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人類生存圏を創造する 始祖様の秘術をここに 9
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あれから、もう三日も、三日も、日が流れた、壁を創造する作戦が開始されてから、気が付くと、もう2週間近く、時間が経っている。
最近の状況、姫様の一日の殆どが眠りについている、寝てる時間が凄く多い、恐らくだけど、一日のうち16時間は眠っている、起きているときもあるが、意識力が低下しているみたいで、ぼーっとしていることが多い、そんな状況でも、リハビリのほうは継続して行っている。
二日前、小さな変化もある、女将の事を思い出したのか、純粋に慣れたのか、傍まで行けるようになった、今では一緒にお風呂に入れる関係にまで修復されている。
女将が姫様と一緒に、お風呂に入った日、それはもう、上機嫌でご機嫌だった、珍しく鼻歌を歌いながら姫様を抱っこしながらあちこちに歩いていたくらいだから。
この後の事で、姫様の体裁というか、女性としての大事なことで、懸念がある。
私の心は男性だけれど、体が男性だから無いのだが、月に一度のアレが急に来たら今の姫様は自身でどうにか出来るとは思えない、かといっておむつをずっとしてもらうのわけにもいかない、その事を女将や戦乙女ちゃんにも相談してあるので、何かあればすぐに助け合うことになっている。
人の心と体と年齢が一致しないというのは大変なのだと痛感する。
まぁ、その、ね?作業をしてもらっている人にこんなことを想ってしまうのはよくないのだけれど、現場に男性が居なければ気にすることは無いって、ね?
この先、姫様が完全に元通りになる可能性ももちろん当然、絶対にある、だから、今の状態の記憶が、ふとした弾みに思い出されてしまったら、きっと、恥ずかしさでもんどりを打った後に、何処かで私に八つ当たりをしてくる気しかしない・・・
うん、そうね、うん、八つ当たりが出来るくらいに元気になってほしいかな、記憶を取り戻してほしい、私達が一緒に頑張ってきた思い出を失わないで欲しい。
自分の名前すら思い出せない今の状況がどれくらい続くのだろうか?
ベルが三回鳴るので、通信魔道具の前に座り、雑談に近い定期連絡をしていたときにふと、思い出したので、話をする
思い出した時に確認しないと、いつまた、聞けるのかわからないからね、気にはなっていたものね、南の砦を出た一団はどうなったのか?
現状を一番把握しているメイドちゃんは当然、南の一団の事も把握してくれている、頼もしい。
農民の殆どが、ううん、全員が畜産の旦那の所で働き、暖かく迎えてもらえたみたい。
愚痴としては、仕事量が村に居た時の倍以上あるみたいで、毎日が汗だくになって働いているのが辛いって愚痴をこぼしたりしていたみたいだけれど、ここで作られる食料が王都や、私達の街で消費され、この非常事態に全力で戦い、命がけで人類全てを守ろうとしてくれている姿を見て、自分の中にある芽生えた感情に大きな変化を感じていると愚痴を言いつつも気持ちのいい笑顔で答えてくれた。
自分たちの価値観や、自分たちの明日を守るために戦っている、その人たちの胃袋を支えてるんだっていう意識が芽生え、毎日の激務を頑張る為の励みになっているみたいで、毎日が今までよりも充実していると、全員から報告があがっている。
砦に居た兵士達も新兵達と一緒に訓練し、装備を支給するとこんなに上等な装備をタダでくれることに驚いたのと、戦術とか戦い方を丁寧に根気強く教えてくれるなんて想像だにしておらず、田舎兵士が憧れてやまない、あの王国の秘宝を傍で守り続けてきた一族の秘伝の技も伝授してもらえるばかりじゃなく、伝説そのものに会い言葉を交わすことが出来るなんて思ってもおらず、幼い時に夢見ていた英雄譚に自分たちも関われているのだと戦意は高揚しているみたいで、この調子で街に馴染んでもらえそう。
少しでも吉報を受けたお陰で心がほんわかと暖かくなる。
あと、どうでもいいことなんだけどー、近隣の村にある娼館から人気の女性たちがー街でーみんなの心も体も支えてくれているんだってー!!
別にいいですけどねー!
その報告を聞いていた戦乙女ちゃんが物凄く険悪な顔で報告を聞いていた…小声でぼそっと「これだから、男って、生き物は…はぁ、、、」呟くように溜息を吐き捨てていた。
そこにお爺ちゃんとベテランさんが通っていたという情報も頂いたので、今度、お祖母ちゃん連合に報告すればよし!!
はあ、もう、危機感足りてないんじゃないの?一難去っても、まだ全ての脅威を退けたわけじゃないでしょぅに!!
でも、上が率先してそういった息抜きをすることで下の人達も程よく緊張が抜けて現場の空気が張り詰め過ぎないようになるから必要なんだよ?って姫様ならいいそうだけれど!お爺ちゃんがそういうとこに通っているという事実が身内として孫としてくるものがあるの!もうやだぁ…はずかしい…
研究塔にいるベテランさんの姪っ子ちゃんはどう思っているのかな?おじーが女遊びしてるのって?…ぁ、いや、もうそれは知ってるか、諦めてるだろう。
その後も他愛もない会話を楽しんだら、もう一つの通信魔道具から音声が流れてくるのでメイドちゃんとの楽しい会話をやめて宰相からの定期連絡を受け取る。
どうやら、王都の方では壁の建設が想定以上に遅くなっていることを伝えて、どうにかして、王様直轄の術士部隊を派遣してくれる手筈をもぎ取り整えてくれた。
王様直属の精製達が、南の砦に到着次第、宰相直轄の術士たちを西と東に派遣することになるのだが、宰相お抱えの術士も数がいるわけではなく、こちらの東側に2名送ってくれることになった。
2名だけでも大いに助かる!!姫様が再起不能な状況だと本当に、本当に!!壁を創るのに時間が掛かりすぎてしまう。
問題があるとすれば、魔道具の数が足りないことかな?魔道具の数さえ、豊富にあれば、もっと効率が上がるのだけれど、無いものは仕方がないし、魔石に魔力を込めるのも時間が掛かるので、結局のところ、どうしようもない。
人も、資材も、道具も、何もかもが足りていない、この様な大規模な作戦、今の人類では不可能に近い。。。むしろ、不可能。
可能にしているだけでも奇跡なのだから、後はいくらでも時間をかけていいのかどうかってことだよね。
ここまで、順調ではない、着実に一歩ずつ、這いずる様に、牛が歩くスピードの様な牛歩ではある、だが、着実に作戦が進み成功へと向かっていけているのも、偏に
姫様が事前に色々と教えてくれたからだと思う、自分が途中で動けなくなる可能性を危惧して…だったのかもしれない。
ここ数か月の急激な変化を思い返す、胸に宿る言葉はただ一つ 終焉
世界が終わりに向かっている…終焉に向かっている…そう言われてしまっても納得できる。納得できるが、諦めはしない!…最後まで足掻こう。意地汚く生きよう。
姫様ならきっと、諦めるなってどんな時でも言ってくれると思うから、だから、頑張って作戦を完遂させよう…こんな生活を後、三か月?半年?…不便な生活を強いられる覚悟を決める!
報告も終わって何をしようかなっと時計を見るといい時間なので、食事の支度をする。
色々と物資を頂いているので、日持ちしないやつから優先的に使って行かないとね、いつの間にか調理場セットが作られている、さらに調味料も豊富にそろってたりするので、ある程度の料理は作れる。
水等も豊富に届けてくれている、本当に助かります。
宰相からの支援物資に、姫様のご実家からの手厚い物資、至れり尽くせり、ぁ、だから東側を選択したのかな?
近くに川があるみたいで、その川からとれる川魚を頂いたので悪くならないうちに、ささっと捌いて内臓を取る、内臓も食べられないことも無いらしいのだけれど、昔、内臓はにがてーって姫様が言っていた記憶があるので、苦手なのなら取っちゃう
下処理を終えた後は、香草と共にフライパンに放り込んでオイルを垂らして焼く、その間に小麦粉を水と卵を混ぜてこねて塊にする、卵の黄身を表面に塗って、黄身を塗ってないほうを下にしてフライパンに入れて焼く。
お湯を沸かす為に、鍋に水を入れて沸かす、昨日食べる際に捌いた鳥、その骨をハンマーで砕いて網状の袋に入れて鍋に入れて、鳥の出汁を取る
焼き上がるまでの間に、キャベツやニンジン、などの野菜を細かく切ってサラダを作る、食べない箇所は鍋に放り込んで出汁を取る、サラダ用のドレッシングもいただいているのでそれを野菜にかけて、はい、できあがりっと。
後は~、ある程度、魚が焼けてきてから塩を振って軽く味付けしておしまい、うーん、シンプルな塩焼きって感じになっちゃうけど、別にいいよね?
乾麺とかあれば、ささっとゆでちゃったりするんだけど、無いんだよねぇ…
スープは出汁が出るまで時間が掛かるので味がしっかりと出るのは、明日かなー?朝のうちにしておけばよかった、失敗失敗…
ある程度、出汁が取れたら、卵白を混ぜた薄味のスープでいいかな?
まぁ、食べられたら、それでいいよね?
調理を開始してから1時間ほど経過すると、皆が集まってくる、ご飯が出来上がるころに集まってくれるので呼びに行かなくて非常に助かります。
料理を出した後に、頂いた調味料をテーブルの上に置く、薄味で整えておけば、後は各々が好き勝手に味を調整する。
産まれも出身も年齢もバラバラなのだから、好みなんて統一出来るわけがない、なので私の味を食べろ!なんて言わない、これでいいの。
食事をしながら進行状況などの報告を受ける、姫様があんな状態なので気が付けば私が一団のリーダーになっている。
私達の街で考えれば私がリーダーになるのは当たり前だけれど、術士の二人はそれでいいのかな?どう見ても私よりも年上だよね?
まぁ、威張り散らすような人たちでもないし、作業に徹したいからってことかな?
姫様の食事具合を確認するためにちらりと見ると、あまり進んでいない、そっかー魚はあまり好みじゃない?野菜も手を付けてないなぁ…
今の姫様は、野菜があまり好きではないみたいで好んで食べる様子がない。
だけど、ケチャップが好きみたいで、パンにもつけて食べたがる、これを利用して、少しでも野菜を食べて欲しいのでケチャップを塗って野菜を挟んで食べてもらう、これでも食べないのであれば、ささっと目玉焼きを焼いてパンにはさんで食べてもらう。
もそもそと食べている間に、女将に魚を食べさせる方法が無いか聞いてみると「骨じゃねぇか?」と母親の視点からアドバイスをいただく、そうか、骨が取り出せないから食べるのが嫌なのか、姫様がパンとサラダを挟んだご飯を食べている間に、魚を綺麗に骨と身と、分けていく。
こうなる前に、食事の好みをもっと聞いておけばよかったなぁ、魚は内臓が苦手だけで、食べているイメージがあったから、食べてくれると思っていたけれど、骨が取り出せなかっただけだったか。
身だけにした魚を前に置くと食べ始める、あまり進まないようなので美味しくない?って聞くと頷かれるのでもう少しだけ塩をかけてみると食べ始めたので味が薄かったのだろう。
姫様の好みの調味料とか女将は知ってる?って尋ねてみると、「何でも美味しそうに食べてたからわからないねぇ…」女将も腕を組んで悩んでしまった。
私も同じイメージ、姫様が食事をしている際に、好き嫌いをしているイメージが余りない、何でも食べようと思えば食べる人だった、好んで食べない物は結構あるけれど、出された食事は食べるって感じだった。
口の周りを綺麗に拭いてあげた後は、お風呂に入ってもらう、最近は女将がお風呂を担当してくれるので凄く助かる。
全員の食器などを片付けていると術士の人が
「姫さんは…いや、やめておこう、貴女は凄いですね、あそこまで献身的によく出来ますね、心の底から極めて、尊敬できます」
では、作業に戻りますと流れるように去っていった。
よくわからない流れで褒められてしまった?ん~病棟では両腕折れた人とか介護してたからこういうのは純粋に慣れてるだけだよ?
片付けも終わった、姫様お風呂、定期報告の時間でもなし、っであれば、魔力譲渡に備えて、魔力でも練ろうかと思っていたら戦乙女ちゃんに話しかけられる、今日はよく色んな人に話しかけられる日だね。
会話の内容は、この壁を創る日々はいつ終わりを迎えるのかとか、そういった話だった
このペースで行けば、たぶん、三か月後くらいには、南の砦が見えてくると思うけどね…
そう、トラブルが無ければの話…
姫様が心配していた出来事の殆どが発生している、なら、南の砦に女将が恐怖する敵がいつ出てきてもおかしくはない。
宰相もそれを危惧して、大型の兵装を王都から取り寄せてくれている、大砲とか、大弓とか、過去に王都まで進攻されかけ、巨大な敵を討ちとるために400年前から開発されてきた兵装の数々を南の砦に運びセッティングしている。
宰相という心強い味方が居てくれたこと、その宰相との関係を、この街に住む人たちと繋ぎ止めた、多くの人達の想いや出来事。
多くの悲しいこともあったと思う、それらすべてが今ここで生かされている、生きている。
皆が繋いだバトンが今ここで花開いていると、私は感じている、だからこそ、私はバトンを受け取り、明日へと繋げる為にも姫様のリハビリを続けていく
信念が強く、折れない心を持つ彼女ならきっと帰ってきてくれると信じている
お風呂から出てきた姫様を抱っこして、周囲を歩きながら子守唄を唄う、気が付くと、気持ちよさそうに眠りにつく
姫様を軽々と抱っこできるくらい鍛えておいてよかった、ベテランさんに鍛えてもらったのがここで花開くとは思ってもいなかったなぁ
そうはいっても姫様って本当に軽い、体重どれくらいだっけ?40キロギリギリあるか無いかじゃなかったっけ?
痩せ気味っていうか、あばら骨見えてるくらい痩せすぎなのよね…なのに胸がそこそこあるのがちょっと納得できない、きっとお母さんは大きな胸で、もしかしたら父方の家系もふくよかな家系なのだろうなぁ…
…私のお母さんが一瞬、頭に過ったが直ぐに忘れることにする、失礼が過ぎるから…
気持ちよさそうな寝息が聞こえてきたので、車に帰る、帰ると全員が通信魔道具の前でじっと待機している
嫌な予感しかしない…戦乙女ちゃん達がお風呂上がりの恰好で人目を気にしないで何かを待っている時点で、嫌な予感しかしない!!
慌てて近寄ると
「一瞬だけ、音が聞こえたと思ったら、音がしなくなって、でも、なんだろう?ザザってザザって音だけが時折聞こえるのですけど、こ、故障か何かですよね?と、砦に何かあったわけじゃないですよね?ですよね?」
体に巻いたタオルが開けそうになっているのに気が付かない程、慌てている、落ち着かせるように声を掛ける
「不安なのはわかるよ、でもね、今私達が出来ることは無いの、だから、落ち着いて、大丈夫、きっと大丈夫」
落ち着かせるための言葉に説得力がない、無力な私ではこの程度しか声をかけることができない…
戦乙女ちゃんを落ち着かせていると通信魔道具から音が聞こえてくる
「たす・・・・け・・・・と・・・とどい・・・助けてください」
絶望的な声が辺り一面を静寂へと誘う
この場にいる全員の血の気が引いている、慌てていた戦乙女ちゃんでさえあまりの恐怖に意識を失ってしまい、その場に倒れ込む、女将がギリギリの所で受け止めてくれた。
砦が陥落した?間に合わなかった?宰相は?備えは?今の声はだれ?出てきたの?未知なる海の獣?それとも私達の砦に出てきた驚異的な敵?何が起きてるの?
その場で頭が混乱して動けないでいると、見回りに出ていたもう一人の戦乙女ちゃんが慌てて駆け寄り、通信魔道具が壊れていないか細部の確認を行っている。
自然と腕の中で眠っている姫様を強く抱きしめていた
「ぷらん…C、使ってってお姉ちゃんが言ってる、ドラゴンみたいなお姉ちゃんがいってる」
姫様の声に意識を現実へと戻される、プランC?プランCを発令すればいいの?
慌ててベルを5回鳴らす、きっと5回は緊急事態の合図
「何かありましたか!?」慌てた声のメイドちゃんに直ぐに単語で言葉を投げる「プランC発令!!」
「C!?…はい、わかりました、向こうの準備は整っているのですか?」ぇ?向こう?
「確認してみる!!」「いいよ、だって、発令すればあとは、お姉ちゃんが何とかするって」
思考能力の低下している姫様の言葉を信じていいのか一瞬悩んでしまったが、この言葉に従うしかない、それしか私達の希望は無い!!
「大丈夫!発令して!」「プランC発令します、プランC発令します!!急いでー!!連結急いでーー!!」
メイドちゃん側の通信魔道具から様々な大きな音が聞こえてくる、その間に何とか、宰相側への通信を成功させないと
戦乙女ちゃんが何度も点検している最中に、必死に呼びかける「プランCを発令しました!応答願います!プランCを発令しました!!!」
声が枯れそうな程、何度も何度も声をだす、何もない草原に私の声が永遠と広がり続ける…
静寂な夜の時間に、平時であればこのような悲痛な叫びが世界を埋め尽くすようなことはないのだろう、幸いにもこの辺りに人の気配ない、夜に騒いでも迷惑をかけることはない、だから、何度も何度も全力で声を出す、喉が裂けそうになろうと声を出し続ける…
「おい、あれって」
肩を叩かれ女将が指を指す方角を見ると、月夜の中に一筋の大きな白い光が真横に走っていくのが見える
高密度の魔力が放つ光の道…あれを照射してどうするの?向こうに何も伝わっていないのに?どうするの?
砦の方に吸い込まれる様に光が流れていく…
その直後に砦がある場所一体が大きな光で包まれる、あそこだけ太陽が生まれたかのように輝いている
光の大きな柱が生まれたのかと思った直後に大きな壁が出てくる、天にも届きそうな程、高い壁が
ここからでも見えるほどの高い壁、王城よりも高い壁、私達が創っている壁よりも、もっと高い壁が生まれた…
全員が状況が呑み込めていない、呆然とその場に立ち尽くしていると
突如、通信魔道具からガタゴトっと何か物を動かしているような音が聞こえてきた、全員が音に反応して通信魔道具に視線を移すと
「神様!始祖様!姫様!ありがとうございます!届いているのかわかりませんが、何度でも声を張り上げます!ありがとうございます!我々の命を救っていただきありがとうございます!!」
祈るような縋るような震えるような大きな声が聞こえてくる、状況は理解できないが、彼の言葉から伝わってくる、恐らくだけれど、南の砦は陥落しなかった。
呆然としていると女将がすぐさま返事を返す
「間に合ってよかったさぁ、そっちの状況を詳しく教えてくれるかい?」
通信魔道具から涙声でたどたどしく状況を語ってくれた
宰相が王都に向かって旅立ってから、毒の沼地を一回の跳躍で飛び越えてきた影があって、慌てて騎士団総出で対処に向かったのですが、
望遠鏡で見えた敵のサイズがその、今まで見たことのないサイズの大きな人型で、真っ黒な毛並みに、顔が今までの人型とは違っていて猿の顔をしていなくて
あれは、まるで、おとぎ話に出てくるような、悪魔、そう、この世界全ての悪を体現したような顔をした魔物、悪魔みたいな顔をしていました。
歴戦錬磨の宰相が長年の歳月をかけて、築き上げた凄腕の騎士団が1秒ごとに一人、一人と、吹き飛ばされ、切り裂かれ、踏みにじられ、次々と殺されていく
その光景を見てしまった私が慌てて助けを請おうと、作戦室に駆けこんで、その際にうっかり魔道具を置いてある机にぶつかってしまって、机の上から落としてしまったんです。
何度も何度も、床に転がった魔道具に助けを呼び掛けていたら砦が突如光始めたと思ったら、砦の目の前に大きな壁が生まれてきたんです。
その壁によって敵の進行を食い止めてくれたみたい!!ありがとうございます!!
ちょっとまってください、いま、現場近くの騎士が状況を確認して来たみたいで、はい、はい…は、い。
大きな壁は敵の四方を囲むように生み出されたのですが、中に取り残された騎士たちが数多くいており、騎士事、壁で閉じ込められてしまったみたいです。
あのような敵と逃げ場なく戦いを強制されてしまっては、彼らは助かりはしないでしょう…
私が、わたしが、魔道具を落とさなければ、みなに避難を、避難をよびかけ、かぇけ、うぐ、ふぐうぅぅぅぅ
大きな鳴き声が通信魔道具から響き渡ると突如、音が消えた…
魔道具の通信を誰かが切ったのだろう…
最近の状況、姫様の一日の殆どが眠りについている、寝てる時間が凄く多い、恐らくだけど、一日のうち16時間は眠っている、起きているときもあるが、意識力が低下しているみたいで、ぼーっとしていることが多い、そんな状況でも、リハビリのほうは継続して行っている。
二日前、小さな変化もある、女将の事を思い出したのか、純粋に慣れたのか、傍まで行けるようになった、今では一緒にお風呂に入れる関係にまで修復されている。
女将が姫様と一緒に、お風呂に入った日、それはもう、上機嫌でご機嫌だった、珍しく鼻歌を歌いながら姫様を抱っこしながらあちこちに歩いていたくらいだから。
この後の事で、姫様の体裁というか、女性としての大事なことで、懸念がある。
私の心は男性だけれど、体が男性だから無いのだが、月に一度のアレが急に来たら今の姫様は自身でどうにか出来るとは思えない、かといっておむつをずっとしてもらうのわけにもいかない、その事を女将や戦乙女ちゃんにも相談してあるので、何かあればすぐに助け合うことになっている。
人の心と体と年齢が一致しないというのは大変なのだと痛感する。
まぁ、その、ね?作業をしてもらっている人にこんなことを想ってしまうのはよくないのだけれど、現場に男性が居なければ気にすることは無いって、ね?
この先、姫様が完全に元通りになる可能性ももちろん当然、絶対にある、だから、今の状態の記憶が、ふとした弾みに思い出されてしまったら、きっと、恥ずかしさでもんどりを打った後に、何処かで私に八つ当たりをしてくる気しかしない・・・
うん、そうね、うん、八つ当たりが出来るくらいに元気になってほしいかな、記憶を取り戻してほしい、私達が一緒に頑張ってきた思い出を失わないで欲しい。
自分の名前すら思い出せない今の状況がどれくらい続くのだろうか?
ベルが三回鳴るので、通信魔道具の前に座り、雑談に近い定期連絡をしていたときにふと、思い出したので、話をする
思い出した時に確認しないと、いつまた、聞けるのかわからないからね、気にはなっていたものね、南の砦を出た一団はどうなったのか?
現状を一番把握しているメイドちゃんは当然、南の一団の事も把握してくれている、頼もしい。
農民の殆どが、ううん、全員が畜産の旦那の所で働き、暖かく迎えてもらえたみたい。
愚痴としては、仕事量が村に居た時の倍以上あるみたいで、毎日が汗だくになって働いているのが辛いって愚痴をこぼしたりしていたみたいだけれど、ここで作られる食料が王都や、私達の街で消費され、この非常事態に全力で戦い、命がけで人類全てを守ろうとしてくれている姿を見て、自分の中にある芽生えた感情に大きな変化を感じていると愚痴を言いつつも気持ちのいい笑顔で答えてくれた。
自分たちの価値観や、自分たちの明日を守るために戦っている、その人たちの胃袋を支えてるんだっていう意識が芽生え、毎日の激務を頑張る為の励みになっているみたいで、毎日が今までよりも充実していると、全員から報告があがっている。
砦に居た兵士達も新兵達と一緒に訓練し、装備を支給するとこんなに上等な装備をタダでくれることに驚いたのと、戦術とか戦い方を丁寧に根気強く教えてくれるなんて想像だにしておらず、田舎兵士が憧れてやまない、あの王国の秘宝を傍で守り続けてきた一族の秘伝の技も伝授してもらえるばかりじゃなく、伝説そのものに会い言葉を交わすことが出来るなんて思ってもおらず、幼い時に夢見ていた英雄譚に自分たちも関われているのだと戦意は高揚しているみたいで、この調子で街に馴染んでもらえそう。
少しでも吉報を受けたお陰で心がほんわかと暖かくなる。
あと、どうでもいいことなんだけどー、近隣の村にある娼館から人気の女性たちがー街でーみんなの心も体も支えてくれているんだってー!!
別にいいですけどねー!
その報告を聞いていた戦乙女ちゃんが物凄く険悪な顔で報告を聞いていた…小声でぼそっと「これだから、男って、生き物は…はぁ、、、」呟くように溜息を吐き捨てていた。
そこにお爺ちゃんとベテランさんが通っていたという情報も頂いたので、今度、お祖母ちゃん連合に報告すればよし!!
はあ、もう、危機感足りてないんじゃないの?一難去っても、まだ全ての脅威を退けたわけじゃないでしょぅに!!
でも、上が率先してそういった息抜きをすることで下の人達も程よく緊張が抜けて現場の空気が張り詰め過ぎないようになるから必要なんだよ?って姫様ならいいそうだけれど!お爺ちゃんがそういうとこに通っているという事実が身内として孫としてくるものがあるの!もうやだぁ…はずかしい…
研究塔にいるベテランさんの姪っ子ちゃんはどう思っているのかな?おじーが女遊びしてるのって?…ぁ、いや、もうそれは知ってるか、諦めてるだろう。
その後も他愛もない会話を楽しんだら、もう一つの通信魔道具から音声が流れてくるのでメイドちゃんとの楽しい会話をやめて宰相からの定期連絡を受け取る。
どうやら、王都の方では壁の建設が想定以上に遅くなっていることを伝えて、どうにかして、王様直轄の術士部隊を派遣してくれる手筈をもぎ取り整えてくれた。
王様直属の精製達が、南の砦に到着次第、宰相直轄の術士たちを西と東に派遣することになるのだが、宰相お抱えの術士も数がいるわけではなく、こちらの東側に2名送ってくれることになった。
2名だけでも大いに助かる!!姫様が再起不能な状況だと本当に、本当に!!壁を創るのに時間が掛かりすぎてしまう。
問題があるとすれば、魔道具の数が足りないことかな?魔道具の数さえ、豊富にあれば、もっと効率が上がるのだけれど、無いものは仕方がないし、魔石に魔力を込めるのも時間が掛かるので、結局のところ、どうしようもない。
人も、資材も、道具も、何もかもが足りていない、この様な大規模な作戦、今の人類では不可能に近い。。。むしろ、不可能。
可能にしているだけでも奇跡なのだから、後はいくらでも時間をかけていいのかどうかってことだよね。
ここまで、順調ではない、着実に一歩ずつ、這いずる様に、牛が歩くスピードの様な牛歩ではある、だが、着実に作戦が進み成功へと向かっていけているのも、偏に
姫様が事前に色々と教えてくれたからだと思う、自分が途中で動けなくなる可能性を危惧して…だったのかもしれない。
ここ数か月の急激な変化を思い返す、胸に宿る言葉はただ一つ 終焉
世界が終わりに向かっている…終焉に向かっている…そう言われてしまっても納得できる。納得できるが、諦めはしない!…最後まで足掻こう。意地汚く生きよう。
姫様ならきっと、諦めるなってどんな時でも言ってくれると思うから、だから、頑張って作戦を完遂させよう…こんな生活を後、三か月?半年?…不便な生活を強いられる覚悟を決める!
報告も終わって何をしようかなっと時計を見るといい時間なので、食事の支度をする。
色々と物資を頂いているので、日持ちしないやつから優先的に使って行かないとね、いつの間にか調理場セットが作られている、さらに調味料も豊富にそろってたりするので、ある程度の料理は作れる。
水等も豊富に届けてくれている、本当に助かります。
宰相からの支援物資に、姫様のご実家からの手厚い物資、至れり尽くせり、ぁ、だから東側を選択したのかな?
近くに川があるみたいで、その川からとれる川魚を頂いたので悪くならないうちに、ささっと捌いて内臓を取る、内臓も食べられないことも無いらしいのだけれど、昔、内臓はにがてーって姫様が言っていた記憶があるので、苦手なのなら取っちゃう
下処理を終えた後は、香草と共にフライパンに放り込んでオイルを垂らして焼く、その間に小麦粉を水と卵を混ぜてこねて塊にする、卵の黄身を表面に塗って、黄身を塗ってないほうを下にしてフライパンに入れて焼く。
お湯を沸かす為に、鍋に水を入れて沸かす、昨日食べる際に捌いた鳥、その骨をハンマーで砕いて網状の袋に入れて鍋に入れて、鳥の出汁を取る
焼き上がるまでの間に、キャベツやニンジン、などの野菜を細かく切ってサラダを作る、食べない箇所は鍋に放り込んで出汁を取る、サラダ用のドレッシングもいただいているのでそれを野菜にかけて、はい、できあがりっと。
後は~、ある程度、魚が焼けてきてから塩を振って軽く味付けしておしまい、うーん、シンプルな塩焼きって感じになっちゃうけど、別にいいよね?
乾麺とかあれば、ささっとゆでちゃったりするんだけど、無いんだよねぇ…
スープは出汁が出るまで時間が掛かるので味がしっかりと出るのは、明日かなー?朝のうちにしておけばよかった、失敗失敗…
ある程度、出汁が取れたら、卵白を混ぜた薄味のスープでいいかな?
まぁ、食べられたら、それでいいよね?
調理を開始してから1時間ほど経過すると、皆が集まってくる、ご飯が出来上がるころに集まってくれるので呼びに行かなくて非常に助かります。
料理を出した後に、頂いた調味料をテーブルの上に置く、薄味で整えておけば、後は各々が好き勝手に味を調整する。
産まれも出身も年齢もバラバラなのだから、好みなんて統一出来るわけがない、なので私の味を食べろ!なんて言わない、これでいいの。
食事をしながら進行状況などの報告を受ける、姫様があんな状態なので気が付けば私が一団のリーダーになっている。
私達の街で考えれば私がリーダーになるのは当たり前だけれど、術士の二人はそれでいいのかな?どう見ても私よりも年上だよね?
まぁ、威張り散らすような人たちでもないし、作業に徹したいからってことかな?
姫様の食事具合を確認するためにちらりと見ると、あまり進んでいない、そっかー魚はあまり好みじゃない?野菜も手を付けてないなぁ…
今の姫様は、野菜があまり好きではないみたいで好んで食べる様子がない。
だけど、ケチャップが好きみたいで、パンにもつけて食べたがる、これを利用して、少しでも野菜を食べて欲しいのでケチャップを塗って野菜を挟んで食べてもらう、これでも食べないのであれば、ささっと目玉焼きを焼いてパンにはさんで食べてもらう。
もそもそと食べている間に、女将に魚を食べさせる方法が無いか聞いてみると「骨じゃねぇか?」と母親の視点からアドバイスをいただく、そうか、骨が取り出せないから食べるのが嫌なのか、姫様がパンとサラダを挟んだご飯を食べている間に、魚を綺麗に骨と身と、分けていく。
こうなる前に、食事の好みをもっと聞いておけばよかったなぁ、魚は内臓が苦手だけで、食べているイメージがあったから、食べてくれると思っていたけれど、骨が取り出せなかっただけだったか。
身だけにした魚を前に置くと食べ始める、あまり進まないようなので美味しくない?って聞くと頷かれるのでもう少しだけ塩をかけてみると食べ始めたので味が薄かったのだろう。
姫様の好みの調味料とか女将は知ってる?って尋ねてみると、「何でも美味しそうに食べてたからわからないねぇ…」女将も腕を組んで悩んでしまった。
私も同じイメージ、姫様が食事をしている際に、好き嫌いをしているイメージが余りない、何でも食べようと思えば食べる人だった、好んで食べない物は結構あるけれど、出された食事は食べるって感じだった。
口の周りを綺麗に拭いてあげた後は、お風呂に入ってもらう、最近は女将がお風呂を担当してくれるので凄く助かる。
全員の食器などを片付けていると術士の人が
「姫さんは…いや、やめておこう、貴女は凄いですね、あそこまで献身的によく出来ますね、心の底から極めて、尊敬できます」
では、作業に戻りますと流れるように去っていった。
よくわからない流れで褒められてしまった?ん~病棟では両腕折れた人とか介護してたからこういうのは純粋に慣れてるだけだよ?
片付けも終わった、姫様お風呂、定期報告の時間でもなし、っであれば、魔力譲渡に備えて、魔力でも練ろうかと思っていたら戦乙女ちゃんに話しかけられる、今日はよく色んな人に話しかけられる日だね。
会話の内容は、この壁を創る日々はいつ終わりを迎えるのかとか、そういった話だった
このペースで行けば、たぶん、三か月後くらいには、南の砦が見えてくると思うけどね…
そう、トラブルが無ければの話…
姫様が心配していた出来事の殆どが発生している、なら、南の砦に女将が恐怖する敵がいつ出てきてもおかしくはない。
宰相もそれを危惧して、大型の兵装を王都から取り寄せてくれている、大砲とか、大弓とか、過去に王都まで進攻されかけ、巨大な敵を討ちとるために400年前から開発されてきた兵装の数々を南の砦に運びセッティングしている。
宰相という心強い味方が居てくれたこと、その宰相との関係を、この街に住む人たちと繋ぎ止めた、多くの人達の想いや出来事。
多くの悲しいこともあったと思う、それらすべてが今ここで生かされている、生きている。
皆が繋いだバトンが今ここで花開いていると、私は感じている、だからこそ、私はバトンを受け取り、明日へと繋げる為にも姫様のリハビリを続けていく
信念が強く、折れない心を持つ彼女ならきっと帰ってきてくれると信じている
お風呂から出てきた姫様を抱っこして、周囲を歩きながら子守唄を唄う、気が付くと、気持ちよさそうに眠りにつく
姫様を軽々と抱っこできるくらい鍛えておいてよかった、ベテランさんに鍛えてもらったのがここで花開くとは思ってもいなかったなぁ
そうはいっても姫様って本当に軽い、体重どれくらいだっけ?40キロギリギリあるか無いかじゃなかったっけ?
痩せ気味っていうか、あばら骨見えてるくらい痩せすぎなのよね…なのに胸がそこそこあるのがちょっと納得できない、きっとお母さんは大きな胸で、もしかしたら父方の家系もふくよかな家系なのだろうなぁ…
…私のお母さんが一瞬、頭に過ったが直ぐに忘れることにする、失礼が過ぎるから…
気持ちよさそうな寝息が聞こえてきたので、車に帰る、帰ると全員が通信魔道具の前でじっと待機している
嫌な予感しかしない…戦乙女ちゃん達がお風呂上がりの恰好で人目を気にしないで何かを待っている時点で、嫌な予感しかしない!!
慌てて近寄ると
「一瞬だけ、音が聞こえたと思ったら、音がしなくなって、でも、なんだろう?ザザってザザって音だけが時折聞こえるのですけど、こ、故障か何かですよね?と、砦に何かあったわけじゃないですよね?ですよね?」
体に巻いたタオルが開けそうになっているのに気が付かない程、慌てている、落ち着かせるように声を掛ける
「不安なのはわかるよ、でもね、今私達が出来ることは無いの、だから、落ち着いて、大丈夫、きっと大丈夫」
落ち着かせるための言葉に説得力がない、無力な私ではこの程度しか声をかけることができない…
戦乙女ちゃんを落ち着かせていると通信魔道具から音が聞こえてくる
「たす・・・・け・・・・と・・・とどい・・・助けてください」
絶望的な声が辺り一面を静寂へと誘う
この場にいる全員の血の気が引いている、慌てていた戦乙女ちゃんでさえあまりの恐怖に意識を失ってしまい、その場に倒れ込む、女将がギリギリの所で受け止めてくれた。
砦が陥落した?間に合わなかった?宰相は?備えは?今の声はだれ?出てきたの?未知なる海の獣?それとも私達の砦に出てきた驚異的な敵?何が起きてるの?
その場で頭が混乱して動けないでいると、見回りに出ていたもう一人の戦乙女ちゃんが慌てて駆け寄り、通信魔道具が壊れていないか細部の確認を行っている。
自然と腕の中で眠っている姫様を強く抱きしめていた
「ぷらん…C、使ってってお姉ちゃんが言ってる、ドラゴンみたいなお姉ちゃんがいってる」
姫様の声に意識を現実へと戻される、プランC?プランCを発令すればいいの?
慌ててベルを5回鳴らす、きっと5回は緊急事態の合図
「何かありましたか!?」慌てた声のメイドちゃんに直ぐに単語で言葉を投げる「プランC発令!!」
「C!?…はい、わかりました、向こうの準備は整っているのですか?」ぇ?向こう?
「確認してみる!!」「いいよ、だって、発令すればあとは、お姉ちゃんが何とかするって」
思考能力の低下している姫様の言葉を信じていいのか一瞬悩んでしまったが、この言葉に従うしかない、それしか私達の希望は無い!!
「大丈夫!発令して!」「プランC発令します、プランC発令します!!急いでー!!連結急いでーー!!」
メイドちゃん側の通信魔道具から様々な大きな音が聞こえてくる、その間に何とか、宰相側への通信を成功させないと
戦乙女ちゃんが何度も点検している最中に、必死に呼びかける「プランCを発令しました!応答願います!プランCを発令しました!!!」
声が枯れそうな程、何度も何度も声をだす、何もない草原に私の声が永遠と広がり続ける…
静寂な夜の時間に、平時であればこのような悲痛な叫びが世界を埋め尽くすようなことはないのだろう、幸いにもこの辺りに人の気配ない、夜に騒いでも迷惑をかけることはない、だから、何度も何度も全力で声を出す、喉が裂けそうになろうと声を出し続ける…
「おい、あれって」
肩を叩かれ女将が指を指す方角を見ると、月夜の中に一筋の大きな白い光が真横に走っていくのが見える
高密度の魔力が放つ光の道…あれを照射してどうするの?向こうに何も伝わっていないのに?どうするの?
砦の方に吸い込まれる様に光が流れていく…
その直後に砦がある場所一体が大きな光で包まれる、あそこだけ太陽が生まれたかのように輝いている
光の大きな柱が生まれたのかと思った直後に大きな壁が出てくる、天にも届きそうな程、高い壁が
ここからでも見えるほどの高い壁、王城よりも高い壁、私達が創っている壁よりも、もっと高い壁が生まれた…
全員が状況が呑み込めていない、呆然とその場に立ち尽くしていると
突如、通信魔道具からガタゴトっと何か物を動かしているような音が聞こえてきた、全員が音に反応して通信魔道具に視線を移すと
「神様!始祖様!姫様!ありがとうございます!届いているのかわかりませんが、何度でも声を張り上げます!ありがとうございます!我々の命を救っていただきありがとうございます!!」
祈るような縋るような震えるような大きな声が聞こえてくる、状況は理解できないが、彼の言葉から伝わってくる、恐らくだけれど、南の砦は陥落しなかった。
呆然としていると女将がすぐさま返事を返す
「間に合ってよかったさぁ、そっちの状況を詳しく教えてくれるかい?」
通信魔道具から涙声でたどたどしく状況を語ってくれた
宰相が王都に向かって旅立ってから、毒の沼地を一回の跳躍で飛び越えてきた影があって、慌てて騎士団総出で対処に向かったのですが、
望遠鏡で見えた敵のサイズがその、今まで見たことのないサイズの大きな人型で、真っ黒な毛並みに、顔が今までの人型とは違っていて猿の顔をしていなくて
あれは、まるで、おとぎ話に出てくるような、悪魔、そう、この世界全ての悪を体現したような顔をした魔物、悪魔みたいな顔をしていました。
歴戦錬磨の宰相が長年の歳月をかけて、築き上げた凄腕の騎士団が1秒ごとに一人、一人と、吹き飛ばされ、切り裂かれ、踏みにじられ、次々と殺されていく
その光景を見てしまった私が慌てて助けを請おうと、作戦室に駆けこんで、その際にうっかり魔道具を置いてある机にぶつかってしまって、机の上から落としてしまったんです。
何度も何度も、床に転がった魔道具に助けを呼び掛けていたら砦が突如光始めたと思ったら、砦の目の前に大きな壁が生まれてきたんです。
その壁によって敵の進行を食い止めてくれたみたい!!ありがとうございます!!
ちょっとまってください、いま、現場近くの騎士が状況を確認して来たみたいで、はい、はい…は、い。
大きな壁は敵の四方を囲むように生み出されたのですが、中に取り残された騎士たちが数多くいており、騎士事、壁で閉じ込められてしまったみたいです。
あのような敵と逃げ場なく戦いを強制されてしまっては、彼らは助かりはしないでしょう…
私が、わたしが、魔道具を落とさなければ、みなに避難を、避難をよびかけ、かぇけ、うぐ、ふぐうぅぅぅぅ
大きな鳴き声が通信魔道具から響き渡ると突如、音が消えた…
魔道具の通信を誰かが切ったのだろう…
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