45 / 89
私と恋人。
民であるという事。-ママ視点-
しおりを挟む「よぉ、ジフリール。気になる事があって、伝えに来たんだが、、今いいか??」
見慣れた灰色頭の男。相棒であるクシエルは、一週間後に来る宣言をしていたけれど、4人で飲んだ次の日に、エデンに現れたわ。
もう閉店間際で、客も居ないし、ユーリちゃんにも先に休んで貰ってるから、まぁ話を聞くぐらいだったらいいかしら。
「タダ飲みしたお金でも払いに来たのかしら?」
グラスを拭きながら、冗談交じりに相棒に言う。
すると、クシエルは珍しく財布を取り出して、カウンターにお金を置いた。あのクシエルがお金を払った、、??
予想外の出来事に、手が止まる。
「俺様だって、払えるだけの金は持ってるっての。、、、そのボトル一本キープで。」
私の後ろを指差して、ワインの指定をする。棚から選ばれたワインを取り出して、クシエルに差し出すと、ボトルにKusielと刻まれた。相変わらずの、無駄のない魔法。
コルクを開け、グラスを渡すと、慣れた手つきでワインを注ぐ。透明なグラスに満たされた、赤ワインは、ライトの光を受けて怪しく揺れる。つまみに、ミノタウロスの燻製チーズを出すと、Thank you と何もない頭上に描かれる。
クシエルの魔法は、天使の中でも2、3を争う。1番の魔法使いは、ラファエルなのよね。その次は、クシエルか、ハニエルかしら、、??
そんな事を考えながら、自分用にウイスキーをグラスに注ぐと、相棒が口を開く。
「女の事、本気なのかよ?」
カチンとくる。何よ、その言葉。
「私が、初めて手に入れたいと思ったのよ?本気に決まってるじゃない。」
ふんっと鼻で笑ってやると、返すかの様に、クシエルに鼻で笑われた。
「ふーん、せいぜい飽きられない様に頑張るんだな。」
ワインを片手に、相棒は失礼な事を言う。ニヤニヤと笑う顔を握り潰してやりたいと、少しだけ思った。
「、、、そうね。頑張るわ。で、伝えに来たことって何よ。」
「得体のしれない女の事で、悩んでる事があるんじゃねーのかなってよ。俺様優しくね?」
グラスを磨いていた手が止まる。幸いにも、今日はユーリちゃんは寝ている。一人で悩んでいても解決しない問題だとは、わかっているけれど、、相棒に相談するなんて、、、。コイツに相談するとロクなことが無いのは、わかっているけれど、、私の脳筋じゃ、知識が足りない。
「筋肉だけじゃ、解決出来ない問題もあるってこった。」
「ちゃんと勉強しとけば良かったって後悔したわ。」
「ジフリールは、武術系は成績良くても、それ以外は壊滅的だもんな。懐かしいぜ。」
クシエルの言う通り、自分でも思っているけれど、私は世間一般で言う筋肉バカだった。職についてから、必要な知識が多くて少しは勉強したけれど、、学生時代にもっと勉強しとけばよかったって、後悔しているのよねぇ。
天使にだって、人間と同じように学ぶ期間はあるのよ。私達、大天使は特に上に立つ者として、そりゃ勉強なんて山積み。生まれた時から決められた使命だから、それなりには頑張ったと思っているのだけど、、ママが馬鹿だなんて、ユーリちゃんに知られたくないわ。
「悩みってのは、、女が本当に民かどうかって所か??」
「え!?どうしてそんな事言うのよ。」
流石にそんな事疑った事がないから、びっくりする。ユーリちゃんが民じゃ無いなんて、考えられない。他の種族にはある特徴もないのだから、民以外考えられないわ。
「ジフリール、民ってのは、死んだ人間が天国に辿り着いて、適切な処理を受けた者の事を言うんだぞ。」
「そ、それぐらい知ってるわよ。ハニエル、ラファエル、ラグエルの部署で手続きしてるじゃないの。」
「ほーん、じゃあ、どんな処理をしてるか知ってるのか??」
民。天国で生活している人間達を、私達はそう呼ぶ。
彼等はまず、ハニエルの部署で、民になる為の選別を受ける。中には、民になるには相応しくない人間が流れ着く事もあり、その時は地獄に送る事もある。
その後、ラファエルの部署で、生前の記憶を消す。新たなる人生への計らいで、そういう処理を受けなければならない。
最後に、ラグエルの部署で、民になる手続きが行われる。生前の人間が、胎内から生まれる様に、天国でも胎内から生まれ育つ為、親待ちの民が発生する。
「そんな訳で、親が居る以上帰る場所が必ずあるってこった。」
「だから、ユーリちゃんは記憶喪失だって言ったじゃない。」
「それ、本当なのか??嘘だとは思わなかったのか??」
「あの子が、そんな嘘をつく訳ないわよ、、」
沈黙の時間が流れる。
ユーリちゃんが、記憶喪失なのが嘘、、??
それが本当であれば、何らかの理由で私に近付いたって事?だったら、何であんな怪物だらけの森で倒れてたのよ。そんなの死んじゃうに決まってるじゃない。あの子には、自殺願望も見えないし、帰る場所が分からないっていうのも嘘には見えなかった。
何をしていたのか、此処が何処なのかわからない。あの時の彼女の言葉に、嘘はないと思う。
もし、ユーリちゃんが皆の敵だとしても、俺はあの子の味方でありたい。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました
utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。
がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる