純黒なる殲滅龍の戦記物語

キャラメル太郎

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第3章

第17話  冒険者登録

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「──────おい、見ろよ」

「すっげー美人じゃねーか」

「肩に乗せてんのは使い魔か?見たこと無い奴だな」

「龍に似てるが小せぇし、少し形が違う。翼が生えたトカゲか?」

「ローブのせいで体付きがあんま分かんねぇ……!」



 街の中を適度に散策していたオリヴィアとリュウデリアは、そろそろ頃合いだろうという事で冒険者ギルドへ向かった。名前は『黄金の鵞鳥ゴールド・グース』といい、この街と同じように大きくも無く小さくも無いギルドである。そして此処でのオリヴィアへの反応は街に入った時と同じだった。

 神なだけあって神がかりの美しさを持つオリヴィアに、冒険者ギルドの男達は目が釘付けである。ギルド職員の女性とてオリヴィアの容姿に感嘆の声を上げ、つい魅入ってしまう。なので、肩に乗っているリュウデリアの姿形に注視する者は余り居らず、居ても都合の良い勘違いを起こしている。

 思い思いに騒いでいたギルド内がオリヴィアが中に入ると直ぐに静かになり、視線が集まる。多くの視線が集まっているというのに、注目の的になっているオリヴィアが気にした様子は見られない。それを肩の位置から見ているリュウデリアは、やはりオリヴィアは人間達にとって興奮するような容姿をしているのだな……と、思っていた。



「冒険者登録を頼む」

「……えっ、あ、はい!冒険者登録ですね!では、まず最初に手数料の2000Gをいただきます。それと名前をお願いします」

「うむ。名はオリヴィアだ」

「……はい、料金を確認しました。オリヴィアさんですね。冒険者ギルドについてのご説明はいたしますか?」

「頼む」

「はい、畏まりました。では冒険者ギルドのランクについてですが──────」



 そこからは冒険者ギルドの受付嬢による、冒険者とギルドのシステムについて説明された。ランクは前章で説明した通り、Fから始まってE、D、C、B、A、S、SS、SSSと決められており、ランクが上がれば上がる分だけ報酬も良くなるが、難易度も同時に上がっていき、死の危険も伴う。特にSSSともなると、その実力は大陸で数人居るか居ないかというもので、『英雄』と謳われる者達と同列とされている。

 伝説では『英雄』同士の戦いで大陸の形が変わったとも言われている。そんなSSSの仕事は、普通の人間では立ち入る事の出来ない過酷な環境に於ける討伐や調査が主とされている。オリヴィアとリュウデリアは今初めて登録するので、最初のFからである。Fに求められているクエストは、薬草の採取や溝浚い等の内容となっている。

 クエストは紙に記されており、クエストボードに張られているので自分達で選んで取り、ギルドの受付嬢に渡して手続きを終えてからが開始となる。チームは4人制で、合同ならば8人で行くことも可能である。勿論、1人で行くことも可能であるが、あくまでクエストに行くのは自己責任という扱いになるので、自身の力を過信し、高ランククエストを1人で行って死亡したとしても、ギルドは責任を取らない。

 それらの説明を聞いたオリヴィアは、最後にギルド内に於ける暴力行為については如何なのか聞くと、受付嬢は何かを察したように頷いて詳細を話し始めた。ギルド内の暴力行為は基本的に先に手を出した者の責任となる。その場合、反撃されて傷を負ったとしても被害者の責任にはならない。そして更に加害者にはギルドからそれ相応の処罰を与えるとのことだ。それを聞いたオリヴィアは頷き、説明は終わった。



「これが冒険者の証となるタグですので、無くさないようにお願いしますね。つけるところはなるべく見せやすい所の方が良いですよ?私のオススメは首に掛ける事ですね!」

「そうだな。その方が見せやすく、取り出しやすい。私もそうしよう」

「ではこれで冒険者登録は完了です。今日はクエストを受けられますか?」

「時間も余っているし、簡単なものを一つ受けようと思っている」

「はい、畏まりました。ではクエストボードからクエストを選んでいただき、私の方まで持ってきて下さい。手続きをいたしますので!」

「うむ。分かった」



 オリヴィアは受付嬢の居る受付カウンターから離れ、壁に設けられているクエストボードの所まで行き、張ってあるクエストを見ていく。最初のFランクに出来るのは本当に簡単な仕事ばかりなので、最底辺のランクといえども、次のランクに上がるまでは基本的に早い。謂わば研修のようなものだ。

 意外と多くあるFランククエストでどれにしようか選んでいると、背後から大きな足音を鳴らして近づき、オリヴィアに声を掛ける者が居た。オリヴィアはやはりな……とでも言うように態とらしく深い溜め息を吐きながら振り返る。そこに立っていたのは大きな体に筋肉の鎧を纏ったスキンヘッドで顔に傷がある男で、如何にもありがちなシチュエーションだと思った。



「おい、女1人でクエスト行くのか?なんなら俺様が手伝ってやってもいいんだぜ?」

「失せろ。私は1人で行くわけでは無い。貴様には私の相棒が目に入らんのか?そもそも、貴様のような何日風呂に入っていないのか分からん悪臭漂う男なんぞ願い下げだ」

「──────あ゛?調子に乗ってんじゃねェぞ……このアマッ!!」



 沸点が低いのだろう、スキンヘッドの大男はオリヴィアに掴み掛かった、そして手が触れたその瞬間にスキンヘッドのオリヴィアに伸ばした右手が手首から先が無くなった。は?と訳が解らず頭に疑問符を浮かべている大男だったが、何時の間にか自身の手が手首から斬られているのだと理解すると尻餅をつき、血を噴き出す手首をもう一方の手で押さえて叫んだ。

 大男が突然倒れ込んで血を噴き出している事に驚いて、数人の男が大男の元に駆け寄って行った。その男達は大男がオリヴィアに声を掛ける光景を厭らしい笑みを浮かべて見ていた者達だ。大男の仲間だったのだろう。必死に血を止めようとしている。オリヴィアは絶叫している大男の方を一瞥すらしていない。代わりに見ている存在が一匹。オリヴィアの肩に乗るリュウデリアだった。

 一瞬の事過ぎて誰の目にも見えていなかったが、リュウデリアはお馴染みの尻尾の先に形成した純黒の魔力の刃によって、大男の手を斬り飛ばした。切断された手は、大男の傍に落ちている。回復魔法なんてものは失われた太古の魔法なので、くっ付ける事は出来ない。そして、傷を癒す回復薬があるにはあるが、流石に斬り落とされた手をくっ付ける薬は普通には出回っていないし、有ったとしても高額な品だろう。

 つまり、この大男の冒険者生命は今、断たれたことになる。リュウデリアは本来頭を斬り落とそうとするだろう。だがしかし、ここで殺してしまえば後が面倒くさくなると考え、手を加えられて被害者となった瞬間に死なない程度に斬り落とした。大男は冒険者ランクがCであるのだが、それが目にも止まらぬ速さでやられたことに、ギルド内ではざわめきが起こっている。

 オリヴィアは全く興味が無いようで、結局大男の方を一度も見ないまま受付カウンターの方へ、クエストボードから取ったクエストの紙一枚を持って向かった。先にクエストの手続きをしようとしていた他の冒険者は、オリヴィアが来るとあからさまに道を開けた。その道を堂々と通り、受付カウンターに居る、先程冒険者登録をしてくれた受付嬢にクエストの紙を渡した。紙を渡された受付嬢は、分かっていたとでも言うように苦笑いを浮かべていた。



「このクエストを頼む」

「……はい、薬草の採取ですね。50本の納品ですが、カゴなどは使いますか?貸し出しも出来ますよ」

「いや、大丈夫だ。それと先に言っておくが、私は被害者だからな。私に責任を押し付けるなよ?」

「あはは……一応私も見ていましたし、そんな感じがしていたので大丈夫です。彼には後で処罰の内容を伝えて処置しますので、オリヴィアさんはクエストに行かれて大丈夫ですよ」

「うむ。頼んだ」



 手続きが終わり、いざクエストに向かってオリヴィアが歩き出すと、誰も近付こうともせず、総じて道を開けていった。声を掛けようとする者も居ない。騒がしさも消えて静かになったものだ。しかしオリヴィアは清々しい気分であった。無駄に声を掛けられるのが好きでは無い。見ず知らずの男に馴れ馴れしく声を掛けられるのも好きでは無い。今が丁度良いと言える。

 冒険者登録をしたのだって念の為というものであるし、ランクを上げたいと考えている訳でも無い。必要最低限のクエストを今受けようとしているだけなのだから、自身達のことは放っておけと思っていた。そちらから寄ってこないならば是非も無い。

 誰も近寄ってこないことに上機嫌となりながら、オリヴィアとリュウデリアはクエストに出て行った。内容は単純な採取もの。街の外等で生えている薬草を50本取ってきてギルドに持ち帰る。それだけである。溝浚いの仕事があり、それは街の中で出来るのだが、流石に臭いが気になってしまうので、今回は薬草の採取である。

 街へ入る時に対応された門番とまた会いながら外へ出て、リュウデリアがオリヴィアの全身を薄く魔力で覆った。それだけで、オリヴィアの移動速度は格段に上がるのだ。その場で少し屈んで跳躍すると、高く高くその身を跳ばし、近くの木々が生えた場所まで3回跳ぶだけでついてしまった。



「ふぅ……これは中々に気持ちが良いな」

「俺は翼で飛ばず、お前に乗って風を切るのが新鮮で変な感覚だ」

「お前の魔力での強化のお陰で三歩で着いてしまったしな。お前は私に乗っていていいぞ。元のサイズに戻れば此処からでも見えてしまうからな」

「細かい大きさの調整も出来るが……まあいい。今回はお前に乗って移動するとしよう」

「ふふっ。落ちないようにな?」

「……分かっている」



 肩にリュウデリアを乗せたまま、オリヴィアは歩き出して薬草の捜索を開始した。流石の女神でも薬草は知っていたので、リュウデリアが態々どれが薬草なのか説明をすることも無い。オリヴィアは鼻歌を歌いながら薬草を探す。リュウデリアも一緒に薬草を探していた。

 歩って数分もすれば、リュウデリアが薬草の匂いを嗅ぎ取って方向を尻尾で指して示す。その方向にオリヴィアが向かえば、周りの雑草とは少し違う形をした草を見つけた。早速リュウデリアが魔力を操作して薬草を一本引き抜くと、オリヴィアから待ったを掛けられた。どうやら自身の手で抜きたいとのこと。

 草抜きを経験してみたいと言う神も居るんだな……と、思いながら了承し、抜くのはオリヴィアに任せた。しゃがんで根元を掴み、引き千切らないように抜いていく。最後まで抜ききると、リュウデリアの魔力の操作で薬草が浮かび、オリヴィアの横を追従していた。最初にリュウデリアが魔力操作で抜いた薬草もあるので、今二本分の薬草が浮いている。

 その後もオリヴィアが抜いてリュウデリアが魔力で受け取って浮かせるという作業を繰り返し、あっという間に目的の50本に到達してしまった。案外早く終わったが、まだ目前に何本かの薬草が生えているので、序でに採っていくオリヴィア。結局最後は50本ではなく、80本の薬草を採取していた。土で汚れたオリヴィアの手は、リュウデリアが魔法で水を生み出して洗い流した。

 採った薬草が80本も重なると、中々の量になる。そんな薬草の束は、リュウデリアが器用に指を鳴らすと、魔法陣が展開されて姿を消した。魔法で別の空間に送ったのだ。目的の物も採取し終わったので、早速リュウデリアとオリヴィアは街へと帰る。帰る方法は来た時と同じで、リュウデリアの魔力で単純に強化された力で直ぐに街へ着いた。

 たったの三歩で街へ帰ってきたオリヴィアとリュウデリア。オリヴィアは、また性懲りも無く食事に誘おうとしてくる門番に首から提げた冒険者の証明であるタグを見せ、誘いを完全に無視して入っていった。勿論門番は溜め息を吐いて項垂れた。街へ入り、冒険者ギルドへと入っていくと、またしても静かになった。どうやら出る時の大男にやったデモンストレーションが効いたようである。



「……これを。目的の数に達したが、まだ少し生えていたから序でに採ってきた」

「……えっ、今空間系魔法を……あはは……。はい、えーっと……薬草80本の納品ですね!余分に採られた分については此方で買い取りますので安心して下さい」

「頼んだ。それと、お前のオススメでいいから、風呂の付いている宿を教えてくれないか?まだ泊まる宿を決めていないんだ」

「そうなんですね!なら、丁度良い宿があるので紹介しますよ?あ、報酬は薬草一本につき200Gなので、全部で16000Gです」

「うむ。確かに」



 しれっと空間系魔法を使用している事に驚いている受付嬢だったが、どこか他の冒険者達とは違うと考えているのだろう、何も聞かないで手続きを済ませてくれた。有能である。オリヴィアは他の一々騒々しい者達とは流石に違うな……と、思いながら、クエストの報酬である16000Gの入った袋を受け取り、中にちゃんと全部入っているかを確認すると、今度は受付嬢からオススメの宿の場所を聞く。

 用件を全て済ませたオリヴィアは、誰かに道を遮られる事も無く、ギルドを後にした。無論、オリヴィアとリュウデリアが出て行った後は、使っていた空間系魔法についての話が出ていたが、結局オリヴィアが実はすごい新人なのではという結論で終わった。

 日が沈み始め、夕陽が見えて景色が茜色になりつつある時間帯、オリヴィアとリュウデリアはゆっくりと目的の宿へと向かっていた。人間の街での一泊は初めての経験なので、二人ともどんなものなのだろうかと興味を持っている。まあ一泊すると言っても、宛がわれた部屋で眠ったりするだけなのだが、興味があるのは泊まる部屋である。

 少しずつ通りを歩く人が減り始めた頃であり、そうなればオリヴィアの美しさに見惚れてしまう人も減り、視線も必然的に減る。鬱陶しい視線が消え始めたことに、オリヴィアは上機嫌そうだった。リュウデリアも、晩飯でどんな物が食べられるのか少し楽しみにしていて上機嫌である。



「此処が受付嬢の話していた『旅人の休憩所』だな。……すまないが、部屋が余っていれば一泊させてくれるか?」

「はい!旅の御方ですかね?ウチは食事付きで一泊一万Gでやってますけど、どうしますか?」

「ほう、食事が……では頼む」

「……はい!確認しました!ここの宿は使い魔の同伴もオッケーなので、存分にお寛ぎ下さいね!食事は1階で他のお客さんと共同で、2階がお部屋になってまーす!」

「分かった」



 紹介された宿は2階建てで中々に大きく、食事付きで中々の値段だったので即決した。オリヴィアとリュウデリアは宿の受付で部屋の番号が書かれている木のタグが付いた鍵を受け取り、二階の階段を上がって部屋を探した。少しだけ歩って目当ての番号が書かれた部屋は、運が良いことに角の部屋だった。ドアノブに鍵を差し込んでドアを開けると、中はとても綺麗だった。

 元々この宿は風呂の付いた部屋のある宿といことで受付嬢が紹介してくれたので、部屋とは別に洗面所と風呂場が設けられている。女神でも風呂には入る。汚れが付いてしまうので落とすためにも入るし、何と言っても温かい湯船に浸かるのは気持ちが良い。汚れが落ちて綺麗になったと自覚できることも大きい。



「よし、では一緒に風呂に入ろうか?」

「風呂とは水浴びのようなもののことだろう。ならば俺は一匹で入れるぞ」

「まあまあそう言わずに、私が綺麗に洗ってやるから」

「いや、俺は一匹で……ぅぐふっ」



 オリヴィアは肩に乗っているリュウデリアを鷲掴んで両手で抱えると、洗面所に行って風呂場のドアを開けて中にリュウデリアを置いてきて、オリヴィアは素早く着ているローブなどを脱いでいった。大体が曇りガラスになっているドアからは、服を脱いでいるオリヴィアの影のシルエットが映っている。普通ならば胸が高鳴っても当然な光景なのだが、リュウデリアは溜め息を吐いているだけだった。

 何故態々二人で入ることになっているのだろうと思っていると、オリヴィアが入ってきた。タオルも巻かない、美しい肢体をこれでもかと見せる生まれたままの姿。誰も見た事が無いだろう、どんな宝石にも勝るその肢体をリュウデリアに見せ付ける。大事なところも一切隠さないその様子から一転して、顔はほんのりと朱に染まっている。煽情的なその姿に、リュウデリアは柔らかく脆そうという感想しか無かった。



「……その、どうだ?」

「……?擦れ違う人間を見ていたが、総合的に見ればお前の肢体が最も均等が取れて美しい?んじゃないか?龍の俺には余り分からんがな」

「……っ……いや、その言葉だけでも十分だ、ありがとう」



 ほんのりと染まった朱が濃くなった。何故赤くなっているのだろう。皮膚の色が変わるなんて不思議だな……と、場違いなことを考えているリュウデリアを抱き抱え、椅子に座って膝の上にリュウデリアを置いた。シャワーのノズルを取ってお湯を出し、リュウデリアに掛けていく。温かいお湯を受けて目を細め、最初から置かれているスポンジと石鹸を使って泡立て、リュウデリアの体を洗っていった。

 洗ってくれる手つきはとても優しい。リュウデリアの鱗は尋常では無いほど硬いと知っているだろうに、まるで壊れ物のように扱うのだ。それがもどかしいとも感じているが、同時に心地良いとも感じているリュウデリアは、されるがままだった。そしてリュウデリアが洗い終わってオリヴィアが自身の体を洗う。

 普通ならば絶対にお目に掛かれないオリヴィアの体を洗う姿なのだが、リュウデリアは魔法でバスタブにシャワーから出て来るお湯と同じくらいの温度のお湯を出して貯めていた。満タンまで入れると、頭から入ってお湯を溢れさせる。そして中で適当に泳いでから顔を出すと、此方を見ているオリヴィアと目が合った。ニッコリと嬉しそうに微笑むオリヴィアに、リュウデリアは小首を傾げる。

 その後、洗い終わったオリヴィアも湯船の中に入り、リュウデリアを抱えて肩までゆっくりと浸かり、体が芯まで温まったところで二人で出て来た。置いてあるバスタオルでリュウデリアの全身の水気を拭き、自身も身体を拭いていく。髪の毛の水気は、リュウデリアが魔法を使って一瞬で乾かしてくれた。本当は二人揃って最初からそうしようとしたのだが、オリヴィアがリュウデリアを拭きたいと言ったので、取り敢えず任せていた。

 その後は宿の貸し出しの服に着替えて1階に降り、晩飯を二人で食べた。食事のメニューは決まったものから選べるという事だったので、オリヴィアは軽くサラダで、リュウデリアは鶏の唐揚げ定食を頼んだ。勿論、食べようとするとオリヴィアが食べさせると言って譲らないので、デジャヴだと感じながら全部食べさせられた。

 料理に舌鼓を打って部屋に戻ってきた二人は、歯を磨いた。基本歯を磨く習慣なんて無いリュウデリアなのだが、食べた後は歯を磨くものだとオリヴィアに力説されて、慣れないぎこちない動きで歯ブラシを使って歯を磨いた。その姿をオリヴィアは何故かずっと凝視していたのだが。



「ふぅ……この布団は柔らかいな。とても気持ちが良い」

「ふむ……こんな柔らかい物の上で寝るのは初めてぐふぅ……おい、何故抱き締める」

「ふふっ。お前を抱き締めて寝るのが小さな夢だったんだ。寝苦しくはさせないから、このままで……」

「頭の下にあるやつでも抱いて寝れば良いではないか」

「んん……お前は……温かくて……好……すぅ……すぅ……」

「お前……!抱き締めてそのまま寝る奴があるか……全く」



 美しい純白の長い髪がベッドの上に広がり、リュウデリアを優しく腕で包み込んでそのまま眠ってしまった。神にも睡眠が必要なのかと言いたくなる寝付きの良さに、リュウデリアは溜め息を吐いてそのまま眠る事にした。

 今まで人間のような行動はしたことが無かっただろうに、今日は色々と歩き回ったり、多くの視線の中を歩って来たり、それにクエストの内容である薬草の採取でも主に動いていた。リュウデリアは今日、オリヴィアの肩に乗って、少し大男の手首を斬り落としたのと、魔力操作で色々としていたぐらいしかしていない。冒険者の手続きや薬草の採取、食べ物を手ずから与え、街の中も徒歩で移動していた。

 魔法を使えば直ぐのことも、リュウデリアに頼まず出来ることは自分でやっていた。神だというのに、偉そうにもしない。まるで心の底から自身を気遣っているような振る舞いから、確りと自身の心まで伝わっていた。見ていないようで、何とも思っていないようで、リュウデリアは確りとオリヴィアの事を見ているし、考えていたのだ。

 リュウデリアは少し迷った様子を見せるが、目の前に広がるオリヴィアの美しい寝顔を見て、ふっ……と、少し笑って顔を近付ける。オリヴィアの鼻に、自身の鼻をコツンとつける。それから少し顔を振って鼻を擦り合わせると、ゆっくりと元の位置へ戻る。



「今日はご苦労だった、ゆっくり休むといい。……色々とありがとう」

「……すぅ……すぅ……」

「……おやすみ」



 リュウデリアはオリヴィアの腕の中で静かに眠りについた。そして眠っていたオリヴィアは知らない。龍が鼻を相手の鼻に擦り合わせるのは、感謝や親愛を表す時に行う行動なのだが、そもそもこの行動は自身の認めた相手にしかしない、大切なものである。





 オリヴィアはリュウデリアから認めて貰えるように頑張っているが、殆ど認めている事を自覚する日は……案外近いのかも知れない。




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