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人類生存圏を創造する 始祖様の秘術をここに FIn
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考えても考えても、何も思いつかない、この先に待ち受ける試練を乗り越える方法が何も、思いつかない
何時だって月は私達を照らし続けてくれる、答えを求めて頭上を見上げる、悲しいことに声を聞こえたことはない、何かが見えたことはない。
天を見上げたまま、
子守唄を唄い続ける、その声にはもう本来の意味である優しさや我が子の生末を見守る愛の歌ではなく、悲しみで包まれている、子供をあやす為の歌ではなくなりつつある、絶望と悲しみが織り交ざったような悲哀漂う悲しい歌に変貌していく、涙を流しながら絶望に胸が締め付けられていき、生きていることを後悔するような気分にまで落ち込んでいく。
自分の弱さにここまで愛想をつかしたことはない、魔力が枯渇しているからといって、ここまで絶望を感じたことはない…
純粋に今の現状を打破する方法が無さ過ぎて、死という甘いあまい、甘言に惑わされ続けているだけ、耳元で永遠にささやかれる、
諦めろ、お前では無理だ、諦めろ、その血を絶やせ、消えろ、死を選べ、全てを忘れて、選べ、全てを諦めろ、選べ、全ては無へと消えろ
死を選べ
こびりつく様に永遠と繰り返される死へと招こうとする声、幻聴だとわかっている、わかっているけれど、誘われそうになる、色んな時代の戦士達はずっと、戦場で聞こえていたと言われる声がきっとこれの類なのだろう…
怖さに震えて姫様を抱きしめてしまう、抱きしめた姫様は小さな寝息しか聞こえてこない、いつものように、窮地に立たされまいと私達を鼓舞するために言ってくれる言葉
「任せて!」
笑顔で応えてくれることはない、今になっても思う、あの声と自信満々に返事を返してくれるの姿勢こそが希望だったのだと
こんな命短し乙女に私達は幾重にも希望を重ねていた、それが失ったのだと、知っているのは私達だけ、今私が感じている恐怖を窮地に立たされている人達が知ったら、甘いあまい、現実から逃げてしまいたくなる、その心が甘言に惑わされて消えゆくだろう…
抱きしめている姫様が寒そうに身を震わせる、ごめんね、長いこと夜風に当ててしまったね、かえろう、かえろう…
本当ならあの街に帰って皆に泣きつきたい、弱音を吐き捨てたい、皆に支えてもらいたい…なんて醜く弱い心なのだろう、どうして、私はこんなにも弱くなってしまったの?
少しでも涙を拭って、現場にいる皆を不安にさせないために姿だけでも見える場所だけでも気丈に振舞おう、不安やおそれ、死の招きを伝播させてはいけない
上に立つ人がそんな状態ではダメだ、お父さんならどんなに不安で辛い旅路であろうと決して弱気を見せなかったはずだよね?
お父さん、僕に私に、勇気をわけてください
現場に戻ってくると全員が声を荒げている?心臓が止まりそうになる
急いで近くに生き現状を確認する、近づいて聞こえた第一声が脳を停止させる
壁にひびがはいった?
その言葉だけで危機的状況になっていると一瞬で理解する。
宰相から現場では幾重と妨害を重ねているが、敵の気を逸らし続けるのは不可能で、短絡的な考えの敵は全力で一点の壁を殴り続ける音が聞こえる
愚直に真っすぐに拳を突き出す音が聞こえる、その先に僕たち人類が居る砦がある方向に向かって真っすぐに拳を突き出している
音が永遠と続く、こちら側も何もしていないわけじゃない、ありとあらゆる妨害を試みているが相手は一切反応せず、拳を、壁を殴る音が聞こえなくなることは無かった、毒をまき散らしても、油を投下して、火を放っても、何も反応せずに壁を殴る音だけが聞こえ続けている
その音に、恐怖した者たちも数多くいて、意識を失ってしまった隊員がいる。
目の前にある恐怖そのものに耐え切れなくなっているのだろう、後退すれば王都が滅ぶ、だけど、目の前にある死を体現した獣に為す術がない、ただ、妨害するしか方法が無い具体的に有効的な希望が無い…
使う時じゃないのだろうか?姫様しか組み立て方法を知らないわけがない、始祖様の秘術であるホーリーバーストを使用する場面だと思う、敵の攻撃によってヒビ割れた壁が崩れる瞬間に打てば、当たるんじゃないの?…避けられたらどうする?連発は可能なのか?連発する前に当てる前に敵を捕らえることが出来るのか?ただ、無駄に魔力と消耗させてはいけないパーツを消耗させて、次なる脅威に太刀打ちできなくなるのではないだろうか?
四の五の言ってられない…か
「ねぇ、アレの組み立て方は知ってる?」
この一言で戦乙女ちゃんが頷く、使うときは今しかないわね、プランCだっけ?魔力を送ればあれを起動することが出来るはず、なら
声を出そうとした瞬間、腕を掴まれる、腕を掴んだ人の顔を見ると涙を流している…声を出さないで、その先の絶望の声を
「知っています、でも、あれを制御する術式は…姫様しか知りえません」
よくよく思い出すと、あの魔道具を使うときは姫様が何かしら操作していた、つまり、あれを制御する為の何かしらの術式が必要ってこと?
考えたくないことが耳元で囁かれる
あの魔力の渦が暴発したらどうなる?
言うまでもない、南の砦は蒸発する…もしくは、眼前の敵に吸収されて結果的に滅びる、宰相も王都も…
一か八かで、起動させてみる?何処かで試しに照射してみる?せめて、制御する為に必要な術式がメモされていれば、王都の精鋭であれば、実現可能じゃないの?
長考する暇なんて無いよね、確実な選択肢を、人類が生きる為の贄を用意しましょう。
確かな方法はただ一つだけある
あまい、あまい、しのかおり…その甘い果実を私にちょうだい、その代わり、全てを終わらせてね?
耳元で囁き続ける何かが消えていく、笑みを浮かべながら消えていく…
女将も同じ気持ちの様だった、私、独りでは心細く難しいかもしれない、けれど、貴女となら…
姫様を戦乙女ちゃんにゆっくりと渡し「これから先の判断は貴女に託します」そう呟くと、戦乙女ちゃんの顔から表情が消え、言葉の意図を瞬時に理解し顔が強張っていく
唇が震え、何かを言おうとしているが声がでないのだろう。
女将と一緒に最終点検をする、女将の武器は砦に行けば何かしらあるだろう、私の武器は手持ちのナイフでいい、お父さんが導いてくれる
魔道具から叫び声が聞こえた…私達が到着するまで持ちこたえてね!車に向かおうとしたとき
「ダメだって、言ったでしょ?」
声が聞こえた、私達の希望の声が
「…ここが、そう、使うしかないっか、うん、そうだね、使おう、最後のカードを私達の…寵愛の巫女が持てる最後の切り札を…私の代で終わらせるね、お母さん」
姫様がすっと立ち上がって何処を見ているのかわからない目で何かと話をしている
「団長、女将、今までありがとう、貴女達が居たから私は私でいられました、永劫の孤独を…いいえ、それは関係のない話ね」
意識が混乱しているの?言葉の意味が解らない
姫様が意識を取り戻したことへの喜びが勝らないといけないのに、全力で止めろと男の私が叫んでいる、失うぞと叫び続けている
「何をするつもり?貴女は、何を犠牲にするの!?」
人類の未来を考えれば生きるべきは姫様で、私じゃない!わたしじゃないの!おねがい、いかないで!
「これでいいの、残された時間もない、これでいいの」
さようなら、団長、後はお願いね
その言葉が私の耳に届くと同時に空から月が消え、辺り一面が闇に包まれる
「寵愛の巫女が捧げる最後の祈り、願い奉ります、大いなる力の本流、我らに寵愛を注ぎたもうた、愛する始祖よ、その名を捧げ、返します。永劫の中、愛を捧げてくださり感謝します、その寵愛の枷を外し、最後の願いを聞き届けたまえ、 スゥピィアカラン 大いなる始祖様の名を捧げ、奇跡を願います」
言葉が紡がれると、闇の中に一点の光が姫様の頭上に現れる
声が聞こえる、音を発生させる器官なんて持ちえていないただの、光源から音が聞こえる
もう、いいのか?
その声を聞くだけで涙があふれ、全身が歓喜に包まれる、全身の細胞が反応する、その声こそ、超常たる存在、私達に全てを与えてくれた始まりの人
はい、ありがとうございます、何代にもわたって私達を見守ってくださり心から感謝をしております。
愛する巫女よ、その生涯に、次代に、満足できたのだな、良い、次なる時があれば、存分に語れ、今までよくぞ耐えたな
お褒め頂きありがとうございます。私もね、貴方のおかげでね、色々と出来たんだよ?ありがとう、お願い、人類を救って…
その願い聞き届けたり、始祖たる我が名はスゥピィアカラン、天祖たる組織に与する一つの弾丸、悪しきは星喰いの獣、先兵を打ち滅ぼしてくれん!!!
光が姫様の中に入っていくと、姫様の体から大きな光が迸る
「これが、始祖様の魔力、すごい、こんなにも凄い魔力、世界だって滅ぼせてしまいそう」
姫様が光の一点を指先に集め、大きく空に向かって指先を掲げると、指先から空に向かって一筋の光が放たれる
月の光が消えた、この暗闇のせかいで、眩く輝く一筋の光は、まさに人類の未来へと繋がる柱…細胞が理解するあれこそが、私達が欲していた大いなる力
その莫大な力を宿した光が空に向かって上昇していく、まさに太陽そのものと思う程の光が天高く舞い上がっていく、その光は凄まじく、大陸の果てまでを照らすようだ
「ほーりー…れい…」
姫様が発した言葉と共に上空で光が弾け、弾けた光が大地へと降り注いでいく、その数は数えきれないほど
星が大地へと降り注いでる、その光景は、世界の終わりだと告げられても信じてしまいそうなほどの神秘的な光景が眼前に広がっていく、そして、その真ん中で姫様は両手を大きく広げて恍惚とした表情で笑っている
光が落ちる先を見つめる、多くは南の大地へ、多くは北の大地へ、一つは海へと、輝く光が落ちていく
全ての光が落ち切った後、闇は消え、月が光を取り戻し、私達の頭上へと戻り、世界を光で満たす
その直後、姫様は大地に吸い込まれる様に倒れていく
慌てて駆け寄り抱き起すが、姫様からは体温が失われていくのが解る…心臓の鼓動が弱々しくなっていくのがわかる…
死なせるわけにはいかない、ありとあらゆる方法で命を繋ぎ止めないと、呼吸が浅いので、人工呼吸をして強引に酸素を放り込む、心臓はまだ鼓動しているので心臓マッサージはしない、全身から魔力を捻り出し注ぐために魔力を放出する、だけど、感覚が違う?前とは違う、魔力を注ごうにも蓋がされている?届かない?
魔力を通す穴がふさがってしまったってこと?…死体に魔力は無い…
死体にしなければいいだけじゃない、姫様から過去に聞いたことがある、電気という存在をひとの神経は電気という物質で動いていると
イメージする、指先を握る時の感覚を、イメージする、脳から電気という物質が発生し、私の指先に伝える
その感覚を掴む!!!何度も何度も指先を動かし、脳から電気という物質が発生する感覚を掴む!!!!
全身の魔力を脳に集中させ反応させる!電気という物質を得るために!!!
見えるはずのない、自身の脳が見えた、さらに深く潜り、脳細胞まで深く潜ったその刹那、微かに光り輝くものが見えた
これが電気
そのイメージを忘れないように魔力を変質させる電気へと、人差し指と親指の間から一筋の歪な青白い光が走ったのが見える。
そのイメージを保ったまま弱っていく姫様の心臓へと電気を流し、止まらせないようにする!!!
電気を発生させるリズムは常に一定、私の心臓とリンクさせる、鼓膜に魔力を送り、聞こえる音を選定させる、姫様の呼吸と心音のみに反応させる
私の持てる全てをこれに集約させる、姫様の心臓が自身の力で鼓動を再開させるまで、これを続ける、魔力?そんなものどこからでも捻り出せるでしょ!!!
放出した魔力が姫様の体内へと染みていく感覚が伝わってくる!だけど、魔力を電気に変貌させているだけで私の精神力は
「ここで、きばらなきゃ、駄目だよねぇ」
音をシャットアウトしていたはずなのに、声が聞こえてくる、女将の声が、女将の体から魔力が溢れ出てくる女将の手が姫様の体に触れると、女将から放出された魔力が姫様に注がれていく
「魔力を放出すればいいのだな」
術士の二人も同じように全身から魔力を放出し一点に集めていく、集められた魔力を女将が、かみつくようにすると女将の体内へと吸収され、女将の体を通して姫様へと魔力が注がれていく
「お願い、さようならなんて、言わないで!これから先も!言わせない!!」
魔力の扱いに長けていない戦乙女ちゃん達も全身から魔力を放出し一点に集める、魔力の扱いに慣れていない人がそれをすれば死ぬかもしれないんだよ!?
集められた魔力を、女将がかみつくようにすると、同じように魔力は女将の体へと吸収され、女将の中で女将の魔力へと変貌し、放出され姫様の体へと吸い込まれていく
女将の髪の色も真っ白になる、術士の二人も真っ白になる、戦乙女ちゃん達も真っ白になっていく
お願い!姫様、死なないで、貴女は人類の光、希望なのお願いだから、帰ってきて!!!
女将から注がられる全ての魔力が姫様の体へと沈み込んでいくと、姫様から体温が戻ってくるのを感じる、心臓が自然と自身の力で動き出し、呼吸も安定してくる
峠を越えた、その瞬間に声が聞こえる
【溢れ出る魔力が零れないように封印しろ】
脳裏に今まで見たことのない術士が鮮明に浮かび上がり、その術式を我が血を触媒とし、姫様の皮膚へと刻む
その瞬間、姫様の体から眩く光が輝き、脳内に見えた術式が姫様の体に浮かび上がる
【術式は完成した、俺の出番はここまでだ、な、たのし…】
声が聞こえなくなると、同時に現状を確認するために動き出す
慌てて、横になっている姫様の体温や脈拍、血圧を測定すると安定していた…
一命をとりとめたのだ…
溢れ出る喜びに声に言葉にならない音が辺り一面に響き渡る
喜びを分かち合おうと隣を見ると全員が真っ白になって倒れていて、起き上がれる様子は無かった。
限界を超えたからこそ、姫様の命を繋ぎ止めたのだと感じる
そして、姫様と始祖様が力を貸してくれた結果なんて聞くまでもない…
近くで鳴り響く声がする場所に歩いていき、状況を確認する
通信の魔道具、二つから歓喜の声が聞こえてくる
どれも声にならないような絶叫するような雄たけびのような声で何を言っているのかわかりづらかったけれど
聞き取れた言葉がある
獣は
滅んだ
見える
範囲の
獣が
蒸発した
その言葉が意味することは
目に見える範囲全ての、獣が光によって蒸発したのだろう。
つまり、望遠鏡で見える範囲全てだ
終わったんだ、私達の戦争は、戦いは、人類の生存をかけた、苦難の長い長い道のりは終わりを告げたんだ、始祖様が全てを打ち滅ぼしてくれたんだ
だって、南にも北にも、そして、海にも光が流れていくのが見えた、あの光に包まれて獣たちは滅んだ、人類は窮地を脱したんだ。
通信魔道具から聞こえてくる音が、全てが終わったのだと告げる終末の歌のように聞こえてくる、その歌が徐々に子守唄のように聞こえてきて、私の意識は闇へと誘われていく
意識が落ちる瞬間に耳元で
次は無いと聞こえた…気がした…
何時だって月は私達を照らし続けてくれる、答えを求めて頭上を見上げる、悲しいことに声を聞こえたことはない、何かが見えたことはない。
天を見上げたまま、
子守唄を唄い続ける、その声にはもう本来の意味である優しさや我が子の生末を見守る愛の歌ではなく、悲しみで包まれている、子供をあやす為の歌ではなくなりつつある、絶望と悲しみが織り交ざったような悲哀漂う悲しい歌に変貌していく、涙を流しながら絶望に胸が締め付けられていき、生きていることを後悔するような気分にまで落ち込んでいく。
自分の弱さにここまで愛想をつかしたことはない、魔力が枯渇しているからといって、ここまで絶望を感じたことはない…
純粋に今の現状を打破する方法が無さ過ぎて、死という甘いあまい、甘言に惑わされ続けているだけ、耳元で永遠にささやかれる、
諦めろ、お前では無理だ、諦めろ、その血を絶やせ、消えろ、死を選べ、全てを忘れて、選べ、全てを諦めろ、選べ、全ては無へと消えろ
死を選べ
こびりつく様に永遠と繰り返される死へと招こうとする声、幻聴だとわかっている、わかっているけれど、誘われそうになる、色んな時代の戦士達はずっと、戦場で聞こえていたと言われる声がきっとこれの類なのだろう…
怖さに震えて姫様を抱きしめてしまう、抱きしめた姫様は小さな寝息しか聞こえてこない、いつものように、窮地に立たされまいと私達を鼓舞するために言ってくれる言葉
「任せて!」
笑顔で応えてくれることはない、今になっても思う、あの声と自信満々に返事を返してくれるの姿勢こそが希望だったのだと
こんな命短し乙女に私達は幾重にも希望を重ねていた、それが失ったのだと、知っているのは私達だけ、今私が感じている恐怖を窮地に立たされている人達が知ったら、甘いあまい、現実から逃げてしまいたくなる、その心が甘言に惑わされて消えゆくだろう…
抱きしめている姫様が寒そうに身を震わせる、ごめんね、長いこと夜風に当ててしまったね、かえろう、かえろう…
本当ならあの街に帰って皆に泣きつきたい、弱音を吐き捨てたい、皆に支えてもらいたい…なんて醜く弱い心なのだろう、どうして、私はこんなにも弱くなってしまったの?
少しでも涙を拭って、現場にいる皆を不安にさせないために姿だけでも見える場所だけでも気丈に振舞おう、不安やおそれ、死の招きを伝播させてはいけない
上に立つ人がそんな状態ではダメだ、お父さんならどんなに不安で辛い旅路であろうと決して弱気を見せなかったはずだよね?
お父さん、僕に私に、勇気をわけてください
現場に戻ってくると全員が声を荒げている?心臓が止まりそうになる
急いで近くに生き現状を確認する、近づいて聞こえた第一声が脳を停止させる
壁にひびがはいった?
その言葉だけで危機的状況になっていると一瞬で理解する。
宰相から現場では幾重と妨害を重ねているが、敵の気を逸らし続けるのは不可能で、短絡的な考えの敵は全力で一点の壁を殴り続ける音が聞こえる
愚直に真っすぐに拳を突き出す音が聞こえる、その先に僕たち人類が居る砦がある方向に向かって真っすぐに拳を突き出している
音が永遠と続く、こちら側も何もしていないわけじゃない、ありとあらゆる妨害を試みているが相手は一切反応せず、拳を、壁を殴る音が聞こえなくなることは無かった、毒をまき散らしても、油を投下して、火を放っても、何も反応せずに壁を殴る音だけが聞こえ続けている
その音に、恐怖した者たちも数多くいて、意識を失ってしまった隊員がいる。
目の前にある恐怖そのものに耐え切れなくなっているのだろう、後退すれば王都が滅ぶ、だけど、目の前にある死を体現した獣に為す術がない、ただ、妨害するしか方法が無い具体的に有効的な希望が無い…
使う時じゃないのだろうか?姫様しか組み立て方法を知らないわけがない、始祖様の秘術であるホーリーバーストを使用する場面だと思う、敵の攻撃によってヒビ割れた壁が崩れる瞬間に打てば、当たるんじゃないの?…避けられたらどうする?連発は可能なのか?連発する前に当てる前に敵を捕らえることが出来るのか?ただ、無駄に魔力と消耗させてはいけないパーツを消耗させて、次なる脅威に太刀打ちできなくなるのではないだろうか?
四の五の言ってられない…か
「ねぇ、アレの組み立て方は知ってる?」
この一言で戦乙女ちゃんが頷く、使うときは今しかないわね、プランCだっけ?魔力を送ればあれを起動することが出来るはず、なら
声を出そうとした瞬間、腕を掴まれる、腕を掴んだ人の顔を見ると涙を流している…声を出さないで、その先の絶望の声を
「知っています、でも、あれを制御する術式は…姫様しか知りえません」
よくよく思い出すと、あの魔道具を使うときは姫様が何かしら操作していた、つまり、あれを制御する為の何かしらの術式が必要ってこと?
考えたくないことが耳元で囁かれる
あの魔力の渦が暴発したらどうなる?
言うまでもない、南の砦は蒸発する…もしくは、眼前の敵に吸収されて結果的に滅びる、宰相も王都も…
一か八かで、起動させてみる?何処かで試しに照射してみる?せめて、制御する為に必要な術式がメモされていれば、王都の精鋭であれば、実現可能じゃないの?
長考する暇なんて無いよね、確実な選択肢を、人類が生きる為の贄を用意しましょう。
確かな方法はただ一つだけある
あまい、あまい、しのかおり…その甘い果実を私にちょうだい、その代わり、全てを終わらせてね?
耳元で囁き続ける何かが消えていく、笑みを浮かべながら消えていく…
女将も同じ気持ちの様だった、私、独りでは心細く難しいかもしれない、けれど、貴女となら…
姫様を戦乙女ちゃんにゆっくりと渡し「これから先の判断は貴女に託します」そう呟くと、戦乙女ちゃんの顔から表情が消え、言葉の意図を瞬時に理解し顔が強張っていく
唇が震え、何かを言おうとしているが声がでないのだろう。
女将と一緒に最終点検をする、女将の武器は砦に行けば何かしらあるだろう、私の武器は手持ちのナイフでいい、お父さんが導いてくれる
魔道具から叫び声が聞こえた…私達が到着するまで持ちこたえてね!車に向かおうとしたとき
「ダメだって、言ったでしょ?」
声が聞こえた、私達の希望の声が
「…ここが、そう、使うしかないっか、うん、そうだね、使おう、最後のカードを私達の…寵愛の巫女が持てる最後の切り札を…私の代で終わらせるね、お母さん」
姫様がすっと立ち上がって何処を見ているのかわからない目で何かと話をしている
「団長、女将、今までありがとう、貴女達が居たから私は私でいられました、永劫の孤独を…いいえ、それは関係のない話ね」
意識が混乱しているの?言葉の意味が解らない
姫様が意識を取り戻したことへの喜びが勝らないといけないのに、全力で止めろと男の私が叫んでいる、失うぞと叫び続けている
「何をするつもり?貴女は、何を犠牲にするの!?」
人類の未来を考えれば生きるべきは姫様で、私じゃない!わたしじゃないの!おねがい、いかないで!
「これでいいの、残された時間もない、これでいいの」
さようなら、団長、後はお願いね
その言葉が私の耳に届くと同時に空から月が消え、辺り一面が闇に包まれる
「寵愛の巫女が捧げる最後の祈り、願い奉ります、大いなる力の本流、我らに寵愛を注ぎたもうた、愛する始祖よ、その名を捧げ、返します。永劫の中、愛を捧げてくださり感謝します、その寵愛の枷を外し、最後の願いを聞き届けたまえ、 スゥピィアカラン 大いなる始祖様の名を捧げ、奇跡を願います」
言葉が紡がれると、闇の中に一点の光が姫様の頭上に現れる
声が聞こえる、音を発生させる器官なんて持ちえていないただの、光源から音が聞こえる
もう、いいのか?
その声を聞くだけで涙があふれ、全身が歓喜に包まれる、全身の細胞が反応する、その声こそ、超常たる存在、私達に全てを与えてくれた始まりの人
はい、ありがとうございます、何代にもわたって私達を見守ってくださり心から感謝をしております。
愛する巫女よ、その生涯に、次代に、満足できたのだな、良い、次なる時があれば、存分に語れ、今までよくぞ耐えたな
お褒め頂きありがとうございます。私もね、貴方のおかげでね、色々と出来たんだよ?ありがとう、お願い、人類を救って…
その願い聞き届けたり、始祖たる我が名はスゥピィアカラン、天祖たる組織に与する一つの弾丸、悪しきは星喰いの獣、先兵を打ち滅ぼしてくれん!!!
光が姫様の中に入っていくと、姫様の体から大きな光が迸る
「これが、始祖様の魔力、すごい、こんなにも凄い魔力、世界だって滅ぼせてしまいそう」
姫様が光の一点を指先に集め、大きく空に向かって指先を掲げると、指先から空に向かって一筋の光が放たれる
月の光が消えた、この暗闇のせかいで、眩く輝く一筋の光は、まさに人類の未来へと繋がる柱…細胞が理解するあれこそが、私達が欲していた大いなる力
その莫大な力を宿した光が空に向かって上昇していく、まさに太陽そのものと思う程の光が天高く舞い上がっていく、その光は凄まじく、大陸の果てまでを照らすようだ
「ほーりー…れい…」
姫様が発した言葉と共に上空で光が弾け、弾けた光が大地へと降り注いでいく、その数は数えきれないほど
星が大地へと降り注いでる、その光景は、世界の終わりだと告げられても信じてしまいそうなほどの神秘的な光景が眼前に広がっていく、そして、その真ん中で姫様は両手を大きく広げて恍惚とした表情で笑っている
光が落ちる先を見つめる、多くは南の大地へ、多くは北の大地へ、一つは海へと、輝く光が落ちていく
全ての光が落ち切った後、闇は消え、月が光を取り戻し、私達の頭上へと戻り、世界を光で満たす
その直後、姫様は大地に吸い込まれる様に倒れていく
慌てて駆け寄り抱き起すが、姫様からは体温が失われていくのが解る…心臓の鼓動が弱々しくなっていくのがわかる…
死なせるわけにはいかない、ありとあらゆる方法で命を繋ぎ止めないと、呼吸が浅いので、人工呼吸をして強引に酸素を放り込む、心臓はまだ鼓動しているので心臓マッサージはしない、全身から魔力を捻り出し注ぐために魔力を放出する、だけど、感覚が違う?前とは違う、魔力を注ごうにも蓋がされている?届かない?
魔力を通す穴がふさがってしまったってこと?…死体に魔力は無い…
死体にしなければいいだけじゃない、姫様から過去に聞いたことがある、電気という存在をひとの神経は電気という物質で動いていると
イメージする、指先を握る時の感覚を、イメージする、脳から電気という物質が発生し、私の指先に伝える
その感覚を掴む!!!何度も何度も指先を動かし、脳から電気という物質が発生する感覚を掴む!!!!
全身の魔力を脳に集中させ反応させる!電気という物質を得るために!!!
見えるはずのない、自身の脳が見えた、さらに深く潜り、脳細胞まで深く潜ったその刹那、微かに光り輝くものが見えた
これが電気
そのイメージを忘れないように魔力を変質させる電気へと、人差し指と親指の間から一筋の歪な青白い光が走ったのが見える。
そのイメージを保ったまま弱っていく姫様の心臓へと電気を流し、止まらせないようにする!!!
電気を発生させるリズムは常に一定、私の心臓とリンクさせる、鼓膜に魔力を送り、聞こえる音を選定させる、姫様の呼吸と心音のみに反応させる
私の持てる全てをこれに集約させる、姫様の心臓が自身の力で鼓動を再開させるまで、これを続ける、魔力?そんなものどこからでも捻り出せるでしょ!!!
放出した魔力が姫様の体内へと染みていく感覚が伝わってくる!だけど、魔力を電気に変貌させているだけで私の精神力は
「ここで、きばらなきゃ、駄目だよねぇ」
音をシャットアウトしていたはずなのに、声が聞こえてくる、女将の声が、女将の体から魔力が溢れ出てくる女将の手が姫様の体に触れると、女将から放出された魔力が姫様に注がれていく
「魔力を放出すればいいのだな」
術士の二人も同じように全身から魔力を放出し一点に集めていく、集められた魔力を女将が、かみつくようにすると女将の体内へと吸収され、女将の体を通して姫様へと魔力が注がれていく
「お願い、さようならなんて、言わないで!これから先も!言わせない!!」
魔力の扱いに長けていない戦乙女ちゃん達も全身から魔力を放出し一点に集める、魔力の扱いに慣れていない人がそれをすれば死ぬかもしれないんだよ!?
集められた魔力を、女将がかみつくようにすると、同じように魔力は女将の体へと吸収され、女将の中で女将の魔力へと変貌し、放出され姫様の体へと吸い込まれていく
女将の髪の色も真っ白になる、術士の二人も真っ白になる、戦乙女ちゃん達も真っ白になっていく
お願い!姫様、死なないで、貴女は人類の光、希望なのお願いだから、帰ってきて!!!
女将から注がられる全ての魔力が姫様の体へと沈み込んでいくと、姫様から体温が戻ってくるのを感じる、心臓が自然と自身の力で動き出し、呼吸も安定してくる
峠を越えた、その瞬間に声が聞こえる
【溢れ出る魔力が零れないように封印しろ】
脳裏に今まで見たことのない術士が鮮明に浮かび上がり、その術式を我が血を触媒とし、姫様の皮膚へと刻む
その瞬間、姫様の体から眩く光が輝き、脳内に見えた術式が姫様の体に浮かび上がる
【術式は完成した、俺の出番はここまでだ、な、たのし…】
声が聞こえなくなると、同時に現状を確認するために動き出す
慌てて、横になっている姫様の体温や脈拍、血圧を測定すると安定していた…
一命をとりとめたのだ…
溢れ出る喜びに声に言葉にならない音が辺り一面に響き渡る
喜びを分かち合おうと隣を見ると全員が真っ白になって倒れていて、起き上がれる様子は無かった。
限界を超えたからこそ、姫様の命を繋ぎ止めたのだと感じる
そして、姫様と始祖様が力を貸してくれた結果なんて聞くまでもない…
近くで鳴り響く声がする場所に歩いていき、状況を確認する
通信の魔道具、二つから歓喜の声が聞こえてくる
どれも声にならないような絶叫するような雄たけびのような声で何を言っているのかわかりづらかったけれど
聞き取れた言葉がある
獣は
滅んだ
見える
範囲の
獣が
蒸発した
その言葉が意味することは
目に見える範囲全ての、獣が光によって蒸発したのだろう。
つまり、望遠鏡で見える範囲全てだ
終わったんだ、私達の戦争は、戦いは、人類の生存をかけた、苦難の長い長い道のりは終わりを告げたんだ、始祖様が全てを打ち滅ぼしてくれたんだ
だって、南にも北にも、そして、海にも光が流れていくのが見えた、あの光に包まれて獣たちは滅んだ、人類は窮地を脱したんだ。
通信魔道具から聞こえてくる音が、全てが終わったのだと告げる終末の歌のように聞こえてくる、その歌が徐々に子守唄のように聞こえてきて、私の意識は闇へと誘われていく
意識が落ちる瞬間に耳元で
次は無いと聞こえた…気がした…
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両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。


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