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第7章
第90話 護衛依頼
しおりを挟む「うっ……歩くのが……つらいっ」
「龍の交尾は1週間掛かるぞ」
「……死んでしまう。そして確実に孕む……っ」
翌朝。オリヴィアが目を覚ましたのは昼過ぎだった。寝すぎに思われるかも知れないが、実際は彼女が寝た時間は朝の9時である。宿に帰ったのが5時くらいで、そこから彼女とリュウデリアの初めての性行為が始まったので、彼女は16時間は離してもらえなかった事になる。
起きたときにはぐちゃぐちゃでベトベトだったベッドは新品のような触り心地になっており、体も汗やら何やらの体液で触れたものではなかった筈が、風呂上がりみたいな滑らかさだった。隣で自身のことを抱き締めて眠っているリュウデリアを見て、あぁ、彼がやってくれたんだなと察して、嬉しそうに微笑みながらキスをした。
その後、しっかりと寝顔を堪能してから起こし、朝飯ならぬ昼飯を食べながら冒険者ギルドを目指した。だがその途中、オリヴィアは何時ものように歩けなかった。初めてを迎えたからなのか、股が痛くてひょこひょことした歩きになってしまうのだ。
幸いにして純黒のローブが体を覆い隠せるので、変な歩き方が周りの者達に見られることはないが、歩く速度は何時もよりも遅かった。治癒の力で治せば良いと言ったが、リュウデリアと愛し合った事での痛みなのだから、自然に治るまでは感じていたいと彼女自身が言っていた。
「俺との子供ができるのは嫌か?」
「い、嫌ではないが……私はリュウデリアさえ居てくれれば十分なんだ。例え自分の子であっても、お前との幸せな時間を邪魔されたくないというか……その……」
「無理に作るぞとは言っていない。要らないというのならば、別に作らない。俺も、お前が居てくれればいい。魔法で避妊なんぞいくらでも出来るからな」
「……今の、私だけでいいというのをもう一回っ」
「オリヴィアさえ俺の傍に居ればいい」
「……っ……今日はもう元気いっぱいだっ」
「そうか?」
「も、もちろんだっ」
フードの中ではにかんだ笑みを浮かべて嬉しそうにしているオリヴィアに、そうか……と言いながらご機嫌に肩の上に乗りながら尻尾を左右に振るリュウデリア。朝……昼から甘い雰囲気を醸し出す人外カップル。当然周りには解らないだろう。まさか使い魔が相手であるなど。
幸せの痛みを感じながらリュウデリアにデレデレしているオリヴィアは、フードの中で顔をゆるゆるに緩ませながら、着いた冒険者ギルドのドアを開けて中に入った。やはり彼女達が入ると少し静かになるが、もう慣れてきたのか完全に静謐な空気にはならなかった。
やって来たのがオリヴィアだと解ると、この街の冒険者ギルドに初めて来て対応してくれた受付嬢のヒナが手を振っていた。因みに、他の受付嬢は、冷酷であると聞かされているオリヴィア達を怖がっているので、代表してヒナがほぼ専属の受付嬢をしていた。
「おはよう?ございます、オリヴィアさん。今日は依頼ですか?」
「いや、少し聞きたいことがあってな」
「答えられることならばいくらでも答えられますよ。それで、どのような件でしょうか?」
「この街にダンジョンは無いだろう。此処の近くに大きなダンジョンがある街や国はあるか?」
「あぁ、なるほど。大きいダンジョンに潜りたいんですね。それならピッタリの場所がありますよ?」
「ほう……。どこにある?」
「此処から北東に向かった所にある国で、ミスラナ王国という場所です。そのミスラナ王国周辺ではダンジョンが形成されやすいと有名で、とっても大きいものもありますよ!」
「歩いてどのくらいで着く?」
「歩いて4日間くらいですかね……あっ、ちょっと待ってて下さいね」
質問に答えていたヒナは、オリヴィアに待っていてくれと言ってカウンターから出て、依頼が貼ってある掲示板の所へ行った。何かを探しているようなので、素直に待っていることにする。
これはオリヴィアとリュウデリアで決めたこと……というかオリヴィアの希望なのだが、どうしてももっと階数があるダンジョンに行ってみたいのだそうだ。まだ諦めてなかったのか……と思ったが、流石に攻略したダンジョンがゴブリンオンリーで4階層だとかわいそうだと思い、他の場所に行ってみようという話になった。
なので街や国には大抵置かれている冒険者ギルド繋がりで、何か情報が無いか探す為に訪れたのだ。するとダンジョンに関する情報がすぐに入った。それもかなり大きいという。そこまで大きいものがあるならば、是非とも潜ってみたいというのが話を聞いた後の感想だった。
大きいダンジョンというのは、どんな感じなのだろうかと想像しているオリヴィアに、お待たせしましたとヒナに声を掛けられた。掲示板の所へ行っていたヒナは、手に1枚の依頼書を持って戻ってきていて、カウンターの上に置いて見せながら話し始めた。
「これは先程話したミスラナ王国までを目的とした護衛の依頼です。報酬は4万Gなのですが、護衛中の食事等は依頼者が持つとのことです。馬車での移動となりますので、2日3日で着くと思います。途中魔物に襲われた場合には護衛であるオリヴィアさんに戦闘をしていただくのですが、その倒した魔物の所有権はオリヴィアさんに全て譲られ、ものによっては買い取るという話です。どうでしょう?昨日出されたばかりの依頼ですが、ミスラナ王国まで行かれるのならばついでに受けられては」
「まあ、普通に歩いて向かおうと思っていたから私は構わん。受けても良いぞ」
「ありがとうございます。では手続きをしますね。護衛依頼は証明書を渡しますので、依頼を完遂したら依頼者に直筆のサインを貰ってギルドに提出して下さい。それで依頼は完了となります。依頼者は先程依頼の状況を聞きにいらしていたので、受けたと報告すれば恐らくすぐに発つ事が出来ますが、どう致しますか?」
「すぐに発ちたい。依頼者は何処に居る?」
「大通り居る荷馬車で、革の服等を売っているジーノという男性が依頼者です。では、短い間でしたが、お気を付けて!」
「ありがとう。世話になったな」
ヒナが手続きを済ませ、証明書を受け取った。短い滞在であり、数回だけの顔合わせだったが頭を下げて送り出してくれたので、礼を言ってから踵を返した。ダンジョンという存在を知らなければもっと滞在をしたのだろうが、残念ながら今はこの街の滞在よりダンジョンの方が優先度が高い。
ギルドから貰った証明書というのは、ギルドがどんな依頼を受けたのか記載されていて、最後の所に依頼者が依頼を達成してもらったという事を証明するための名前を書く欄がある。それに名前を書いて貰えば、依頼を受けたギルドで報告しなくても、他のギルドで報告すれば報酬を貰えるのだ。
無くしてしまえば達成報告が出来なくなってしまうので、無くすことは厳禁である。まあオリヴィア達は異空間に物を収納するので無くすことは絶対に無いのだが。それはそうと、ヒナに教えてもらった特徴を探して大通りを歩いていると、割と近くに目当ての人物が居た。荷馬車を使って簡易的な皮を使った服の店を開いている、40代程の男性の元へ行き、声を掛けた。
「お前がジーノか?」
「……?はい。私は確かにジーノですが……何かご用で?」
「私は冒険者ギルドでミスラナ王国までの護衛依頼を受けたオリヴィアだ。証明書も持っている」
「おぉ!こんなに早く受けて下さる方が来るとは思いませんでした。オリヴィアさんはパーティーを組まれていないソロの方ですか?一応魔物も出るのですが……」
「私はソロだ。心配せずとも護衛は遣り遂げる。私もミスラナ王国に用が有るからすぐ発ちたいのだが、行けるか?」
「あ、はい。店は荷車を使っているので仕舞ってしまえば行く準備は整います。少々お待ち下さいね!」
簡易的な折りたたみのテーブルの上に広げて乗せていた売り物の服を畳んで、布を被せて壁と天井を付けているタイプの四輪駆動の荷車に載せていき、荷車の一番前に依頼者のジーノが座って馬の手綱を握れば準備が完了だ。荷車を引く馬は一頭だけだが、荷物もそこまで多い訳ではないので大丈夫そうだ。
もう行けるようになったジーノが、ずっと歩かせるのも忍びないから荷車に乗ってくれと言ってくれたので、遠慮せずに乗り込んだ。ジーノが手綱で馬に合図を送ると、ゆっくりと歩き出した。大通りで人が居るので、速度は出せないのだ。
依頼を受けなかったら、リュウデリアに乗せてもらって飛んでいこうと考えていたが、荷車に乗ってのんびりと移動するのも良いなと思う。一番後ろで脚を投げ出す形で座り、膝の上にリュウデリアを乗せて撫でる。時折街の住人の子供がオリヴィアに気が付いて、笑いながら手を振ってくるので手を振り返してあげた。
街の入り口を通って橋を渡り、街の外へと出た。ジーノはミスラナ王国までの道を知っているので止まることなく進んで行く。石などを踏んでカタカタと小さく揺られながら、晴れ故の太陽の光を浴びて日向ぼっこしているリュウデリアを撫でて癒される。上を見上げると白い雲が流れていて、時折太陽を隠して陰を作った。
「平和だな。魔物の気配はしないのか?」
「周囲500メートル以内に魔物は居ないな。当分は暇になるぞ」
「では、リュウデリアを撫でていてもいいか?」
「いいぞ」
「ふふっ。ありがとう」
では遠慮なく……と、陽の光を浴びて温かくなった純黒の鱗を撫でる。背中の次は翼。手で広げて付け根から骨のある部分を触れていき、空気を受け止める膜の部分を押したりして感触を楽しむ。左右の付け根を両手で持ってパタパタとやって遊ぶと、それだけで風が吹くので、重い巨体を持ち上げるだけの事はあるなと感心した。
翼の次は肩、そして人間に比べて長い首を伝って頭を撫でる。優しく触れていると、目を閉じて気持ち良さそうにする。顎の下を指先でくすぐるように撫でてあげれば、勝手に首が持ち上がっていき、翼がパタパタと動いた。気持ち良いのだと解りやすくて、クスリと笑ってしまう。
龍を膝に乗せて好きなように撫でる事が出来るのは、恐らくオリヴィアくらいのものだろう。護衛とは言ったが、ここら辺に出てくる魔物は少ない。他の冒険者にとっては相手するのが面倒なゴーレムも、彼女達にとっては一撃で斃せる。つまり、とても簡単な依頼でしかないのだ。
「思ったのだが、リュウデリアが気配を撒き散らすだけで、そこらの魔物は寄って来ないのではないか?」
「確かにそうかも知れんが、そうなるとこの荷車を引いている馬は暴れるぞ」
「あぁ……なるほどな」
「だが、魔物だけが逃げる魔法を掛けることは出来るぞ。やるか?」
「いや、そこまですると暇で仕方なくなってしまうから大丈夫だ。ありがとう」
「気にするな。会敵しそうな魔物が居たら教えてやる」
「うん」
今はまだ魔物が襲ってくるような場所じゃないので、オリヴィアとリュウデリアはゆっくりとしていた。偶に荷車を引いている馬の疲労を癒してやるために休憩等を挟んでミスラナ王国を目指す。大きなダンジョンはどれだけ広いのか、そしてどんな魔物や宝物があるのか、まだ着かないのに楽しみになってくる。
今回はとても簡単な依頼である護衛依頼を遂行しながら、未だ見ぬダンジョンが数多くあるというミスラナ王国へと向かうオリヴィア達だった。
──────────────────
オリヴィア
リュウデリアが朝まで離してくれず、最後は気絶しながら眠って昼過ぎに目を覚ました。初めてだったので股に違和感をまだ感じており、歩くときにひょこひょことしたものになってしまっていた。
違和感や少しの痛みは自分の力で治癒可能だが、愛のある初めての行為の結果なので、自然に治るまではそのままにしたいと言って治癒していない。
愛し合ったことで、リュウデリアに対する愛は元からカンストしていたが、めでたく天元突破した。最早眺めているだけで幸せを感じて何時間でも過ごせるくらい。好きすぎるのは自覚しているが、嬉々として溺れている節がある。
リュウデリア
歩きづらそうにしているから治癒すれば良いのにと思ったが、愛し合った結果なのだからもっと感じていたいと言われ、黙るしかなかった。普通にオリヴィアの事は愛しているが、オリヴィアが自身に向ける愛の強さを把握し切れていない。
膝の上に乗って撫でられていると幸福感を感じられ、眠くなってしまう。けど何かの気配が近付けばすぐに起きる。寝首を掻くのはオリヴィア以外には不可能。
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