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人類生存圏を創造する 始祖様の秘術をここに 8

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姫様が目を覚ました、確かに目を覚ました。
あれから三日も経ってからだった、余りにも長い間、起きる気配がなく眠り撃づけていたので、女将が王都に帰ってきっちりとした道具がある場所で診察をするのがいいんじゃないかって焦っていた。
医者としての私の考えは、症状から見ても魔力が体内に廻っていないだけだと判断できる、王都に行って検査をするとなると最低でも一週間以上はこの現場から離れることになる、そうなると、色々と問題が発生する、それを考えると…行動を起こす勇気が出なかった。
あと一日、あと一日だけ様子を見ようと説得すること2回…あと一日経っても、意識が戻らなかったら女将に姫様を託すところだった。

現場の状況はこの三日で変化はあったのか?
その間も術士二人で必死に壁を創造していたので、確実に進んではいるけれど、二人体制だと、半年経っても、完成している可能性が低そうだった。

姫様が意識を取り戻したのはいいのだけれど、受け答えがまだ上手いこと出来ない、三日も寝たきりだったので、歩くのも一苦労、なので、リハビリからスタートしている、時折お腹が痛いのかお腹をさすっているので、点滴でずっと痛み止めも処方していたので、飲むタイプの痛み止めを処方し飲ます。

目を覚ましてから三日経った頃には、何とか歩けるようになり、受け答えも出来るようになっているけれど、舌が上手いこと動かせないみたいで舌足らずな状況なので、会話を行う際はゆっくりと行う様にしている。

一通りリハビリが終わった後は疲れたみたいで眠りにつく、眠っている間もずっと魔力を注ぎ続けると、
通信魔道具からいつものように定期連絡が来る、戦線は殆ど問題なく、襲い掛かってくる獣の軍勢の数が、かなり減少しており、北も南も余裕をもって対処できている。
宰相は、時折王都に帰っては事務や雑務をこなしている。
お爺ちゃんは最前線に居てくれるみたいでかなり助かっている、セクハラ被害も今のところ、報告があがっていないので、一安心。

早くも私達の街では作戦で亡くなった人達を弔う儀式を終えたそうで、メイドちゃんに亡くなった人の名前を一人一人教えてもらった
一緒にご飯を食べたり、一緒に遊んだり、一緒に訓練を頑張った人達の名前が多くあった…

中堅どころも死んでしまった辺り、敵の猛攻は凄まじかったのだと物語っている…
大概の攻撃に耐えれる訓練もしているし、装備も万全だった、報告に上がった内容だと鎧や盾が殆ど意味をなさなかった。

敵の一撃が今までの敵とは比べ物にならない程の一撃なのだろう。
構えた盾で、敵の攻撃を受けるのだと構えているのにも関わらず、攻撃を受け止めたり、受け流したりすることが出来ずに、盾があろうがなかろうがお構いなしに、強烈な一撃によって盾ごと肩の根元から吹き飛ばされる。
さらには、ただの手刀によって鎧ごと、体が真っ二つに切られたりと、魔道具も無しに純粋な身体能力だけで圧倒されたそうで、その場にいた全員がパニック寸前に陥ったけれども、何とかパニックを起こさず、敵から攻撃されないように逃げまどい時間を稼ぎきった。

その報告から現状今日から、過去に女将たちが戦った相手が本当に恐怖の対象になるのだと理解する。
あの女将が恐怖する理由がわかる、こちらが攻撃しようにも相手の攻撃力が高すぎる、勝てるわけがない…

メイドちゃんや宰相からの定期報告を戦乙女ちゃんが紙にまとめてもらっているので、姫様が起きた時にすぐに報告できるようになっている。
報告書を確認していると、術士の一人が休憩で簡易テーブルにやってきて水分を取りに来ている
水分を飲みながら用意してある魔力回復促進剤を二本開けて飲んでいる。

二本同時に飲むようになった経緯が、私が二本同時に飲んでいるのを見て、二本を同時に飲んでも大丈夫なのかと問われたので、今のところ問題は無い。
だけど、あちこちに痛みな熱が発生するので覚悟してくださいとだけ伝えると
「麗しい乙女が耐え忍びながら飲んでいるのに、男が躊躇うわけにはいかんな」っと決め顔で蓋を開けて飲み干し
「うむ、不味い!だが、今はこれが頼りになるというわけだ」飲んだ直後は決め顔だったけれど、徐々に決め顔をキープすることが出来ず、目頭も顎も何もかもがシワシワになりながら味に耐えていた。

そして、今も同じように人様に見せられない顔をしているのでついフフっと笑ってしまう
「いやはや、貴女は凄い、これを平然な顔で飲むなど、理解に苦しみますな」口直しの飲み物を飲みながらも軽口を叩けるようになってきている
二人で他愛もない会話をしていると「これこれこれ、何を魅惑の女性と楽しそうに会話をしておるのだ、極めて遺憾であるぞ」もう一人の術士に肩を掴まれて連れていかれる

手を振って見送ると戦乙女ちゃんが傍に来て「…口説かれてましたぁ?」ジト目で文句を言われてしまった、うーん、口説かれている感じはしないけどなぁ?
…っは!?もしかしてやきもち!?戦乙女ちゃんってああいうのが好みなのかな?

唐突なラブロマンスの香りに胸がときめく、どんな状況だって男と女が居れば、恋物語が始まるものなのね。
No2がいれば、どんなアドバイスをするのか気になるところだよね。

…元気にしてるといいな

その日も特に何もなく、一日が過ぎ去っていく
つい数日前にピリピリと肌で感じていた、この作戦はもっともっと、危険な作戦になる。そう思っていた。
だけれど、事態が一気に急変することになった、あの一撃から全ての事態が変わり、このまま収束するのでは?壁を創る必要性はないのでは?そんな風に思ってしまうの、これはきっと、浅はかな考えなのだろう

盤上を見渡すことが出来ない私のような明日を明後日を読み切る才が無い凡人ではどうしようもない、考えるだけ無駄なのだろうと、そう思ってしまう。
でも、変わらないといけない、姫様がたったの、僅か三日だけ、そんな短い期間、目を覚ますことが無かっただけなのに、すごく長く感じた、不安を感じた。
だからこそ、強く感じてしまう。己の未熟さを見直さないといけない、このままではダメだと、私達にもっと打破するための知力が知識がいる。

自分を失う覚悟はできていた、だけど、いつか来る日、姫様が居なくなる覚悟はできてると思っていた、でも、違った

人は失わないと理解しない、その場にある限り、目の前にあるモノがあって当たり前、いて当然、失う未来を想像できない。

この局面で姫様が居なくなるという恐怖を間近に感じた、不安を感じた、これに絶望して何もしなかったら前に進めない、未来を掴めない、私の未来じゃない、人類の未来が消えうせる、生存という言葉そのものが夢物語になってしまう、今まであった日常が夢の様に、水面の浮かぶ泡のように弾けて・・・消える

これ程までの大規模な戦況の変化にありとあらゆる大陸に住む人々が現実を目の当たりにしたと思いたい、こんな状況にでもならない限り人類が一丸となることはない。
だからこそ、この瞬間、この時が、人類が飛躍する、生まれ変わり明日へと羽ばたくための試練なのだと感じてほしい。

試練に撃ち負けた人は…絶命するのが運命なのだと呪うしかないけれど、足掻くことこそが、生きる事こそが、人の中に刻まれた心。

それを背負って歩く、世界中の人達が抱く、生きたいと願う心、こんな重たいものをずっとずっと、あの小さな体で、命短し体で背負い続けてきたのだと、至らない私でも漸く理解できるようになってきた。

この数日は本当に考えさせれる日々だった、たったの三日?四日?その程度だったのに、こんなにも考える日々が続くとは思わなかった




姫様が目を覚ましてもう一週間が過ぎた

呂律もしっかりとなり、発声も問題ない、歩くこともできる、自分でご飯を食べることもできる

だけど、思考能力が大きく低下している、会話が出来る、でも返事につじつまがあわない、私のことをお父さんと呼んだりお母さんと呼んだりするときもあれば、普通に団長と呼んでくれる時もある…貴女は何を犠牲にしたの?何を犠牲にして今を生きたの?

詳しく調べたい、知りたいと探求心が湧き上がる、これはきっと医者としての感情、そして、今も私の膝の上で寝ているこの子を守りたいと、支えたいと願う心は友人として?それとも母性?父性?…わからない。ただただ、辛い、今の姫様を見るのは辛い、心が裂けそうになる、女将に至っては姫様に驚かれ怖がれたのが未だに尾を引いていて近寄れないでいる。

人の心は記憶と結びついている、なら、魂は?心と結びついていないのかな?魂で理解できるものだという淡い期待もあった、けれども、違った、人は記憶が全て、経験がものをいう。
この場に居る全員が姫様の現状に絶望している、この絶望を、我ら人類の希望が失われた可能性があることを、私達は

報告できない…する勇気がない…

この壁を創り終えた時に全てが露見する、姫様の万能とも思える力が、存在が失われたのだと…

宰相には、姫様はまだ、意識が混濁していて正常な判断が出来ないと伝えている
メイドちゃんにも同じように意識が混濁していると伝えている
現場は、敵の猛攻が落ち着いているので現状では何とかなっているし、いざというときの策が幾重にもあると信じている。

問題があるとすれば、今の状況を改善する方法を探すことだ
医者として、姫様をどれ程までに回復できるのか、それが問題、壁を創造する作業に関しては術士二人が無理をしてでも進めてくれている。
考え事をしていると袖を引っ張られることに気が付き視線を下げると
「おかぁさま、トイレぇ…」眠たそうに眼をこする姫様を抱きあげて一緒にトイレに行く

トイレから戻ると女将が悲しそうな顔をし、こちらを見ている、姫様を怖がらせないように遠くに居るのが見える、姫様はやっぱり女将が怖いみたいで女将を見ると後ろに隠れてしまう
あんなに、好いていたのに、自分のお母さんっとも思っていた人なのに、女将の心情を考えると泣きたくなってくる。

姫様が私の後ろに隠れたのを見て、肩を落として何処かにゆっくりと歩いていく、見回りに出たのだろう。
服を引っ張られる「どうしたの?」後ろに隠れている子供に声を掛ける

「…ううん、なんでもない」
何か言おうとして何を言えばいいのかわからなかったみたいで、言葉が出てこなかった、ゆっくりと抱き上げて、その辺を歩こう。
抱っこしながら周囲をプラプラと散歩していると馬車が遠くに見えた、あの家紋は姫様のご実家、だよね?
ぼんやりと眺めていると馬車が私達に気が付いたのか進路を変えて向かってくる

何か用事があるのだろうと待っていると、馬車が近くに停車し、荷台から人が降りてくる、この間、会釈をした小太りの男性だ
男性が降りてくると真っすぐに私達のもとに駆けつけ帽子を取って挨拶をしてくれる
「ぇっと、その、どう…」挨拶までは凄く丁寧で紳士的だったのだけれど、言葉が出てこない、ぁぁ、そうか姫様のご実家の使用人でこのご年齢であれば、きっと、幼少期の姫様に仕えていた可能性が高いよね、なのに、姫様が何も返事をしないのもあれだし、姫様のお体のことを気にしているのかもしれない。
何度も何度も、姫様の髪の毛を見ては、顔色が真っ青になったり、目頭から涙が浮かび上がってきているもの。

姫様の肩をトントンっと叩いてみるが、どうやら眠ってしまっているみたいで起きる気配がない
「申し訳ありません、今、眠っているみたいで」姫様に向けていた視線を男性に向けなおすと涙を流していた…
「すいません、どうしても、どうしても過ってしまって、すいません、初対面の方に弱き所を見せて申し訳ありません」
何を懺悔しているのかわからないけれど、誰かを想って涙をするのはその人のことが大切で大事で、忘れることが出来ない程の想いがあるからだから、恥じることは無いよ
「気にしないでください、その涙は清らかで暖かい物です、人が生きることで恥じる部分ではありません、涙を流してその感情を受け止めてください」
私の言葉に抑えていた感情が溢れてしまったのか膝が折れて地面につき、号泣してしまった、馬車を運転していた人も、馬も、その人に近くに行って寄り添っている。
動物にまで心配されるほど、この人は良い人なのだろう。心が清い人なのだろう…

落ち着くまで待ってあげよう、時間はあるし、今はちょっと壁の近くにいたくないもの…

泣き止んだ男性がゆっくりと立ち上がり
「大変、不躾で尚且つ初対面の人に不信感を覚えると思われますが、願いを聞き届けてくれませんか?」
鼻を真っ赤にしながら真面目な顔でお願いされる、今の状況を見て、この人が不審者だなんて思えないよ、なんだろう?
「抱いている人を私も、抱いてもよろしいでしょうか?」
ああ、なんだ、それくらいなら「ええ、大丈夫ですよ、だって貴方達はこの子のお知り合いでしょう?」その言葉に驚いた顔をしていた
いや、家紋をがっつりと描かれている馬車を率いているのだから、察するよね?
「ぇぇ、そうです、もう二度と会えないと、会ってくれないと思っていたのに、まさか、その事を誰かに話しているのだとは、思いもしませんでした」
よくわからないが何かしらの事情や因縁があるのかな?姫様ってさ、実家の事、ひとっつも話してくれないもの、家紋だって姫様の私物から察しただけだから…
確か、お母さんの日記帳の表紙に家紋が描かれたハンコが小さく押されていたし、後は、机、うん、机のどこかで見た記憶があるかなーって程度だもの

ゆっくりと姫様を初老の男性に渡すと、初老の男性は眠っている姫様の顔を見て、涙があふれ出てくる
それを傍にいた人がハンカチで拭ってあげている、両手がふさがっているから拭けないからね、優しい同僚だね。
お馬ちゃんも姫様をじっと見て、動かない…知り合いとか?馬の寿命って確か20年は軽く生きるって聞いたことがあるから~姫様が実家から離れた時の年数を考えると、ああ、うんそうだね、姫様と一緒に育った馬なのかも…

少し離れて、身内だけの時間を作ってあげる

ふと空を見上げる、今日も綺麗な青空、この辺りは雨が少ないのかな?
そんなこともないか、今だって地面を濡らしているモノ…

空を見上げていると声を掛けられる
ゆっくりと姫様を受け取り初老の男性が鼻を真っ赤にさせ、目を赤くさせながら
「最後まで、その子の傍についてあげてください、貴女のような人が傍に居てくれるのなら私達も心の底から安心できます」
丁寧な言葉の後に深々と頭を下げた後、馬車に戻っていった

良い人達だね、姫様はお父さんのことを嫌いだって言うけれど、あんなにも良い人が傍に居るのなら、きっと人情深くていい人だと思うよ。
全てが終わったら一緒に行こうね、会いに。

ぎゅっと姫様を抱きしめた後、ゆっくりと子守唄を唄いながら辺りを散歩する
きっと、この土地なら、この場所なら、姫様を守ってくれると、姫様を助けてくれるんじゃないかって、そんな不思議な気分にさせてくれる。
何かに導かれる様に歩き続ける、子守唄を唄いながら…



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