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私と恋人。

新しいシェフ。-ママ視点-

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「美味しい。ママ、この料理誰が作ってるんですか??」


「ウチで雇ってる新しいシェフよ、、」


身のこなしの良いドワーフの客は、美味しそうにパスタを口に運んでいる。えぇ、さぞかし美味しいことでしょうよ。不味いなんて言ってみなさいよ、、、出禁にするわよ。



出来れば、その料理は私だけが食べたかった。他の誰かの胃袋も満たしちゃうなんて、それだけの事なのに、モヤモヤして嫉妬してしまう。客には、そんな感情を抱いているなんてバレる訳にもいかないから、作り笑顔をする。今までとは違う、別の感情で、酒が良く進む。この感情の原因は、愛おしい彼女で、それをセーブ出来るのも彼女しかいない。

客の位置からは見えないキッチンで、ユーリちゃんが楽しそうに料理を作っているのが、視界に入る。クイーンから貰った、私が選んだエプロンを着て、鼻歌なんて歌ってる。今すぐにでも抱き締めてベッドに連れ込みたいところだけど、生憎こちらは仕事中。急に休みにするとか、BARを畳むとか、そういう訳にもいかないのが辛い現実よね、、、。

クイーンの店にあった雑誌に、妻に来て欲しいエプロンランキングなんて特集が書いてあって、思い付いたの。どうせユーリちゃんと料理する事があるなら、私の欲を押し付けてしまおうって。恋人になって独占欲したいのに、告白する勇気なんて、その時にはなかったから、、、。だけど結果オーライ。あのエプロン、選んで正解だったわ。


客の注文したつまみが出来たのか、ユーリちゃんはこちらを見ている。


「追加のおつまみ出来たみたいだから、取ってくるわね~」


「楽しみですね!!」


客に微笑んで、キッチンへと向かう。長い距離ではないのだけど、早くユーリちゃんに触れたかった。彼女が口を開く前に、私の腕の中に閉じこめる。頬が赤くなるユーリちゃんは可愛らしい。

自分から女を抱き締めるだなんて、3日前の私には考えられない行為だった。出会って3日だけど、ユーリちゃんを見てると彼女が欲しくて堪らない。番なんじゃないかって思えてしまうぐらい、愛おしい恋人。


「マ、ママ、、お客さん待ってるって。」


仕事中だって事もつい忘れてしまう。今日で、もう5回目。全然仕事に身が入らないわね。


「ユーリちゃん、、、ありがとう。」


出来ればこのまま触れていたい。こんなに好きなんだと、その小さな身体に教えたい。今日も抱いても良いだろうか。早く仕事終わらないかな。

、、、重症だわ。

このままではダメだと思い、意を決して客のところに戻る。



「ご注文の、エスカルゴのアヒージョよ」


「ママの料理も美味しいけれど、新しいシェフは盛り付けのセンスもいいのですね」


コルクの鍋敷に、黒いグラタン皿。白いお皿に綺麗に並べられたバケット。アヒージョの真ん中に、控えめで可愛らしい食用の花が添えられているのが、ユーリちゃんらしいわね。


「褒め言葉ありがとう。シェフにも伝えておくわ」


初めて出来た恋人は、働き者だった。お金なんて困ってないから、働かなくて良いって言ったのだけど、、、私の方が先に折れた。上目遣いで、ママの役に立ちたいの、、なんて言われてしまったら、もう、、。
思い出して、それをつまみに酒を飲む。


----------------------------


そんな事を繰り返していたら、閉店の時間になっていた。グラスを磨いて、店を拭いて、、のんびり片付けをしていたのだって、気合を出せばすぐに終わってしまうんだって、初めて気づいた。めんどくさくて、ついダラけちゃうのがいつもだったんだけど、早く彼女が欲しくて、だけどズボラだって思われたくないから丁寧に店を掃除する。


「ママ、今日はお疲れ様」


居住スペースに戻ると、愛おしい彼女は笑顔で迎えてくれた。
彼女が座っているソファーの隣に座ると、疲れがどっと襲ってくる。酒も飲みすぎたのか、少し眠い。


「ふふ、ありがとう」


何度お礼を言っても足りないぐらい、今は幸せで、この幸せがいつまでも欲しくなる。きっとユーリちゃんを、私だけの者、、、つまりは妻にするまでこの葛藤は続くのだろう。
他の誰かになんて、渡さない。恋人になる前から思っていたけれど、私は執着心が強くて独占欲も強い。他の天使と変わりない男だった。


「お客さん、料理美味しいって言ってた?」


「もちろん。」


「よかったぁ」


へにゃっと笑顔になるユーリちゃんは可愛い。目に入れても痛くないってこういう事だと思うわ。こんな可愛い姿を見ると、客がユーリちゃんの料理を美味しそうに食べる姿を見て、嫉妬してただなんて言えない。


「私も、ユーリちゃんの料理食べたいな」


嫉妬するのはやめられないけれど、いつまでもそう言ってる訳にもいかない。毎日嫉妬しておかしくなってしまうぐらいだったら、それを上書きするぐらいの愛が欲しい。


「ママも??」


「うん。俺だけの為に作って欲しい」


本音が溢れた。うーん、だいぶ酔ってるかもしれない。ユーリちゃんをつまみに飲む酒は旨すぎて、いつもよりペースが早かったのは、事実。セックスしたい気持ちもあったけれど、優しく出来る余裕なんて無いかもしれないし、今日は保留にする。

大丈夫。明日も明後日も、この先もあるのだから、焦らなくていい。自分を落ち着かせるように、瞳を閉じると、もう目が開けられない。


「そ、そんなの、、あ、あれ??ママ??寝ちゃった??」


「身体痛くなっちゃうよ、、??あ、横に寝かせればいいのか。」


「ブランケットをかけて、、きゃっ!?マ、ママ!?」


あったかい温もりを手放したくなくて、腕の中に閉じ込める。


「っ、、おやすみ、、ジフリールさん」


愛おしい恋人が、俺の名前を呼ぶ。幸せな夢が見れることは間違いない。
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