純黒なる殲滅龍の戦記物語

キャラメル太郎

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第8章

第113話  宿の話

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 晩飯にステーキの肉の塊を食べて、宿に戻り、オリヴィアとリュウデリアがベッドで抱き締め合いながら眠り、クレアとバルガスは各々床で丸くなりながら眠った。3匹が小さくなればベッドで眠れると言ったのだが、オリヴィアとリュウデリアが使えと言って断った。

 最近はずっと地面を床にして眠っていたので、いきなり柔らかいと落ち着かないとのことだが。横になって丸くなりながら眠る姿は龍そのまんまだった。

 朝オリヴィアが一番最初に起床し、洗面所に行って髪を直しながら顔を洗う。眠気をさっぱりと覚ますと、寝坊助の龍3匹を起こしに行った。丸まっているクレアとバルガスを起こすと大きなあくびをして目をしょぼしょぼとさせ、リュウデリアは起こすとシーツを巻き込んで丸くなる。

 何度も揺すって起こすと、ボーッとした目をしたまま使い魔のサイズになるので、着替え終わると両肩にクレアとバルガスを乗せて、リュウデリアは両手で抱き抱える。泊まっている宿の部屋を出てフロントに行くと、朝が早い受付をしてくれた女の子……ユミが笑顔で迎えてくれた。

 宿泊には朝食もついているので食堂に行って済ませる。朝食のメニューは、カリカリに焼いた出来立てのパンとオムレツ。ハム。お好みでコーヒーだった。優雅に朝食を食べていると、配膳をしてお盆を持ったままのユミがオリヴィア達を見ていた。



「ふふ。何をそんなに見つめているんだ?朝食はどれも美味いから心配するな」

「……っ!よ、良かったぁ……。実はそれ、私が作ったんですっ」

「そうなのか?……良い腕だ。見てみろ。私の使い魔達がおかわりと言っているぞ」

「「「──────っ!」」」

「えへへっ。嬉しいです!使い魔ちゃん達も待っててね?今持ってきてあげるから!」



 朝食が乗った皿を綺麗にして、早く寄越せと言わんばかりに見せびらかすリュウデリア達に、ユミは嬉しそうにはにかみながらキッチンの方へパタパタと引っ込んでいった。程なくしておかわりの乗った皿を3枚持ってきて、オリヴィアが飲んで少なくなったコーヒーを注ぎ足してくれた。

 気も利くし笑顔が可愛らしく、元気な看板娘。これだけで癒しを求める者達が訪れそうな気もするのだが、そうもいかないらしい。テーブルと椅子が並んでいる食堂には、オリヴィア達を除いて誰も居ない。宿泊する者達が少ないのではなくて、全く居ないのだ。

 だが、果たして此処まであからさまな事が起きるだろうか。あまり詳しく聞いていないが、向かいにある宿はまだ新しいという印象がある。此処等に宿と言えば、この宿ぐらいなものなので、今まで利用していた者達が一斉に向かいの方を利用しだすということがあるだろうか。

 少し気になったので、ユミに向かいの椅子へ座るように言う。店員が休むわけにはいかないと言って手を振って拒否するので、他に見ている客が居るのか?と聞いた後、私達が来るまでカウンターで寝そべっていたのは良いのか?と問うと、言葉に詰まった後に観念して椅子に座った。暇潰しに付き合えと正面から言われてしまえば、苦笑いしてしまうけど、いっそ清々しいので何だか話したいという気持ちにさせられた。



「向かいの宿は最近建ったのか?」

「……はい。1ヶ月くらい前ですかね。この街に来た方々が領主に許可を取ってあの大きな宿を建てたんです。従業員の方々も多かったので、建つまではあっという間でした」

「前には何が建っていた?売地か?それとも建物を買い取って壊したか」

「元々骨董品を売るおじいちゃんとおばあちゃんの老夫婦が店を出してました。その隣は売地だったんですけど、歳も重なって体にガタがきてるから、買い取ってくれる人が居るなら明け渡すと前から言ってたんです。私くらいの年齢だと孫くらいになるので、よく宿の前を掃除しながらお話ししていて、それで宿のオーナーが買い取って、売地も合わせて今のあの宿屋が建てられました」

「ふーん?別に脅したとかは無さそうだな。領主に許可を取っているならば歴とした手順を踏んでいる……と。ふむ……客足は一月前から0か?」

「いえ、頭の方は少しとはいえ来てくれていたのですが、2週間目に入る頃には殆ど誰も来なくなり、3週間目には誰も来ていません。なのでオリヴィアさんは2週間ぶりくらいのお客さんだったんです」



 この宿屋の娘だからだろう、詳しいことまでスラスラと教えてくれた。それに現状も把握できている。その為にどうすれば良いのかと、若いながらに色々と考えているのだろう。料理とて練習していることは気が付いている。

 オリヴィアとリュウデリア達が朝食を食べているとき、お盆を握る手に力が入って白くなり、少し震えているのが見て分かった。目も少し不安そうだった。指には良く見なければ分からないくらいの細かい傷があり、掃除をしていたり料理をしたりとしている内に傷付いてしまったのだろう。

 とても健気に頑張っている女の子のユミ。そこでふと思い至る。掃除も料理も、そして客が来たときの受付から案内まで全てユミがやっているところしか見ていない。つまり、ユミの両親を一度も目にしていないのだ。



「親はどうした?流石に1人ということはないだろう」

「あはは……客足がなくて収入も期待できないので、貯金はあるんですけど貯金頼りではいつか破綻すると言って、お父さんは日雇いの簡易的な仕事を。お母さんは知り合いの飲食店で働いています。その間の店のことは私が……という感じです」

「なるほどな。だから誰も居なかったのか。だが些か無用心ではないのか?強盗が来た場合対処ができんぞ。見張りでも雇ったらどうだ?」

「それにもお金が掛かってしまうので……幸い今のところは何も起きていないので、大丈夫です!お金だって隠してあります!」

「……そうか。まあ、お前が良いならば良いのだろうな。精々気をつけるのだぞ」

「……はい」



 事情を聞いているだけであって、問題解決をしてあげようとしているのではない。なので、少し無用心だなと思ったとしても、見張り役を受けるということはしないのだ。本来善意を持つ者ならば、ここでやってあげると口にするのだろうが、彼女達にはそういった考えが浮かばないので期待するだけ無駄である。

 好き好んで人助けをしようと考えることはない。店のことは所詮その店の事情。お客に頼むことではない。話をしているのは、オリヴィアが暇潰しに話せと言っているからだ。本当ならば店の内情を誰かに明かしたりはしない。だが、ユミもユミで悩んでいて誰かに話を聞いて欲しかったのだろう。

 少し疲れた様子を見せる影のある笑みを浮かべるユミを見ながら、オリヴィアは残ったコーヒーを飲んで、皿の上に乗った食べきれなかったおかずをリュウデリアの口の中に流し込んだ。クレアとバルガスもおかわり分も食べ終わっており、行くと察して肩に移動した。リュウデリアの事をオリヴィアが抱き抱えると、椅子から立ち上がった。



「ではそろそろ出るとするか」

「お出掛けですね!いってらっしゃい!」

「ありがとう。行ってくる」



 食べた皿はそのままにしてくれれば片付けておくと言ってくれたので、ユミとは食堂で別れた。廊下を進んで通りに出ると、向かい側に建てられている宿屋がすぐに見えてくる。相変わらず大きく、敷地だけでもユミの宿よりも大きいのに、見上げるくらい高くて、恐らく3階まであるのではないかと思う。

 金持ちが金を注ぎ込んで造ったと言われても納得できる大きさだ。まだ泊まった事が無くて気になる人達も居るのだろう、入口辺りで何人もの人達が中を覗き込んだりしている。それに外には立てて置ける看板が出されていて、1泊の料金も6000Gと格安だ。数時間の休憩コースもあるということで、一休みにはもってこいだろう。

 客の呼び込みをしている男性と女性も、男性店員ならば執事服で、女性店員ならばメイド服を着用していて、顔も整っていて美形美人だ。それだけで若者は引き込まれてしまうだろう。ナンパ目的で話し掛けている者も居るくらいだが、そういうことは遠慮しているときっぱり断っている様子なので受け流すことに慣れている。

 一つ一つの所作も様になっていて、良く訓練されているのだろうと感じる。しかしそれだけでユミの宿の店から客が居なくなるほどかと言われれば、頭を捻るものだ。まあ、中まで覗いた訳ではないので、もしかしたらサービス等も充実しているのかも知れないが、オリヴィア達には関係無い話だ。

 話を聞いたのは本当に暇潰しの一環。オリヴィア達は少しだけ向かいの宿を眺めてから視線を切り、通りを歩いていった。向かっているのは冒険者ギルドだ。スカイディアの催し物まで1ヶ月はあるので、それまでの時間潰しと、依頼の消化によるランク上げで一石二鳥である。

 別に大金を使う目処は無いが、金が増えるということも考えれば一石三鳥かも知れない。事前に依頼を受けるということで良いかとリュウデリア達に聞けば、全く問題ないとの返答があったので、今日は依頼を受けて、帰ってきたら美味しい物を食べるという感じだろうなと、大雑把に予定を立てる。

 そうして少し歩くと、冒険者ギルドが見えた。昨日の夜に通った道の途中にあったことは把握しているので、宿の時のように道行く人に聞く必要もなかった。少し中が騒がしい事に気が付きながら、ドアを開けて中に入ると、冒険者と受付嬢達が慌ただしくしていた。入ってきたオリヴィアに気が付いても、それどころではないようでやっていることを再開する。

 何故慌ただしいのか知るために、オリヴィアは目の前を通り過ぎようとしていたビキニアーマーを着た剣士の女性の首元の帯を掴み、足が付かないくらいまで持ち上げた。元よりそんな筋力は持ち合わせていないが、魔力を使えばどうとでもなる。

 持ち上げられたことに驚いて少し暴れ、振り解けないと解ると首だけ振り向かせて非難するような目で見てくる。少し話を聞かせろというと、分かったから降ろせと言うので素直に降ろしてやると、ズレた帯の部分を戻してから胸の前で腕を組み、何の用?とぶっきらぼうに問うた。



「何故こうも騒がしくしている?何かあったのか」

「あー、アンタこの街に来て今日初めてギルドに寄ったね?なら知らないか。此処から南西に向かったところにミスラナ王国の王都があったんだけど、商人が向かったら何も無かったんだとさ。噂では大穴が開いていて、自然に起きたものか人為的なものか分からないんだと。あそこのギルドに鳩を使って手紙を送っても紙持ったまま帰って来ちまうから、信憑性はあるかもね。だから確認してくる為の人員を集めて用意してるわけ。何があるか分からないからね」

「国が1つ滅んだかも知れないということか。私はそのミスラナ王国から徒歩で来たが、出る時は何ともなかったな。いつも通りのものだった」

「そうなのかい?まあ、本当に滅んでいたんだとしたら運が良かったね。国1つ丸々となると龍か、それに追随する何かだから、そこらの人間じゃ相手にならないよ。ま、兎に角そんなところ。もう行っていいね?アタシも行くから準備があんのよ」

「引き留めて悪かったな。助かった、ありがとう」

「別にいーよ。じゃあね!」



 国を出るときには何も無かったと、いけしゃあしゃあと宣うオリヴィアに疑う様子も見せないビキニアーマーの女性は、感謝の言葉を聞き終えると、頷いてから忙しそうに走っていって仲間だろう者達3人と合流した。

 噂も何も、本当に底が見えないくらいの大穴しかないので、行くだけ無駄だがなと心の中で愚痴る。綺麗さっぱりリュウデリアが消し飛ばしたので確認することくらいしかできないのだ。その国を滅ぼした張本人は、オリヴィアの腕の中で大きなあくびをしている訳なのだが。



「さて、どんな依頼を受けようか」

「討伐で食えるのにしようぜ。前の蟹みてェな」

「それは……いい……だが……居るか……どうか」

「火を通せば大抵は食えるものだ」

「それは極論すぎないか??」



 依頼書が張られているボードを眺めていく。ここら辺は比較的に魔物の出現が少ないからなのか、討伐系の依頼は他と比べても少ない方だった。どちらかというと採取のものであったり、愛犬が逃げてしまって何処へ行ったかも分からないから探し出して連れて来て欲しいという探し物系のものまである。

 何処の国でも街でも、やはりというべきか薬草採取の依頼が多めに張られている。冒険者といえば討伐という思考に移りやすいからなのか、何かを採ってくるというのが残りやすいのだ。それで討伐依頼が無くなって採取だけになったら昼間から酒を飲んでぐうたらするのだから始末に負えない。

 あまり面白そうな依頼は無いなと、依頼書が貼られたボードを眺め、もう適当なもので良いかと思い至って目を瞑りながら適当なものを取った。するとそれは、奇しくも家で飼っている愛犬を見つけてくれという捜索を促す依頼書だった。3方向からジトッとした視線を感じるが、偶にはこういうのも良いだろうということにした。



「この依頼を受けるから手続きを頼む」

「え、あ……はい!分かりました!」



 犬の捜索を願う依頼書を持ってカウンターに行き、受付嬢に見せた。消え去ったミスラナ王国の詳細を知ろうと慌ただしくしているところに持ってこられたので驚いた様子だったが、依頼を受けるには手続きをしなくてはならないので受付嬢への提示は必須。そして受付嬢はその手続きをするのが仕事なので、断るということはない。

 急いでいるので素早く手続きを済ませる。幸い捜索願いみたいなものなので、手続き自体は簡単だった。Fランクが受ける依頼なので相手のランクを聞く必要もない。オリヴィアは手続きが済んだと分かると、その場で踵を返してギルドを出ていった。





 オリヴィアはリュウデリア、バルガス、クレアと話し合う。この依頼はすぐに終わるだろうから違う依頼をまた受けようと。依頼ボードに貼ってあった、ある依頼書を思い出しながら。






 ──────────────────


 ユミ

 オリヴィア達が泊まっている宿の一人娘で看板娘でもある。父と母が少しだけでも足しにできるようにと金を稼ぎに行っている間、お客を待って店で待機している。まだまだ一人前とは言えないと、自分で感じているので日々練習している。とても健気。




 龍ズ

 朝スッキリと起きられない。眠いので準備がゴタついてしまう。けど、朝飯の匂いを嗅いで眠気を飛ばした。しかも朝から結構ガッツリ食べられるので、朝からおかわりもする。ユミの料理は普通に美味いと思っている。けど、肉が無いのは不満(普通食えない)




 オリヴィア

 依頼書が貼られているボードの中に、少し気になる依頼書があったが、結局目を瞑って適当に選んだ。結果、まさかの犬探しとなった。ジト目を向けられて気まずい空気になったが、偶には良いだろうと入れ替える。



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