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私と恋人。
言葉に出来たらいいのに。
しおりを挟む気まずい空気が流れる。ママもそう思ったのか、カウンター内に入って、窓を開けた。夜の匂いがするしっとりとした空気が、風と共に流れ込んで、私と彼に纏わりついた。
ママはいつものグラスを手に取った。ウイスキーを飲むのかと思ったが、冷蔵庫のお茶を取りに行き、身体に流し込んでいる。動く喉仏を見届け、それでも何だかママから視線を逸らしたくなくて、ずっと見つめている。
椅子に座り、カウンターに頬杖をついて黄昏るママは美しい。ちろりとグラスを舐め、ぼんやりと私の事を眺めている気がする。その瞳に、私が写っている事が嬉しくて、心がじんわりと暖かくなる。
何を考えているのだろうか。あなたのその心の中に私は居るのだろうか。知りたい、教えて欲しい。ジフリールさん。あなたは何を考えているの。
「ママ、、?」
さっきの男性、ラファエルさんと凄く近かった事、怒ってるの?それは、嫉妬、、?だったら凄く嬉しい。でも、ジフリールさんを苦しめてごめんなさい。
言い訳になっちゃうけど、本気で女だと思っていたんだよ。あんな綺麗な男性がいたら、全女性敗北だもん。無防備に触られた事も、悪かったって思ってる。ジフリールさんがいない間にも少しだけ、触られた事も、、。
もっと警戒心持つべきだったよね。私は、、その、、ジフリールさんの恋人なんだから。
「ん?」
私が触れられたいのは、、貴方だけ。
そう言えたら、どんなに楽だろうか。
カウンター内に入り、後ろから抱き着く。服の生地は硬いけれど、確かにジフリールさんの匂いがした。、、あぁ、イケメンっていい匂いがする噂は本当なんだなって改めて思うし、私が落ち着く匂いはこれしか無い。
「え、ど、ど、どうしたの!?」
「ジフリールさん」
「っ、、ぁ、、、」
「おかえりなさい。」
今はまだ、愛を言葉にするには、理性が残り過ぎている。もっと自分の思いを口に出せる様になれば、ジフリールさんを苦しめる事もないのに。だけども、怖気付いて、恥ずかしくて、それが声にならない。
ジフリールさんは、精一杯私を愛してくれるのに、私はその全てに答える事が出来ない。
だから、今日は、、行動できますように。
「はぁ、、それはずるいだろ。」
大きなため息を吐いて、手で顔を隠してしまう彼を、私は見ていた。耳が少し赤くなっている気もするけれど、私の気のせい?身を寄せた身体から微かに聞こえる心拍数は、心無しか早い。
ジフリールさん、照れる、、??
「ちょっと、ユーリちゃん、離して、、」
「え、や、やだ!!」
「っ、、」
「ジフリールさん、、離れたくないの、、」
ギュッと服を掴んで、顔を背中に押し付けると、私の好きな人の匂いで埋め尽くされる。
「なぁ、俺にもユーリちゃんの事抱きしめさせてくれない?」
「それは、、、恥ずかしい」
「お願い」
そう言われると、服を掴んでいたチカラが緩む。その隙を狙って、ジフリールさんはぐるりと振り返って、私をその身体の内側に閉じ込めた。椅子に座る彼の上に、跨るように抱き込まれてしまえば、もう逃げ出す事もできない。
「捕まえた。、、ん?ユーリちゃん顔真っ赤じゃん。かわいーなァ。恥ずかしかった???」
頬をすりすりと指で触られると、もっと頬が熱くなる。こんな大胆な行動をして、恥ずかしく無い訳がない。ママが照れてる以上に、私はドキドキして苦しかったのを暴かれたくなかったのに、、。
「ただいま、ユーリちゃん。」
「んぅ、、」
甘い声で囁かれると、キュンとして苦しくなる。逞しい胸板に顔を押しつけ、恥ずかしさを逃がそうとすると、俺キュン死するんじゃね、なんて声が聞こえてきた。もっと恥ずかしくなってきて、ジフリールさんが見えないぐらいにギュッと抱き着く。
ジフリールさんのいい匂い、、あれ、何だか違う匂いがする??甘くて、大人っぽいそんな香り。私の匂いじゃない、、女の人の香り。
「ねぇ、昨日の電話、、女の子の声がしたけど、仕事の用事だったの?」
あ、と思った時には既に遅かった。もう、今日は何だか変だ。こんなに溺愛されてるのに、浮気される訳ないのはわかっているけれど、気になる。
「そうだよ?」
「じゃ、じゃあ、、何で服から女の人の匂いがするの」
「え」
「服がジフリールさんの匂いじゃないの。、、本当に仕事だったの?」
「っ、、はは、、ユーリちゃん、これ以上俺をときめかせないで。」
よしよしと優しい顔で頭を撫でられると、どうでも良くなるような、、。私だって、ラファエルさんに好き勝手された訳だし、、ってダメダメ!!
「そんな事言ったって誤魔化されないんだから!」
「ふふ、分かってるって。でも、ユーリちゃんも俺以外の男の匂い、ラファエルの匂いがする。」
「っ、それは、、不可抗力だもん、、」
「なるほどねぇ。、、俺は仕事で、捕まえなきゃいけない対象が女だったんだ。ちょっと色仕掛けして捕まえたってわけ。」
「い、色仕掛け、、?」
こんなイケメンに色仕掛けされて落ちない女が居ないわけないじゃん、、。私だって、ジフリールさんに色仕掛けされたい。ずるい。
「俺が、命をかけて守りたいのはユーリちゃんだけだよ。」
「っ、、うぅ、、」
「つか、こんなに可愛い彼女が居るのに、よそ見なんかするわけねぇだろ?」
「うぅーー」
「なぁ、ユーリちゃん。好きだよ」
離れていた分、いつもより甘ったるい。私もジフリールさんも養分を補給するように、お互いを甘やかして蜜を欲しがる。
癖になる。抜け出す事が出来ないほど、彼にハマっていく。
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