純黒なる殲滅龍の戦記物語

キャラメル太郎

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第6章

第63話  料理

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 古来より、女の買い物というのは長い。目的の物を購入したのだとしても、他に売っている物に目移りしてしまったり、これ……必要かもという考えがよぎって買って使った場合と買わなかった場合を想像し、悩んで時間を食うからだ。それと男に比べて必要な物が多いということもある。

 買い物に行く主婦は1人で居るならまだしも、家族を連れて買い物に行けば必ず反感を買う。買い物が長いと。早く次のところへ行こうと。しかし買い物に満足できず、結局長くその場に留まるのだ。財布の紐を締めるも緩めるも主婦次第なのでどうしようもない。

 何が言いたいかというと、神とはいえ生物学上は女であるオリヴィアも、例に漏れず買い物が長いのだ。一緒に来ているリュウデリアには、どれでも良いと思える代物が並んでいるが、彼女は一つ一つをしっかりと見て吟味している。

 近くに夫を連れた主婦が買い物をしていて、どれでも良いと言われた途端、選んでいる物がどれだけ種類があるのか。どれだけ使いやすさに差が生まれるのかを延々と聞かされて疲れているのを見て、口から出かかったどれでも良いという言葉は飲み込んだ。発していたらどうなっていたか解らないからだ。



「どれが良いと思う?──────この2つのフライパンで」



 ──────正直どっちでも良い……が、それを言ったら何を言われるか解らんし……調理器具は所詮消耗品。今優れた物を買ったとしても、また買うことになる。ならばどっちでも同じだ。



「右のだな」

「理由は?」

「……っ!?あー、頑丈そう……だからだな。うむ」

「ふむ……頑丈さも視野に入れておくべきか……いやでも……」



 理由が必要だったのか……と、遅れ気味の間の開いた返事になってしまったが、乗り越えたことに安堵した。そう、リュウデリアとオリヴィアが見ているのは調理器具だった。マルロの屋敷に泊まって翌日、早速買い物に行くというオリヴィアの肩に乗ってやって来たのが、調理器具などを売っている店だった。

 やって来た当初、リュウデリアは何故この店?と思った。何せこれまでの旅にも使わなかった代物だったからだ。飯は泊まった宿やマルロの屋敷、後は買い食いをしていた。つまり自身もオリヴィアも料理なんてものはしたことがないのだ。

 それなのに先に調理器具を買ってしまって良いものなのだろうか。フライパンにフライ返し。皿とコップと茶碗と調理するための折りたたみできるテーブル。必要だと思われるものを購入していった。火を出す魔石だったり、コンロのような魔道具もあったので、折角ということで購入した。

 調理するための器具と、食べるときに必要な皿なども全て揃えた。金は確かにそれなり使ったが、今まで稼いだ金額を考えると微々たるものだ。使った内にも入るまい。金を渡して買ったものを異空間に跳ばしながら考える。料理が出来るようになる前にこういったものは揃えて良いものなのかと。



「さて、次は材料だ」

「市場か?」

「そうだぞ。鼻に期待しているからな?」

「……あぁ」



 龍は鼻も良く効く。果物一つにも良し悪しがあり、その悪い物を引き当てないために匂いを嗅いでもらって判別するのだ。果物に直射日光を当てないよう、店側も工夫しているものの、やはり見えないところでは痛んでいたりするのだ。金を出して購入したのに痛んでましたでは目も当てられない。

 店を出たオリヴィアとリュウデリアは市場へと向かった。調理器具を買っているのだから当たり前だが、やはり料理が目的のようである。材料まで揃えるともなれば確実も確実だろう。

 売られている肉の匂いを嗅いだり、調味料を見ていって少し舐めさせてもらい、使う物かどうかを判断してから購入していく。鶏肉や豚肉を多めに買っていたので、当然作るのはオリヴィアで食べるのがリュウデリアだ。別に不安だということはないのだが、大丈夫なのか?と訝しんでしまう。

 食べたら体の内側から溶かす……みたいな劇物でない限りは何でも食べられるが、食べたくないものは食べたくないのだ。特に食べたいと思わないのが、虫類のものである。流石に生で食べようとは思わなかった。

 粗方材料を買い込んだオリヴィアとリュウデリアは、レッテンブルの外へと出て来た。自分達で用意して飯を作れるように、アウトドアで出来る物を買った。なのでマルロの屋敷の庭でやっても良かったのだが、オリヴィアは2人っきりでやりたかったので、態々街の外まで出たのだ。

 木々が生えているところまでやって来る。遮蔽物が無いと、リュウデリアが人間大のサイズになれないからだ。旅をしている最中の状況を想定してやりたかったので、今がベストなのだろう。こちらからも街の様子すら見えなくなったところで、周囲に人間の気配が無いことを確認してから、リュウデリアはサイズを大きくした。



「椅子だぞ。これに座って待っていてくれ」

「分かった。……うぉ……沈むな……」

「ふふっ。すぐ作るから待っていてくれ」

「……何を作るつもりだ?」

「んー……ヒミツだ♪」



 真っ黒なローブを脱いで黒いエプロンを身につけ、背中で紐を縛ったオリヴィアが、買ったばかりの簡易的な椅子に座っているリュウデリアに、人差し指を口元に持っていきながらウィンクした。出来上がるまでは教えないということだろう。サプライズということだ。

 しかし、教えなくても察せられるというもの。これまでに色々な飯を食べてきたので、同じ物の形に出来上がってきたら、アレだなと察せられる。サプライズにはならないのではないか?と思った。椅子に座って自重でぎしりと鳴らしながら、暇なので新しい魔法の開発を始めた。

 両手を翳して純黒の魔法陣を展開すると、人間には扱えない理解出来ないレベルの超高度な機構を動かしていく。カチコチと機構が移動したり入れ替わったりしているのを眺めている傍ら、オリヴィアの調理風景を見る。必要だと言われた物は全て異空間から出してある。なので手伝いで呼ばれることはないが、危ないことはないか確認してしまう。

 今はパンと同じくらい普及されている米を炊くために火に強い高級の釜に米を注いで水を入れている。瑞々しいものを目指しているのか、真剣な表情でジッと見つめながら、入れ物に入れた水を少しずつ注いでいた。

 簡易テーブルの上に魔道具のコンロが置いてあり、その上に米と水を入れた釜を置いた。捻りを回して炎をつけて熱する。その間に違う物を用意し始める。小さな容器に、にんにく、塩と胡椒、オリーブオイルを適量で入れ、そこにマヨネーズを少しと粉チーズをまぶしてドレッシングを作った。

 掛けるためのドレッシングを混ぜて作り終えると、今度は野菜の準備を始めた。キャベツをまな板の上に置き、左手で押さえて右手に包丁を持った。リュウデリアの目が細まる。何時でも包丁を止められるように。治癒の女神なので切り傷を作ろうと瞬く間に治せるのだろうが、だからといってむざむざ傷を負わせるようなことはさせない。

 人知れず見張られているのも知らず、オリヴィアは慣れた手つきでキャベツを千切りにしていった。皿を2つ用意して千切りのキャベツを盛り付け、そこへ千切ったレタスを盛りつけた。一つだけ量が多いので、それがリュウデリアの分なのだろう。水で洗ってあるので瑞々しい見た目だ。

 次に手を掛けているのはフライパンだ。火を点けたコンロの上に油を敷いたフライパンを置いて熱している。火はそこまで強くないので熱せられるまで時間があり、その間にタレを作り始めた。醤油、砂糖、みりん、料理酒、少しだけの塩を入れて混ぜ合わせて黒いタレが完成した。

 熱せられたフライパンの上に手を翳して温度を確かめると、鶏のもも肉を2つ掴んで投入した。パチパチと油が跳ねて焼かれていく。フライ返しで焼かれている面を確認し、きつね色にこんがりと焼けたらひっくり返す。そのまま少し待って、こんがり焼けたら作っておいたタレを注ぎ込んだ。ジュウッといい音が聞こえてきて、鼻を刺激するのは香ばしい良い香り。

 魔法陣を展開していたリュウデリアは、ついついオリヴィアの方を見てしまった。口の中に涎が貯まっていき、溢れそうになったのに気がついて飲み込むと、ゴクリと喉が鳴った。匂いからして美味そうだと察してしまったが、こんな料理はまだ食べたことがない。どんな味がするのだろうと考えると、楽しみな気持ちと連動してか尻尾が左右に揺れる。

 出来たと判断されて広くて浅い大きめの皿に移されて、残っているタレを上から掛けていく。近くに小さなプチトマトを添えて完成したようだ。するとカタカタという音が聞こえた。発生源は釜だ。炊いている米が出来上がったようだ。エプロンを使って蓋に手を掛けて持ち上げると、白い湯気がもわりと立ち上っていった。

 茶碗を持って盛りつけると、全て出来たのだと察して食べるためのテーブルをリュウデリアが持ってきた。椅子を設置すると、ありがとうと言われながら皿が並べられていく。鶏肉が載った皿とサラダ、ドレッシングの入った容器と白米の載った茶碗だ。



「さ、出来たぞ。サラダは分かるだろう?ドレッシングは好きな分だけ掛けてくれ。肉はチキンステーキだ」

「チキンステーキ……」

「タレは簡単なものだけで作れるし、味が濃くて肉好きならば絶対に気に入ると、女神友達に教えてもらったんだ」

「ほう……?というより、お前は料理が出来たんだな。正直に言わせてもらえば、料理している姿を見たことがなかったから不安があった」

「ふふっ。まあお前の前では確かに作ったことがなかったからな。では暇な時とかには作っていたんだぞ?」

「神界……」

「…っ……んんっ。ほらほら、熱いうちに食べてくれ」

「……分かった。いただこう」



 オリヴィアは用意されたフォークやナイフを使ってチキンステーキを切って食べているが、リュウデリアは慣れてしまったのか、魔力の遠隔操作で切って浮遊させて食べることにした。ふわふわと浮いている、タレに絡まった鶏肉。口元に近づければ近づけるほど香ばしくて食欲をそそる。

 少し気になる発言があったが、チキンステーキを口に入れて咀嚼した瞬間、頭の中から飛んでいってしまった。タレの味が濃くて美味く、肉もモモ肉なのでジューシーだ。焼き加減は完璧で中まで火が通っている。噛めば肉汁が溢れてきて、これは確かに肉好きならば気に入ってしまう一品だ。



「美味いッ!!こんな食い方もあるのか……ッ!!」

「サラダのドレッシングも美味いと思うぞ」

「どれどれ……ほう。サッパリした野菜にクリーミーなドレッシングが混ざって口休めにはいいな」

「そうだろう?……うん、米と良く合うな。この米を考えた人間は才能があるな」

「醤油やみりんなどの調味料の名前を考えた人間は珍しい名前だったぞ。確かハナコ・コウジョウという人間の女がある日突然、今普及されている調味料を作り、命名したという。米もその一つだ。遙か昔のことらしいがな」

「思い付きだけで数々の物を発明したのか?」

「いや、本人曰く、知っていることを試した結果だ……とのことだ。未来視の力でも持っていたのかは謎だが、そう本に書いてあった」

「なるほど……」



 オリヴィアが作った絶品の料理に舌鼓を打ちながら、2人で会話も楽しんだ。遙か昔のことだが、とある人間の女が調味料や米、箸と言った物も広めたとされていることを教えられ、本を読んだ成果が早速発揮されたなと、オリヴィアはリュウデリアに微笑んだ。

 こんもりと盛りつけておいたサラダも食べ、人によっては食べられないプチトマトも食べ、肉を頬ばって米と一緒に咀嚼しながら尻尾をゆらゆらと揺らし、翼もバサバサとさせているリュウデリアを見ていると、作って良かったと心から思った。

 美味しそうに食べてくれるので、自身のチキンステーキも食べるか?と聞くと、確かに美味いがお前の分まで奪おうとは思っていないと返されたが、尻尾の揺れ具合から足りていないのは分かっている。バレバレなのになぁと思い、クスリと笑ってお腹いっぱいだから代わりに食べてくれと言って差し出した。






 リュウデリアはオリヴィアが実は料理が出来るということを知った。作るものも実に美味いということも。だが食べ物に釣られて、オリヴィアの『』という言葉が頭から抜け落ちてしまっていた。






 ──────────────────


 ハナコ・コウジョウ

 珍しい名前を持つ人間の女性。昔に調味料を開発して命名した人で、フォークやナイフが主流だった世界で箸を初めて作って使っていた。

 知っていたことを試して作ったという謎の発言をしており、変わり者だと言われることも多々あったという。今では、今の食事事情を作り上げた偉大な人物として語られている。




 オリヴィア

 実は料理は出来た。女神友達と作りあって食べさせあったり、ご馳走したりしていた。今回という発言をしてしまい、その時は少し焦っていた。

 リュウデリアに美味いと言われて嬉しかった。折角調理器具を揃えたので、今度から旅の最中の食事は自分が作ってあげようと考えている。




 リュウデリア

 オリヴィアの作った料理が美味くてちゃんと完食した。肉が最高に美味かった。是非他のも作って欲しいと考えている。好感触のようだ。


 食べ物に釣られての発言を頭から溢れ落とした。



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