純黒なる殲滅龍の戦記物語

キャラメル太郎

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第11章

第182話  乗船と出港

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 冒険者ギルドは勘違いから、優秀な冒険者を逃してしまった。生死を問わずならば頭を千切って持ってきたところを、捕獲だからという理由で脚だけを千切って態々持ってきてくれたオリヴィアに対し、通り魔を別の奴で成り済まさせてでっち上げをしようとしているだろうと疑った。

 犯行に使用していただろう、冒険者が魔物と戦う際にも使う鉤爪を両手に装着しているにも拘わらず、冒険者や受付嬢達は本当の通り魔を無実な人と判断していた。結局、通り魔本人が自白したことによって御用となった訳だが、言わなかったら魔法の練習台にされて簡単には死ねなかっただろう。

 しかもそれだけではない。通り魔の容姿は周知されていたものと全く違っていた。つまるところ今まで必死になって追いかけ回し、攻撃していた相手は通り魔ではなく、関係無い人物だったのだ。それを理解した冒険者達は、件の襤褸の人物を探して精一杯の謝罪と償いをしようとした。

 だが見つからない。そして見つけたとしても話を聞いてくれないし捕まらない。今まで散々に渡って追い掛けて攻撃してきたというのに、また現れれば同じようなことをされると思うだろう。例え、オリヴィアが目の前で本物の通り魔を捕まえていたとしても、また攻撃されるかもと思うのは仕方ない。何せ、今まで違うと言っているのに話を聞かず勘違いし続けた連中が相手なのだから。

 明らかに人のして良いことではなかった。故に謝罪と償いを求めたが、当人が受け取ろうとするどころか謝罪すらさせてくれないのでお手上げだった。一方の受付嬢も、酷いことをしてしまったと自責の念に駆られて年休を使ってでもオリヴィア達を探した。しかし見つからなかった。何処に行っても居ないのだ。

 宿に特徴を話して情報を求めると、オリヴィア達が最初に泊まった宿の職員が泊まっていったと話してくれたが、その後はチェックアウトして終わったという内容だけだ。手掛かりになりそうなものは無い。結局のところ、受付嬢は罪悪感と自身への失望を抱きながら業務に戻るしかなかった。

 ちなみにだが、オリヴィア達がナルサールで見つからないのも当然だ。何せ町から出て人気のないところでオリヴィアの特訓をしていたのだから。最強クラスの純黒、赫、蒼の龍を監督とした超豪勢な特訓である。ナイリィヌと約束した日まで時間があったので、特訓でもしようということになったらしい。













 ──────3日後。



「──────おはよう、オリヴィアさん」

「おはよう、ナイリィヌ。今日はよろしく頼む」

「ふふっ。えぇ、任せてちょうだい。これでも私、とぉっても楽しみにしてたのよぉ?」

「私も楽しみだった」



 約束の船が出航する3日後の朝、オリヴィアは船の前で乗り込む準備をしている客達の中からナイリィヌを探し出した。彼女の荷物はそれなりに多く、その全ては後ろに控える3人の護衛が運ぶらしい。間違っても護衛対象のナイリィヌに荷物を持たせることはないだろう。

 船を乗るのが楽しみだったリュウデリア、バルガス、クレアが喋らずに尻尾を振って、翼を羽ばたかせて船を見上げている。前日の夜は妙にソワソワし合っているのを見るのが何とも面白かった。堪えきれず吹き出すくらいには楽しめた。

 港町ナルサールにある図書館は規模が小さく、中に入って確認すると、読んだことある本しかなかったので読書はしなかった。なのでこの3日で行ったのは、オリヴィアの更なる特訓と美味しいものを求めて食べ歩きだった。彼女は彼女達で満喫していた。もちろん、冒険者ギルドには一切行かなかった。



「通り魔については捕まえてギルドに置いてきた。襲われたという者は出なかっただろう?」

「えぇ。新聞にも捕まえられたって載っていたわぁ。流石はオリヴィアさんねぇ。心配事が減って快適に過ごせたわぁ。ありがとう。助かったわぁ」

「船に乗せてもらうんだ。あの程度大したことではない」



 通り魔を捕まえてくれるとありがたいと話したその日の内に、通り魔は捕まえられた。そしてその速報は翌日には新聞で回ったのだ。住民が不安になっていた事件なだけあって伝えるのも早く、浸透していくのもまた早かった。

 ナイリィヌは売っている新聞を護衛に買ってきてもらい、読んで知ったのだ。そして通り魔を捕まえたのは確実にオリヴィアだろうと確信していた。全く捕まらなかった通り魔が、捕まえて欲しいと話したその日に捕まったのだから。それも優秀だと認めている者に話した日だ。

 別に通り魔を捕まえられなくても乗せてあげるつもりだったが、しっかりと捕らえたのでナイリィヌも通り魔の活動する時間帯などを気にすることなく過ごすことができた。それに他の住民がホッとして安堵しているのを見ると、頼んで良かったと思うのだ。



「お客様方!お待たせして大変申し訳ありませんでした!こちらの用意が終わりましたので乗り込む為の確認を行っていきます!係員の指示に従ってお並びください!」

「荷物は私達がお預かりし、貨物室に置いておきます。必要なもの以外の荷物をお預けください。また、必要になりましたら係員に言えば取りに行きますので把握のほどをよろしくお願い致します」



「それじゃあオリヴィアさん、私達はVIP対応だから受付は優先してくれるのよぉ。行きましょう?」

「あぁ、よろしく頼む」



 VIP対応をされる人は列に並ぶ必要がなく、優先的に受付確認をしてくれるので待ち時間はない。ナイリィヌは護衛とオリヴィアを連れて、空いている係員に話し掛けた。最初はオリヴィアが何者なのか、予約を取っているか確認してきたが、ナイリィヌが連れであることと、同じ部屋に泊めることを話すと了承した。

 受付確認を終えると、船に乗るように促されて、掛けられた手摺付きの橋を登っていく。船そのものが大きいのでそれなりに歩かないと甲板まで辿り着けなかった。ナイリィヌはふくよかなので、疲れないようにゆっくりと進んでいった。

 そうして歩いてゆっくりと上り終えると、設置された階段を使って甲板に降り立った。木で出来た水平の床は丈夫で沈みもしなかった。木なのに壊れやすそうという印象はなく、むしろとても頑丈そうというイメージ。オリヴィアはナイリィヌに先導してもらって泊まることになる部屋に案内してもらった。

 部屋は本当に広かった。少なくとも5人以上で一緒に寝泊まりしても困らないだろうと思われる広さで、ベッドも2つ大きなものが設置されていた。シャワー室も設けられており、海水を汲み取って船の中の部屋に貯め込み、魔石を使ってそれぞれの部屋に送り届けながら途中で濾過して真水にしているらしい。

 部屋の壁は真っ白に塗られていて、所々で金に輝く装飾が施されている。一目で豪華だと分かる造りだ。他の部屋を見ていないので自信を持って言うことはできないが、少なくとも他よりは金を掛けて造られていることだろう。



「オリヴィアさんはそちらのベッドを使ってくださいねぇ。好きに寛いでもらっていいわよぉ?折角の船なんですものぉ、楽しんでねぇ?」

「ありがとうナイリィヌ。なら遠慮なく使わせてもらおう。それと、船が動き出すところを見たいから、私達は甲板に行っている。満足したら戻ってくるが、何か用があれば来てくれ」

「分かったわぁ。それじゃあ私はシャワーを浴びているわねぇ」



 自前のバスローブとタオルを持っていって浴室に入ったナイリィヌ。オリヴィアはリュウデリア達を連れて来た道を戻って甲板に出た。潮風が吹いて心地良い。マストで縛られている多くの帆が開かれようとしているのを見ると、客が全員乗って出航しようとしているのが分かる。

 楽しみだなと小声で言うと、3箇所から肯定の言葉が聞こえてくる。最近になって感じ取れるようになってきた気配で、彼等が楽しみだというのが伝わってくる。まあ、揺れる尻尾でも分かってしまうのだが。

 暫く海から吹いてくる風を浴びて潮の香りを嗅いでいた一行。時間が少しずつ経っていき、やがては待ちに待った出港の時間がやって来た。乗り遅れのないように入念の確認を船員が行い、係員達が一部屋一部屋人が居るかチェックして回る。そうした確認作業を終えると、ホイッスルが鳴らされて掛けられていた橋が外された。

 船員の人達の掛け声と共に、キャプスタンと呼ばれる錨を巻き上げて持ち上げる巨大なハンドルを、男数名で回していった。鎖が音を立てながら先端に付いた錨を持ち上げていく。巻き上げが終わると、今度はマストの畳まれた帆を解放した。幾つもの大小様々な帆が風に押されて張る。すると、船は風の力を借りて前へと進み出したのだ。

 港では船の出港を見守る町の住人達が居て、手を振って見送ってくれていた。他の客達もそれに対して手を振り返している。中には家族と離れるのか、涙を流して感謝の言葉を叫んでいる人も居た。オリヴィアは他の客が居るその場から少し離れる。声が聞こえないようにするためだ。



「おぉ……っ!速度は遅いが確かに動いている!」

「やっぱ風の力使った方が良いよなァ?つか、それなら風向きが変わったらどうすんだ?帆を畳むのか?」

「これは……いい。乗っていて……面白い」

「ふふ。目当ての船は良い感じか?」

「無論だ。後は緊急時の船員の対応やら、船の舵の切り方を観察したい」

「これ後ろから風叩き付けたら加速するよな?やってみて良いか!?」

「クレアが……やったら……帆に……穴が……開く」

「魚釣りをやってみたら何が釣れる?先に行った海域には何が住んでいる?海は実際どれ程の深さがある?ははッ。是非この目で見たいッ!」

「楽しそうで何よりだ。もう少しこの場に居るか?」

「「「──────おう!」」」

「ふふ、ふふふっ」



 元気の良い返事が返ってくる。龍の飛行速度から考えれば亀よりも動きは遅いことだろう。しかし、人の手で造られた船が水の上に大きさや重量をものともせず、横に傾いて転覆すらしないで水を掻き分けて進んでいく状況を見ているのが楽しいのだろう。そんな感じの声色だった。

 別に他にやる事など無いし、やろうと思っていた事も無いのでリュウデリア達に付き合ってあげよう。身を乗り出しすぎて海に落としてしまいそうになっている腕の中のリュウデリアを抱き締めて止めながら、オリヴィアは風を感じつつ小さくなっていく港町ナルサールを眺めていた。人生ならぬ神生で初めての乗船は、快適で快晴の空の下のことだった。




















「──────楽しめたかしらぁ?オリヴィアさん」

「あぁ。初めての船は実に良いものだ。後で魚釣りでもしてみようと思う」

「それは良いわねぇ。海なら色々釣れるでしょうから、それもまた楽しめるでしょう。私もこうして話せる相手が居て嬉しいわぁ」



 バスローブに身を包み、濡れた髪の毛を白いタオルで巻いているナイリィヌは、ベッドに腰掛けて同じくベッドに腰掛け、対面しているオリヴィアと話していた。傍にリュウデリア達は居ない。この部屋は香水臭くて敵わんと言って甲板に避難している。寝るときになったら戻ってくると言い残して海を眺めに行った。

 何かあればローブを使って魔力を高めれば駆け付けると言っていたので問題ないし、物理も魔法も基本効かないローブに護られているオリヴィアを傷つけられる者はそうは居ないので大丈夫だろうということだった。

 ナイリィヌは風呂を長く楽しんだようでホカホカになっている。そこでちょうど良く部屋に戻ってきたオリヴィアと話をしようとして今の状況になっている。オリヴィアは淹れてもらった紅茶を飲みながら他愛ない話をしていく。別れたあとどんなところに行っていただとか、こんなものを見たというようなものだ。そうしてお喋りに花を咲かせている内に、次の大陸についての話になった。



「オリヴィアさんは西の大陸に着いたら、何処か行きたい場所とかはあるのかしらぁ?」

「いや、無いな。というよりも、訪れるまでの楽しみにしている。適当に歩いて自然を見聞きし、時には魔物と戦い、進んだ先に街などがあれば寄って少し過ごし、また旅を再開する。そんなものだ」

「良いわねぇ。私ももっと若くて戦える力があれば、そういう夢のある旅をしていたのだけれどねぇ。見ての通り、もうおばちゃんで激しく動ける体じゃないから厳しいのよぉ。けど、旅じゃなくて旅行ならできるわぁ。だから、私は気分転換にこうして旅行をして、色々なものを見て回っているの」

「それもそれでいいじゃないか。旅にも面倒なこともあるし、戦っていて変な事件に巻き込まれることもある。全てが全て綺麗に始まり綺麗に終わるものでもない。まあ、そこも面白くて良いのだが……旅行なら旅よりも気軽に出来るだろう?むしろ旅行の方がナイリィヌに合っていると思うがな」

「そうかしらぁ?ふふ。なら、今度はもっと範囲を広げて色々行ってみようかしらね。あ、そうそう。私の故郷である西の大陸にはねぇ、ちょっとした注意が必要なのよぉ」

「注意?」



 今まで気ままな旅をしてきて、苦労したという話は殆ど無い。そんな場面に出会したとしても、一緒に居るリュウデリアが即座に解決してしまうからだ。それに、事件に巻き込まれ過ぎると面倒に感じてくるが、程良く絡んでくると非日常的な感じがして息抜きには良いのだ。

 ナイリィヌは出来るなら旅などをしてみたかったというが、これでも西の大陸にある有名な化粧品メーカーのトップであり、本来ならば多忙の身である。旅なんて出来るはずもない。今回の長期旅行は、日頃忙しく働いているナイリィヌの為にと、従業員達がサプライズとして彼女にくれた長い休日だった。

 目を閉じて会社で働いてくれている良い従業員達を思って微笑んだ。歳も人間で言えばおばちゃんで、健康そうな体型をしていないが、浮かべる笑みはとても綺麗だった。オリヴィアはナイリィヌが善の人間であることにひっそりと笑みを浮かべた。

 話していたナイリィヌは、あることを伝え忘れていた事に気がついた。先程まで居た南の大陸と、今向かっている西の大陸というのは文化が違えば、食べるものだって違ってくるだろう。しかしそれよりも、ナイリィヌはオリヴィアに伝えておきたいことがあった。南の大陸では見られなかった、西の大陸に居るのことだ。



「オリヴィアさん、獣人じゅうじんというものはご存知かしらぁ?」

「獣人……?」



 ナイリィヌの口から出て来た言葉は、聞き慣れないものだった。しかし何となくだが何を指しているのかは判る。リュウデリアが本を読み漁っている時、人間の他にも違う種族というのは居ると言っていた。龍や精霊とは違う、人間と同じように文化を築き、国を発展させて生きている種族が。

 その特徴を教えてもらい、もしかしてアレ等のことか?とその時は思っていた。オリヴィアはリュウデリアを遠見が出来る鏡で見つける前まで、色々な者達を適当に眺めていた。その中でも、リュウデリアが言っていた種族の特徴と合致する姿をした者達を確かに見たのだ。まあ興味が無くて本当に適当に流し見した程度だが。






 オリヴィアはナイリィヌから聞いた。西の大陸に行くと良く出会うようになるという獣人という者達のことを。そして、それらと会った時には少し注意をして欲しいということも。







 ──────────────────


 獣人

 読んで字の如くの者達のこと。リュウデリアは実際に見たことは無いが本を読んで特徴は把握している。オリヴィアは神界に居た時に、遠見の女神の権能を付与した鏡でチラホラと見たことがある。




 龍ズ

 初めての船に興奮した。速度も大したことないし、触れれば簡単に壊せるものだが、これを1から考えて木を加工して造ったと考えると大したものだと思っている。

 本を読んで浮かぶ理由と横に倒れて転覆しない理由も造り方も全て知っているが、やはり実際に見て乗ってみるのとは違う。

 ナイリィヌが居る部屋は香水臭くて本気で頭おかしくなりそうなので避難した。




 オリヴィア

 リュウデリア達が楽しそうで何より。実はリュウデリアよりも多くの種族のことを見てきた。けど、興味が湧かなかったので適当に眺めていただけで、殆ど記憶にない。もう一度見たり聞いたら思い出す程度。


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