注いで震える指で何とか掴み、震えながら口をつけるが、用意してもらった紅茶の味がわからない…
これに毒が入っていても俺は、気が付く自信が無い…
イラツゲ様の心は急激に変化を遂げているのだと、何かしらの意志によって、誰かしらの思惑によって強制的に変化しているのだと考えるのが自然なのだろうが…
昨日と比べて今日の変化、急激な変化に、お、俺は果てのイラツゲ様を
愛せるのだろうか?
どうして、あの穏やかな心のままで、いさせてくれなかったのだろうか?神は、本当に俺の事を見てくれているのだろうか?
急激な変化を遂げた彼女に戦々恐々としながら、王都に住まう生かす必要のない愚者共を生贄に捧げ続ける日々…
あれから、急激な変化は感じられないが、あの頃の穏やかで慈愛に満ち慈母のような聖母のようなイラツゲ様は完全に居なくなってしまった…
教会で掃除などをしているとシスター達の噂話が耳に入ってくる、王都ではいろんな噂が飛び交っていた。
新しい王が産まれたのだから手を挙げて馬鹿みたいに阿保面で無邪気に喜べばいいのに、王都内の情勢は荒れに荒れている…
原因を、俺は…知っているから、俺が外を出歩くの何も問題はない。
王都では、人攫いという平民の全てが身の危険を感じてしまう問題が発生している。
騎士団も、突然現れて何処に連れていかれるのかもわからない神出鬼没の人攫い、それの対処に追われている。
困ったことに、対処に出た騎士がそのまま帰ってくることが無いという噂も流れている。
噂ではありませんけれどね…犯人は俺たちと、新しいお山の大将気取りの奈落の底に落ちてしまえばいい愚王の悪行だろう…
巷を騒がせている噂の真相、その当事者の一人ですからね、当然、愚王の動向も把握しておりますよ。
噂で流れているのが、貧困エリアにいる人達が何処に行ったのか、気が付けば人知れず一人一人、消えていき、今では誰もあの貧困エリアから人が居なくなっている。
それだけじゃない、そのエリアに蔓延る表舞台に絶対に出てくることが出来ない悪しき人たちの姿すら見なくなっており、見なくなった奴らが何処に行ったのか、噂では、何処か、王都以外の土地に移り住む為に根城を作って、己が欲求を満たす為に女性を攫っている…
っという、噂が流れている…
真相を知る者として愚かな民衆共に答えは教えてあげたいくらいですよ。高笑いでもしながらね。
我々が贄として選定し、駆除し続けてきたのは貧困エリアに住まう救済を求める人達だけですよ。
そのエリアを根城にしていた愚者共は現王に切られただけですよ…彼らは人知れずに処理された。
人知れずに処理された遺体を我らが同志諸君が運んでくれたので…彼らのような悪逆非道を我が物顔で楽しんでいた愚物は、我々が直接、裁きと称して手を下したりはしていませんよ。
因果応報、後ろ盾に不要だと判断されて消されただけ、付く相手を間違えただけですよ。
そして、消えた正義感溢れる騎士はどうして消えたのか?
単独で特に命令も無く勝手な判断で治安維持の為に行動している民衆からすればありがたい存在でも、愚王にとって目障りな命令違反の騎士となる。
当然、その様な愚王からすれば要らない騎士に関してはそっと闇討ちで殺されている、ただそれだけのこと…本当に、容赦のない王ですね。
愚策のおかげもあって、その遺体も、我らが同志が祭壇に運んでくれています。ご協力していただいて申し訳ない気持ちになりますねぇ…
噂の一つである、女性を攫っている、これに関しては愚王が犯人ですので、我ら同志ではないので間違えないでくださいね…
狙われている女性たちの特徴ですが、身長がやや高くて髪の毛が長く、髪の色素が白に近ければ近い程よいみたいですねぇ…
その特徴に当てはまる人物と言えば、ええ、そうですよ…愚王は、イラツゲ様を探しているのでしょうかね?
真意は知りませんが、幸いにしてイラツゲ様は教会から絶対に外に出ようとしないので、イラツゲ様が教会のバックヤードにいるというのは…シスター達が情報を売らない限り大丈夫でしょう。
っというか、シスター達も外に出るのを怖がっているので、夕暮れになる前には帰っていますからね。
昼出勤、清掃、帰宅っという短時間だけの勤務とさせていただいておりますよ。イラツゲ様の心を搔き乱さないためにもシスター達は必要ですからね。
裏切った場合は即座に贄となってもらいますがね。
清掃も終わったので自室に戻ろうとするとイラツゲ様が鞄を片手に部屋から豪快に出てくるので、どうされたのか話を聞くと忘れ物がある?…ぇ?
そんな、身重な状態で何処に向かおうとするのかズンズンと歩き出すイラツゲ様に声を掛け続けるが、忘れ物があるのだと、それ以上何も言わないので、俺も慌てて戸締りをしてイラツゲ様の後ろを付いて行く…
俺が傍にいて一緒に付いて行くと声を掛けると優しいのねっと微笑んだ後、すたすたと歩いていく…
お腹の子供の事なんぞどうでもいいのだが、もし、何かあればイラツゲ様の精神が更に不安定になってしまう、それだけが不安で不安で…
不安を抱えながら付いて行く、何故唐突に行動を開始されたのか?あれほど前に外に出るのを怖がっていたのに?何処に向かおうというのか?あれか?器の記憶が混在しているから、器の実家とか、ですかね?ご実家で在れば、子供が出来たとかの報告とかですか?
今はイラツゲ様なのか、器が目覚めたのか、神によって変質したのか、もう、俺には、俺にはわからない…イラツゲ様の波動を薄くしか、感じ取れないのです…
対した用事ではないのであれば今からでも引き返してもらいたいので、身重なのにスタスタと歩いても大丈夫なのか声を掛けてみると、安定期がそろそろ?何ですかそれ?その期間であれば、ある程度は問題、ない?…医療の知識がある器だからこそ知りえる医学の知識という奴ですか?
専門外の知識に関しては何も言えないし、何よりも彼女を止めることが俺には出来なかった、何故かわからないが、イラツゲ様だからとかそういう理由ではなく
純粋に彼女の言葉に逆らおうという意志が湧いてこない…これが、神の意志だというのですか?
スタスタと歩いていくと、王都の門まで近づくと馬車を管理している人に声を掛ける。
普通であれば、今の時間から馬車を動かすなんて渋るはずなのに、笑顔で快諾させ、馬車に乗り込む、しかも貴族とかを乗せるための特殊な馬車で王都を出発する話を承諾させている…
俺も慌てて馬車に乗り込むのだが…馬車の中で座っているイラツゲ様の雰囲気が人の域から何か、違う物へと変化しているような気がする…この人はいったい誰なんだ?
馬車に揺られている間もずっと何もなく、言葉すらない…幸いにも揺れが少なく快適といえば快適な馬車でしたね。
流石は貴族が乗る馬車と言ったところなのでしょうか?それとも、綺麗に舗装された整っている道のおかげでしょうか?北の大地へ赴いたことが無いのですが、ここまで整備がしっかりとされているのは知りませんでしたね…
そんな予算があるのであれば、王都の街中も全てこれくらい綺麗にして欲しいモノですね…
長いこと揺られている最中もずっとずっと、イラツゲ様の様子を伺ってはいた…
仕草はイラツゲ様、言葉遣いは器に近しいものがある、そして佇まいや雰囲気は混ざった感じ…
神の御業によって全てが統合されたと考えるべきなのでしょうか?…なのでしょうね、困惑してしまいますよ、随所に愛するイラツゲ様がいて、随所に知らない人がいて、そして、その全て少し新鮮で受け入れつつある自分が居るのを感じているのですが、ですが。ですが…
それは本当に俺の心なのか?
神を疑うようなことをしてはいけないのはわかっていますが、人の心すら操れる力を持った神が、俺という駒に干渉しないわけがないのではと怪しんでしまう、訝しんでしまう…猜疑の目は消えない。
沈黙の中、馬車が止まったと思ったらドアが開かれる前にご自身の手で開き、優雅な仕草で手慣れた動きで馬車から降りてスタスタと何処かに向かって行く、慌てて付いて行く。
北の大地、昔はこの辺りは冷たい大地でのみ振るという雪という物が辺り一面を白く染めていたと、お聞きしたことがありますが…俺が感じている五感その全てから、それは嘘だろうと感じてしまう。
何かの間違いなのだろうと否定したくなる、所詮は公伝、伝記、人々が口紡いできた絵空事なのでしょう、地面からは浴場のような暖かさを感じますし、風は、気持ちひんやりとして心地よいくらい。
どう考えても寒い大地だとは考えられない、今すぐにでもこの重苦しい服を脱ぎたくなるほど暖かな気温ではありませんか…
生憎、俺は聖職者であり、教えを広める立場であるのだが、北の…死の大地へと赴く程、酔狂な考えを持ち合わせていませんので、この大地に降り立つこと、足を踏み入れるのは初めてなので、新鮮な気分になるのですが…
どうしてだろうか懐かしいと…何かを感じる…なんだろうか?この、反応は、地下?ここにも何かあるのですか?
そっと、胸に手を当てると…感じることが出来た
同志の残滓を
そうですか、この大地にも同志が居たのですね。いつか、祈りを捧げに参りませんとね…全てが終わった後にでも。
イラツゲ様の後ろを付いて行きながら、物珍しさに辺りを見回してしまう、驚いたことに、王都の見て見ぬふりをしてきたあの貧困エリアと同等の生活レベルだと思っていたのですが、その考えは改めないといけませんね、平民と左程変わらない生活環境のように見えますね。
ちゃんと建物もありますし、すれ違う人々も目に光が宿っている、明日を信じ明日を希望する、生きた目をしていらっしゃる…
きっと、この大地には彼らを導く光が在るのでしょうね。
道行く人々が此方を見ては驚いた表情と言いますか、立ち止まって何度も何度も見ては口をパクパクと動かして呆気に取られていますね、俺を見て、ではなさそうですね、イラツゲ様を見て驚かれているご様子ですね。
ここは、イラツゲ様と縁がある場所なのでしょう…
器はてっきり平民か貴族の出だと、もしくは上流貴族と何かしら関係のある人物だと思っていたのですが、まさか、ここで働いていたのでしょうか?
…それを知るピーカはもうこの世に居ませんし、そもそも、ピーカと知り合いって言う時点で特殊な人なのだとは思っていましたが…そうですか。
ピーカが謀略の果てに死の定めに向き合ったときに傍にいたのが器だったのでしょう…
まったく、愚劣なる弟は何も語らないし紹介も知人としか紹介しないので器の素性は知りえませんでしたからね、医療の知識があるのですね、ではそういった家系の出なのでは?くらいでしか考えていませんでしたよ。興味がありませんでしたし。
っで、あれば、ここが器の古巣だとなれば、警戒は必須ですね。
辺りを警戒しながらも進んでいく、イラツゲ様を深く知る人物に捕まったらイラツゲ様の心に何の変化が起きるのかわからないですからね。
後ろを付いて行くとある建物に入っていき、ある部屋の前に立ち、鍵を開けて中に入っていく…
ここが器の部屋なのでしょう、建物も周りに比べてやや頑丈な感じがしますし、木造って感じでもないですものね…王都にない建築方法ですが、独自の文化ってことでしょうか?
恐る恐る中に入ってみるが、特におかしい部分も無くごく普通の有り触れた部屋で少しほっとしましたよ、器の事を考えると何が飛び出してくるのかわかったものではありませんからね。
部屋の真ん中に置かれている大きな机の引き出しから何かを取り出し、クローゼットのような場所を開くと中から何かを取り出していますね。
何かの魔道具を次々と袋に入れていますね、手伝いましょうかと声を掛けると今まで見たことのない程の修羅のような顔で睨まれてしまいました…
用事が終わったのか他の場所に目もくれることなく、スタスタと部屋を出ていく…鍵を閉めなくてもよいのでしょうか?
一声、念のためにかけると、この部屋にはもう何も必要なものはない?…なら、良いのですが?
建物を出ると
「おい!帰ってきたのなら、かえってきたのなら」
息を切らせた初老の男性が声を掛けてきましたけれど…お父様ですか?
ゆっくりと頭を下げて
「先輩、ご心配をおかけしました」
丁寧に挨拶をする、言葉の意味がそのままの意味であるのでしたら…この大地での先駆者っということですかね?…なら、危険人物ですね。内容次第ではその場で口を封じる必要がありますね。
「はぁはぁ、まぁいい、無事なのであれば、それでいい、それに、おま、そうか、そうなのか、そういう状況だったら仕方がねぇな」
汗を拭いながら自己完結した様子ですが、どういうことですかね?
「ええ、ご心配をおかけしました、ご慧眼通りでございます」
お腹に手をやりお腹を摩っている…なるほど、子供が出来たのだと相手が直ぐに悟ったという事ですね。
「…何か物を送ってほしいのなら手紙で知らせろよ、所在地さえわかれば送ってやったのに、身重で出歩くんじゃねぇぞ?いい医者はいるのか?」
「はい、ご心配をおかけしてもうしわけありません、大丈夫ですよ」
先駆者の視線が此方を向いたと思ったら、何か頷いた後
「落ち着いたら、連絡くれよ、俺だって大切な弟子の子供の顔は見たいからな」
笑顔で送り出そうとしてくれる
「はい!その時はぜひ」
一際、嬉しそうな声で返事をした後、ゆっくりと馬車の方に向かって歩いていく
後ろを付いて行こうとすると
「一歩引いて守ってくれるなんてな、良い人を捕まえたもんだな、我儘なやつだが、宜しく頼みます」
深々と頭を下げてくる…言葉の内容からして俺がイラツゲ様の大切な人なのだと勘違いなさったのでしょうね。
この人は話の内容的に器の師匠的な立ち位置の方なのでしょうね、そうなると、医者なのでしょうね…
やっぱり、お父様とかでは?それとも、育ての親、とか?…まぁ、今後、会う事も無いでしょうしどうでもいいですが、多少は相手をしませんとね
自分が司祭をしていると簡単な自己紹介をして祈りを捧げてたりなどをして挨拶を終えて
最後に会釈をしてから街の玄関口に向きを変えると…姿が見えませんね、予想通りと言いますか、置いて行かれる気がするのですが?
急いで駆け出すと、既に馬車に乗り込もうとされていたので、本気で置いて行かれそうなので慌てて馬車に乗り込み、滞在時間、ほんの…30分もないのでは?体感的に関心の薄い信徒が祈りを捧げている時間と同等ぐらいではありませんか?
古巣に何も挨拶をしないで、目的の為だけに動く…
薄情と罵られてもおかしくなく、人の目を気にしない、顧みない、冷酷な感じ、イラツゲ様とは、思えれない、見た目はイラツゲ様なのに、この様な冷酷なのは
お守りするべき相手ではない…俺は…おれは…おれのこころは、ねがいは…とどいて、いるのでしょうか?俺にはもう道化になれる自信が…ない。
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