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とある人物達が歩んできた道 ~ 叫び ~
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全員が姫ちゃんの頭を撫でた後、駆けだす各々が出来る最善を尽くす為に、姫ちゃん制止は誰も聞き届けることなく命使った作戦を決行するために動き出す。
私も動き出そうとすると服を掴まれる…秘蔵の毒を敵にぶつける為の仕込みナイフとか用意したいのだけれど、どうやってこの子を納得させればいいのかしら?
視線を姫ちゃんに向けると、その眼差しは真っすぐ力強かった、足は震えているけれど、意志は強く固そうね、これは、言葉だけじゃ折れないわね…
どうしたものかと悩んでいると声がかけられる、部屋にはもう誰もいないと思っていたのに誰かしら?視線を声のする方に向けると
「俺が同行する」
先ほど血を吐いて開腹術式を施した人がいつの間にか、ドアに寄り添うように立っている
「手負いではあるが、団長と…姫様のおかげで動ける、あんただろう?あれを創ってくれたのは、麻酔から覚めてから教えてもらったよ」
しゃがんで姫ちゃんの目線に合わせて頭を下げて「俺はあんたの、姫様の槍になる、始祖様ほど、戦士長ほど、強くはない、だが、この命、俺はあんたに預けたいと思っている」騎士の誓いを姫ちゃんに捧げている、そうか、この人は確か貴族の出自だったわね、王都から派遣されていて長い間、この街を守ってきてくれた人だったわね。
目の前にいる騎士に「ありがとう、貴方の命預かるわ、お願い、私を現場に連れて行ってくれるかしら?」今着ている服はズボンだけど、まるでスカートを広げるように服を摘み、お辞儀をする、王国にいるかもしれない、本当の…王族の様に…王家に連なる姫の様に立ち振る舞う…
その姿を見た戦士も「ああ、ありがとう、俺の迷い彷徨う騎士道は今ここに道を得た…命に代えても姫様を守り通して見せるさ」
かっこつけるのも良いけれど、貴方、顔が真っ青よ?大丈夫?麻酔抜けきっていないんじゃないの?
そんな弱々しくも力強くあろうとする人と、姫ちゃんだけを戦場へと見送ることなんて出来るわけがないじゃない。
心の中でため息をつきながらも腹をくくる。戦場へと立ち入る覚悟を。
はぁ、仕方がないわね、私も付いて行くわよ。
やることが決まると部屋に残された三人、その三人が同時に動き出す、傷ついた戦士は自分の装備を取りに走る。
私達も、戦闘に向けて動きやすい服装に着替えに自室に走る。
ついでに、私は獣相手に使えるかわからないけれども、毒を持っていく、基本的に人に使う為にカクテルしてあるものばかりだけど、調整すれば獣相手にも通じると思うわ。
従来の獣達であれば通じる弓矢の矢じりにセットするような毒もしっかりと持ったし!行きましょう!死の大地へ!!
死の大地へ通じる門に到着すると傷ついた戦士もしっかりと防具に身を包み、槍をもって待機してくれているので、門を開けて死の大地へと一歩を踏み出す
踏み出すと同時に嫌な気配がするし、死に晒されていると感じる、気のせいでもなく、確実に命を狙われているような感覚がする。
ほんっと、嫌な大地ね…人という種を拒み過ぎでしょ?まぁ、そっちがこちらを憎いと思っているように私だってお前らを許す気はないわよ?
姫ちゃんの様子を見ると
「ほら!いこ!」
けろっと何も感じないのか平常心だった、足が震えている様子もない…あれ?怖くないの?胆が据わっているわね。土壇場になると冷静になるタイプ?
「なんか、ノイズが酷いから早くいこ、嫌な気配もするし、長くいたくないし、ほら、闘っている人がいつまで持つか、わからないんでしょ?急ごう」
のいず?耳鳴りの一種かしら?…耳を澄ましてみても、私にはわからない、わずかに、ほんのわずかに何かが聞こえるような気がするけれど、獣達の呼吸する音じゃないの?
戦士の人も動けそうなので、私は姫ちゃんを抱き上げて、戦士の人と共に駆け出す!ここから走って10分くらいなら姫ちゃんを抱っこしながらでも走り切れるわよ!たぶん!
走り続ける、幸いにも獣には遭遇せずにすみそうね、本来であれば、この辺りに獣たちは寄ってこないのに、どうして、二足歩行はここまで接近してきたのか理由がわからないけれど、考えるだけ無駄ね、獣共の考えなんぞ考えたくもないわ。
走り続ける、肺が苦しい、お腹が痛い、でも、速度を緩めるわけにはいかない、それに、目指す先の方向から意識を向けると、遠くで何かの音が聞こえる、近いわね
目視で小さな点と点が戦っているように見える距離に到達すると
「まって!ここでいい!視力を強化するからここからでも十分に観察できるからここでいいよ!」
姫ちゃんに制止されるので二人で立ち止まり、敵に見つかりにくくする為に私と姫ちゃんは野に伏せ、槍を持った戦士は直ぐにでも動き出せるように身を屈めながら息を潜め周囲を警戒する。
「…なんだ、大層なことをいうものだから、どんな人なのかと思ったら猿じゃん、っていうかゴリラじゃん…でも、大きい、それだけで厄介だね…」
姫ちゃんがぶつぶつと独り言を言っているのが聞こえる、そうか、二足歩行とか二本足とか言っていたような気がするから、それだけだと、敵の事が人かもって思ってしまうわね、姫ちゃんは私達の敵がどんな敵なのか具体的に知りえていないのかもしれないわね…
「お母さん、お願い、魔力を頂戴」
敵をずっと見つめ続ける姫ちゃんから唐突に声を掛けられたけれど、魔力が必要なの?…
気のすむようにしてあげよう、それにさっき視力を強化するって言っていたから視力とか聴力とか、そういうのを術式で強化しているのね、そんなことが出来るなんてね、普通では考えられないことも彼女なら知っているのは当然なのだろう。
言われたとおりに姫ちゃんの背中に手を入れて魔力を送ると、驚くことに、魔力を送り続けてもどんどんと、姫ちゃんの中に吸われるように、私の魔力を吸い尽くすんじゃないかってくらい魔力が姫ちゃんの中に流れ込んでいく?
いったい、何に魔力を使っているのかしら?姫ちゃんの様子を見ると額に汗をかいているし、ちょっと様子がおかしいわね、そっと脈を図るために首元に手を当てると心なしか早い?首元で計るの苦手なのよね…伏せてしまっているから手を取りにくいし、仕方がないわね、暫くは様子を見ましょう。
姫ちゃんの様子を見つつ、遠くで闘っている集団の様子を見る
良かったと考えるべきか、何をやっているのかと考えるべきか、二足歩行と闘っているのは坊やだけじゃなく、他にも3名が囲むように闘っているが、決め手に欠けているのがすぐにわかる、坊やが敵を挑発して攻撃を受けないように避けたりしている、盾で受け止めないようにしているのは盾の消耗を防ぐためでしょうね、パワータイプである敵の重い一撃である攻撃を、まともに、真正面から受けていたら盾なんてすぐに壊れてしまうのでしょうね。
坊やが挑発して相手取っている、その隙にその後ろから攻撃しようと他の人達が近寄るのだが、敵も近寄る人が居れば当然、そちらに意識が向いて攻撃しようとする、敵の視線を感じた瞬間に攻撃しようとした人は距離を取る為、何もできていない。
坊やが他の人に意識がそれた瞬間に槍を突きだすが…遠目でわからないわね、あれは当たっているの?当たっていないの?敵が腕を大きく振り回して坊やを振り払うようにしている辺り、坊やの攻撃が鬱陶しいと感じてはいそうね。
私の手持ちの毒を槍の切っ先に塗って渡せば、ちくちくと肌を刻めば何時かは毒で殺せそうな気がするけど、何日かかるんだってなるし、毒を常に槍に塗らないといけないから、毒が入った壺の様なものを用意しないといけないわね…そんな大量に毒なんてないわよ、魔道具を起動して抽出できる毒なんて魔力を代償にして生み出すものだから、多くを生み出せないのよ、私が全力で注いでも壺を満杯にするなんて出来るわけないし…何よりも敵に使うための毒じゃないのよ、麻酔とか、痛み止めとかに使用する毒なのよね、だから、敵に有効な毒ではないの、仮に麻酔が敵に有効かどうか。わからないのよね…
私なりにも戦術を考えてみるが、人と違って獣達を殺す手法なんて私は持ち合わせていないわよ…まって、これ何の記憶?私、人なんて殺してないわよ?
護衛術程度というか、人と組みあったり武器を持った人との戦い方は騎士様が手取り足取り教えてくれた至福の時間で、鮮明に記憶に残っているけれど、人を殺すことに特化した技術なんて私知らないわよね?…混ざって行っているってことなのね、これは私の中に巣くう病巣の記憶ね、厄介ね。
いや、厄介と考えずにこの知らない技術を応用できるくらい強かにならないと駄目ね、何か応用できそうな技術や、組み合わせ、何か、閃かないか考えましょう。
「っは!!はぁはぁはぁ、うわ、気持ち悪ぃ、そう…うん、うん!!掴めた!!この感覚使えるね」
姫ちゃんから声が聞こえるので視線を向けると大量の汗が湧き出ていて、どえらいことになってるじゃないの!?魔力を見る為の魔道具を置いてきたの失敗だったわ、大丈夫かしら?考え事をしていた間、魔力を渡していなかったから、出来る限りの魔力を譲渡していく。
「ありがとうお母さん凄く助かる、この術式は段階を分けておかないと危険だよね、見てる限り、5分かな?それくらい?」
姫ちゃんの言葉が何を意味するのか私にはわかりかねるけれど、たぶん、考え始めて何分経過したってことよね?たぶんだけど、5分か、そこらだと思うわよ、姫ちゃんって体内時計もしっかりしているのね…ん?見てる限り?何を見て時刻を判断したのかしら?
「お母さん急いで街に戻ろう!あと、前で闘っている人に希望と作戦の概要を伝えたいけどいいかな?」
いいけど、どうやって近寄るのかしら?これ以上、近寄れば近寄る程、危険になるわよ?っと伝えると
「大丈夫!音を拡声させつつ、私の声門を強化して、更に指向性を持たせて尚且つ、音の幅を狭めていけば、あの人だけに伝えることが出来るけれど、相手がびっくりするから、どういう風に伝えたら相手が驚かずに、言葉に耳を傾けてくれるかな?いい方法あるかな?」
言いたいことはわかったわ、ほぼ初対面、っていうか、会って話したこと殆どないわよね?何処かで会釈した程度、その程度しか関係を築けていない人に、命が左右される局面でどうやって言葉に信を乗せるのかってことよね、なら、私が伝えたほうが良くないかしら?
私がやろうか?っと返事を返すと、術式を書き出す紙とペンが無い、口頭で覚えきれるの?っと、耳が痛い言葉が返ってくる、複合術式、段階分けて発動でしょ?ぶっつけ本番できる内容じゃないわね。
そうなると言の葉に乗せる内容ってことよね、あいつが一撃で信頼できる言葉の内容、ないよう、そうね、これしかないわね
内容を伝えると、一瞬だけしかめっ面になる、本当にそれでいいの?っという表情ね、坊やの性格を考えるとそれが一番刺さるわよ?
まぁいいかと立ち上がって大きく息を吸い込んだかと思ったら何か叫んでる?叫んでるのに声が聞こえてこない?…どんな仕組みよそれ?
視線を坊やの方に向けると坊やが一瞬だけ動きが止まって、その一瞬を敵も見逃さずに攻撃を仕掛けてきて、あと一歩で当たりそうだったのを見るに、此方からの声は聞こえてはいるのね。
その姿を見た他の人達がカバーしに一斉に突撃して坊やから敵を引きはがして、坊やに時間を作らせてあげているじゃない。何よ、やるじゃない、って言いたいけど、遠目からでもわかるくらい危なかっしいわね、一人一人が敵と応待したら確実に殺されるくらいの力量なのね。
長いような、短いような、緊張した時間特有の不思議な感覚を感じていると、姫ちゃんがぜーはーっと呼吸を整えている。
大丈夫かしらと、心配で見ていると、視界の片隅で動く坊やが、槍を上に上げている
それを、見た姫ちゃんが「ありがとう!アドバイス通りにしたら伝わったみたい!伝わって了承してくれたら槍を掲げてって伝えたの!掲げてくれた!」
そして、直ぐに戻って仕度するよ!っと腕を掴まれたので姫ちゃんを抱き上げて街に戻る!!!運動不足の私じゃ、ちょっとしんどいけど!!護衛で傍に居てくれる顔が真っ青な戦士に託すわけにもいかないし、鎧の上から抱きしめられながら走るのって、姫ちゃんが痛いでしょうからね!
頑張れ私の筋肉!!唸れ心臓!!吸い込め空気ぃぃ!!!
頭の中ではうあああああああああああああああっという言葉しか思い浮かばない程、走ることだけに集中して今にも張り裂けそうな程、足の筋肉が悲鳴を上げているが、躊躇わず走り続ける。
街に到着すると、門の近くで色々と準備をしている医療班の人を見つけたので、姫ちゃんの言う通りの準備を始めて!っと声を荒げながら拒否という概念が思い浮かべない程の気迫だったのか、少し驚くというよりも気迫に押されて後ずさりするような感じで、頷かれてしまったのだけれど、ごめんなさいね!今余裕が無いの!!相手の事を気遣うような言葉選びなんて、今の私では余裕が無いのよ!!そこまで、そこまで、今の私では無理よぉ…
姫ちゃんを医療班の人に託すと同時にその場に転がるように倒れ込む、足が、足が、もう、無理、限界、肺も苦しい、お腹も痛い、横隔膜が痙攣しているわね、足があしのかんかくがわからないくらいプルプルと小さく痙攣しているのがわかる、はぁ、はぁ、きっつぅ…
痛みの余り太ももを摩り続けていると私の近くで青ざめた戦士がゆっくりと地面に腰を下ろしながら
「やっぱり、あんたは凄いな、あの人の傍に居続けてきただけはある」
私に声を掛けてくれるのはいいのだけど、貴方もやるじゃない、あの大怪我と、それを治す為に行った術によって大量に血が抜け落ちたのに、よく動けるわね?やるじゃない…
ちらりと視線を向けると、青ざめた顔だけど、走り続けた影響でほんのりと頬が赤くなっている、けど、苦悶の表情が崩れることは無く物凄く辛そうね、無理をするんじゃないわよ?って言いたいけれど、無理をするしか無いのよね…
少しでも回復を促す為に、懐に入れてある、姫ちゃんから受け取っている回復を促す術式が書かれている紙を取り出して太ももに当てて魔力を通そうとしたが…
姫ちゃんに魔力を注ぎ続けていた影響か、陣が起動しないわね…はぁ、仕方がない古風ではあるが、ストレッチにマッサージで、自分自身で回復力を高めるしかないわね…
疲労困憊の腕を地面に置いて、暫く呼吸を整えようとしていると、私の手からすっと紙を抜け取られる感触が伝わってくるので視線を向けると青ざめた戦士が手に取り
「これを、起動すればいいのか?」
そっと私の太ももに当てて陣を起動してくれる、あら、優しいのね、戦士職が辛くなったら医療班で働かない?肉体労働要因が足りていないのよね。
陣が起動してから徐々に足の痛みがドンドンと抜けていくのが感じる、よかった、表面だけ、目に見えている範囲しか効果がない可能性もあるわねって危惧していたけれどそんなことなかったわね、はぁ、癒されるわね…痛みがひいていくってだけでも嬉しいわ。
ある程度痛みが取れたので、立ち上がって足踏みをすると、うん、これなら、動けそうね!戦士から紙を受け取り姫ちゃんの手伝いに行くと伝えると戦士はここで暫しの間、仮眠をとって少しでも体力を回復させて決戦に備えるというので、その心意気を無碍にするのは良くないわね、仮眠室で寝ればっという一言を飲み込んで、頷いた後、姫ちゃんがいる場所に向かって駆ける。
姫ちゃんを探す方法なんて、とても簡単、何処かで人が大勢集まっていて、賑わっているその中心を見ればいるでしょ。
音がする方へと駆け寄ると、予想通り広場に大勢の人達が居るので、集団に近寄り中心に居る人物を見てみると、やっぱり姫ちゃんがいるわね。
集団に紛れながら姫ちゃんの説明を聞いていく、なるほど、敵の動きを封じて封殺する流れかしら?途中からでも何となく作戦の概要を理解できるけれど、あいつらにそういった類のことを仕掛けたことが無いから、有効なのかしら?そんなことを悩んでいたら、姫ちゃんの近くに奥様もいて、説明を聞いてる様子からみて、間違ってはいなさそう?間違っていたら止めているはずだもの、止める様子もなく真剣に話を聞いて準備を手伝っている。
私も何か手伝える事が無いか確認すると、もう殆ど終わっていて、今は失敗した時に備えて予備としての道具を作成したり、道具の最終点検と確認をしている。
その間に、作戦を実行するための戦士達が入念に道具の扱い方、使用方法を理解して何度も何度もどう動けばいいのかシミュレーションしている、作戦を遂行するのが弓部隊として長いこと闘い続けている人達なので信頼できる、投擲も得意ですものね。
そうこうしているうちに、全員の支度が出来たので現場に向かうのだけれど、姫ちゃんも向かうのは決まっているのね、だったら、私も行くわよ!今この瞬間だけは姫ちゃんの馬になってあげるわよ!!
先ほどまで足が震えていた私を姫ちゃんは知っているので、心配そうにしているが、駆け足は行きだけでしょ?帰りはピクニック気分でゆっくりと帰れるから、あと少しくらい頑張れるわよっと自慢げに言うと
「そうだね!帰りは絶対にピクニックにしてみせるから!任せて!」
嬉しそうに返事をしてくれる、私の遠回しの言葉、その意味がすぐわかるなんて、賢い子ね。
全員で急ぎ足で門に辿り着くと外に向かう一団を見て、直ぐに門の前で仮眠をとっていたであろう戦士が立ち上がり共に門を潜り、駆け出す。
駆け出している最中もぴったりと私達の傍を走りながらも、周囲を警戒しているその姿は本当に騎士そのものね、こうやって姫ちゃんのことを守ってくれる騎士が増えてくれるといいわね。
現場に到着すると同時に全員が持ち場に向かって走り出し、姫ちゃんもそれと同時に坊やに向かって大声で叫んでいるのに、周りに声が聞こえてこない不思議な感覚で合図を送ると坊やがすぐに槍を一瞬だけ掲げて合図を受け取ったと教えてくれる。
その合図と同時に弓兵が敵に向かって一本の矢を放つ、普通に矢を打てば避けられるのだが、常に坊やの背中に隠れるように敵から見つからないように敵の視線上に映りこまないように移動し、上手いこと敵の視覚から隠れた一撃は敵の虚を突き、しっかりと顔面に当たると同時に敵の目の前で物凄い光が生み出され辺り一面が光り輝いていた。
坊やも作戦の内容を知っているのでしっかりと盾を使って光で自分の目がやられないようにガードしている。
すかさず、敵の両サイドから弓が放たれる、敵が光によって何が起こったのか理解できないのか初めての体験なのかピクリとも動かないその一瞬に合わせて弓矢が放たれる。
両サイドから放たれた弓矢が確実に敵の耳元へと届き命中する、敵に直撃したのと同時に敵の耳元で轟音が鳴り響く!?こっちまで音が聞こえてくるほどの爆音!?大丈夫これ!?ほかの敵も寄ってこない!?
光と音によって敵の視覚と聴覚が遮断され敵が私達の動きを探るのに使用されるであろう感覚器、残された部分で遠距離から使用できるものは限られる
嗅覚
つまり、匂いを頼りに接近してくる可能性が高い、ずっと傍で闘ってきた相手の匂いくらい、獣であれば記憶しているだろう、敵を誘導する為か今この瞬間が好機と感じ取ったのか坊やが渾身の突きを繰り出すが敵が瞬時に何かが接近するのを感じ取ったのか、両手を使って喉元をガードしたため、槍が喉を貫くことは無かった。
坊やは、渾身の突きを放った後は、即座にバックステップで距離を離すと、敵は目の前にいる脅威である坊やを匂いで追う様に何も考えずに腕を上げて怒り心頭っという感じで追いかけてくる、口を開けて雄たけびを上げている段階って言うので、遠目でも見てわかるくらい、怒ってるわね、あれ、それに、閃光がしっかりと聞いているみたいで目を閉じて走ろうとしている
視覚も聴覚も失われた状態で、走ろうなんてよく思えれるわね、愚策よそれ?
姫ちゃんが合図を出すと、術式が扱える人が地面に杖を突きさして何か術式を発動した瞬間に敵が前のめりになるように重心がずれる?倒れる!?
何をしたのかと敵の足元を見ると、敵の足元が隆起して足を引っかけている!?そうか、そうよね、資格も聴覚も突如、失われたら当然よね!平衡感覚も狂うわよね!
そんな時にタイミングよく、長い時間、闘っていたフィールドにない筈のとっかかりが生まれているなんて想像も出来ないわよね!!
両手を挙げているのも仇となったわね!両手が地面に向かって振り下ろされ、前へ向かって走っていく力と、パワータイプならではの重量ある物質が前のめりに倒れ込もうとしているその状態であれば
通るわよね!!
坊やが敵の懐に飛び込んで、下から上へと天をも貫かんと言わんばかりの渾身の突きを、突き出すように、繰りだされた、渾身の突きが敵の喉元を貫き貫通する。
坊やの力+敵が両手を地面に向かって振り下ろす力+前に向かって走っていた力+敵の重み
それらが重なればいかな強固な皮膚であろうと骨であろうと!!貫くわよね!!凄いじゃない!やるじゃない!作戦は大成功ってわけね!
「油断しないで!離れて!!」
姫ちゃんが大声で叫んだ瞬間に坊やが槍をその場に置いて前方へ転がるように敵の距離を離したのが正解だった、敵は最後の一撃として、振り下ろした腕で地面を叩きつけていた、その威力や衝撃はすさまじく、距離がある私達の地面が揺れるほどだった、あの一撃を受け止めていたら坊やは死んでいたわね。
敵は喉を突き破って首の骨ごと貫いた槍が刺さり、両手を地面についた状態で絶命した…
敵がピクリとも動かなくなったのを見てから全員が敵の近くに行く。
ここが死の大地じゃなかったら大きな声で喜びを分かち合いたいのだが、全員、この大地に潜む敵の恐怖をしっているのでこれ以上、音を出すのは危険であると知っているので静かに勝利の余韻を味わっている。
坊やが槍を引き抜こうとしたときに姫ちゃんが
「あ!まって、抜かないで!そこまで綺麗に殺せるのって滅多にないよね?貴重なサンプルになると思うし、持ち帰って解析分析したいから!」
研究塔の皆が喜びそうな一言を言う辺り、根っからの研究者ねぇこの子は
こくりと頷く坊やと、数多くの戦士達が力を合わせて槍が付いた状態で二足歩行を運ぶ、幸いにも帰り道は他の敵に遭遇しなかった。
あんな爆音を出したのにどうして、他の敵が襲ってこなかったのかわからないし、知ることもないだろうけど、運が良かったと思いましょう。
門を潜り、敵の死体を広場まで運び終えた瞬間、死の大地から遠のいた、安全地帯にやってきたと感じた瞬間だった。
だって、視界的にもここが安全地域だって教えてくれるもの、全員が爆薬とか色んなものを準備していて、敵を迎え撃つ仕度をしていた人達がいるのだから。
非戦闘員である彼らが、私達と共に打ち取った敵の死体を見て、戦闘が終わったのだと、無事、作戦を終えて帰還したのだと視界にとらえ理解した、その瞬間に
その場にいた、全員が叫ぶ、歓喜の声で泣き叫ぶ、地面を震わせるほど皆が何度も何度も喜びを表現するためにその場で飛び跳ねる、建物が揺れていると錯覚するほどの大きな大きな声を張り上げながら。全員が歓喜の渦へと渦中へと喜んで飛び込んでいく。
その声はまさに、この街で何かが産まれたのかのような大きな大きな産声に聞こえた。
この街は姫ちゃんという心臓を得て、新しく産まれたのだ
気が付けば、宴会が始まっていた、飲めや歌えやという大宴会が始まっていた。
食堂のお姉さんですら爆薬片手に体を震わせて青ざめた表情で待機していた、そんな絶望的な状況が一瞬で歓喜の宴へと変貌している。
殺した敵の死体を中央に置いて、その近くで焚火をして大歓声が収まることなく全員がバカ騒ぎをしている。
当然よね、全員が死を覚悟して死を受け止めて、死ぬ未来しか想像できなかったのに、誰も死人が出なかった、そう、二足歩行と闘って誰も死ななかったというのが既に奇跡なのよ。
医療班として最大限頑張ったけれど、術後予後不良となって死ぬというケースすらなかった、姫ちゃんが用意した回復の術式のおかげで全員の予後が非常にあり得ない程に頗る程快調であり、怪我したことさえ忘れて皆と一緒に歓喜の宴の輪に入りダンスを踊っている。
そんな状況で姫ちゃんはどうしているのか、姫ちゃんを探し出すのは凄く簡単、今回の立役者であるのであれば、輪の中心に居るはずよね、大きな輪となって、人だかりが生まれている場所に近づくと、人の垣根から姫ちゃんがコップを持ちながら照れくさそうに褒められているのが見える。
きっと、今後も姫ちゃんが活躍するたびにこうやって、姫ちゃんの周りにはいろんな人が集まっていくのだろう、出会って間もないのに、私の心はいつか私から離れていくのであろう姫ちゃんの姿を思い描てしまって切なくなってしまった。
そういえば、最初から最後まで姫ちゃんを護衛してくれた戦士の人の姿が見当たらないと思ったので何処だろうと周りを見るが見当たらない…あれよね?私達にしか見えていない亡霊とかじゃないわよね?偶々近くで美味しそうにご馳走を頬張っている医療班の人が居たので、それとなく聞いてみると、「病棟で点滴受けて寝てますよ、あ、勿論鎧は脱がせましたから。」と教えてくれるので胸を撫でおろすのと同時に、少し申し訳ない気持ちにもなってしまった。
どうやら、限界を超えて動いていた弊害で、安心しきって動けなくなったのね、あの人もいい年齢ですものね、限界以上に動いたからそりゃ、倒れるわよね。
病棟のある方角に向けてお辞儀をしてから、私も宴の輪に入って、食事と雰囲気を楽しむ、珍しくお酒も宴の席に用意されているのもあって、全員が雰囲気に酔い、お酒に酔って、楽しんでいた。
場の空気にあてられたのか体が火照ってくるので、少し離れた場所にあるベンチで体を冷ます。
ちょっと遠目で宴を眺めていると、そりゃそうなるわよね、生命の危機という一大事が終わった後だものね!生存本能が爆発するわよね!なによ!カップル増えてるじゃないのよ!!いちゃつく人が増えたわねぇ!!
はぁっと溜息をついた後、空を見上げる、月も傾き始めている、そんな月夜に独り寂しくっていうのも、悲しい物よね?若くして…私はまだ若いわよ?若いからね?んん、そう、若くして未亡人になるなんてね、せめて、子供を残していって欲しかったものよね…
天を見上げていると唐突に膝の上にドスンっと重みが来たなと思ったら体重を預けてくるじゃない、こんなことをするのは一人しか思い浮かばないわね。
そっと抱きしめて頭を撫でてあげる、うん、さらさらとして本当に綺麗な髪、触っていて気持ちが良いわね…でもお互い汗をかいたから、少し汗くさいわね、まぁ、これくらいなら許容範囲よ。
「お手柄ね姫ちゃん」
優しく声を掛けると小さな声でうんっと返ってくるが、先ほどの事態を思い出させてしまったのか手が震えている、優しく頭を撫でながら抱きしめてあげると震えている手がぎゅっと力強く私の服を掴んでくるのが伝わってくると全身が小さく震えだす、そうよね遠目とは言え、人外の生き物を見て、殺意を感じたのだから怖かったよね?よく頑張ったと思うわよ、死の大地に立つってだけでも相当な恐怖とストレスを感じるのに、本当に、この子は心が強いわね。
きっと、今の今まで、宴で楽しむ皆に心配されないために気丈に振舞っていたのでしょう、そして、少し遠くで休憩している私を見て駆け寄ってきて、抑え込んでいた感情をこうやって爆発させても問題ないと判断したのね。
受け止めてくれる相手をしっかりと見据えて、そのタイミングが来るのをしっかりと我慢強く耐えて、その瞬間が来たから爆発させているのね。
我慢強くて心が強い子ね…そんな子に甘えてもらえるのは光栄と考えるべきよね。
一瞬、姫ちゃんが離れていくのが寂しと切なさを感じてしまったけれど、その時が来るのはまだまだかかりそうね…その時に向かって私も心を強くしていかないといけないわね、子離れできない母親…それにならないようにしないとね。
姫ちゃんをあやしていると、何時の間にか、気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる、この子は本当に気が付くと寝るわね、まぁ、仕方がないわよね、何時もだったら寝ている時間ですもの、さて、姫ちゃんも眠ってしまったことですし、部屋に戻って寝ましょうか。
ゆっくりと立ち上がろうとすると坊やがこちらに向かって近づいてくるので、坊やの相手をしてからでもいいわね、そう思いベンチに座って坊やが近くに来るまで待っていると、やっぱりね、坊やは、私に用事があるみたいで話しかけてくるが内容は文句というか愚痴に近かったわね。
幼い子供に、戦場でなんて言葉を叫ばせて闘っている最中の僕に、声を掛けてくるのですかってね。
そりゃぁねぇ?貴方の気を引くには一番でしょ?
【乙女ちゃんとの秘密を幼い子に伝えられたくなかったら、えっと、胸の大きな、その胸をチラ見していた貴方に作戦を伝えるからよく聞きなさい】
という、文を一番最初に飛ばしてもらったのよ。それのおかげもあって、
「これは絶対に信用して耳を傾けないと死んだ後が怖いって思えたから、直ぐに気持ちを切り替えて意識をシフトすることが出来たので、感謝はしていますが、ちょっと恨みますよ?これを叫んだ姫様が僕のことをどんな風に印象付けるのか、かんがえてくれましたか?」
っという、恨みがましそうに文句を言われてしまったけれど、効果覿面でしょっとウィンクしながら言うと、小声で毒気が抜けたように脱力しながら「本当に、残念な人だ」って聞こえてきたけど?空耳よね?なに?喧嘩売ってるのなら買うわよ?
軽くため息をつかれたというか吐かれたというか、その後は一礼して宴の輪に戻る坊やを見届けてから、胸の中で夢の中に落ちた立役者を抱えて自室に戻る。
明日は明日で激務になるという予感と共に、寝ている姫ちゃんの服を着替えさせてから、私も着替えて、寝る前に魔力回復促進剤を二本開けて飲み干してから姫ちゃんと一緒に夢の中へと意識を進めていく…
次の日に起きた瞬間にやってくる忘れていたことを後悔するなんて、この時は想いもしていなかった…
次の日、激痛で目を覚ます。
腹筋が、背筋が、上腕二頭筋が、腰が、痛すぎてベッドから起き上がれなかった、そりゃそうよね、姫ちゃんを抱きしめながら走れば、足以外も来るわよね!!足しか回復しなかったわ!!寝起きというか、私が激痛で悶える声で起きてしまった姫ちゃんにお願いして、回復の陣を床に描いてもらって用意してもらった、何とかベッドから這いずりでて、陣の上に寝転がり、魔力を流して陣を起動させ全身を癒している間も、姫ちゃんはベッドに戻って眠りについていた…
っふ、冷たい床の上で寝転がって、片や、暖かい私の温もりがある柔らかいベッドで横になる、この差はいったい、何なのかしらね?悲しくなるわ…寝る前に、しっかりとケアを怠らなかったらこうはならなかったのよね…うぅ、明日を予想する、想像する力が乏しいのね私って…
姫ちゃん、せめてお母さんにひざ掛けとかタオルとかを、かけてくれる優しさを持って欲しいわね…
床から、伝わってくる冷たさと全身から伝わってくる痛みにもんどりを打ちながら、短いようで長く感じる午前を過ごしていく…
私も動き出そうとすると服を掴まれる…秘蔵の毒を敵にぶつける為の仕込みナイフとか用意したいのだけれど、どうやってこの子を納得させればいいのかしら?
視線を姫ちゃんに向けると、その眼差しは真っすぐ力強かった、足は震えているけれど、意志は強く固そうね、これは、言葉だけじゃ折れないわね…
どうしたものかと悩んでいると声がかけられる、部屋にはもう誰もいないと思っていたのに誰かしら?視線を声のする方に向けると
「俺が同行する」
先ほど血を吐いて開腹術式を施した人がいつの間にか、ドアに寄り添うように立っている
「手負いではあるが、団長と…姫様のおかげで動ける、あんただろう?あれを創ってくれたのは、麻酔から覚めてから教えてもらったよ」
しゃがんで姫ちゃんの目線に合わせて頭を下げて「俺はあんたの、姫様の槍になる、始祖様ほど、戦士長ほど、強くはない、だが、この命、俺はあんたに預けたいと思っている」騎士の誓いを姫ちゃんに捧げている、そうか、この人は確か貴族の出自だったわね、王都から派遣されていて長い間、この街を守ってきてくれた人だったわね。
目の前にいる騎士に「ありがとう、貴方の命預かるわ、お願い、私を現場に連れて行ってくれるかしら?」今着ている服はズボンだけど、まるでスカートを広げるように服を摘み、お辞儀をする、王国にいるかもしれない、本当の…王族の様に…王家に連なる姫の様に立ち振る舞う…
その姿を見た戦士も「ああ、ありがとう、俺の迷い彷徨う騎士道は今ここに道を得た…命に代えても姫様を守り通して見せるさ」
かっこつけるのも良いけれど、貴方、顔が真っ青よ?大丈夫?麻酔抜けきっていないんじゃないの?
そんな弱々しくも力強くあろうとする人と、姫ちゃんだけを戦場へと見送ることなんて出来るわけがないじゃない。
心の中でため息をつきながらも腹をくくる。戦場へと立ち入る覚悟を。
はぁ、仕方がないわね、私も付いて行くわよ。
やることが決まると部屋に残された三人、その三人が同時に動き出す、傷ついた戦士は自分の装備を取りに走る。
私達も、戦闘に向けて動きやすい服装に着替えに自室に走る。
ついでに、私は獣相手に使えるかわからないけれども、毒を持っていく、基本的に人に使う為にカクテルしてあるものばかりだけど、調整すれば獣相手にも通じると思うわ。
従来の獣達であれば通じる弓矢の矢じりにセットするような毒もしっかりと持ったし!行きましょう!死の大地へ!!
死の大地へ通じる門に到着すると傷ついた戦士もしっかりと防具に身を包み、槍をもって待機してくれているので、門を開けて死の大地へと一歩を踏み出す
踏み出すと同時に嫌な気配がするし、死に晒されていると感じる、気のせいでもなく、確実に命を狙われているような感覚がする。
ほんっと、嫌な大地ね…人という種を拒み過ぎでしょ?まぁ、そっちがこちらを憎いと思っているように私だってお前らを許す気はないわよ?
姫ちゃんの様子を見ると
「ほら!いこ!」
けろっと何も感じないのか平常心だった、足が震えている様子もない…あれ?怖くないの?胆が据わっているわね。土壇場になると冷静になるタイプ?
「なんか、ノイズが酷いから早くいこ、嫌な気配もするし、長くいたくないし、ほら、闘っている人がいつまで持つか、わからないんでしょ?急ごう」
のいず?耳鳴りの一種かしら?…耳を澄ましてみても、私にはわからない、わずかに、ほんのわずかに何かが聞こえるような気がするけれど、獣達の呼吸する音じゃないの?
戦士の人も動けそうなので、私は姫ちゃんを抱き上げて、戦士の人と共に駆け出す!ここから走って10分くらいなら姫ちゃんを抱っこしながらでも走り切れるわよ!たぶん!
走り続ける、幸いにも獣には遭遇せずにすみそうね、本来であれば、この辺りに獣たちは寄ってこないのに、どうして、二足歩行はここまで接近してきたのか理由がわからないけれど、考えるだけ無駄ね、獣共の考えなんぞ考えたくもないわ。
走り続ける、肺が苦しい、お腹が痛い、でも、速度を緩めるわけにはいかない、それに、目指す先の方向から意識を向けると、遠くで何かの音が聞こえる、近いわね
目視で小さな点と点が戦っているように見える距離に到達すると
「まって!ここでいい!視力を強化するからここからでも十分に観察できるからここでいいよ!」
姫ちゃんに制止されるので二人で立ち止まり、敵に見つかりにくくする為に私と姫ちゃんは野に伏せ、槍を持った戦士は直ぐにでも動き出せるように身を屈めながら息を潜め周囲を警戒する。
「…なんだ、大層なことをいうものだから、どんな人なのかと思ったら猿じゃん、っていうかゴリラじゃん…でも、大きい、それだけで厄介だね…」
姫ちゃんがぶつぶつと独り言を言っているのが聞こえる、そうか、二足歩行とか二本足とか言っていたような気がするから、それだけだと、敵の事が人かもって思ってしまうわね、姫ちゃんは私達の敵がどんな敵なのか具体的に知りえていないのかもしれないわね…
「お母さん、お願い、魔力を頂戴」
敵をずっと見つめ続ける姫ちゃんから唐突に声を掛けられたけれど、魔力が必要なの?…
気のすむようにしてあげよう、それにさっき視力を強化するって言っていたから視力とか聴力とか、そういうのを術式で強化しているのね、そんなことが出来るなんてね、普通では考えられないことも彼女なら知っているのは当然なのだろう。
言われたとおりに姫ちゃんの背中に手を入れて魔力を送ると、驚くことに、魔力を送り続けてもどんどんと、姫ちゃんの中に吸われるように、私の魔力を吸い尽くすんじゃないかってくらい魔力が姫ちゃんの中に流れ込んでいく?
いったい、何に魔力を使っているのかしら?姫ちゃんの様子を見ると額に汗をかいているし、ちょっと様子がおかしいわね、そっと脈を図るために首元に手を当てると心なしか早い?首元で計るの苦手なのよね…伏せてしまっているから手を取りにくいし、仕方がないわね、暫くは様子を見ましょう。
姫ちゃんの様子を見つつ、遠くで闘っている集団の様子を見る
良かったと考えるべきか、何をやっているのかと考えるべきか、二足歩行と闘っているのは坊やだけじゃなく、他にも3名が囲むように闘っているが、決め手に欠けているのがすぐにわかる、坊やが敵を挑発して攻撃を受けないように避けたりしている、盾で受け止めないようにしているのは盾の消耗を防ぐためでしょうね、パワータイプである敵の重い一撃である攻撃を、まともに、真正面から受けていたら盾なんてすぐに壊れてしまうのでしょうね。
坊やが挑発して相手取っている、その隙にその後ろから攻撃しようと他の人達が近寄るのだが、敵も近寄る人が居れば当然、そちらに意識が向いて攻撃しようとする、敵の視線を感じた瞬間に攻撃しようとした人は距離を取る為、何もできていない。
坊やが他の人に意識がそれた瞬間に槍を突きだすが…遠目でわからないわね、あれは当たっているの?当たっていないの?敵が腕を大きく振り回して坊やを振り払うようにしている辺り、坊やの攻撃が鬱陶しいと感じてはいそうね。
私の手持ちの毒を槍の切っ先に塗って渡せば、ちくちくと肌を刻めば何時かは毒で殺せそうな気がするけど、何日かかるんだってなるし、毒を常に槍に塗らないといけないから、毒が入った壺の様なものを用意しないといけないわね…そんな大量に毒なんてないわよ、魔道具を起動して抽出できる毒なんて魔力を代償にして生み出すものだから、多くを生み出せないのよ、私が全力で注いでも壺を満杯にするなんて出来るわけないし…何よりも敵に使うための毒じゃないのよ、麻酔とか、痛み止めとかに使用する毒なのよね、だから、敵に有効な毒ではないの、仮に麻酔が敵に有効かどうか。わからないのよね…
私なりにも戦術を考えてみるが、人と違って獣達を殺す手法なんて私は持ち合わせていないわよ…まって、これ何の記憶?私、人なんて殺してないわよ?
護衛術程度というか、人と組みあったり武器を持った人との戦い方は騎士様が手取り足取り教えてくれた至福の時間で、鮮明に記憶に残っているけれど、人を殺すことに特化した技術なんて私知らないわよね?…混ざって行っているってことなのね、これは私の中に巣くう病巣の記憶ね、厄介ね。
いや、厄介と考えずにこの知らない技術を応用できるくらい強かにならないと駄目ね、何か応用できそうな技術や、組み合わせ、何か、閃かないか考えましょう。
「っは!!はぁはぁはぁ、うわ、気持ち悪ぃ、そう…うん、うん!!掴めた!!この感覚使えるね」
姫ちゃんから声が聞こえるので視線を向けると大量の汗が湧き出ていて、どえらいことになってるじゃないの!?魔力を見る為の魔道具を置いてきたの失敗だったわ、大丈夫かしら?考え事をしていた間、魔力を渡していなかったから、出来る限りの魔力を譲渡していく。
「ありがとうお母さん凄く助かる、この術式は段階を分けておかないと危険だよね、見てる限り、5分かな?それくらい?」
姫ちゃんの言葉が何を意味するのか私にはわかりかねるけれど、たぶん、考え始めて何分経過したってことよね?たぶんだけど、5分か、そこらだと思うわよ、姫ちゃんって体内時計もしっかりしているのね…ん?見てる限り?何を見て時刻を判断したのかしら?
「お母さん急いで街に戻ろう!あと、前で闘っている人に希望と作戦の概要を伝えたいけどいいかな?」
いいけど、どうやって近寄るのかしら?これ以上、近寄れば近寄る程、危険になるわよ?っと伝えると
「大丈夫!音を拡声させつつ、私の声門を強化して、更に指向性を持たせて尚且つ、音の幅を狭めていけば、あの人だけに伝えることが出来るけれど、相手がびっくりするから、どういう風に伝えたら相手が驚かずに、言葉に耳を傾けてくれるかな?いい方法あるかな?」
言いたいことはわかったわ、ほぼ初対面、っていうか、会って話したこと殆どないわよね?何処かで会釈した程度、その程度しか関係を築けていない人に、命が左右される局面でどうやって言葉に信を乗せるのかってことよね、なら、私が伝えたほうが良くないかしら?
私がやろうか?っと返事を返すと、術式を書き出す紙とペンが無い、口頭で覚えきれるの?っと、耳が痛い言葉が返ってくる、複合術式、段階分けて発動でしょ?ぶっつけ本番できる内容じゃないわね。
そうなると言の葉に乗せる内容ってことよね、あいつが一撃で信頼できる言葉の内容、ないよう、そうね、これしかないわね
内容を伝えると、一瞬だけしかめっ面になる、本当にそれでいいの?っという表情ね、坊やの性格を考えるとそれが一番刺さるわよ?
まぁいいかと立ち上がって大きく息を吸い込んだかと思ったら何か叫んでる?叫んでるのに声が聞こえてこない?…どんな仕組みよそれ?
視線を坊やの方に向けると坊やが一瞬だけ動きが止まって、その一瞬を敵も見逃さずに攻撃を仕掛けてきて、あと一歩で当たりそうだったのを見るに、此方からの声は聞こえてはいるのね。
その姿を見た他の人達がカバーしに一斉に突撃して坊やから敵を引きはがして、坊やに時間を作らせてあげているじゃない。何よ、やるじゃない、って言いたいけど、遠目からでもわかるくらい危なかっしいわね、一人一人が敵と応待したら確実に殺されるくらいの力量なのね。
長いような、短いような、緊張した時間特有の不思議な感覚を感じていると、姫ちゃんがぜーはーっと呼吸を整えている。
大丈夫かしらと、心配で見ていると、視界の片隅で動く坊やが、槍を上に上げている
それを、見た姫ちゃんが「ありがとう!アドバイス通りにしたら伝わったみたい!伝わって了承してくれたら槍を掲げてって伝えたの!掲げてくれた!」
そして、直ぐに戻って仕度するよ!っと腕を掴まれたので姫ちゃんを抱き上げて街に戻る!!!運動不足の私じゃ、ちょっとしんどいけど!!護衛で傍に居てくれる顔が真っ青な戦士に託すわけにもいかないし、鎧の上から抱きしめられながら走るのって、姫ちゃんが痛いでしょうからね!
頑張れ私の筋肉!!唸れ心臓!!吸い込め空気ぃぃ!!!
頭の中ではうあああああああああああああああっという言葉しか思い浮かばない程、走ることだけに集中して今にも張り裂けそうな程、足の筋肉が悲鳴を上げているが、躊躇わず走り続ける。
街に到着すると、門の近くで色々と準備をしている医療班の人を見つけたので、姫ちゃんの言う通りの準備を始めて!っと声を荒げながら拒否という概念が思い浮かべない程の気迫だったのか、少し驚くというよりも気迫に押されて後ずさりするような感じで、頷かれてしまったのだけれど、ごめんなさいね!今余裕が無いの!!相手の事を気遣うような言葉選びなんて、今の私では余裕が無いのよ!!そこまで、そこまで、今の私では無理よぉ…
姫ちゃんを医療班の人に託すと同時にその場に転がるように倒れ込む、足が、足が、もう、無理、限界、肺も苦しい、お腹も痛い、横隔膜が痙攣しているわね、足があしのかんかくがわからないくらいプルプルと小さく痙攣しているのがわかる、はぁ、はぁ、きっつぅ…
痛みの余り太ももを摩り続けていると私の近くで青ざめた戦士がゆっくりと地面に腰を下ろしながら
「やっぱり、あんたは凄いな、あの人の傍に居続けてきただけはある」
私に声を掛けてくれるのはいいのだけど、貴方もやるじゃない、あの大怪我と、それを治す為に行った術によって大量に血が抜け落ちたのに、よく動けるわね?やるじゃない…
ちらりと視線を向けると、青ざめた顔だけど、走り続けた影響でほんのりと頬が赤くなっている、けど、苦悶の表情が崩れることは無く物凄く辛そうね、無理をするんじゃないわよ?って言いたいけれど、無理をするしか無いのよね…
少しでも回復を促す為に、懐に入れてある、姫ちゃんから受け取っている回復を促す術式が書かれている紙を取り出して太ももに当てて魔力を通そうとしたが…
姫ちゃんに魔力を注ぎ続けていた影響か、陣が起動しないわね…はぁ、仕方がない古風ではあるが、ストレッチにマッサージで、自分自身で回復力を高めるしかないわね…
疲労困憊の腕を地面に置いて、暫く呼吸を整えようとしていると、私の手からすっと紙を抜け取られる感触が伝わってくるので視線を向けると青ざめた戦士が手に取り
「これを、起動すればいいのか?」
そっと私の太ももに当てて陣を起動してくれる、あら、優しいのね、戦士職が辛くなったら医療班で働かない?肉体労働要因が足りていないのよね。
陣が起動してから徐々に足の痛みがドンドンと抜けていくのが感じる、よかった、表面だけ、目に見えている範囲しか効果がない可能性もあるわねって危惧していたけれどそんなことなかったわね、はぁ、癒されるわね…痛みがひいていくってだけでも嬉しいわ。
ある程度痛みが取れたので、立ち上がって足踏みをすると、うん、これなら、動けそうね!戦士から紙を受け取り姫ちゃんの手伝いに行くと伝えると戦士はここで暫しの間、仮眠をとって少しでも体力を回復させて決戦に備えるというので、その心意気を無碍にするのは良くないわね、仮眠室で寝ればっという一言を飲み込んで、頷いた後、姫ちゃんがいる場所に向かって駆ける。
姫ちゃんを探す方法なんて、とても簡単、何処かで人が大勢集まっていて、賑わっているその中心を見ればいるでしょ。
音がする方へと駆け寄ると、予想通り広場に大勢の人達が居るので、集団に近寄り中心に居る人物を見てみると、やっぱり姫ちゃんがいるわね。
集団に紛れながら姫ちゃんの説明を聞いていく、なるほど、敵の動きを封じて封殺する流れかしら?途中からでも何となく作戦の概要を理解できるけれど、あいつらにそういった類のことを仕掛けたことが無いから、有効なのかしら?そんなことを悩んでいたら、姫ちゃんの近くに奥様もいて、説明を聞いてる様子からみて、間違ってはいなさそう?間違っていたら止めているはずだもの、止める様子もなく真剣に話を聞いて準備を手伝っている。
私も何か手伝える事が無いか確認すると、もう殆ど終わっていて、今は失敗した時に備えて予備としての道具を作成したり、道具の最終点検と確認をしている。
その間に、作戦を実行するための戦士達が入念に道具の扱い方、使用方法を理解して何度も何度もどう動けばいいのかシミュレーションしている、作戦を遂行するのが弓部隊として長いこと闘い続けている人達なので信頼できる、投擲も得意ですものね。
そうこうしているうちに、全員の支度が出来たので現場に向かうのだけれど、姫ちゃんも向かうのは決まっているのね、だったら、私も行くわよ!今この瞬間だけは姫ちゃんの馬になってあげるわよ!!
先ほどまで足が震えていた私を姫ちゃんは知っているので、心配そうにしているが、駆け足は行きだけでしょ?帰りはピクニック気分でゆっくりと帰れるから、あと少しくらい頑張れるわよっと自慢げに言うと
「そうだね!帰りは絶対にピクニックにしてみせるから!任せて!」
嬉しそうに返事をしてくれる、私の遠回しの言葉、その意味がすぐわかるなんて、賢い子ね。
全員で急ぎ足で門に辿り着くと外に向かう一団を見て、直ぐに門の前で仮眠をとっていたであろう戦士が立ち上がり共に門を潜り、駆け出す。
駆け出している最中もぴったりと私達の傍を走りながらも、周囲を警戒しているその姿は本当に騎士そのものね、こうやって姫ちゃんのことを守ってくれる騎士が増えてくれるといいわね。
現場に到着すると同時に全員が持ち場に向かって走り出し、姫ちゃんもそれと同時に坊やに向かって大声で叫んでいるのに、周りに声が聞こえてこない不思議な感覚で合図を送ると坊やがすぐに槍を一瞬だけ掲げて合図を受け取ったと教えてくれる。
その合図と同時に弓兵が敵に向かって一本の矢を放つ、普通に矢を打てば避けられるのだが、常に坊やの背中に隠れるように敵から見つからないように敵の視線上に映りこまないように移動し、上手いこと敵の視覚から隠れた一撃は敵の虚を突き、しっかりと顔面に当たると同時に敵の目の前で物凄い光が生み出され辺り一面が光り輝いていた。
坊やも作戦の内容を知っているのでしっかりと盾を使って光で自分の目がやられないようにガードしている。
すかさず、敵の両サイドから弓が放たれる、敵が光によって何が起こったのか理解できないのか初めての体験なのかピクリとも動かないその一瞬に合わせて弓矢が放たれる。
両サイドから放たれた弓矢が確実に敵の耳元へと届き命中する、敵に直撃したのと同時に敵の耳元で轟音が鳴り響く!?こっちまで音が聞こえてくるほどの爆音!?大丈夫これ!?ほかの敵も寄ってこない!?
光と音によって敵の視覚と聴覚が遮断され敵が私達の動きを探るのに使用されるであろう感覚器、残された部分で遠距離から使用できるものは限られる
嗅覚
つまり、匂いを頼りに接近してくる可能性が高い、ずっと傍で闘ってきた相手の匂いくらい、獣であれば記憶しているだろう、敵を誘導する為か今この瞬間が好機と感じ取ったのか坊やが渾身の突きを繰り出すが敵が瞬時に何かが接近するのを感じ取ったのか、両手を使って喉元をガードしたため、槍が喉を貫くことは無かった。
坊やは、渾身の突きを放った後は、即座にバックステップで距離を離すと、敵は目の前にいる脅威である坊やを匂いで追う様に何も考えずに腕を上げて怒り心頭っという感じで追いかけてくる、口を開けて雄たけびを上げている段階って言うので、遠目でも見てわかるくらい、怒ってるわね、あれ、それに、閃光がしっかりと聞いているみたいで目を閉じて走ろうとしている
視覚も聴覚も失われた状態で、走ろうなんてよく思えれるわね、愚策よそれ?
姫ちゃんが合図を出すと、術式が扱える人が地面に杖を突きさして何か術式を発動した瞬間に敵が前のめりになるように重心がずれる?倒れる!?
何をしたのかと敵の足元を見ると、敵の足元が隆起して足を引っかけている!?そうか、そうよね、資格も聴覚も突如、失われたら当然よね!平衡感覚も狂うわよね!
そんな時にタイミングよく、長い時間、闘っていたフィールドにない筈のとっかかりが生まれているなんて想像も出来ないわよね!!
両手を挙げているのも仇となったわね!両手が地面に向かって振り下ろされ、前へ向かって走っていく力と、パワータイプならではの重量ある物質が前のめりに倒れ込もうとしているその状態であれば
通るわよね!!
坊やが敵の懐に飛び込んで、下から上へと天をも貫かんと言わんばかりの渾身の突きを、突き出すように、繰りだされた、渾身の突きが敵の喉元を貫き貫通する。
坊やの力+敵が両手を地面に向かって振り下ろす力+前に向かって走っていた力+敵の重み
それらが重なればいかな強固な皮膚であろうと骨であろうと!!貫くわよね!!凄いじゃない!やるじゃない!作戦は大成功ってわけね!
「油断しないで!離れて!!」
姫ちゃんが大声で叫んだ瞬間に坊やが槍をその場に置いて前方へ転がるように敵の距離を離したのが正解だった、敵は最後の一撃として、振り下ろした腕で地面を叩きつけていた、その威力や衝撃はすさまじく、距離がある私達の地面が揺れるほどだった、あの一撃を受け止めていたら坊やは死んでいたわね。
敵は喉を突き破って首の骨ごと貫いた槍が刺さり、両手を地面についた状態で絶命した…
敵がピクリとも動かなくなったのを見てから全員が敵の近くに行く。
ここが死の大地じゃなかったら大きな声で喜びを分かち合いたいのだが、全員、この大地に潜む敵の恐怖をしっているのでこれ以上、音を出すのは危険であると知っているので静かに勝利の余韻を味わっている。
坊やが槍を引き抜こうとしたときに姫ちゃんが
「あ!まって、抜かないで!そこまで綺麗に殺せるのって滅多にないよね?貴重なサンプルになると思うし、持ち帰って解析分析したいから!」
研究塔の皆が喜びそうな一言を言う辺り、根っからの研究者ねぇこの子は
こくりと頷く坊やと、数多くの戦士達が力を合わせて槍が付いた状態で二足歩行を運ぶ、幸いにも帰り道は他の敵に遭遇しなかった。
あんな爆音を出したのにどうして、他の敵が襲ってこなかったのかわからないし、知ることもないだろうけど、運が良かったと思いましょう。
門を潜り、敵の死体を広場まで運び終えた瞬間、死の大地から遠のいた、安全地帯にやってきたと感じた瞬間だった。
だって、視界的にもここが安全地域だって教えてくれるもの、全員が爆薬とか色んなものを準備していて、敵を迎え撃つ仕度をしていた人達がいるのだから。
非戦闘員である彼らが、私達と共に打ち取った敵の死体を見て、戦闘が終わったのだと、無事、作戦を終えて帰還したのだと視界にとらえ理解した、その瞬間に
その場にいた、全員が叫ぶ、歓喜の声で泣き叫ぶ、地面を震わせるほど皆が何度も何度も喜びを表現するためにその場で飛び跳ねる、建物が揺れていると錯覚するほどの大きな大きな声を張り上げながら。全員が歓喜の渦へと渦中へと喜んで飛び込んでいく。
その声はまさに、この街で何かが産まれたのかのような大きな大きな産声に聞こえた。
この街は姫ちゃんという心臓を得て、新しく産まれたのだ
気が付けば、宴会が始まっていた、飲めや歌えやという大宴会が始まっていた。
食堂のお姉さんですら爆薬片手に体を震わせて青ざめた表情で待機していた、そんな絶望的な状況が一瞬で歓喜の宴へと変貌している。
殺した敵の死体を中央に置いて、その近くで焚火をして大歓声が収まることなく全員がバカ騒ぎをしている。
当然よね、全員が死を覚悟して死を受け止めて、死ぬ未来しか想像できなかったのに、誰も死人が出なかった、そう、二足歩行と闘って誰も死ななかったというのが既に奇跡なのよ。
医療班として最大限頑張ったけれど、術後予後不良となって死ぬというケースすらなかった、姫ちゃんが用意した回復の術式のおかげで全員の予後が非常にあり得ない程に頗る程快調であり、怪我したことさえ忘れて皆と一緒に歓喜の宴の輪に入りダンスを踊っている。
そんな状況で姫ちゃんはどうしているのか、姫ちゃんを探し出すのは凄く簡単、今回の立役者であるのであれば、輪の中心に居るはずよね、大きな輪となって、人だかりが生まれている場所に近づくと、人の垣根から姫ちゃんがコップを持ちながら照れくさそうに褒められているのが見える。
きっと、今後も姫ちゃんが活躍するたびにこうやって、姫ちゃんの周りにはいろんな人が集まっていくのだろう、出会って間もないのに、私の心はいつか私から離れていくのであろう姫ちゃんの姿を思い描てしまって切なくなってしまった。
そういえば、最初から最後まで姫ちゃんを護衛してくれた戦士の人の姿が見当たらないと思ったので何処だろうと周りを見るが見当たらない…あれよね?私達にしか見えていない亡霊とかじゃないわよね?偶々近くで美味しそうにご馳走を頬張っている医療班の人が居たので、それとなく聞いてみると、「病棟で点滴受けて寝てますよ、あ、勿論鎧は脱がせましたから。」と教えてくれるので胸を撫でおろすのと同時に、少し申し訳ない気持ちにもなってしまった。
どうやら、限界を超えて動いていた弊害で、安心しきって動けなくなったのね、あの人もいい年齢ですものね、限界以上に動いたからそりゃ、倒れるわよね。
病棟のある方角に向けてお辞儀をしてから、私も宴の輪に入って、食事と雰囲気を楽しむ、珍しくお酒も宴の席に用意されているのもあって、全員が雰囲気に酔い、お酒に酔って、楽しんでいた。
場の空気にあてられたのか体が火照ってくるので、少し離れた場所にあるベンチで体を冷ます。
ちょっと遠目で宴を眺めていると、そりゃそうなるわよね、生命の危機という一大事が終わった後だものね!生存本能が爆発するわよね!なによ!カップル増えてるじゃないのよ!!いちゃつく人が増えたわねぇ!!
はぁっと溜息をついた後、空を見上げる、月も傾き始めている、そんな月夜に独り寂しくっていうのも、悲しい物よね?若くして…私はまだ若いわよ?若いからね?んん、そう、若くして未亡人になるなんてね、せめて、子供を残していって欲しかったものよね…
天を見上げていると唐突に膝の上にドスンっと重みが来たなと思ったら体重を預けてくるじゃない、こんなことをするのは一人しか思い浮かばないわね。
そっと抱きしめて頭を撫でてあげる、うん、さらさらとして本当に綺麗な髪、触っていて気持ちが良いわね…でもお互い汗をかいたから、少し汗くさいわね、まぁ、これくらいなら許容範囲よ。
「お手柄ね姫ちゃん」
優しく声を掛けると小さな声でうんっと返ってくるが、先ほどの事態を思い出させてしまったのか手が震えている、優しく頭を撫でながら抱きしめてあげると震えている手がぎゅっと力強く私の服を掴んでくるのが伝わってくると全身が小さく震えだす、そうよね遠目とは言え、人外の生き物を見て、殺意を感じたのだから怖かったよね?よく頑張ったと思うわよ、死の大地に立つってだけでも相当な恐怖とストレスを感じるのに、本当に、この子は心が強いわね。
きっと、今の今まで、宴で楽しむ皆に心配されないために気丈に振舞っていたのでしょう、そして、少し遠くで休憩している私を見て駆け寄ってきて、抑え込んでいた感情をこうやって爆発させても問題ないと判断したのね。
受け止めてくれる相手をしっかりと見据えて、そのタイミングが来るのをしっかりと我慢強く耐えて、その瞬間が来たから爆発させているのね。
我慢強くて心が強い子ね…そんな子に甘えてもらえるのは光栄と考えるべきよね。
一瞬、姫ちゃんが離れていくのが寂しと切なさを感じてしまったけれど、その時が来るのはまだまだかかりそうね…その時に向かって私も心を強くしていかないといけないわね、子離れできない母親…それにならないようにしないとね。
姫ちゃんをあやしていると、何時の間にか、気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる、この子は本当に気が付くと寝るわね、まぁ、仕方がないわよね、何時もだったら寝ている時間ですもの、さて、姫ちゃんも眠ってしまったことですし、部屋に戻って寝ましょうか。
ゆっくりと立ち上がろうとすると坊やがこちらに向かって近づいてくるので、坊やの相手をしてからでもいいわね、そう思いベンチに座って坊やが近くに来るまで待っていると、やっぱりね、坊やは、私に用事があるみたいで話しかけてくるが内容は文句というか愚痴に近かったわね。
幼い子供に、戦場でなんて言葉を叫ばせて闘っている最中の僕に、声を掛けてくるのですかってね。
そりゃぁねぇ?貴方の気を引くには一番でしょ?
【乙女ちゃんとの秘密を幼い子に伝えられたくなかったら、えっと、胸の大きな、その胸をチラ見していた貴方に作戦を伝えるからよく聞きなさい】
という、文を一番最初に飛ばしてもらったのよ。それのおかげもあって、
「これは絶対に信用して耳を傾けないと死んだ後が怖いって思えたから、直ぐに気持ちを切り替えて意識をシフトすることが出来たので、感謝はしていますが、ちょっと恨みますよ?これを叫んだ姫様が僕のことをどんな風に印象付けるのか、かんがえてくれましたか?」
っという、恨みがましそうに文句を言われてしまったけれど、効果覿面でしょっとウィンクしながら言うと、小声で毒気が抜けたように脱力しながら「本当に、残念な人だ」って聞こえてきたけど?空耳よね?なに?喧嘩売ってるのなら買うわよ?
軽くため息をつかれたというか吐かれたというか、その後は一礼して宴の輪に戻る坊やを見届けてから、胸の中で夢の中に落ちた立役者を抱えて自室に戻る。
明日は明日で激務になるという予感と共に、寝ている姫ちゃんの服を着替えさせてから、私も着替えて、寝る前に魔力回復促進剤を二本開けて飲み干してから姫ちゃんと一緒に夢の中へと意識を進めていく…
次の日に起きた瞬間にやってくる忘れていたことを後悔するなんて、この時は想いもしていなかった…
次の日、激痛で目を覚ます。
腹筋が、背筋が、上腕二頭筋が、腰が、痛すぎてベッドから起き上がれなかった、そりゃそうよね、姫ちゃんを抱きしめながら走れば、足以外も来るわよね!!足しか回復しなかったわ!!寝起きというか、私が激痛で悶える声で起きてしまった姫ちゃんにお願いして、回復の陣を床に描いてもらって用意してもらった、何とかベッドから這いずりでて、陣の上に寝転がり、魔力を流して陣を起動させ全身を癒している間も、姫ちゃんはベッドに戻って眠りについていた…
っふ、冷たい床の上で寝転がって、片や、暖かい私の温もりがある柔らかいベッドで横になる、この差はいったい、何なのかしらね?悲しくなるわ…寝る前に、しっかりとケアを怠らなかったらこうはならなかったのよね…うぅ、明日を予想する、想像する力が乏しいのね私って…
姫ちゃん、せめてお母さんにひざ掛けとかタオルとかを、かけてくれる優しさを持って欲しいわね…
床から、伝わってくる冷たさと全身から伝わってくる痛みにもんどりを打ちながら、短いようで長く感じる午前を過ごしていく…
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