甘味、時々錆びた愛を

しろみ

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或ル染血*

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※内臓描写があります。
グロ要素含みますので注意です。










































ぐちゃ、ぐちゃ。
肉を踏み潰す音がこの仄暗い部屋に響く。
くつくつと嗤う声は耳に聴こえるか聴こえないか、肉の音と混じり合い、不快な音となる。耳を侵されているようで気持ちが悪い。

「……、Mr.礼央……おとなしくしてましたか?」
「こんな所で騒ぐほど俺はばかじゃないよ」
「あぁ……貴方の中身がグチャグチャだ……見なさい、血塗れのはらわた……」
「気持ち悪いね」

男は地面に横たわる腸を踏みにじり、翠色の光を怪しく湛える瞳を細め、眉間に皺を寄せて不快そうな表情を見せた。

「不快ですか」
「そりゃあね、俺の内臓グチャグチャにしないでよ」

彼は赤黒く、僅かな光を反射する濡れた臓器に触れた。にちゃ、不快な水音と血の匂いは不快感をより刺激する。気持ち悪い。この空間も、この男も。
男は赤毛を真ん中から分け、緩く癖のついた髪を血塗れの手で掻き分ける。白く透けるような肌に赤黒い濁血が不自然に張り付いた。

「……アルト君はさ、何でそんなに綺麗なのにこんなことしてるの」
「綺麗、?」
「……君を構成するものは美しいのにって、君には血も内臓も似合わないよ」
「何度も言わせないでください、好きだからですよ」
「人間をグチャグチャにするのが?」
「……、そうですね」

男はひやりと冷たい声色と口調で外国人だとは思えない程日本語を流暢に使いこなし、表情の読めない彼の感情を顕著に表していた。血も内臓も似合わない、この男は触れたら凍りそうな程冷たく、生気を感じられないのだ。燃えるように赤い髪の毛先は血でべたつき、癖でうねるそれはたまに目を隠し、彼の無機質な表情に色気を出した。研究者というか機械に近い男だ。

「趣味悪いなァ」
「……貴方に言われたくないですね」
「イリヤは世界で一番可愛いよ」

グズグズと疼く腸は徐々に自ら傷を修復し、不足を補うように細胞が変化を遂げる。自身の身体は腸を大きく損傷してもすぐに治ってしまうのだ。細胞の反応が異常なまでに速く、傷口はすぐ治ってしまう。血液を送る心臓と脊椎さえ無事なら、四肢をもがれようがたちどころに治ってしまう。
気味の悪い身体を持ってしまった。
そもそもこんな身体になってしまったのは、この研究所で惨い扱いを受けていた検体を全員解放したことにより、僕自身が検体として独房で凄まじい実験という名の拷問を受け続けた結果である。
その拷問の殆どが目の前にいる、表情のない赤毛翠眼の男から受けている。

「気持ち悪い男だ」
「君に言われたくないよ」
「その口に腸突っ込みますよ」
「君のなら別にいいけど」
「残念ながら貴方みたいな身体じゃないので」

男は表情を変えず、淡々と僕に向かって毒付く。更に彼は白衣を脱いで、ベルトをカチャカチャと弄り素早く抜いた。
あぁ、拷問が始まる。
男は僕のボロボロになったズボンに手を伸ばし、中から性器を取り出して口に咥えた。表情のない男は相変わらず無表情のまま、咥えたそれを丹念に舐め、頭を上下させて吸い上げ、僕を快楽へと誘う。

「ッ、やめ、っ」
「もう出そうですね」
「ッ嫌だ……嫌だやめろ……」
「誰だって良いのでしょう?あんなアバズレ崩れなんかじゃなくても」
「イリヤは、ッ、アバズレじゃ……ね、から……」
「あんな沢山の男に犯されよがる彼のことをまだ愛してるのですか?気持ち悪い」
「当然だろッ……!ッ、お前も、気持ちわりぃ……んだよ、ッ……!」
「はぁ……?折角人が抜いてやってるのに感謝の言葉も無しですか?」
「ッお前の、口の中に出すくらいなら死にたいくらい……だっつの……」
「……」

彼の口内の舌の動きが一瞬止まった。
その瞬間、ぎちゃ、と音が聴こえた。目を見開き恐る恐る下半身に目を遣ると、男は口の周りを血塗れにして、笑っていたのだ。

「ッ……!?」
「痛いですか?」
「あ……アァ……ッ、」
「ふふ、フフフ……」
「ッ……うあ……」
「どうなんですか、痛いですか?」

男の口には、先程まで彼が咥えていたそれが血塗れになって横たわっていたのだ。それを舌や指を使ってクチャクチャと弄ぶ彼の狂気じみた行為と、彼の顔とシャツを濡らす自らの血に恐怖が底から湧き上がる。汗が止まらない。カタカタと歯が震える。いくら内臓をかき混ぜられても感じなかった恐怖が今溢れ出して止まらないのだ。

「……ッ、ああ……あ……」
「美味しくないですね」
「ッ、おまえ……頭おかしいのか……」
「別に普通ですが……で、どうなんですか?痛いとかありますか?」
「ッ……お前のその行為が、よっぽど痛ましいよ……」

男は口の中のそれを取り出し眼前に突き出す。口角を歪に吊り上げ、くくと漏らす喉からの嘲りは背骨を虫が這うように自身を震え上がらせる。自らのそれは既に回復を続けているが彼の持つそれは芯をなくし、くったりと彼の手に横たわっていた。
ここまで、痛覚がないとは。
自らの変化してしまった体質に恐怖がぶわっと湧き上がる。
しかしながら、この恐怖に耐えなくてはならない。自分だけじゃない、検体となってしまったたくさんの罪無き人々は、同じような体質に変化してしまっていたのだ。
痛みを感じないこと、それがどれだけ恐ろしいことか。
必死に外の世界へと逃げようとする彼等が訳も分からず、自由に身体を動かすことが突然できなくなる(拳銃の弾を受ければ当然四肢の自由は奪われるが当人達はまったく気づかない)ことの恐ろしさを身を持って体験した。
当然、彼女(イリヤ)……いや彼もそうなってしまっている。ただ快楽に狂わされ、知らない男の俗物を受け入れ、局部から血液が流れ続けても痛みに苦しむ表情が一切なく、蕩けた表情で犯され続ける姿を気が狂うまで見せつけられた。しかし、彼は耐え続けた。
行為が終わると何度も僕に謝るのだ。ごめんなさい、ごめんなさいと。
本来謝らなければならないのは僕の方だと言うのに。声も出なくなるほど叫んだ僕は、彼に謝る時にはほとんど声が出なくなってしまった。ただ、彼を優しく撫でることしかできなかった。情けない男だ。
今や自分は研究所の上層部の研究員を名乗る男のモルモットとして、薬を投与され続け、身体を気まぐれに裂かれている。痛みは全く感じないし内臓はすぐ修復する。特に命の危機になることはないが(向こうの都合としても玩具がいなくなるのは困るだろうし)、たまに奴が行ってくる性行為は腹を裂かれる以上に耐え難い拷問である。
彼は耐え続けたのだから、自分が耐えずして彼の恋人を名乗ることはできない。

「痛くないなら何しても構わないでしょう?」
「んなわけねえだろ、痛いところは痛むからね」
「よくわかりませんね」
「君には一生分からないよ、アルトくん?」
「フン……口だけは達者ですね……縫い付けてあげましょうか」
「どうぞご勝手に、痛くも痒くもないんでね」

僕は耐え続ける。
必ず、彼と一緒にこの狂った研究所から抜け出すために。その為なら何をされても構わない。彼が、今も待ち続けているから。









-END-
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