純黒なる殲滅龍の戦記物語

キャラメル太郎

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第5章

第47話  ありがちな事

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「──────納得いかねェ──────ッ!!」

「……生まれた差が……酷すぎる……魔力だけで……どうやって……」

「フフン。俺がやればこの程度、造作もないことよ」

「クレアが24個、バルガスが26個、リュウデリアが47個。圧倒的だな」

「これでタネ明かしはお預けだな。何せ俺が勝ったのだから!」

「ちぇっ。魔法じゃなくて魔力だけって……どーやんだし」



 貝獲り競争の結果は御覧と通りだった。やはりというべきか、コツを掴んだリュウデリアの圧勝だった。一体どうやったら魔力だけで貝の場所が解るというのか。クレア達でも解らないので首を傾げている。だが負けた以上教えてもらえないので、悔しそうにしている。

 オリヴィアの合図に伴い開始された競争中、貝を見つけて手に取りながらチラリとリュウデリアを見た時、クレアとバルガスは次々と貝に手を伸ばす所を見ていた。迷い無く泳いで貝を獲る。それも、有ると解っているのに獲らずスルーするときもあった。恐らく中に青真珠が入っていないのだろう。

 流石に中を開いて確認しないと解らない中身の判別すらも同時に熟す。魔力の使い道は魔法の発動と、覆った事による肉体の強化だけだと思っているクレア達にとって、リュウデリアが行っている魔力のナニカが未知に感じている。だから絶対に負かしてタネ明かしをさせてやろうと息巻いたのだが、結果は惨敗だった。

 依頼の青真珠5個は回収を完了しているのは、リュウデリア達が勝負している間に貝を開いて青真珠を取り出していたオリヴィアが解っているので、ギルドへ帰る事にした。今までは喋っていた3匹だが、今からは戻るので使い魔ポジションに戻って黙り、それぞれの配置につく。

 王都の入り口に歩いて向かい、門番に許可証のタグを見せて中へ入る。後は来るときに歩いた道をそのまま辿ってギルドへ戻れば良いだけだ。朝飯を食べてきたが、体を動かして腹を空かせたのだろう、リュウデリア達からぐぅっと鳴る腹の音が聞こえて、オリヴィアはクスクスと笑った。途中で魚を獲って食べていたのに、食いしん坊だなと思いながら。

 体のサイズを変えると同時に、食べる量も変えている3匹ではあるが、それでも食べる量は凄まじく、食べること自体好きなので食欲旺盛だ。そんな腹ぺこ3匹に店から香る肉を焼く匂いは厳しいものがあるのだろう。誰にも解らない小さな声で腹減った……と言われると笑ってしまいそうになる。

 仕方ないな、と溜め息を吐きながら、ギルドに報告が終わったら貰う報酬で何か食べに行こうかと言うと、3匹が首を縦にブンブン振るので小さく吹き出して笑った。そうして仲良くギルドへ帰って来たオリヴィア達。だが、何か食べられると上機嫌だった3匹は、一瞬で不機嫌になることとなる。



「──────ちょっと待ちな真っ黒ちゃん」

「お前、さっき青真珠の依頼受けただろ。獲ってきたんなら全部渡しな。ちょーど酒飲むための金がいるんだよ」

「まさか断らねーよなぁ?ま、1個も獲ってこれなかったってーなら、金になるモン渡せ。それで許してやるよ」



 王都のギルド、燦々たる地平線ブライエント・ホライズンは人の良い者達が多く、素行が悪い者は少ないのだが、中にはこのように絡んでくる者が居る。登録料さえ払ってしまえば、誰でも冒険者になれるという事により、言葉よりも暴力による話し合いを好むような輩が必ず居るのだ。短気な者も手が出やすいというのもある。

 そしてギルドへ帰って来たオリヴィア達に絡んできた、大剣、片手直剣、弓、を背負った男達は、その素行が悪い者達に入る。実は青真珠の依頼を受けて向かっていったのを見ており、帰ってくるのを待っていたのだ。例え青真珠の獲り損ねたのだとしても、上質そうな純黒のローブを奪い取ってしまえば良いとも考えていた。

 ニヤニヤと下劣な笑みを浮かべながら前に立ち、大きな体を活かして上から見下ろして威圧してくる。両肩と腕の中に居るリュウデリア達の目が細まり、不穏な気配を醸し出している事など露知らず、もう潔く渡してくるものだと思い込んでいる3人組に、態とらしく溜め息を吐いた。



「愚かだな」

「あ?」

「何故、態々人の目のあるギルド内で依頼の納品物を渡すよう催促するのか、金目の物をたかるのか理解に苦しむ。お前達は今、非道を行うと宣言しているに等しいのだぞ」

「はッ!コイツらはザコだぞ。俺達はAランク冒険者だ。俺達に何か言える奴なんざ居ねーンだよ!それよかブツだよ、さっさと出してよこせ」

「はぁ……──────ってみるが良い。ただし、その時はお前達がどうなっても知らんからな。それ相応の事態に陥ると思うが良い」

「……舐めやがってEランク風情のザコがよォッ!!」



 雲行きが怪しくなった事で、オリヴィアの周りから少しずつ話し声や食器の重なる音が消えていき、静寂が生まれた。冒険者同士の本気の揉め事であり、Eランクのオリヴィアが腐ってもAランクの冒険者である男達に絡まれているのを見過ごせなかった、青真珠の納品依頼の受付してくれた受付嬢がカウンターから出て来て止めようとしてくれた。

 他の冒険者はAランクの3人組に力では敵わないと解っているからか、気まずそうに視線を逸らしていた。まあ仕方ないかと納得しながら、走り寄ってくる受付嬢に掌を見せて大丈夫だというジェスチャーをした。

 まだ若い女性である受付嬢は心配そうな表情を隠すこと無く、両手を胸の前で合わせて見ていた。良い受付嬢だと思いながら、3人組を挑発する。すると、依頼を受ける時の受付を盗み聴きしていたから知っていたようで、正真正銘Eランクであるオリヴィアに怒り心頭で真っ赤に変色した怒り顔のまま、背中にある片手直剣を抜いて振り下ろしてきた1人の男。

 正面に立つオリヴィアから見て左上から右下に向けて振り下ろす片手直剣。大剣よりも軽い武器なので、大の男が振り下ろせば相当な速度を出すだろう。普通のEランクの冒険者ならば避けるのは難しかったかも知れない。だが、残念ながら普通では無い者達が相手なので意味は無い。

 左上からの袈裟斬りだった。まさか武器を抜くとは思ってなかった受付嬢は咄嗟に顔を手で覆ってしまった。そして視界を隠して数瞬後、ばきりという音が聞こえた。人を斬った音ではない。硬いもの同士がかち合った時の音だ。急いでオリヴィア達の方を見てみれば、肩に乗っている赫い使い魔が、手で剣を受け止めていた。



「なッ……はァッ!?」

「……私に武器を向け、更には使い魔に攻撃した。つまりお前達は不当な言い分を撒き散らし、言い返された事に逆上して手を出した加害者という立場になる。知っているか?ギルド内で揉め事が起きた場合、加害者はどれだけの反撃に遭おうが自己責任になるのだぞ。つまりだ──────報復は甘んじて受けるが良い」

「ふざけんなザコがッ!!使い魔が少し強いくらいで調子に乗ん──────」



 ひゅるり。小さな風切り音が聞こえた。もしかしたら空耳かもと疑ってしまいそうな、弱々しい音だった。静寂の中で発生したその音に、見守ることしか出来なかった周りの冒険者達は小首を傾げたが、次の瞬間にはそんな些末な事は、頭から抜け落ちていた。

 3人組の男達の服が斬れた。大剣を背負っていた男と片手直剣を振り下ろした男は鉄製の鎧を着ていたのだが、両の肩当てが縦に真っ二つになり、太腿の付け根の部分も裂けた。あれ?と思ったのも束の間、3人組の男達は腕と脚、四肢を斬り落とされていた。

 ピッと肌に線が入り、次には斬れて床に転がっていた。達磨と化した男達は最初、訳が解らず何度か瞬きをして仲間達と目を合わせていたが、遅れて噴き出る大量の血と、斬られた肉の断面から奔る痛みによって絶叫を上げた。



「ぎやあぁあぁ──────ッ!!!!」

「いでぇ……っ!!いでぇよぉ……っ!!」

「俺の脚がぁ!!腕がぁ!!!!」



「今……何が起きたか解ったか?」

「いや、いきなりアイツらの腕と脚が斬り落とされたようにしか見えなかったが……」

「……めちゃくちゃ鋭い剣で一刀両断……みたいな断面だぜ、ありゃあ……」

「ご愁傷様だな……」



 斬り落とされた腕と脚、体の断面から噴き出る血がギルドの床に大きく広がっていく。足元まで来た赤黒い血に、近くに居た冒険者達は恐れ慄くように後退して避けていった。何が起きたのか、何をしたのか一切解らなかった。だが実際やったことは単純だ。リュウデリア達が尻尾の先に魔力で形成した刃を使い、目にも止まらぬ速さで1人ずつ四肢を両断しただけだ。

 人間には捉えられない速度で斬ったのだから、何が起きたのか解る筈も無い。ゼロコンマ1秒にも満たない、超早業である。当然、斬られた男達も何が起きたのか理解出来ていない。だがそれはもう関係無いのだろう。そもそも、手を出すこと自体間違っていたのだから。

 左肩に乗っているバルガスは、受け止めた片手直剣をまだ持っていた。体のサイズを落としたので、手は小さいが力はそのままだ。だから小さな人間が持つ武器なんて羽根よりも軽い。
 受けとめていた武器は、少し力を入れただけで、握っている部分から罅が入って半ばから完全にへし折れた。

 ばきりと音を立てて折られ、床に落ちる。小さな破片が血の池に鏤められ、呑み込まれていった。泣き叫ぶ大の男3人と、それを見下ろす純黒のローブを着て、顔をフードで隠したオリヴィア。異様な光景の中、今度は3人の男達の斬られた断面に、純黒の炎球が発生し、斬り落とされた四肢は純黒の炎が呑み込んだ。



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」

「死ぬっ!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅっ!?」

「あづいぃ!!誰か助けてくれェ!!!!」



「私はから、態々止血してやっているんだろう?感謝くらいしたらどうだ愚か者共。あぁそれと、斬り落とした四肢は灼いて消滅させておくぞ。薬か何かで繋げられても困るからな。お前達は己の愚行に悔いながら、これから先惨めに生き恥を晒し続けるが良い」



 純黒炎に呑み込まれた四肢は、ものの数秒で完全に消滅してしまった。これでもう繋がる事は無い。失われた四肢が戻ることは、有り得ないのだ。治癒する魔法は存在しない。その代わりに傷薬があるので、高級な傷薬を使って高度な縫い付けを行えば、もしかしたらが有ったかも知れないが、もう無理な話だ。

 斬られた断面に炎をつけられて肉が焼ける。止血のためと言うが、止血が終わっても灼いたので、接触した所は真っ黒に焦げて炭となっている。ギルド内に、人の肉が焼けた匂いが充満する。それに不快感を感じて眉を顰める者も居れば、耐えきれず吐きにトイレへ駆け込む者も居た。

 周りからの視線に怯えが混じっているというのに、オリヴィアは気にした様子も無く痛みで気絶した男3人を放って受付嬢が居るカウンターへ向かった。進行方向に居た冒険者が左右に別れて道を作り、その道を堂々と歩いていく。ハッと我に返った受付嬢は、急いでカウンターの奥へ行き、困ったような表情をして対応した。



「依頼にあった青真珠の納品をしたい」

「は、はい。私が受け取らせていただきますので、カウンターの上に置いて下さい」

「分かった。数が多いから気を付けてくれ」

「はい!……数が多い?」



 受付嬢とオリヴィアを挟むカウンターの上に純黒の魔法陣が展開され、異空間に仕舞われていた大量の青真珠が姿を現した。その数は実に92個。70近くの青真珠は、リュウデリアが入っていると解って獲ってきたので圧倒的な量で、残りの20近くはクレアとバルガスが獲ってきた貝の中に入っていたものだ。

 残念ながら入っていないものもあったので、獲ってきた貝の数よりも青真珠の数の方が少ないのだ。因みに、オリヴィアは貝の剝き方を知らないので、魔法を使って無理矢理貝をこじ開け、中身を取り出していた。なので一切触っていないのである。

 納品数5個に対して、獲ってきた数が異常に多い事に目を丸くして驚いた受付嬢は、コロコロと転がってカウンターから落ちそうになっているものを身を乗り出して手で塞き止め、同業の他の受付嬢の手を借りながら90を超える青真珠の回収をした。大きさの判定と報酬の準備があるので待って欲しいと言われ、10分程待機していた。

 鑑定が終わったのだろう、受付嬢が奥の部屋から出て来る。手にはトレイを持っていて、その上には1万Gの価値がある金貨が大量に乗っていた。因みに、1000Gの価値が銀貨で、100Gの価値が銅貨で、10Gの価値が鉄貨で、裏には全て特殊な紋様が共通についており、複製は出来ないようになっている。

 Eランク依頼だというのに、見ただけで解る大金を稼いだオリヴィアに周囲がざわついている。かくいう受付嬢もまさかこんなに青真珠を獲ってくるとは思っていなかったので、苦笑いをしていた。



「青真珠の納品5個の報酬で5万G。残りの重複分の青真珠が87個で、大きさによって代金が変動いたしましたが、総額92万4000Gとなりました。お受け取り下さい」

「ありがとう。獲った貝は好きにしてもいいのだろう?というか、食べられるか?」

「はい、オリヴィアさんが持っていて大丈夫ですよ!それにちゃんと食べられますし、美味しいですよ!」

「「「「……っ!」」」」

「そうか、それは良かった。では、今日のところは帰る。恐らく明日も来るだろうから、また頼む。あの男達の処理は任せた。事情聴取等もあるだろうしな」

「あはは……お任せ下さい。皆が証人ですので、オリヴィアさんに罰則はありません。お疲れ様でした」

「あぁ」



 転がっている男3人は、周りに居た冒険者に手を借りて憲兵に引き渡される。完全に加害者側であることは、ギルド内に居た者達が見て聞いていたので問題ない。そして揉め事が起きた際の負傷については、ギルド側が責任を取る事は無く、全て自己責任となるで男3人はどうしようも無い。

 過剰であったかも知れないが、所詮は絡んでやられた方が悪い。だから庇護されることはない。よってオリヴィアに罪に問われる事も無い。周りから少し怯えられる事以外はある意味で円満に終わったのだ。

 何か美味いものを食えると上機嫌だったのに、知らぬとはいえ天下の龍を不機嫌にさせたというのに、殺されなかっただけありがたいものだろう。いや、もう自力で動くことは出来ないので、殺された方が良かったのかも知れない。まあ、もう後の祭りと化しているので何を言おうが叫こうが無駄なのだが。






 こうして王都の初依頼は無事達成し、大金を手に入れた。ギルドを後にしたオリヴィア達は、報酬を使って食べ歩きをしながら、湖貝を焼いてもらって存分に堪能したのだった。





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