純黒なる殲滅龍の戦記物語

キャラメル太郎

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第8章

第124話  怨敵を討つ

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「──────俺達にも子供かぁ……うんと遊んでやらないとな!」

「ふふふ。ガレスは元A級冒険者なんだから、手加減しないと怪我させちゃうわよ?」

「そ、そんなのは当然の話だ!大切な我が子を傷付けられるか!」

「遊んであげたいのは分かるけど、はっちゃけすぎないでね」



 彼等の名前は、夫がガレス。妻をレミィという。2人はある村に住む、善良な住民だった。ガレスは元々冒険者をしていたが、ある程度金が貯まり、何処か別の所へ移り住んで余りある金があるということで、長年交際して結婚したレミィと共に村に移り住んだ。

 まだ20代の2人は、村でやっていくために暮らし方を覚え、困った事があっても2人でどうにかしてきた。村に魔物が現れても、腕利きだったガレスが退治して村の安寧も続いている。家事の役割分担も決めて順調な夫婦生活を送ること2年。レミィのお腹は大きくなっていた。

 子宝にも恵まれた2人は本当に順調だった。生活は安定し、近所付き合いもコミュニケーション能力が高いレミィのお陰で良好。ガレスが魔物を倒すので村に住む皆から一目置かれた仲良し夫婦であった。そしてレミィの陣痛がきて、2人の間に初めての愛しい我が子を授かった。彼等は我が子にアレクと名付けた。



「よーし、いくぞアレクーっ!」

「わ、わーい!キャッチボール楽しいなぁ……っ!」



 親子仲もとても良かった。レミィとガレスの子供であるアレクは、とても優しい子に育った。料理を作っていれば興味深そうに見ていて、皿を洗う手伝いもしてくれる。掃除も自分から手伝うと言ってくれた時は、手伝うようにしなさいと言っていないのにやってくれたことに感動した。

 冒険者であった父の血を継いだからなのか、小さい頃から村を襲ってきた魔物をガレスと共に討伐しようとする姿を何度も見た。まだ小さいからという理由で断られてもめげず、何度も頼み込んで同行を許してもらった日、アレクはたった一撃の魔法で魔物を粉微塵にした。

 魔法の才能もあるのだと分かって、その日の夕飯は豪勢になった。物を食べる時は本当に幸せそうにしている息子を見ると、ガレスとレミィは同じく幸せそうに微笑む。これからもこんな幸せを噛み締められるのだと。そう思っていた。

 だが、自分達の息子はもっと広い世界を見て回りたいと言っていた。父がやっていた冒険者になりたいとも。仲間達と一緒に色々なところを巡って、見たことの無いような景色を眺めて、強くて優しい冒険者になるんだと。そう言われれば、自分達が止める言葉を出せないのは必然だった。

 いつの間にか大きくなった息子は、背中に自分達の視線を受けながら、力強い1歩を踏み出して一番近くにある王国へと向かっていった。途端に寂しくなった我が家に泣きそうになるが、別に2度と会えない訳ではないし、手紙も書くと言ってくれていたので安心している。



「あなたー!アレクから手紙よー!」

「おー!今行くよー!」



 郵便が来ると、アレクからの手紙だと思い、年甲斐もなくドキドキした。離れたところで1から頑張っている息子のことは確かに心配ではあるけれど、それでもそれは息子が決めたこと。自分達はアレクが立派に成長することを、我が家で祈っていればいい。彼なら大丈夫なんだと。

 手紙は息子らしい、戦った魔物のことであったり、助けた人の事だったりばかりだった。時には仲間を迎えたと書いてあったが、その子が冒険者ギルドで中々に腕の立つ女の子であり、その後にパーティーを組む2人も女の子であると報告されると、女の子にモテモテだと、2人で笑い合った。

 そうして穏やかな日々を送っていると、少し嫌な予感がした。その日はガレスがよく足を躓くようになり、レミィは飯の用意をして調理している間に珍しく指を切った。何かが起きる前兆とでも言いたいのか、小さなハプニングが続いた。



「……え?今、なんて……?」

「おい、冗談だよな……?アレクがふざけてやっているだけなんだろ……?なぁ……っ!!」

「お気持ちは分かりますが……もう恐らくは……」



 不吉なことが起きるのではと警戒していた日から数十日後、村にある者がやって来た。荷車を馬に引かせた商人だというケイトという青年だ。彼は村に着くなり、ガレスという男性とレミィという女性は居るかと名指して指名してきたという。

 何の用事なのだろうかと、2人でケイトの元まで行くと、とても悲しそうな顔でアレクが死んだことを告げられた。死体を確認した訳ではないが、生存は絶望的であろうということを。

 アレクが向かった国が丸々1つ滅び去り、それを目にした彼は仲間達と共に国を滅ぼした元凶である龍を討伐しに行ってしまったという。その後は生存を確認するための手紙も届かず、数日経っても彼等の姿を見ることは無かった。そこでケイトは、あらかじめアレクから聞いていた生まれの村に向かい、報告をしたのだ。

 商人として寄った国でも、アレクという若い冒険者の噂は耳に入っていた。所属してから強大な力を持つ魔物を傷一つ無く屠るという。なのに性格は穏やかで優しい。少し周りを女で固められているのは、強い者の宿命なのだろうと言われていた。

 それ故に他の国へ渡るための護衛として雇った。道すがらアレク達のこれまでのことを教えてもらい、その一環で生まれ育った村のことを聞いた。過去に1度行ったことがあるので、幸い場所が分からないということはなかった。



「アレクさんはとても気さくな方で、心優しい方でした。国が襲われたと知るや否や、元凶があの龍であるというのに亡くなられた方々の為に討伐をすると声高々に宣言していました。しかし……」

「うっ……うぅっ……あ、アレクらしいけど、けどっ!死んだら意味ないじゃないのぉっ!!」

「あの、本当にウチのアレクは……っ!?」

「……龍の居所を見つけ、お仲間の方々と向かってから既に3週間が経っています。これまでに手紙などが送られてくることも無く、違う街や国に渡ったという話はありません。遺体などを確認した訳ではないので確証を持っている訳でもないのですが、最悪のことを考えておいた方がよろしいかと……」

「うぅっ……そんなぁ……っ!!!!」

「クソッ……ッ!!」



 2人ともアレクの事を心から愛していた。愛していたからこそ、死んでいる可能性が高いと言われてしまえば泣き崩れるのも無理はない。レミィはその場で膝から崩れ落ち、顔を両手で覆って肩を震えさせながら泣いていた。ガレスはその場で手を固く握り込み、静かに涙を流した。

 報告に訪れたケイトはとても気まずそうにしていた。確証が無いことを伝えるのは嫌だ。何処の誰が、死んでいるのか分からない人達の親に、彼等は死んでしまったかも知れないと報告したいと思うのか。彼とて本当は言いたくない。だが、3週間も音沙汰がないとなれば、報告するしかないではないか。

 泣いているアレクの両親達を暫く気まずそうにしながら見ていたが、最後は小さい声で別れの挨拶をして家を後にした。村を去る時も少しだけ振り返ったが、頭を下げて目的地に向けて出発した。






















「……アレク。ぐすっ……アレクぅ……」

「……狩りに行ってくる」

「……いってらっしゃい」

「……あぁ」



 商人の青年ケイトからアレクの事を聞いた日から後は、2人とも言葉数が少なくなった。愛する息子が死んでしまった。それは親という身である彼等にはあまりにも重すぎる事実だった。本当ならば自分達ではどう足掻いても勝てないくらいの強さを持つアレクの生存を信じるべきなのだろう。だが……相手は龍だ。

 強すぎるが故に世界最強の種族と謳われる龍。近づくだけでも攻撃してくるという気性の荒さに加えて、全ての龍は魔法を巧みに使い、その身に膨大な魔力を宿しているという。歴史上で龍を倒せたのは、歴史に名を残すような英傑や勇者等といった者達だ。それ以外は会ってしまった瞬間皆殺しにされ、国や街、村を滅ぼされている。

 お世話になった国を滅ぼされ、憤って仇を討とうとするのは分かる。心優しい子だったから。しかし相手が龍ともなれば話は別だ。仮にその場に自分達が居たとしたら、全力で止めたことだろう。いくらお前でも敵う相手ではないからやめておけと。命有ってこそのものだからと。

 たった1人の我が子が、自分達の見知らぬ場所で死んでいるかも知れない。そう考えてしまうと、何も手がつかない。生きる上で食べ物は必要不可欠なので、ガレスは狩りをしに行くが、何時ものやる気には繋がらず、適当な獲物を捕まえて帰る日々を送っている。



《──────。──────、──────?》



「何だ……お前は?何を言っている……?」

「アレクを殺した龍を……あなたは知っているの!?」



 そしてある日、ガレス、レミィはある存在と出会う。家のリビングに黒い靄と共に現れたソレは、2人に問い掛けた。愛する息子を殺した龍の事を知りたくはないか?と。ガレスは元冒険者なだけあって突如現れた謎の存在に警戒をしている。しかしレミィはアレクの事となると目の色を変えて飛び付いた。

 謎の存在が知っていると言うと、葛藤もなく教えて欲しいと頼み込んだレミィ。警戒しているガレスはそれを咎める。流石に話がいきなりすぎる。突然現れたかと思えば、息子を殺した龍の事を教えてやろうと言う。狙いが有ってこその言葉だと誰でも分かる。

 安全など二の次で話を聞こうとするレミィを押さえながら、ガレスは何が目的だと問うた。それに対し、謎の存在は最初からそう問われるのを分かっていたかのように淀みなく答えた。お前達に龍と戦うための力を与えてやるから、殺す気で戦えと。それだけを望むと言うのだ。

 つまりは復讐しろと言っている。愛する息子が殺された。大いに哀しんだ。敵が誰か、犯人が誰か知れた。人知を超えた力も与える。ならばもう……やることは1つ。復讐だ。愛する息子を殺した龍をその手で殺すのだ。謎の存在は甘い言葉で心を惑わす。この手を取れと。だがガレスは警戒している自身の心に従い振り払おうとした。甘い甘い誘惑の手を。



「──────分かったわ。お願い、息子を……アレクを殺した龍を教えて。そして力をちょうだい……ッ!!」

「レミィ……っ!?」

「……ごめんなさい、あなた。でも、でも私は龍が憎いの。アレクを殺したという龍が」

「まだ死んだとは限らないだろう!?」

「──────現実を見てよッ!!」

「──────ッ!!」

「ケイトさんが来てからどれくらい経ったの?それまでに何度付近の国や街に手紙を送ったの?どれだけ待ったの?それで返事は来たの!?来ないじゃないッ!!読んだらすぐに返事を書くあの子が、全く返事を返さないッ!!相手は龍なのッ!!死んだのよアレクはッ!!殺されたのよッ!!私はもう……何もせずに家で今までのように家事をするなんて無理よ。それに嫌。復讐ができるならば、私は悪魔にだって魂を売ってやるわ」

「お前……」

「嫌ならばあなたは此処に居て。何もしなくていいわ。私1人でも復讐してやるんだからッ!!」



 日々心が軋み上げていた。掃除をするとき。食器を洗うとき。選択をするとき。アレクが居たときの日常を思い浮かべてしまい、今と過去を比べてしまう。不毛であることは知っている。そんなことを思い浮かべても、彼はもう帰ってこないのだと。

 死んでいるとは限らない。だが生きているとも限らない。生きているのか死んでいるのかも分からないというのは、心に……精神に多大なダメージが入る。そこでレミィは、親としては失格かも知れないが死んでいるということに思うこととした。それだけの状況だったからだ。

 涙を流しながら鬼気迫った表情に顔を歪めるレミィを見て、ガレスは彼女が復讐するまで止まらないことを悟る。冒険者をやっていた時に、仲間を魔物に殺された者が浮かべる表情そのままだったからだ。ガレスは1度目を瞑った。アレクとの思いを瞼に映し出し、その笑顔が龍の吐き出す炎に呑まれる光景へと変わった。

 自分自身に問い掛ける。このままで良いのか。妻だけを行かせるのか。相手は龍だ勝てっこない。復讐しなければ。それは俺達にできることか?龍殺しをする。どうやって?……この謎の存在から、力を貰うしかない。それ以外に方法は……無い。



「……すぅ……はぁ……──────分かった。俺もやる。レミィ、一緒に復讐しよう」

「あなた……っ!!」

「お前だけを行かせないさ。俺達夫婦で、愛する息子アレクの仇を取るんだ。……さあ、アレクを殺した龍の事を教えろ。そして俺達に龍を殺せるだけの力を寄越せッ!!」



《お前達の息子を殺した龍の名は──────『殲滅龍』リュウデリア・ルイン・アルマデュラ。彼を殺すために、お前達には■■を授けよう》



「──────ッ!?こ、これは……ッ!!があぁああああああああああああああああッ!!」

「か、体が熱いっ!痛いっ!な、何なのこの……あぁああああああああああああああッ!!」



 体の内部から焼けるような熱さに犯される。煮えたぎる溶岩でも流し込まれている感覚だ。骨が痛い。神経が痛みの塊を発信している。

 皮膚に黒紫色をした痣が浮かび上がっていく。手脚が黒紫色に染まり、魔力で覆って形成したように大きさを変えていき、獣のようになっていった。瞳の白目部分が黒く染まり、虹彩が黒紫となる。心が怒りや憎しみによって覆い隠され、怨嗟の声を上げていた。

 謎の存在により与えられた力は、人間を人間ではない何かに変貌させた。恐ろしいものだった。変貌した2人は軋む心を誤魔化すように家を破壊しながら外へ飛び出て、本能に任せるような破壊を撒き散らして長年お世話になった村を火の海に変え、住民を残らず殺してしまった。

 村を破壊し、燃やし、人を皆殺しにして体に力が馴染むと、謎の存在が指し示す方向へと飛んでいった。怨敵。リュウデリア・ルイン・アルマデュラを殺すために。

























「私達は何があろうと、必ずあの龍を殺すッ!!邪魔をするな神ィッ!!」

「過去に何があったかは知らん。知らん上に至極どうでもいい。しかし敵対するならば……私はお前を殺す。リュウデリアを狙うならば尚のことに。愛しあう私達の仲を引き裂こうとするものは、何人も赦しはしない。復讐の果てに死ね。それがの決定だ」

「舐めるなァ──────ッ!!」



 オリヴィアと対峙する敵の女……レミィは激昂して突っ込んだ。真っ正面から。ただし姿を幾つにも分身させる。全方位を囲い込む勢いの分身達とレミィ本体の同時攻撃。逃げ場は無い。何かしら手を打たなければ、数の暴力で袋叩きにされるだろう。

 純黒の鎖を握っていた手を離して魔力へと戻す。ローブの力で物理が無効化されるとしても、だからとて態と攻撃を受けてやる義理はない。

 数多くのレミィが殺到する中、オリヴィアは静かに人差し指を立てた右腕を持ち上げて天を指す。快晴の空に暗雲が発生し、純黒の雷を轟かせた。中央に渦を巻き、天変地異を彷彿とさせる暗雲から進化した雷雲。彼女はフードの中で朱い瞳に妖しい光を伴わせ、腕を大地に向けて振り下ろした。



「──────『純黒の落雷トル・モォラ』」



 雷雲で雷鳴轟かす純黒の雷が、渦を巻いている部分の中央に集まり、一条の純黒なる雷を落とした。音よりも速い雷を、更に置き去りにする純黒なる雷はオリヴィアと分身を伴うレミィの元へと辿り着く。一瞬視界の中が全て純黒に染まり、レミィの意識はぶつりと切れた。





 大いなる衝撃。耳を劈く落雷の音。街を避難した住民達は、その一撃を以て街を襲った者達が倒されたのだと察した。察してしまうほどの、絶対の一撃だった。





 ──────────────────


 ガレス&レミィ

 愛する息子であるアレクを殺された両親。絶対にリュウデリアを殺すと息巻いていたが、ガレスはそのリュウデリア達によって捻じ伏せられ、レミィは彼の元へと辿り着く前にやられた。

 息子の命を云々言う前に、他者の命を奪っている者達。元の人間の感性は残っていない。あったのは怒りと憎しみだけ。ガレスに関しては最後圧倒的力の前に恐怖に呑まれた。




 オリヴィア

 レミィがどんな過去がありリュウデリアを狙っているのかは知らないが、興味ない。敵対するならば殺す。彼を狙っているならば尚のこと殺す。慈悲はない。例え過去を話されたところで殺すことに変わりなかった。




 ????

 ガレスとレミィに力を授けた存在。己から接触し、怒りや憎しみに触れて増長させ、復讐させるように仕向けた。ただし、彼等ではリュウデリアに絶対勝てないことを最初から知っていた。


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