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とある人物達が歩んできた道 ~ 封印術式5 ~
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私が嫌そうな顔をしているのが伝わってしまったみたいで
「お願いお願いお願い!!ちゃんと世話するから!!どういう風に風化していくのか、どんな感じで劣化するのか、どうやって崩れていくのか、形態変化はどの様にたどるのか見たいの!お願いお願いお願い!!!」そっと、肉片(使い魔)を床に置いてから私に抱き着いて可愛くおねだりしてくるわね、あと、おでこをお腹にぐりぐりと擦り付けないの!
はぁ、おかしいわね、会話の内容が拾ってきた猫を飼いたいっていうセリフの様に聞こえるのに、内容がマッドなサイエンティストなのよね。。。
「姫ちゃんの予想だとこいつは何日、状態を保てそうなの?」1日や2日くらいなら、腐ってもえげつない匂いはしないだろうし、問題はないわよね?これが保てる予測期間くらい姫ちゃんなら計算してるだろうし、それを聞いてから判断してもいいわよね?
「一か月!!!」
お腹から信じられない期間が飛んできたので、姫ちゃんが抱き着いてようがお構いなしに陣の上に置かれている肉片に向かおうとすると全力で踏ん張って私がそっちに行かないように抵抗される
「ダメダメダメダメ!!!やだやだやだやだやぁだぁ!!!貴重なの!きちょうなサンプルなのぉ!!!お願い!!次もこれ、造る予定ないじゃないの!!!お願いお願い!!!」
あなた!いがいと!ちからが!!あるのねぇ!!!そこそこ力を入れているのに進まないじゃないの!!
かなりの勢いで妨害してくるじゃない!心からの全力じゃないのよ!!…はぁ、しょうがないわねぇ…
私が前に進む力を弛めた瞬間に「いいの!?」がばっと顔を上げる、勢いよくお腹の下からから顔をあげるんじゃないの!胸にあたっていたいんだからぁもう…
「腐らない様にしたらいいわよ」その一言で目を輝かせて
「っじゃ冷蔵庫作るね!」元気な返事が返ってくるけれど、…ん?ちょっとまって、何を作るって?
そのまますぐに、わーいっと言いながら走っていく…恐らく研究塔に走って向かったのだろう…元気なことは良いことだけれど
部屋の惨状を見渡す、血液を取り出した血の跡が残っている注射器、よくわからない使用用途が不明の術式が描かれた陣が2枚、その陣の上に血痕が付着してしまっている、人の血痕なのか、豚の血痕なのか、見た目上ではわからないけれど血痕の痕跡がしっかりと残っているし、注射器があるという現場的状況で…自然と陣の上に残された血痕の痕跡は、人の血だと判断されるわね。
そして中央に人の形を模した肉片がよくわからないポージングのまま放置されている、姫ちゃんが動かしてそのままの姿勢で固まっているのね、なんで片腕は上に真っすぐ上げていてもう片方の手は腰に添えてて、片膝は曲げてて、もう片方の足は横に流れるように伸ばしているのかしら?なんのポーズよこれ?
もう一度、少し距離を置いて、部屋全体を見て思う感想はただ一つ
儀式だこれ…見る人が見れば勘ぐってしまう、これ、危険思想そのものじゃない?過去の文献に残っていた、悪魔崇拝とかしてるやつでしょ?
悪魔崇拝している人達を王族が率先して行った狩、貴族であれば全員が知っている歴史を思い出し、背筋が凍りそうになりながら慌てて片付けていく。
はぁ、まったくもう、元気なのは良いけれど!片付けてから行きなさいよ!誰かに見られたらどうするのよ!!
子供がいる母親ってきっと、こういう感じなのかもしれないわね、我儘に付き合って、我儘を補佐してね、陰ながらサポートしていくものなのね…
今一度、惨状を見渡して、湧き上がる感情、それはもう、ただ一つ…
不安
…私の体ってさ、これ、もつの?毎日がこれにならない?これ、私独りでどうにか出来る規模を超えてる、超えてるわよね?
私の時間全てを姫ちゃんのサポートに費やせば問題は無いと、思うわ、でも、医療班としての仕事もあるのよ、研究塔の仕事とかは、姫ちゃんに丸投げすればいいけれど、まだ、独りで作業をさせるのは不安なのよね、いつどこでまた、魔力が枯渇するかわからないもの。
姫ちゃんはさ、テンション上がってしまったり、楽しくなってしまうと、周りが見えないし、自分の体の事なんてお構いなしに突き進んでしまうから、しっかりと見てあげないといけないわよね。
どうにかして、姫ちゃんをサポート出来る存在を増やさないといけないわね、いっそのこと口の堅いメイドを雇う?…
無理ね、姫ちゃんの状況を理解して絶対に口を割らないような忠誠心の高い特殊なメイドなんて易々と見つかったりしないわ、それこそ、特殊な繋がりのある人物じゃないと斡旋してくれないわね。
脳裏にチラつく、王族の顔…駄目よね、あいつにさ、王都でもいっぱい借りを作っちゃったのにこれ以上、迷惑をかけれないわよ、あいつには些細なことよりも大局を見据えててほしい、あいつが王の座に辿り着く可能性はゼロじゃない、あいつが王の座についてから、おねだりをしてもいいわよね?だから、迷惑をかけるのは、今、じゃないわ。
だから、あいつが王の座を狙う為に動くのであれば、手を貸すのも…先を見据えるのなら貸すべきなのよね、問題はどうやってこの街にいる全員にそれを納得させるかってことよね、政権争いに手を貸すってことは、それが失敗するとなるとこの街を支えてくれている基本的な資本力は全部王都からなのよね…それを断たれる可能性があるのよね、それ即ち自分達の生活を苦しめる形になるのよね…
ただでさえ、予算がカツカツで凄く辛いのにねぇ?どうしたものかしら…
考え事をしながらも、片付ける作業を続けていく、肉片は取り合えず、箱の中に入れて人の目につかないようにしておけばいいでしょう。
一通り片付けが終わった瞬間にドアがゴンゴンっと大きな音がしたので、驚きの余り心臓の音が一気に耳まで聞こえそうなくらいバクんと跳ねる。
誰だろう?時刻を見ると、お昼に差し掛かろうとするような時間だし、先輩だったら急患だとしてもこんな荒々しくノックしないわよね?
「ど、どうぞー」
声と同時にドアが開くとあら、懐かしい顔じゃない、財務を管理してくれている王都から派遣されている人じゃない
「な、なんですか!?あの画期的な魔道具!!」
…話の流れが見えないわね、でも、可能性が高いのは…姫ちゃんね、ぇ?もう出来たの?冷蔵庫ってやつ、姫ちゃんが部屋から離れてたったの30分くらいよ?あ、違うわね、1時間ちょっとか、ぇ?じゃぁ、違うか?
「新しい敵から奪った魔道具からヒントを得たんですか!?」
っとなると、あれかしら?魔力を通すと毒が出てくるタイプの魔道具かしら?それは前々からあるし、画期的とは言い難いわね。
「研究塔預かりの内容でしたら、私よりも奥様に確認したほうが速いわよ?」医療班の団長である、私にその話をしても、ね?しょうがないわよね?あれかしら?奥様が見つからなかったのかしら?
「いえ、開発者さんからお聞きした内容だと貴女の名前を出されたので、貴女を通す様にと言われたのですが」
はい、もう姫ちゃんでしょそれ?
「その開発者さんってね、小さい?」
頷く
「可愛らしい?」
頷く
「姫ちゃんね…」
これはもう、姫ちゃんが何かを作ったのだろう、画期的な、それも短時間で、冷蔵庫って言っていたけれど、保冷庫みたいなものかしら?今ある保冷庫は確かに不便よ?敵から奪った魔道具で対象の温度を下げて凍らせる魔道具があるから、水槽に向かって発動させて、特大の氷を作って、削って保冷庫の上下にセットして箱の中の温度を下げるっていうものなのよね、姫ちゃんが言っていたのはたぶん、保冷庫の名前が違うだけでしょ?画期的かしら?
その事を伝えてみると
「ちが、違いますよ!!!王都でも見たことが無い品物ですよ!いいから来てください!」
あら、情熱的じゃない、私の二の腕を掴んで連れ去ろうなんて、ごめんなさいね?私には心に決めた人が居るのよ?
「そんなつもりないですよ!知ってますから!貴女の想い人を!!あの光景を見せられていたんですから知ってますから!いいから、付いて来てください!!」
心の声が漏れ出ていたみたいね、しょうがないわね、付いて行くとしますか。
連れられて現場に到着すると大勢の人の真ん中で姫ちゃんが得意げな声で、構造とか原理とか説明している
その時に何気ない質問が飛ぶと姫ちゃんがどう答えようか悩み慌てている、そうよね
何のためにこれを作ったの?
作りたいから作ったで通ればいいのだけれど、そうはいかないわよね、研究塔の資材を使って作っているのだから、何かしらの意図がないと駄目よね。
「はいはい、ちょっとごめんなさいね」
手を叩きながら輪の中に入っていくと、一斉に皆が静まり返るのだけれど?あれ?私って恐怖政治を敷いてきたわけじゃないのよ?みんなに恐れられてるわけじゃないのよ?違うわよね?
「あまり姫ちゃんを困らせないのー、姫ちゃんに造ってほしいって私が頼んだのよ、部屋に冷たい飲み物があると便利よねって、何気ない会話だったんだけどね、それを聞いた姫ちゃんが閃いたみたいで造ってくるって言うと駆け出して向かって行ったけど、まさか、ね、もう出来ちゃったの?」
姫ちゃんの肩に手を置いて目くばせをすると、慌ててこくこくと頷くと、周りがなんだ、あの人の差し金なら理由なんてないかっていう言葉が聞こえてきたのですけれど?誰よ、そんな風に私の事を見てる人は!?私って、理由もなく何かを強要したり…ふと思い出す、数々の所業…してきたわね、妥当な評価ね…
その後は、冷蔵庫がどういうものなのか説明を受けたのだけれど、画期的とかそういう次元じゃないわね、魔石さえあればこの中を一定の温度に保つなんて、何それ?今ある魔道具だと、一定の温度に保つっというのが不可能だったのよ、敵から奪った魔道具だと、一定どころか、かなりの熱を下げて凍らせるまで温度を下げてしまうもの。
物を保存する為に適した温度っていうのが出来ないのよね、私が保存する為に使っている魔道具もある意味一定の温度よ?ただし、術式が温度を下げる限界の温度っという意味で一定なのよね、つまり、今ある技術だと、凍らすか、燃やすかの二択なのよ、それをこちらの思うような温度に設定することが出来るってことよね?
物を保存するのに適した温度管理、今までは職人の手によって管理されていたものが術式で管理出来てしまうってことは、人の仕事が一つ減るということ、その分、他の作業が出来るってことよね?
ぁ、それだけじゃないのか、こんなに小型ってことは、馬車に搭載しても問題ないサイズ、重さは?あら、意外と軽いっていうか、かっる…ぇ?外は木箱で、気密性はないのね
「取り合えず試作機だから、簡易的に造っただけだよ?余ってる資材で仮組だよ?」
なるほど、予算をしっかりと出せばもっとしっかりとしたものが造れるってことなのよね…
問題は魔石ね、魔石は非常に高価なのよね…姫ちゃんにどれくらいの大きさの魔石がこれを起動するのに必要なのか確認すると、嘘でしょ?私が持っている小型の一番安い魔石で何とかなるってこと?それを連結させればいい?れ、んけつ?
聞きなれないワードに思考が追い付かないけれど、問題はこれに財務を管理する人が反応したってことは
財務の人を手招きして呼び寄せて一言だけ確認する
「これ、王都で売るとなると結構な資金源にならない?」
全力で頷かれる、決まりね生産して売ろう
「はい、皆さまに緊急ミッションでーす」
笑顔で私が大きな声を出した瞬間にその場にいた全員が身構える、あら~わかってるでしょ~?こ・の・な・が・れ♪
そこからは姫ちゃんを中心に研究塔のメンバーで冷蔵庫を完成させ、それを王都で販売して資金源を確保するプロジェクトがスタートした。
構造や素材、必要な術式などの図面が完成すると、後はもう生産するだけ、夕方になるころには、試作1号、2号と作ったので姫ちゃんはプロジェクトから外れて前々から着手していた馬車の改良などの研究に戻る
私は試作1号を受け取って部屋に戻り、魔石に魔力を込めてから、言われたとおりに魔石をセットする、しばらく放置してから箱の扉を開けて手を入れるとひんやりとしている、何度で保たれているのか、体温計で計ってみると、4度辺りでキープされているのがわかる…
たぶん、ふたを閉めていれば0度辺りにキープされるのだろう、蓋を閉める前に、姫ちゃんからの熱い要望で、肉片君を保存するとしましょう。
肉片君を中に入れて蓋をしてっと、これでいいのよね?明日になったら腐ってたりしないわよね?…そこは姫ちゃんを信じましょう。
…腐る?そのワードで脳に何かが走るような感覚に慌てて今朝方に頂いたモノを確認する…良かった、まだ腐った様な匂いはしない。
時刻は夕刻を過ぎた辺り、食堂は大忙しの時間よね?でも、これを腐らせるわけにはいかないものね…
はぁっと、溜息をつきながら食堂に向かう、溜息が零れるのはしょうがないでしょ?この後に待ち構えているであろう事態を考えれば必然的に零れ出るものよ…
予想通り、忙しい時間になんてものを持ってくるんだと、小言を言われ、責任をもって自分で調理しな!工程は教えてあげるからという流れになり、料理をすることに、エプロンをお借りして、髪の毛を後ろに束ねて、言われたとおりに工程を行えばいいだけ!
やれ、切り方が下手だの、大雑把だの、味付けが薄い、こっちは濃いで、中間は出来ないの?だとか、初心者にそういういびりは良くないわよ?お姉さま…
足の速い食材を見極めてもらい、尚且つ初心者でも調理が出来る内容にしてくれたのは助かるわよ?でもね、だんだんとヒートアップして私がミスをするたびにお尻を叩くのはやめていただきたいわね…せめて叩くのなら手で叩いてくださる?料理器具であるお玉で叩かないでもらえます?
苦労して作った豚の…なんだろこれ?焼いたモノに煮込んだもの?あと、野菜を焼いたもの?味付けは塩とおばちゃん特製のソース?よくわからないけれど、何かが出来たわ!!
出来た料理をテーブルに運んで食べようとしたら姫ちゃんも作業を終えたみたいで食堂に入ってきてこちらに向かってくる、正面に座っていただきまーすっと手を合わせて食べ始めるのだけれど、いただきます?食事の前の祈りの姿勢かしら?いただく、頂戴する?…言葉の意味がわからないけれど、姫ちゃんが育った土地に根付く風習かしら?
ぱくぱくと、よっぽどお腹が空いていたのか、ぱくぱくと、料理を食べていく、その姿を見るとちょっと嬉しい物ね、自分が作ったものをこんな風に美味しそうに食べてくれるのって
「なんで、今日、こんなに豚肉多いの?」
食べながら出てきた感想がそれって、貴女ねぇ!!せめて美味しいとかそういう感想が先じゃないの?
「今朝方に頂いた食材よ」
ふぅっとため息をつきながら私も自分で作った料理を口に運ぶ、あら?美味しいじゃない、お肉が体に染みるわぁ…よくよく考えれば今日は朝から重労働していたのだから、そりゃもう、お肉を体が欲しているからなのね。
「…あ!そういうこと?ぁーそっか、これよりし」
その先の言葉を言わないように視線で制すと姫ちゃんは直ぐに気が付いてくれたのでその先の言葉を言わないで黙々とご飯を食べていく
まったく、食堂っていう、色んな人がいる場所で不穏な言葉を言わないの、依り代だなんて、確実に何かしてる人しか言わない言葉よ?
姫ちゃんも今日は疲れているのか、本当にもりもりと食べていき、二人でも残るだろうなってくらいの量を二人で平らげてしまった。
「はぁ、まんぞくー!美味しかったぁ!」
嬉しそうな顔でソースが口の周りに残ってしまうくらい夢中に食べてくれた、その姿勢だけで心が満たされる。なんだろう、この、感覚?初めて感じるわね。
口の周りに着いたソースをハンカチで拭ってあげると
「今日の料理って、いつもと味付けがちょっと違うけど…お母さん作ったの?」
あら、気が付いていなかったの?っていうか、普段の味付けとか覚えてるのこの子?記憶力が凄いわね…
「そうよ、料理なんてしたことないのに、頑張ったでしょ?」
予想外の返答に驚いた顔と共に「すごい!初めてで料理って出来るんだ!!お母さん凄い!」嬉しそうな顔で褒めてくるじゃないの…
また、料理を作ってあげてもいいかなぁって思わせてくれるのだけれど、脳裏に過るのは調理中のしごきの数々…ちょっと簡便、願いたいわね、料理の師匠が手厳しすぎるのよ…
お腹が落ち着いたら二人で一緒にお風呂に入りに来たのだけれど、着替えているときに声を掛けられる、私が姫ちゃんの世話をしている姿を見て私も、してみたいという声を掛けてくる人がいた、誰だろうとよく見ると医療班の中でも若手側になる人なので、これもいい経験になるので、医療班としての洗体技能を伝えていくのもいいわね。
姫ちゃんにその事を伝えると、嫌そうな顔をする、あら?誰でも良いってわけではないのね?
技能訓練の一環だから、お願いできる?っと理由を添えて言うと「仕方がないなぁいいよー」むすっとした表情で了承してくれたので
姫ちゃんの体をお借りして洗体技能を伝えていく、大怪我した人の為にする介護技能だからね、私も先輩に教えてもらったのよね、懐かしいわね。
しっかりと洗い方を教えて、綺麗になった姫ちゃんを浴槽に放り込んでから、私も体を洗ってから、浴槽に向かう
ゆったりと浸かっている姫ちゃんは私が来るとスペースを開けてくれる
「ありがとうね」
狭いスペースを開けてくれることに感謝の言葉を述べると
「うーん、お風呂狭いよね、今日みたいに混んでる時間に来ると、狭いし、お湯もぬるい…」
まぁ、しょうがないじゃない、お風呂があるだけでも凄いことなのよ?先輩達が必死に懇願して作ってもらったものだからね?先輩が来た頃の世代なんて、お湯を沸かして、桶に入れて、その中に布を浸してから、体を拭いて、それから桶に座る様にはいって体の垢を落とすのよ?
こんな風に浴槽があるだけでも、凄いことなのよ?
何か考え事をしている姫ちゃんを浴槽から出して、腕を引っ張って行って、体を拭いて、服を着せて、そのまま手を引っ張って部屋に戻っていく。
この子は本当に考え出すと止まらないのよね、常に思考を止めない止まらないタイプなのね。
部屋に戻ってくると、試作冷蔵庫の蓋を開けて、肉片君を取り出して、形状に変化がないのか細かくチェックしてメモを取っている。
何か変化があるのか見た目上ではわからないわね、私も近くで観察すると姫ちゃんに袖を引っ張られるので何かと振り返ると魔力を見る為の魔道具を渡されるので、起動して、姫ちゃんの目の前に魔道具をセットしてあげる、その魔道具を通して肉片君をじっくりと観察する…
ずっと、魔道具を持っているのもしんどいわね、腕がプルプルとしてくると「ありがとう!」もう満足したのか、肉片君を冷蔵庫に入れて蓋を閉じ、メモを取ったり、紙に術式を書いたり、色々と考え事を始める。
長くなりそうなので、日持ちのする硬い焼き菓子を食べる為にお湯を沸かして紅茶を淹れてっと、集中している姫ちゃんの前にも硬い焼き菓子と紅茶を置いて、私も自身の机に紅茶と焼き菓子を置いてっと、最近さぼりがちな仕事をしないとね、医療班の問題点とかそういう連絡が回ってきているので、資料に目を通して、今後の方針とか勉強会とか開催する為の段取りを考えないといけないわね…
ちらりと姫ちゃんの方を見ると、頬も生気に満ちているように赤みがある、封印術式が施されたネグリジェのおかげで、かなり体調はよさそうだけれど、たぶん、これだけだとダメだと思う、完全に封印術式を完成させないと、きっと、この子の未来は…短いだろう。
医療班の意地とプライドに賭けても、この子の寿命を延ばして見せる、幸せな未来を勝ち取れるだけの人生を歩んでもらいたい。
もらいたいけれど、困ったことに、封印術式をどのように改良すればいいのか、私では何も出来ないってことなのよね、出来る事といえば、医学的な分野と、魔力を渡す事ね。
さぁ、今日の夜も長くなりそうね…
「お願いお願いお願い!!ちゃんと世話するから!!どういう風に風化していくのか、どんな感じで劣化するのか、どうやって崩れていくのか、形態変化はどの様にたどるのか見たいの!お願いお願いお願い!!!」そっと、肉片(使い魔)を床に置いてから私に抱き着いて可愛くおねだりしてくるわね、あと、おでこをお腹にぐりぐりと擦り付けないの!
はぁ、おかしいわね、会話の内容が拾ってきた猫を飼いたいっていうセリフの様に聞こえるのに、内容がマッドなサイエンティストなのよね。。。
「姫ちゃんの予想だとこいつは何日、状態を保てそうなの?」1日や2日くらいなら、腐ってもえげつない匂いはしないだろうし、問題はないわよね?これが保てる予測期間くらい姫ちゃんなら計算してるだろうし、それを聞いてから判断してもいいわよね?
「一か月!!!」
お腹から信じられない期間が飛んできたので、姫ちゃんが抱き着いてようがお構いなしに陣の上に置かれている肉片に向かおうとすると全力で踏ん張って私がそっちに行かないように抵抗される
「ダメダメダメダメ!!!やだやだやだやだやぁだぁ!!!貴重なの!きちょうなサンプルなのぉ!!!お願い!!次もこれ、造る予定ないじゃないの!!!お願いお願い!!!」
あなた!いがいと!ちからが!!あるのねぇ!!!そこそこ力を入れているのに進まないじゃないの!!
かなりの勢いで妨害してくるじゃない!心からの全力じゃないのよ!!…はぁ、しょうがないわねぇ…
私が前に進む力を弛めた瞬間に「いいの!?」がばっと顔を上げる、勢いよくお腹の下からから顔をあげるんじゃないの!胸にあたっていたいんだからぁもう…
「腐らない様にしたらいいわよ」その一言で目を輝かせて
「っじゃ冷蔵庫作るね!」元気な返事が返ってくるけれど、…ん?ちょっとまって、何を作るって?
そのまますぐに、わーいっと言いながら走っていく…恐らく研究塔に走って向かったのだろう…元気なことは良いことだけれど
部屋の惨状を見渡す、血液を取り出した血の跡が残っている注射器、よくわからない使用用途が不明の術式が描かれた陣が2枚、その陣の上に血痕が付着してしまっている、人の血痕なのか、豚の血痕なのか、見た目上ではわからないけれど血痕の痕跡がしっかりと残っているし、注射器があるという現場的状況で…自然と陣の上に残された血痕の痕跡は、人の血だと判断されるわね。
そして中央に人の形を模した肉片がよくわからないポージングのまま放置されている、姫ちゃんが動かしてそのままの姿勢で固まっているのね、なんで片腕は上に真っすぐ上げていてもう片方の手は腰に添えてて、片膝は曲げてて、もう片方の足は横に流れるように伸ばしているのかしら?なんのポーズよこれ?
もう一度、少し距離を置いて、部屋全体を見て思う感想はただ一つ
儀式だこれ…見る人が見れば勘ぐってしまう、これ、危険思想そのものじゃない?過去の文献に残っていた、悪魔崇拝とかしてるやつでしょ?
悪魔崇拝している人達を王族が率先して行った狩、貴族であれば全員が知っている歴史を思い出し、背筋が凍りそうになりながら慌てて片付けていく。
はぁ、まったくもう、元気なのは良いけれど!片付けてから行きなさいよ!誰かに見られたらどうするのよ!!
子供がいる母親ってきっと、こういう感じなのかもしれないわね、我儘に付き合って、我儘を補佐してね、陰ながらサポートしていくものなのね…
今一度、惨状を見渡して、湧き上がる感情、それはもう、ただ一つ…
不安
…私の体ってさ、これ、もつの?毎日がこれにならない?これ、私独りでどうにか出来る規模を超えてる、超えてるわよね?
私の時間全てを姫ちゃんのサポートに費やせば問題は無いと、思うわ、でも、医療班としての仕事もあるのよ、研究塔の仕事とかは、姫ちゃんに丸投げすればいいけれど、まだ、独りで作業をさせるのは不安なのよね、いつどこでまた、魔力が枯渇するかわからないもの。
姫ちゃんはさ、テンション上がってしまったり、楽しくなってしまうと、周りが見えないし、自分の体の事なんてお構いなしに突き進んでしまうから、しっかりと見てあげないといけないわよね。
どうにかして、姫ちゃんをサポート出来る存在を増やさないといけないわね、いっそのこと口の堅いメイドを雇う?…
無理ね、姫ちゃんの状況を理解して絶対に口を割らないような忠誠心の高い特殊なメイドなんて易々と見つかったりしないわ、それこそ、特殊な繋がりのある人物じゃないと斡旋してくれないわね。
脳裏にチラつく、王族の顔…駄目よね、あいつにさ、王都でもいっぱい借りを作っちゃったのにこれ以上、迷惑をかけれないわよ、あいつには些細なことよりも大局を見据えててほしい、あいつが王の座に辿り着く可能性はゼロじゃない、あいつが王の座についてから、おねだりをしてもいいわよね?だから、迷惑をかけるのは、今、じゃないわ。
だから、あいつが王の座を狙う為に動くのであれば、手を貸すのも…先を見据えるのなら貸すべきなのよね、問題はどうやってこの街にいる全員にそれを納得させるかってことよね、政権争いに手を貸すってことは、それが失敗するとなるとこの街を支えてくれている基本的な資本力は全部王都からなのよね…それを断たれる可能性があるのよね、それ即ち自分達の生活を苦しめる形になるのよね…
ただでさえ、予算がカツカツで凄く辛いのにねぇ?どうしたものかしら…
考え事をしながらも、片付ける作業を続けていく、肉片は取り合えず、箱の中に入れて人の目につかないようにしておけばいいでしょう。
一通り片付けが終わった瞬間にドアがゴンゴンっと大きな音がしたので、驚きの余り心臓の音が一気に耳まで聞こえそうなくらいバクんと跳ねる。
誰だろう?時刻を見ると、お昼に差し掛かろうとするような時間だし、先輩だったら急患だとしてもこんな荒々しくノックしないわよね?
「ど、どうぞー」
声と同時にドアが開くとあら、懐かしい顔じゃない、財務を管理してくれている王都から派遣されている人じゃない
「な、なんですか!?あの画期的な魔道具!!」
…話の流れが見えないわね、でも、可能性が高いのは…姫ちゃんね、ぇ?もう出来たの?冷蔵庫ってやつ、姫ちゃんが部屋から離れてたったの30分くらいよ?あ、違うわね、1時間ちょっとか、ぇ?じゃぁ、違うか?
「新しい敵から奪った魔道具からヒントを得たんですか!?」
っとなると、あれかしら?魔力を通すと毒が出てくるタイプの魔道具かしら?それは前々からあるし、画期的とは言い難いわね。
「研究塔預かりの内容でしたら、私よりも奥様に確認したほうが速いわよ?」医療班の団長である、私にその話をしても、ね?しょうがないわよね?あれかしら?奥様が見つからなかったのかしら?
「いえ、開発者さんからお聞きした内容だと貴女の名前を出されたので、貴女を通す様にと言われたのですが」
はい、もう姫ちゃんでしょそれ?
「その開発者さんってね、小さい?」
頷く
「可愛らしい?」
頷く
「姫ちゃんね…」
これはもう、姫ちゃんが何かを作ったのだろう、画期的な、それも短時間で、冷蔵庫って言っていたけれど、保冷庫みたいなものかしら?今ある保冷庫は確かに不便よ?敵から奪った魔道具で対象の温度を下げて凍らせる魔道具があるから、水槽に向かって発動させて、特大の氷を作って、削って保冷庫の上下にセットして箱の中の温度を下げるっていうものなのよね、姫ちゃんが言っていたのはたぶん、保冷庫の名前が違うだけでしょ?画期的かしら?
その事を伝えてみると
「ちが、違いますよ!!!王都でも見たことが無い品物ですよ!いいから来てください!」
あら、情熱的じゃない、私の二の腕を掴んで連れ去ろうなんて、ごめんなさいね?私には心に決めた人が居るのよ?
「そんなつもりないですよ!知ってますから!貴女の想い人を!!あの光景を見せられていたんですから知ってますから!いいから、付いて来てください!!」
心の声が漏れ出ていたみたいね、しょうがないわね、付いて行くとしますか。
連れられて現場に到着すると大勢の人の真ん中で姫ちゃんが得意げな声で、構造とか原理とか説明している
その時に何気ない質問が飛ぶと姫ちゃんがどう答えようか悩み慌てている、そうよね
何のためにこれを作ったの?
作りたいから作ったで通ればいいのだけれど、そうはいかないわよね、研究塔の資材を使って作っているのだから、何かしらの意図がないと駄目よね。
「はいはい、ちょっとごめんなさいね」
手を叩きながら輪の中に入っていくと、一斉に皆が静まり返るのだけれど?あれ?私って恐怖政治を敷いてきたわけじゃないのよ?みんなに恐れられてるわけじゃないのよ?違うわよね?
「あまり姫ちゃんを困らせないのー、姫ちゃんに造ってほしいって私が頼んだのよ、部屋に冷たい飲み物があると便利よねって、何気ない会話だったんだけどね、それを聞いた姫ちゃんが閃いたみたいで造ってくるって言うと駆け出して向かって行ったけど、まさか、ね、もう出来ちゃったの?」
姫ちゃんの肩に手を置いて目くばせをすると、慌ててこくこくと頷くと、周りがなんだ、あの人の差し金なら理由なんてないかっていう言葉が聞こえてきたのですけれど?誰よ、そんな風に私の事を見てる人は!?私って、理由もなく何かを強要したり…ふと思い出す、数々の所業…してきたわね、妥当な評価ね…
その後は、冷蔵庫がどういうものなのか説明を受けたのだけれど、画期的とかそういう次元じゃないわね、魔石さえあればこの中を一定の温度に保つなんて、何それ?今ある魔道具だと、一定の温度に保つっというのが不可能だったのよ、敵から奪った魔道具だと、一定どころか、かなりの熱を下げて凍らせるまで温度を下げてしまうもの。
物を保存する為に適した温度っていうのが出来ないのよね、私が保存する為に使っている魔道具もある意味一定の温度よ?ただし、術式が温度を下げる限界の温度っという意味で一定なのよね、つまり、今ある技術だと、凍らすか、燃やすかの二択なのよ、それをこちらの思うような温度に設定することが出来るってことよね?
物を保存するのに適した温度管理、今までは職人の手によって管理されていたものが術式で管理出来てしまうってことは、人の仕事が一つ減るということ、その分、他の作業が出来るってことよね?
ぁ、それだけじゃないのか、こんなに小型ってことは、馬車に搭載しても問題ないサイズ、重さは?あら、意外と軽いっていうか、かっる…ぇ?外は木箱で、気密性はないのね
「取り合えず試作機だから、簡易的に造っただけだよ?余ってる資材で仮組だよ?」
なるほど、予算をしっかりと出せばもっとしっかりとしたものが造れるってことなのよね…
問題は魔石ね、魔石は非常に高価なのよね…姫ちゃんにどれくらいの大きさの魔石がこれを起動するのに必要なのか確認すると、嘘でしょ?私が持っている小型の一番安い魔石で何とかなるってこと?それを連結させればいい?れ、んけつ?
聞きなれないワードに思考が追い付かないけれど、問題はこれに財務を管理する人が反応したってことは
財務の人を手招きして呼び寄せて一言だけ確認する
「これ、王都で売るとなると結構な資金源にならない?」
全力で頷かれる、決まりね生産して売ろう
「はい、皆さまに緊急ミッションでーす」
笑顔で私が大きな声を出した瞬間にその場にいた全員が身構える、あら~わかってるでしょ~?こ・の・な・が・れ♪
そこからは姫ちゃんを中心に研究塔のメンバーで冷蔵庫を完成させ、それを王都で販売して資金源を確保するプロジェクトがスタートした。
構造や素材、必要な術式などの図面が完成すると、後はもう生産するだけ、夕方になるころには、試作1号、2号と作ったので姫ちゃんはプロジェクトから外れて前々から着手していた馬車の改良などの研究に戻る
私は試作1号を受け取って部屋に戻り、魔石に魔力を込めてから、言われたとおりに魔石をセットする、しばらく放置してから箱の扉を開けて手を入れるとひんやりとしている、何度で保たれているのか、体温計で計ってみると、4度辺りでキープされているのがわかる…
たぶん、ふたを閉めていれば0度辺りにキープされるのだろう、蓋を閉める前に、姫ちゃんからの熱い要望で、肉片君を保存するとしましょう。
肉片君を中に入れて蓋をしてっと、これでいいのよね?明日になったら腐ってたりしないわよね?…そこは姫ちゃんを信じましょう。
…腐る?そのワードで脳に何かが走るような感覚に慌てて今朝方に頂いたモノを確認する…良かった、まだ腐った様な匂いはしない。
時刻は夕刻を過ぎた辺り、食堂は大忙しの時間よね?でも、これを腐らせるわけにはいかないものね…
はぁっと、溜息をつきながら食堂に向かう、溜息が零れるのはしょうがないでしょ?この後に待ち構えているであろう事態を考えれば必然的に零れ出るものよ…
予想通り、忙しい時間になんてものを持ってくるんだと、小言を言われ、責任をもって自分で調理しな!工程は教えてあげるからという流れになり、料理をすることに、エプロンをお借りして、髪の毛を後ろに束ねて、言われたとおりに工程を行えばいいだけ!
やれ、切り方が下手だの、大雑把だの、味付けが薄い、こっちは濃いで、中間は出来ないの?だとか、初心者にそういういびりは良くないわよ?お姉さま…
足の速い食材を見極めてもらい、尚且つ初心者でも調理が出来る内容にしてくれたのは助かるわよ?でもね、だんだんとヒートアップして私がミスをするたびにお尻を叩くのはやめていただきたいわね…せめて叩くのなら手で叩いてくださる?料理器具であるお玉で叩かないでもらえます?
苦労して作った豚の…なんだろこれ?焼いたモノに煮込んだもの?あと、野菜を焼いたもの?味付けは塩とおばちゃん特製のソース?よくわからないけれど、何かが出来たわ!!
出来た料理をテーブルに運んで食べようとしたら姫ちゃんも作業を終えたみたいで食堂に入ってきてこちらに向かってくる、正面に座っていただきまーすっと手を合わせて食べ始めるのだけれど、いただきます?食事の前の祈りの姿勢かしら?いただく、頂戴する?…言葉の意味がわからないけれど、姫ちゃんが育った土地に根付く風習かしら?
ぱくぱくと、よっぽどお腹が空いていたのか、ぱくぱくと、料理を食べていく、その姿を見るとちょっと嬉しい物ね、自分が作ったものをこんな風に美味しそうに食べてくれるのって
「なんで、今日、こんなに豚肉多いの?」
食べながら出てきた感想がそれって、貴女ねぇ!!せめて美味しいとかそういう感想が先じゃないの?
「今朝方に頂いた食材よ」
ふぅっとため息をつきながら私も自分で作った料理を口に運ぶ、あら?美味しいじゃない、お肉が体に染みるわぁ…よくよく考えれば今日は朝から重労働していたのだから、そりゃもう、お肉を体が欲しているからなのね。
「…あ!そういうこと?ぁーそっか、これよりし」
その先の言葉を言わないように視線で制すと姫ちゃんは直ぐに気が付いてくれたのでその先の言葉を言わないで黙々とご飯を食べていく
まったく、食堂っていう、色んな人がいる場所で不穏な言葉を言わないの、依り代だなんて、確実に何かしてる人しか言わない言葉よ?
姫ちゃんも今日は疲れているのか、本当にもりもりと食べていき、二人でも残るだろうなってくらいの量を二人で平らげてしまった。
「はぁ、まんぞくー!美味しかったぁ!」
嬉しそうな顔でソースが口の周りに残ってしまうくらい夢中に食べてくれた、その姿勢だけで心が満たされる。なんだろう、この、感覚?初めて感じるわね。
口の周りに着いたソースをハンカチで拭ってあげると
「今日の料理って、いつもと味付けがちょっと違うけど…お母さん作ったの?」
あら、気が付いていなかったの?っていうか、普段の味付けとか覚えてるのこの子?記憶力が凄いわね…
「そうよ、料理なんてしたことないのに、頑張ったでしょ?」
予想外の返答に驚いた顔と共に「すごい!初めてで料理って出来るんだ!!お母さん凄い!」嬉しそうな顔で褒めてくるじゃないの…
また、料理を作ってあげてもいいかなぁって思わせてくれるのだけれど、脳裏に過るのは調理中のしごきの数々…ちょっと簡便、願いたいわね、料理の師匠が手厳しすぎるのよ…
お腹が落ち着いたら二人で一緒にお風呂に入りに来たのだけれど、着替えているときに声を掛けられる、私が姫ちゃんの世話をしている姿を見て私も、してみたいという声を掛けてくる人がいた、誰だろうとよく見ると医療班の中でも若手側になる人なので、これもいい経験になるので、医療班としての洗体技能を伝えていくのもいいわね。
姫ちゃんにその事を伝えると、嫌そうな顔をする、あら?誰でも良いってわけではないのね?
技能訓練の一環だから、お願いできる?っと理由を添えて言うと「仕方がないなぁいいよー」むすっとした表情で了承してくれたので
姫ちゃんの体をお借りして洗体技能を伝えていく、大怪我した人の為にする介護技能だからね、私も先輩に教えてもらったのよね、懐かしいわね。
しっかりと洗い方を教えて、綺麗になった姫ちゃんを浴槽に放り込んでから、私も体を洗ってから、浴槽に向かう
ゆったりと浸かっている姫ちゃんは私が来るとスペースを開けてくれる
「ありがとうね」
狭いスペースを開けてくれることに感謝の言葉を述べると
「うーん、お風呂狭いよね、今日みたいに混んでる時間に来ると、狭いし、お湯もぬるい…」
まぁ、しょうがないじゃない、お風呂があるだけでも凄いことなのよ?先輩達が必死に懇願して作ってもらったものだからね?先輩が来た頃の世代なんて、お湯を沸かして、桶に入れて、その中に布を浸してから、体を拭いて、それから桶に座る様にはいって体の垢を落とすのよ?
こんな風に浴槽があるだけでも、凄いことなのよ?
何か考え事をしている姫ちゃんを浴槽から出して、腕を引っ張って行って、体を拭いて、服を着せて、そのまま手を引っ張って部屋に戻っていく。
この子は本当に考え出すと止まらないのよね、常に思考を止めない止まらないタイプなのね。
部屋に戻ってくると、試作冷蔵庫の蓋を開けて、肉片君を取り出して、形状に変化がないのか細かくチェックしてメモを取っている。
何か変化があるのか見た目上ではわからないわね、私も近くで観察すると姫ちゃんに袖を引っ張られるので何かと振り返ると魔力を見る為の魔道具を渡されるので、起動して、姫ちゃんの目の前に魔道具をセットしてあげる、その魔道具を通して肉片君をじっくりと観察する…
ずっと、魔道具を持っているのもしんどいわね、腕がプルプルとしてくると「ありがとう!」もう満足したのか、肉片君を冷蔵庫に入れて蓋を閉じ、メモを取ったり、紙に術式を書いたり、色々と考え事を始める。
長くなりそうなので、日持ちのする硬い焼き菓子を食べる為にお湯を沸かして紅茶を淹れてっと、集中している姫ちゃんの前にも硬い焼き菓子と紅茶を置いて、私も自身の机に紅茶と焼き菓子を置いてっと、最近さぼりがちな仕事をしないとね、医療班の問題点とかそういう連絡が回ってきているので、資料に目を通して、今後の方針とか勉強会とか開催する為の段取りを考えないといけないわね…
ちらりと姫ちゃんの方を見ると、頬も生気に満ちているように赤みがある、封印術式が施されたネグリジェのおかげで、かなり体調はよさそうだけれど、たぶん、これだけだとダメだと思う、完全に封印術式を完成させないと、きっと、この子の未来は…短いだろう。
医療班の意地とプライドに賭けても、この子の寿命を延ばして見せる、幸せな未来を勝ち取れるだけの人生を歩んでもらいたい。
もらいたいけれど、困ったことに、封印術式をどのように改良すればいいのか、私では何も出来ないってことなのよね、出来る事といえば、医学的な分野と、魔力を渡す事ね。
さぁ、今日の夜も長くなりそうね…
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