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始祖様の伝説

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女将が自分の村がある方角をみると同時に、走り出そうとする
「ダメだよ、今から行っても…」
姫様が冷静な一言を言うと女将の足が上がることがなく、ぴたりと止まる。

「なぁ、姫様、あたいはバカだからさ、敵が誰かわからないんだ、教えておくれよ、敵は人か?あいつらか?」
人?どうして、人が村を襲うの?

「あいつらだよ、安心して、あいつの差し金じゃない、そんなのは私が許さない、したら滅ぼすよ決まってるじゃない」
今まで聞いたことが無いほど、恐ろしいほど冷酷で冷たくて戦慄が背中を駆け抜けるような声
本当に姫様から出た言葉なのか、私にはわからなかった、姫様の中に別の存在が居て、そいつが言葉を発したのかと錯覚しそうになる

その言葉を聞いた女将は、両膝を地面につけると、拳を地面に打ち付ける、何度も何度も、なんども…
その拳から放たれる感情は、悲しみ?悲しいのは当然だよね、だけど、それ以外の伝わってくる感情が、苛立ち?くやしさ?歯がゆさ?色んな感情が伝わってくる

「あたいは、あたいは、何のために戦士になったんだ、大切な人を誰も、だれも…まもれやしない!!」
あんなにも大きな大きな巨体が、どうしてこんなにも小さく見えてしまうのだろうか?決まっているじゃないの
女将と言えど弱いから、女将のことを敗北しらずの全戦全勝の戦乙女だと皆が思っている。

でも、本当は違う。

肉体的にも強い、心も強い、でも、女将は心優しい女性なんだ。

体と心は=じゃない。きっと、今まで自分の体が強固たる理由で色んな責任を背負ってきたのだろう、戦い抜いてきたのだろう。

心も体もいっぱいいっぱい、傷ついてきた、もう、これ以上、傷ついてほしくない。

女性があんな悲惨な戦場に顔を出すのは、よくないことだと、男の部分が語り掛けてくる。
女の部分である、私がその言葉を聞いても何一つ、反論できない。反論できる部分がどこにもない。

だから、小さく見える、見えてしまうの、傷ついて悲しくて辛くて、背負いたくない重みを背負わされ続けて。

そんな状態だとね、いくら体が大きくても、心を強く持とうとしても、出来ないの、だって、根っこの部分は心優しい乙女だから。
大きな大きな体が潰されて行って、小さく見える。

貴女の心は、本当は誰かに守ってほしいと思っている人だから。お父さんが傍にいた時が一番、この人にとって安心できた時代なのだと思う…

だから、私と姫様はね、この人がどんなに肉体が強くても、ね。

この人は非戦闘員と決めている、私達が守ってあげないとって思っている、体じゃなく心を守ってあげないと。心も体も傷だらけだから。

「なぁ、姫様、本当の本当にあいつらなのか?どうやって?吾輩は、僕は、アイツが起こした、人が起こした事件じゃないかと…心から信用できないんだ」
ベテランさんの言うことが正しいと私も思ってしまう、だって、この大きな大きな壁をどうやって乗り越えるの?
海を渡る術をもった獣がまだまだ他にもいるの?そんなにいたら、どうして今まで人類は無事だったの?…だからこそ、今回の事件は、人が起こした事件としか思えない…

「ふぅ、もう信用してよ~、はい、差出人の名前みてみなよ」
姫様が手に持った手紙をベテランさんに渡し、手紙を受け取るとすぐに視線が手紙の一番下にいく、そこにある名前を見て、胸をなでおろす
「疑ってしまってすまない、この調印にサイン、あの人が僕たちを裏切ることなんて絶対にない」
手紙をすっと姫様にかえすが、言葉通りに完全に納得がいったわけではなく、何処か納得がいかない様子だった

「…まだね、確証がないけどね、皆にずっと黙っていたことがあるの、本当は確証を得てからいいたかったんだけどね」
ずっと下を向きながら話しずらい内容なのかずっと言い淀む姫様

「海を渡る方法は、あいつらからすると魔道具なんていらないんだ、だってね、そのね、うん、心折れないでね?」
人型は海を単独で渡れないよ?これは間違いない。長年の研究で結果は出てるもの。

でもね、人型を運ぶことが出来る、海を自由に渡ることが出来る、特殊な獣がいるらしい、ううん、絶対にいる。目撃して確証を得てから話したかったけれどね。

始祖様が仕留めそこなった大元がいるの、史実では、全ての敵を倒されたことになってて、大穴は始祖様が居なくなってから出てきたことになっているけれど、違うよ?
隠された歴史ではね、始祖様が倒した敵は3体、陸・空・宇宙の三体って記述されているの、これはね始祖様、本人が記載した手記だから正しいの、人の手によって歪められた歴史じゃないの。

その手記にはね、細かく記されているの、本当のことが、始祖様が隠した事実があるの史実に記載されていない、真実があるの。

始祖様が見つけた敵は全部で5体

【陸・空・宇宙・地中・海中】

その5体は、元々は一つの獣で、とある目的で五つに分かれたの、その目的は始祖様も知らないみたいで手記に記されていなかった。
だから、私の推測だと、その獣は人類をこの大地、空、海、全てにおいて抹殺することを目的としてるのだと、推測しているの。
理由は、わからないけれど、そうでも考えないと説明がつかないから…獣の行動原理が。

どうして、私がそんな手記を入手しているのかって?ちゃんと原本もこの街に、私の部屋にあるよ、だって私達、白髪の一族は通称

始祖様の巫女だもの、始祖様が降臨されてから、始祖様が次の世界に渡るときまで傍にいて寵愛を受けた一族

それが、寵愛の巫女っと王族や、教会から、呼ばれ続け、そして、歴史から消えた一族。その最後の末裔が、私なの。
当然、王族は最後の末裔である私のことを把握している、お父様はそれを全力で隠そうとしてくれていたみたいだけど、筒抜けだったの、だって、お父様は政治的手腕が無さ過ぎるもの、私と一緒で、交渉の場が苦手なの、笑えるよね。

その言葉を聞いて、先日の王都のでの事件や、どうして姫様が暗殺対象になっているのか?納得しきれていなかった部分にすっとしみこんでいく。

最初は、てっきり、活躍が目がぐるしく、王族よりも民衆から支持されているから、目の上のたん瘤だからかなーって思っていたけれど、
今は違う、姫様の血筋には歴史的背景もある、そして、王族の血を引き継いでいる人と共に、王城に行くってことは、始祖様と大きな繋がりがあった特別な存在である寵愛の巫女が王族の血筋と結ばれたら?どうなる?きっと、それだけで、民衆は姫様を本当の姫へと押し上げる、始祖様に選ばれた寵愛の巫女が選んだ王族の血筋だよ?

この乱世を救ってくれる真なる聖女伝説が生まれると民衆は信じ込む、教会もそれを利用して、聖女再来を歌う、今のどうしようもない王様をどかして、姫様と王族の血筋を祀り上げる。

色々なピースがカチカチとはまっていく感覚がある、馬鹿で察しが悪く勘違いばかりする私でも、わかる。
けれど、王族が直々に暗殺しようとする理由が、他にもある、ような気がする。

「さて、言葉だけじゃ納得できないのは重々承知しています、なので!現物を一緒に見ましょう!っさ、一緒に部屋にいきましょう、本当はね、誰にも触れてほしくないけれど、みんなにだったらいいかな」
本来であれば貴重な資料を誰かに気軽に見せていいはずがない、きっと姫様の一族はそれを代々守ってきたのだと思う。
そんな一族の秘宝を見せようとするのだから、そりゃ、困った表情もするよね。

それから、全員で姫様の部屋へ行き、姫差が自分の部屋に入ると真っすぐに、普段、お化粧とか書類を書いたりする、日常的に使っている机の引き出しから、箱を取り出してかぱっとあけて、てきぱきと中身を取り出してくれる

中から出てきたのは、たったの、3冊の本

そんな大事な物を、そんな普通の場所に鍵もかけていない場所にしまっていたの?それに、めっちゃ普通に、そんな手軽にだしてもいいの?

机の上に置かれた本を三人が覗き込むように見る、三冊の本、その表紙を見てみると、読める文字が2冊、読めない文字で書かれた本が1冊
先の姫様の言葉で、どれが始祖様が書いたものなのかすぐにわかる

読めない文字で書かれた本だ

あと二つは何だろう?ダイアリー?日記帳?だれの?…ぁ、これ、姫様のお母さんの日記?
もう一つは?翻訳版?ぁ、始祖様が書いた読めない文字じゃなくて翻訳したやつってことね!!

ベテランさんと女将が恐る恐る、翻訳版と手記を手に取って読み始める。

…残された一冊はお母さんの日記、流石にねぇ?これを読むのはちょっと違う気がするんですけど?

どうしたものかと悩んでいるとくいくいっと袖を引っ張られるのでなんだろと振り返ると
「ねぇ、その、頼みづらいのはね、わかってるんだけど、これ、読んで…ほしいの」
もじもじと頬を赤らめながら渡されるのは絵本だった。

始祖様の英雄譚、それも、旧作の方だ。

「二人がね、読み終わるまで暇でしょ?だからその、読んでほしいなぁって」
頼み事するその姿は母親に甘える子供そのもの。
あの日以来、どうしても姫様のことが自分よりも幼い子供に見えるときがある、女としての部分が純粋に嬉しいと感じている。
子供のように甘えてくれるのは、母性が刺激されて純粋に嬉しい。胸がきゅぅっと締め付けられる感覚、きっとこれが母性なんだよね。

絵本四冊を受け取る、表紙を見て思うのは、本当に姫ちゃんは、この絵本、好きだよね。
たまーにだけど、一緒にベッドで横になりながら読んだよね。

しょうがない、甘えてくる子供をあやすために絵本を読んであげましょう!ぐずられてもめんどうだからねー、なんてね

絵本を受け取って姫様のベッドに入り、ヘッドボードに背中をつけて足を延ばすと、姫ちゃんもゆっくりとベッドに入ってくる、
ベッドの中央にある、伸ばした私の太ももの上にっていうか鼠径部の上に、ってよりもその、ややうえ、ん~お臍のちょっと下あたりかな?
そこに、頭を乗せてくるので、その目の前に絵本を開いて姫ちゃんに扉絵が見えやすくする

絵本を片方の手で支えながら、もう片方の手は姫ちゃんの頭を撫でながら、優しく優しく絵本を読んでいく。

1冊目は、始祖様がみんなの祈りを聞き届けて、この大地に降り立って迫りくる脅威を打ち払うお話
子供のころ、お祖母ちゃんがよく読み聞かせてくれた英雄譚、
いっつも、ここで寝ちゃって続きが聴きたかった思い出がある。
一番、思い出深いお話。

2冊目が、押し寄せる軍勢を色んな人類では到底到達できない神々の如く御業で敵を殲滅していくお話
上空からも、地中からも、いろんな場所から敵が襲い掛かってきて
凄まじい魔術で打ち払い、圧勝するお話
その後に、各国のお姫様が始祖様に求婚を申し出て、始祖様と結ばれるお話。

大人になってから知ったんだけど、各国が一夫多妻制を推奨するようになったのはここからなんだよね。

3冊目が、人類が視認できないほどの遠い遠い星空に浮かぶ敵を倒すお話
始祖様が街で色んな人と楽しそうに過ごして、みんなに術や戦い方を教え導いていく
そんな時に、空から一筋の光が落ちてきて、街の一つが爆発で消えてしまう
街のみんなが、空に住まう神様が怒ったのだと言い始める

始祖様が多くの人と交わりすぎたからだって神様が怒っていると騒ぐ街の人達
神はそんなことで怒らない、あれは神ではない獣だといい、槍を投げると槍が光の柱となって天を貫く
星が落ちてくる、その星は見たこともない大きな大きな生物だった

神だとしたら死なないはず、それは神の名をかたる悪しき獣だと始祖様が断罪する。
始祖様を攻撃した街の人達は実は獣の使いでみんなを誑かす獣の使者として裁かれる

昔はよくわからなかったけれど、世の中で反発する派閥がぶつかった結果、始祖様を敵に回した人たちは悪として裁かれたってことだよね?

4冊目が、始祖様が遠い遠いお月さまの裏側に帰ってしまうお話
街に大きな大きな英知を授けた後は、始祖様は自分を送ってくれた存在が月にいると言い
自分にはまだまだ救わないといけない人たちがいる、その人たちの元へ駆けつけないといけないからと
大きな大きな丸い月が夜空に浮かぶ日に、始祖様は月に向かって飛んでいく

みんなが感謝の言葉を叫び、祈りを捧げると、始祖様は月に吸い込まれるように消えていった。
きっと、月の裏側のもっともっと遠い世界にいる人達を、救いの旅に旅立ったのだと
お別れのお話

だから、亡くなった人や、もう二度と会えない人のことを月の裏側に行くっていうようになったんだよね。

教会の人が教えてくれたんだけどね、月の裏側には始祖様が歩いてきた道があって、亡くなった人はその道を通って始祖様に会いに行く
会いに行く理由なんて決まってる、始祖様が戦っているであろう悪と一緒に戦う為に

だって、私達は助けてもらってばかりで、恩を何一つも返してないから、だから、死んだ後は、恩を返すために始祖様が居る世界に旅立つんだって、教えてくれたっけな。

死んでまで戦い続けないといけないなんて、戦士は何て辛いのだろうって女の私は言う
戦士として誉れある死を迎えてなお、受け入れてくれる戦場があり、大義名分もあるなんてすばらしいじゃないかって男の私は言う。

昔だったら、男の意見もわかるけれど、最近はもうすっかり私は女の子だから、死んだ後も戦うなんて、嫌だよ。
どんな死に方であれ、死んだ後も、苦難に苦悩が待ち受ける闘いだらけの日々何て嫌よ、もっともっとステキなことをしたいって思わないのかな?

姫ちゃんの頭を撫でながら全部の絵本を読むと、ぐずっていた姫ちゃんは、すやすやと気持ちよさそうに寝てしまった。
視線をベテランさんや女将に視線を向けると、翻訳された本と、始祖様が書いた手記の本を、なんか見比べている?

読み終わったら私も読んでみたいな、伝説を生きた人の手記、そんな貴重な資料を見れるなんて思ってもいなかったもの。

もしかしたら、そこに私達が知らない秘術があって、その秘術で、あの大穴を消し飛ばしたり、この大陸全土を救うことが出来るかもしれないものね…
んむー眠くなってきちゃった…

っていうか、仕事ー、いりょうはんとしてのしごとー…ねたら…No2におこら・れ・・るよねぇ!

んむぅ、ねむ、ねむい、始祖様の英雄譚の絵本も~…好きだけど…私は史実の方がすき、だなぁ…大人の事情とかいっぱい書いてあって現実味が凄くて、歴史!ロマン!って感じですきか・・なぁ・・・

姫様の温もりとベッドの上という条件が重なってしまってつい、睡魔に負けてしまい寝てしまった…
本当はこんなゆったりとしている場合じゃないのに、女将の村を襲った敵を倒す為に何かできることをしないと、いけないのに…


ばん!っと扉が開く音にビクっとして目が覚める!なにごと!?
扉の先を見るとメイドちゃんがふくれっ面でこちらを見ている。
「ずるいです!仲間外れにして!」
猫のようにベッドの上に上がってきたと思ったら、私の足に絡みつき「寝る!ぁ!お仕事はお休みにしてきましたよ!」といい太ももに頬を摺り寄せながらゴロゴロと喉を鳴らしそうな勢いで甘えてくる。

…この子といい姫様といい、権力を持たせてはいけない人たちじゃないのかと思ってしまう。

何時間寝てしまったのだろうかと、時計を見ると、全然針が進んでいなかった。
なので、ベテランさんも女将もうんうんと唸りながら本を読んでいる…そういえば、この二人って難しい本、読んでるの見たことがないかも…

これは、長く時間が掛かりそうなので、二人が読み終わるまでみんなでお昼寝…タイムっていうよりも二度寝に近いかも?…休憩しておこう、休めるときに休むのは戦士として大事なことだよね?うんうん、仕事も休みにされてしまったし!これはもう、寝るしかないよねぇ?

おやすみなさい

三姉妹仲良くおやすみおやすみ…右手で姫様の頭を撫でて、左手でメイドちゃんの頭を撫でながらゆっくりと微睡んでいく…


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