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Dead End 封印術式

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朝起きる、起きないと、いけないのは重々理解している、思考だけは目覚めているけれど、体を動かせない、だから、起き上がるのも辛い、手に力が入らないように全身からも力が入らない。

わかっている、死期がもう、眼前に迫っていることなんて、知っている。

起きないといけない、動かないといけない…

でも、動けない。

助けを求める様にベッドの横に置かれているカメラを使って作り出した、ある人物が描かれている皮を手に取り眺める

涙が溢れて出てくる



「お母さん」



私の我儘に何度も何度もしょうがないわねっと付き合って抱きしめて助けてくれたお母さん…
この街に来てから、本当の母親の様に私を見守り心の底から母として接してくれたお母さん…
毎日毎日、私に魔力を注いでくれて命を延命させてくれたお母さん…



お母さんが亡くなって、経ったの、たったの、2ヶ月で、私は動かなくなってしまった。
心は何時だって動こうとしている、でも、もう、体が動かなくなってしまった…

知っている、どうしてこうなったのか、私は知っている…

寵愛の巫女としての定め、運命、宿命、宿業…過去、全ての一族が迎えたDeadEnd、終わりの時、お母さんは魔力枯渇症と呼んでいた。

そう、私の体から無尽蔵に魔力が溢れ出ていき虚空へと消える症状、それによって、私の体からは魔力が亡くなっていき、結果的に死に至る。
地球の人みたいに魔力が無い世界だったら、私は死ななかったのだろうか?魔力を必要としない人体の構造だったら、私は長く生きれたのだろうか?

始祖様は、この質問に答えてくれはしない

もう長いこと、始祖様との繋がりを感じ取れない、わかっている、始祖様との繋がりは魔力があってこそ繋がれる、今の私では寵愛の加護にアクセスすることはできない。
自身の体を指先一つ動かすだけで精一杯の魔力しかない、動かすだけで心臓がバクつき跳ねるようにドクドクと暴れる、そんな状況で術式なんて一つも発動できるわけがない。

皮に描かれたお母さんの画像を見る、涙が溢れ出てくるのと同時に助けを乞うてしまう

「お母さん…私、死にたくないよ、しにたくないよぉ、おかあさん、あいたい、あいたいよぉ…」

お母さんと過ごした半年の間、ずっと一緒に過ごしていた部屋のベッドで私は泣き続けている。
誰も助けてくれない、誰も私を助けてくれない、だれも、わたしを、みちびいてくれない…

しそさまも…おかあさんも…おかあさまも…だれも、だれもわたしを…すくってくれない…

誰も頼れない、だれも、誰も!!!…
湧き上がるのは怒りという感情、この感情を私に植え付けた存在が脳裏に浮かび上がる

許せない、許すわけにはいかない!!!お母さんの命を奪った畜生共を許すわけにはいかない!!!殺す!殺しつくす!!私から大切な人を奪ったあの人型を許すわけにはいかない!!!

歯がゆい!!!顎に力を入れて歯を食いしばることすら出来ないこの状況が辛い!!!どうして!どうして!!私が、私がもっと、早くにこの

【封印術式】を完成させていれば、私が万全の状態だったらあんなのに遅れをとらないのに!!!

怒りという感情が痛みと共に私の体を動かしてくれる、上半身を起こすと同時に血を吐く
肺が痛い、苦しいではなく痛い、呼吸するだけで痛みが伴う。

そう、片肺を溶かしたんだ、うん、それが正解だよ、肺は片方だけあれば、少しの間くらい生きれるもの

肺を昇華させ、その分の魔力で何とか体を動かす。
もう、子宮も昇華した、卵巣も昇華した、腎臓も昇華した、後はどこの臓器を魔力に昇華すれば、いいのだろうか?肝臓?は、ダメ。
肝臓が魔力を蓄える臓器だもの、それがないと昇華した魔力を蓄えることなく漏れ出るから意味がない、肝臓は最後かな、最後の最後、死ぬ間際だったら、

心臓も肺も肝臓も腸も…

臓器全て魔力に変換すればいい、脳さえあれば、1秒でもあれば、術式を発動させることが出来るもの。

問題はどんな術式を発動するべきかなのよね、私の知りえる知識で何をすれば未来に、お母さんを救える状況になるのかしら?

わからない、何も考えが思い浮かばない…

ベッドから起き出て動けるうちに、部屋にある魔量回復促進剤を5本開けて飲み干す。
これをいくら飲んだところで私の体から魔力が精製されるとは思えない。思えれないけれど、縋ってしまう。どんなことでも良いので一日でも良いので、命を長らえさせたい、長らえさせることで何とか明日へと繋がる方法を見つける。見つけないといけない!

そうしないと、私をかばって死んだお母さんが報われない!!私が無様にも息長らえている意味がない!!

絶対に私の心は折れない!何があろうと負けない!どんな状況であろうと覆して見せる!!!
抗ってやる、寵愛の巫女の宿命だろうが、この大地に巣くう病巣が相手だろうが!!私の敵じゃない!絶対に私が世界を…お母さんが愛した世界を!!!救ってみせる!!!

お母さんが用意してくれたお揃いの寝巻を脱いで外に出る為の服に着替えて部屋のドアを自身の体重の重みによって開けて、ゆっくりと外に出る。
足を上げるのすら出来ない、足を引きずって歩いていく。



引きずるように時間をかけて、外に出た瞬間



鐘が鳴る

終末を告げる鐘が鳴る



数少ない戦士が広場に集まる、持てるだけの武器を持って眼前に迫ってくる敵と闘う
そう、私達は、いいえ、私は失敗した。

敵の魔道具を奪うことが出来ず、ベテランさんは死んだ…
ターニングポイントがあるのだとしたら、この時だろう、魔力が常に枯渇している私とお母さんでは敵を退けるだけで精一杯だった。
無謀にも、策も無しに敵地へと飛び、魔道具を持ち帰ろうとベテランさんが飛んだけれど、彼は帰ってこなかった…

ベテランさんが死んだ影響で多くの戦士が…その先に起こった数多くの戦いで死んでいった。
お母さんも、その時…私をかばって!!!

多くの人が死んだ、多くの大切な人たちが月の裏側へと導かれてしまった…

この街が絶望に包まれている時に手を差し伸べてくれたのが。
非戦闘員であるマリンさん、この街を支え続けてくれている畜産の王である、ララ・ストックさんの奥様

そう、旧姓 マリン・パライバ …お母さんの元同僚
過去において粉砕姫として活躍されていた人も、私達の希望となるべくにして前線に返り咲こうとしてくれた。

そう、現時点での、この街での最大戦力、それが彼女…

トラウマを抱えている人を前線に出てもらうなんて、情けない…
あの人の心はもう、闘えるほどの力を持ち合わせていないのに、縋るしかない…情けない、自分の弱さに頬をはりたくなる!!

「姫様、大丈夫かい?」

広場に顔を出すと、心配そうにマリンさんが駆け寄ってくれる、抱き上げてくれる力は力強く、暖かい、この人からは父性も母性も感じる、不思議な人。
声を出そうにも…声を出せない…

「辛いだろうね、12歳って若さでこんな死地に放り出されちまってよ、大切な人を目の前で殺されてよ、あたいが、あたいが!!あたいの心が弱くなかったら!!!」
ボロボロと涙を流して私を抱きしめた後
「行ってくるね姫ちゃん…」
おかあさんとおなじように ひめちゃんと よんでから あたまを なでて 彼女は逝ってしまった




戦士の一団は敗れた




それによって、数多くの非戦闘員である皆が自分たちの命を使って敵に一矢報いんと突撃していく。
目の前で爆発して飛んでいく四肢に内蔵…かつて人と呼ばれていた肉塊が辺り一面に霧散していく…

医療の父と王都でも歌われた人は術譜と爆薬を片手ずつ持っていき、胴体を敵に貫かれても敵の口の中に両方を突っ込ませ自身の腕諸共、人型の頭を爆薬で吹き飛ばし、一体の人型と共に死んだ。
王家直轄の術式研究所を取り仕切る一族の女性、研究塔の長
彼女も愛する旦那と共に私の頭を撫でた後、全身に術譜と爆薬を身に着け敵のど真ん中に足が吹き飛ぼうが腕がなくなろうが突き進み、中央で爆ぜて死んだ。

…多くの非戦闘員が死んでいく…

絶望で視界が真っ赤に染まっていく最中、私の隣を大きな大きな肉体が飛んでくる

マリンさんの上半身だった…

死んだ遺体を投げてきたのだろう
そっと手をマリンさんに伸ばす、縋るような思いで手を伸ばす

当然ながら脈は無い

だが、僅かに温もりがある、僅かに魔力を感じる

嗚呼

そうか

嗚呼

そうじゃない




魔力ならその辺に転がってるじゃない




脳以外の細胞全てを魔力へと変換していく、唱えるは時
願うは狭間
乞う願いはただ一つ

時空への干渉

時への介入、過去に私の思念を飛ばす、時空干渉術式をここに発動する

周囲にある人だった者たちが魔力へと昇華され私の中へと入っていく。
魂と呼ばれるものも、はいってくるのか、魔力に変換した人たちの苦しみ、怒り、絶望が私の中で弾けていく。

溢れる憎悪に私の脳は狂いそうになる。
集めた魔力をただの暴力に変換して目の前に、私の命を今すぐにでも刈り取ろうとしているやつらに向けたくなる。

眼前に迫ってくる獣達の軍勢…

その目の前に溢れるほどの魔力を、見たことも無いであろう魔力の渦を生み出している存在に向かって突進してくる。
駄目、まだ、術式の構築が終わっていない!今攻撃されると!!

「させるわけにはいかんなぁ!!」

目の前まで迫ってきた人型の攻撃を誰かが塞いでくれた
青い鎧に、片手剣…王都の紋章…知らない人が私を助けてくれた、ありがとう、お願い、どうか、お願いします。
術式の構築が終わるまで何とか、時間を稼いでください。

ただ一人で、数多くの人型と闘い続ける青き戦士

相当の手誰なのだろう、片手剣が折れたと思ったらマリンさんが愛用していた斧を巧みに振り回して敵を蹂躙していたが、敵の猛攻によって片腕が吹き飛ばされたため、マリンさんの扱う斧は片手では扱いきれない、その辺に落ちていた槍を使って闘い始める。

片手剣も、槌も、斧も、槍も千変万化の如く扱えるなんて、相当な名のある騎士なのであろう…

青い鎧に王家の紋章…嗚呼、そうか、お母さんが言っていた記憶がある
それじゃ、この人が、お母さんの想い人のお父さんか…

その瞬間、私を誰かが抱きしめるような感覚が伝わってくる。

もう、皮膚の知覚神経も魔力へと変換したので何も感じないはずなのに

嗚呼、ありがとうお母さん、お母様、名も知らぬ騎士様…



ありがとう



全ての構築が終わり術式が発動する下準備が出来る。
後は何を託すのか…きまっている、この世界を否定する為!この未来を回避するためにすることは一つ!

私が万全な状態で生きる事!すなわち、お母さんと共に始祖様の秘術をベースに生み出した封印術式!!

これを、過去の私に伝える!思念を過去へと飛ばす!!

構築した術式の中に伝えるべき内容を書き込もうとした瞬間

私のお腹に何かが当たる…

視線をちらりと下に向けると

嗚呼、ありがとうございます。この瞬間まで私を守ってくれてありがとうございます。
腕を動かすことが出来るのだったら頭を撫でてあげたかった、抱きしめてあげたかった、だけど、それすら出来ない。

だって、もう、私の両腕の筋肉も魔力昇華してしまっているもの。

ありがとう、名も知らぬ騎士様。

ありがとう、お義父様、娘を守ってくださって。孫を守ってくれださって、ありがとうございます。

頬を伝う様に一筋の涙が流れていき、私のお腹に当たって、膝の上に転がっているとある騎士様の頭に動かせない手の代わりに涙が触れる

視線を前に向ける


敵が迫ってきている


術を発動する

時空干渉術式、魔力は、この場に居る人、魂も含め、その全てをもって魔力とする
伝えるは、現時点で私が持ちえる全ての知識
優先するは【封印術式】


始祖様  寵愛の巫女が願い奉ります


発動している最中、眼前に迫る竜の大きな口によって私の体は



真っ二つに引き裂かれ飲み込まれる…






敵の口の中、胃に流されていく過程で、私は…勝利を確信し笑みを浮かべる。

全てではないが送れるだけの情報は過去の私に送った!!!
覚悟しろ獣ども!!!いつか、必ず!!お前らを根絶してやるからな!!!

胃の中に落ちた瞬間、私は…


Dead End 封印術式




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