純黒なる殲滅龍の戦記物語

キャラメル太郎

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第8章

第115話  首渡し

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 宿屋『ノーレイン』に強盗が入った。経営者であるユミの父と母親がほぼ毎日のように出稼ぎに行って店にはまだ子供のユミしか居ないと把握していて、経営で貯めた金を盗むために押し入った。計画は一部上手くいき、店番のユミを拘束して金を探した。

 しかし、そこで思わぬ出来事が起こった。オリヴィアが強盗の犯人を探し出して捕まえるという、冒険者ギルドに出された依頼を受けたのだ。盗むためならば人も殺していた3人組の強盗は、魔法で姿を変えてはいたものの人数は誤魔化せない。強盗されても殺されなかった被害者が、人数の報告をしたのだ。

 それによって犯人は3人組であるということが判明し、依頼書に書き込まれる事となった。それをオリヴィアが受けたとなれば、解決まで一本道だ。リュウデリアが魔力で街の人間一人一人を把握し、それらしき3人組を探せば良いだけなのだから。

 結果、既に押し入られてユミが暴行を受けていたとはいえ、ユミが殺される前に、そして金を探し出して宿屋から逃げる前に捕らえる事が出来た。人を殺す凶悪性から生死は問わずとの事だったので洩れなく3人殺されてしまった訳なのだが。



「──────いいね?住民も居るんだから、生首なんて浮かせてたら子供の目にもつくし怖がってしまうでしょう?場合によってはトラウマになったりするんだから。冒険者として受けた依頼であり、最近の強盗事件の犯人なのは分かったけど、そこら辺は少し気をつけてね?いいね?危なく犯人を倒してくれた君を牢屋に入れるところだったよ……」

「分かった分かった。見えんようにすれば良いのだろう。まったく、たかだか首だけであれだけの騒ぎを起こしおって……」

「普通は生首見たら騒ぐの!冒険者は魔物の死体とか見慣れてるからいいかも知れないけど!住民は違うの!」

「善処してやるから傍で騒ぐな鬱陶しい。必要な事情聴取は終わったのだから良いだろう。それに、私はこの首をギルドに届けねばならん。依頼だからな」

「はぁ……。ユミちゃんのお父さんとお母さんが仕事先から診療所の方に行くだろうから、それまでには終わらせてユミちゃんの所に行ってね。君は助けた側なんだからお礼の言葉でも貰いなさい」

「チッ。面倒な……」



 お礼の言葉を貰えばいいだけなのに舌打ち?と、『ノーレイン』で事件の調べをしていた憲兵が頬を引き攣らせた。宿の中は金を探そうとした強盗達の所為で物がひっくり返されていて、ユミが殴られた部屋は血が飛び散っていた。そこら辺の事を記録として残すので記録係が中で複数人態勢で記録を録っている。

 その間は誰も中には入れず、強盗に襲われたということで税金から少し負担されて部屋の掃除などを業者がやってくれる。その為に少しの間だが人の出入りは出来ない。オリヴィアも宿の外で事情聴取を受けていた。

 矢鱈と口酸っぱく忠告してくる憲兵へ適当に手を振りながら話を聞き、すぐにその場を去っていった。右手に持っているのは何かが入っている茶色い麻袋。下が少し滴っているのが特徴だ。まあ、さっる必要も無いくらい、中に入っているのは3つの首な訳なのだが。人目に晒さないようにと憲兵に押し付けられたのだ。

 無視してもいいが、ユミが眠っている診療所に行かないと、また憲兵がやって来てぐちぐちと何か言ってきて喧しそうなので、ギルドへ行って報告し、報酬を貰って診療所へ行くことにした。ついでにユミの両親も少し見てみようと思ったのもあるが。



「あ、オリヴィアさん!依頼はどうでしたか?何か進展とかありました?」

「進展も何も見つけたぞ」

「えっ!?あの強盗3人組をですか!?人数以外大した記録が無いのに!それで、何処で見ましたか!?すぐに何人かの冒険者に連携して動いてもらって──────」

「ほら」

「………………あの……これは?」

「首」

「え、えぇっと……何の?というか誰の??」

「強盗3人組の首だ。生死は問わずと書いてあったから千切ってきた」

「………………………………………。」

「……?」

「あ、あー……ごめんなさいねオリヴィアさん。この子目を開けたまま気絶しちゃったみたいなの。あはは……後の手続きは私が引き継いでおくし、これが依頼の報酬ね?強盗犯を捕まえて……倒して?くれてありがとう。これで街の人達も安心できるわ」



 オリヴィアと話していた受付嬢の隣で、同じく受付嬢の仕事をしていた先輩の女性が、盗み聞きしていたので苦笑いし、後輩の事を見てみると、立って白目を剥いて気絶していた。まだ受付嬢になって1年位の新人なので、少し刺激が強かったかなと察する。まあ、生首だけ持ってくる人は滅多に居ないのもある。

 先輩受付嬢は、後輩の受付嬢よりもお姉さんなだけあって苦笑いで済み、カウンターから生首の入った麻袋を受け取ってトレイに報酬の金を乗せて差し出した。報酬はCランクから受けられる報酬にしては破格の30万G。捕まえてくれれば1人頭10万Gの報酬となる。生首だけに。

 トレイの上に乗った30枚の金貨を、異空間から出した小さな袋の中に流し込んでいく。それを目の当たりにした先輩受付嬢は少し驚いた様子を見せるが、少し瞠目しただけで、後はニッコリとした笑みを浮かべていた。美人なので後ろに居る他の冒険者がナンパがどうのと騒いでいるのはご愛嬌だ。



「オリヴィアさん」

「何だ」

「今回の強盗の依頼を見事達成したことにより、冒険者ランクをCからBに昇進です。タグを変えるので今お持ちのものを提示していただけますか?」

「む、後少しでとは言われたが、もう上がるのか」

「それだけの依頼でしたからね。おめでとうございます」

「難易度によって評価が変わるということだな」



 身に付けていたタグを外して先輩受付嬢に渡すと、Bランクを証明するタグを代わりに渡された。あっという間にBまで上げたオリヴィアは期待の新人と言えるだろう。それも、しっかりと1つ1つランクを上げていくし、目まぐるしい活躍も見せているのでギルド側も当然だなと納得している。

 タグを受け取って見せやすい手首に巻く。もう他に用事はないのでもう帰るというと、先輩受付嬢が微笑みを浮かべたまま頭を下げて、もう一度ありがとうございましたと言ってくれた。それに手を上げて答えてギルドを出る。

 次に向かうのは診療所だ。大人の強盗に殴られて顔が傷だらけになり、意識が戻らず気絶したままということで診療所で手当をしてもらって眠っている。憲兵は助けた側なのだから、駆け付けるだろう両親から感謝の言葉を貰えというのだ。面倒に思うが、世話になっている宿の娘であるし、上手い手料理を出してもらったので行くだけ行ってやろうと足を運んでいる。

 暫くの間歩いていると、目当てのユミが眠る診療所へと辿り着く。手当を受ける場所としてなのか、外壁は真っ白で統一されていて、誰でもすぐに中に入れるようにドアは開けっ放しになっている。

 中からは薬品の独特な匂いが漂ってきて、嗅覚も優れているリュウデリア、クレア、バルガスは同時に顔を顰めた。オリヴィアでも薬品の匂いが強いと感じるので、彼等からしてみれば強烈な匂いが鼻腔を突き抜けて来ることだろう。強い匂いに弱いな、と面白そうにクスリと笑った。

 受付の所には白衣を着た女性が何かを記入していて、オリヴィア達が入ってきた時に顔を上げ、最初は黒に包まれた姿に訝しげな表情をしたが、すぐに憲兵から言われている特徴と一致すると気づいて椅子から立ち上がった。

 オリヴィアさんですね。ユミちゃんが眠る病室はこちらですと言って先導してくれる。その後ろをついて行くと、確かに病室があり、その中の1つのベッドを使ってユミが眠っていた。手当ては終わっていて、顔には痛々しく包帯が巻かれている。取ったら恐らく赤く晴れ上がっている顔が出てくる事だろう。

 私はこれで、と言って受付の方へ戻っていった白衣の女性に適当な返事をして歩き出す。ちょうどベッドの横に椅子が有ったので少し移動させて座り込み、膝の上にリュウデリアを降ろして暇潰しに撫でる。クレアとバルガスは肩から見下ろしてユミの事を見ている。

 彼等の目には全てが視えている。本で読んだ人間の骨格。筋肉。神経。臓器の位置。胸の膨らむ幅から肺の伸縮を読み取る。故に顔の傷がどの程度のものなのか、例え包帯の上からであってもお見通しなのだ。端的に言ってしまえば問題ないと判断している。治るのにそれ相応の時間は掛かるが、所詮はそれだけで、最後には治るだろうと。



「宿の金は見つけられていなかった。強盗もそれらしきものを所持していなかったことから、どれだけ殴られようと隠し場所を吐かなかったのだろうな、まだ子供だというのに」

「大した強情さだな。人間の子供にしては良い心の強さを持っている」

「ま、全財産渡せば今の客足だとぜってー潰れるからな。ここまでくりゃあ意地だろ」

「客足は減り……強盗に襲われる……運には……見放されて……いるようだが」

「強盗はこの子供だけが店番をしていると分かって襲っている節があったがな。リュウデリアの索敵が絶妙なタイミングだった訳だ」



 寝ていて意識が無いと確信してから話し出すリュウデリア達とオリヴィア。彼等からしてみれば、状況証拠だけである程度のことは推測できる。というより、相当鈍くない限り現場を見れば察することができるだろう。

 金目の物が強盗の手に渡ることはなく、『ノーレイン』に居た唯一の存在が痛めつけられていたのだから。何となく金の場所を聞こうとして暴力に訴えたが、結局聞き出すこともできずにオリヴィア達に見つかって始末されたと。それに、金を渡したくないのは誰であっても同じだ。

 単純に狙われさえしなければこんな事にはならなかったのにと、オリヴィア達は運の無さがあったと評した。そうして適当に話していると、部屋の外が騒がしくなった。何となくユミの両親だろうと察した。一人娘が暴行されたとなれば、愛ある親ならば誰でも駆け付けるだろう。



「──────ユミッ!!あぁああああああああああああ……っ!!」

「あなた……っ!1人で先に行きすぎよ……っ!」

「……ッ!!何だ貴様は……ッ!!まさか、貴様がユミをこんな目に遭わせたクズ野郎かァッ!!!!」

「……は?憲兵に事情を聞いたのではないのか。私は冒険者だ。この小娘を助け──────」

「言い訳なんぞしなくていいッ!!俺がこの場でぶち殺してやるッ!!」

「ちょっとあなたっ!やめてっ!!さっきの話を聞いていなかったの!?その人はユミを助けてくれた……っ!!」

「このクズ野郎がぁあああああああああああああああああああああああああッ!!!!」

「私はな──────お前のような話の通じん奴が大嫌いなんだよ。あの前最高神クズを思い出してな」



 土木系の仕事をしていたのだろう、土で汚れた服を着た男性と、割烹着を着た女性が病室に入ってきて、男性がオリヴィアの話しに一切の聞く耳を持たず殴り掛かった。冷静に憲兵から話しを聞いていたユミの母親である女性が父親の男性を止めようとするが、それにも逆らった。

 診療所内で大声を上げて荒々しく足を踏み鳴らし、思い切り腕を振り上げた。その一連の行動に、オリヴィアの脳内には同じく他者の話しを一切聞かない自己中心的な前最高神が過り、フードの中で顔を顰めて不機嫌になった。

 何の指示も無しに、膝の上に居るリュウデリアの黄金の瞳が妖しい光を放って魔法陣を展開した。瞬間、父親の男性は床に大の字で磔にされた。大きな音を立てて床に叩きつけられると、床の方もみしりと嫌な音を奏でた。起き上がろうとしても無駄だ。男性はずっと持ち上げられない程の重さを受けているのだから。

 重力系魔法。高等技術を要求される魔法で、男性に掛かる重力だけを操作して下に向けて落ち続けている。だから立ち上がることすらできずに潰れたカエルのように磔にされてしまっているのだ。魔法を発動しているのはリュウデリアなのだが、夫に攻撃しているのはオリヴィアだと思ったのだろう。女性が男性の傍により、必死な表情で懇願してくる。



「申し訳ありませんっ!夫には私がキツく言っておきますっ!大切な娘が強盗に襲われて診療所に運ばれたと聞いて頭に血が上がっていただけなんですっ!普段は暴力なんて振るわない温厚な人で……お願いしますっ!許してやって下さいっ!」

「……次同じような事をすれば容赦せんぞ。まったく、曲がりなりにも娘を助けてやった奴に対してやることが拳を振り上げる……か。宿屋の主なだけあって殊勝な心掛けだな」

「本当に……ほんっとーにっ!申し訳ありません……っ!あなたもさっさと謝罪しなさいっ!娘の命の恩人に何しようとしてんのよこのバカッ!!」

「ぐっ……申し訳……ありません……でした……」



 展開されていた魔法陣が消えると、男性の体に掛かっていた重力も等倍に戻った。床に叩きつけられていた状態で更に女性から拳骨を貰い、頭が冷えたのか床に頭を擦り付けて土下座の状態になった。女性も最初から助けてもらった事にするつもりだったのか、男性の隣で同じく土下座をした。

 椅子からも立ち上がらず2人の後頭部を眺めた。恩を仇で返そうというのだから、この場で殺してしまっても良かったのだが、女性から感じる怒気的に、このあと散々に渡って怒鳴り散らすだろう事は窺えるので放っておくことにした。この事をダシにして提供する食事の量を増やさせようとは考えていない。多分。恐らく。



「お前達の宿は今泊まれる状況にないが、明日には元通りにしておけ。私はな、この小娘が案内した部屋を気に入っているんだ」

「はい。はい。それはもう、必ず泊まれるように綺麗にしておきますっ!今日は本当にありがとうございましたっ!」

「ふん。今日は違う宿だな」



 土下座している男性と女性の間を通って部屋を後にした。廊下を進んでいくと、背後から女性の怒鳴り声と男性の弁解する声が聞こえてきた。そして白衣を着た女性とすれ違う。どうやら騒ぎすぎだと注意しに行ったのだろう。

 診療所を出て通りに出た。ユミの宿屋が今使えないとなると、今日は別の場所で寝泊まりしなくてはならない。さてどうするかと首を捻っていると、リュウデリア、バルガス、クレアが尻尾である方向を示していた。その方を見ると、ユミの宿屋の前に建てられた『スター・ヘイラー』があった。





 なるほど。気になっていたところなのだからこの際泊まってみろと言いたいのだろう。オリヴィアは1つ頷いて『スター・ヘイラー』に向かう。そんな彼女達を、見目麗しい呼び込みの従業員達がニコリと微笑んで見てきた。






 ──────────────────


 ユミ

 殴られた事でまだ診療所で眠っている。眠りが深いので隣で騒いでも起きなかった。




 ユミの母親&父親

 母親の方は襲われたことと、純黒のローブを着た冒険者が助けてくれて命に別状は無いということをしっかりと聞いていたが、父親の方は襲われたというところでキレていて、後半は一切聞いておらず、頭が混乱して病室に居るオリヴィアを犯人と勘違いした。妻に死ぬほど叱られた。




 龍ズ

 本で読んだから人間の体なんて全てお見通し。少し見ればどこが悪いかなんてすぐに分かる。だからユミの顔が最終的には綺麗に戻ることも知っている。

 話を聞いていて、『スター・ヘイラー』が少し気になっているので、いい機会だから泊まってみれば?と提案してみた。




 オリヴィア

 ユミが顔痛めていようと、別に治癒の力を使ってやろうとは思わない。普通の主人公やヒロインなら使うのだろうが、この小説のヒロインは使わない。何故なら別に死んでも何とも思わないから。冷たい?いやいや、彼女人間じゃないので。


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