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始まりの章

【10】意外な発見

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莉愛が試したいことがあるという。

「試したいってどんなこと?」

「夢ちゃんが小瓶に能力を使ったらどんな効果が出るか気にならない?」

「確かに。めっちゃ気になる。」

さっそく。やってみた。
バチっと音を立てて色が変わる。淡い紫っぽい色だ。

「言い出した私が試してみるよ。」

そういうと莉愛が一口飲んじゃった。
けっこう思い切りいいな。

何も起こらない。

「電気使えたりする?」

「うーん。だめそう。でもなんか変な感じ。」

なんだろ。

莉愛がふっと横に動いたと思った瞬間。一瞬で5mくらい先に移動した。

「ふぁ!?」

変な声が出た。

「夢ちゃんこれ。すごいかも。」

そう言うと体を傾けるたびに高速で移動しだした。
私の周りをひゅんひゅん動き回っている。

「やばい。そしてかっこいい。」

私は今感動している。
さっそく私も飲んでみた。

そして莉愛と高速鬼ごっこして戯れてしまった。
なにこれめっちゃ楽しい。

そしてさらに発見。空中にも高速移動できる。
自由落下は危ないけど、もう一回移動するイメージすると任意の地面に着地もできる。

そして慣れてくると普通に動くのと高速移動が使い分けられるようにもなった。

「私たちまた凄い発見しちゃったかもね。」

莉愛も楽しそうだ。

「これあれだな。電気っていうより光さんのかっこよさを重視する能力の方向性が効果になってる気がする。」

「なるほど。そんな感じするね。」

莉愛も納得の見解。

「この高速移動と稲妻の剣を駆使して戦うとかめっちゃかっこいい。私勇者かも。」

テンション上がりすぎて高速移動しながら地面をガンガン切り裂いて遊んでしまった。
それを微笑ましく見守ってくれる莉愛。

だけどふと我に返った。

「でもさ莉愛。別にこれで戦う相手とかいないね。」

「そ、そうだね。」

「眠くなる前に帰ろっか。」

「うん。」

輝が作ってくれた帰還薬があるんだ。
飲むと輝の能力で拠点に瞬間移動できる優れ物。
色は淡い緑。

帰った瞬間強烈な眠気が襲ってきた。

「莉愛ごめん。調子に乗りすぎた。私寝る。」

「うん。輝くんたちには私から話しておくね。おやすみ夢ちゃん。」

そしてまた爆睡してしまった。



俺と茜で爆発の現場を確認しているところだ。
事故の現場というのは検証のために人がいるものなのかと思ってた。
でも申し訳程度に規制線が貼られているくらいで誰もいなかった。

4人も死亡してるのに4日経ったらこんな感じなのか。

佐々木さんの話ではガス漏れが原因の爆発事故という事になっているらしい。
建物は全焼していて見る影もない。

「茜。何か気になることあるか?」

「あの日、玄関側の床下が爆発したはず。
でも異常に火の回りが早くて反対側の窓の外も激しい炎に囲まれていた。」

「佐々木さんの話では、4人組の男が爆発をきっかけに外壁まで引火するような工作をしていたって。」

「だとしたら何かしら工作の痕跡が残ってたりしないかなと思ったんだけど。」

「俺ら素人じゃそれを見つけるのは難しいよ。」

「でもさ。消防だとか警察だとか、その道に従事している人間なら違和感を抱いてもおかしくないし、それが出来るはずだと思うんだ。」

「確かにそうだね。でもただの事故として処理されてる。」

「それに気になったのが、まだそんな日が経ってないのにここまで瓦礫化するものなのかな。」

「それもそうだな。建物の形状の名残が全くなくて完全に崩れてるね。」

「印象だけで言うと爆発その物だけじゃなくて、事後にも何か意図的な力が働いてる気がする。」

「そうなんだよな。教授の死亡に関してもタイミングが重なりすぎてるし。事故とされてるけど確実に殺してるって印象がある。」

「総合的に考えて世の中の仕組み自体支配してるような規模感の相手だと想定しておくのも大げさじゃないと思ってる。」

「想定という意味では本当にそうだな。」

規制線の外に花束が供えられているのが目に入った。

「茜。もし仮にさっき言ったような規模感の連中が相手だったとして。俺たちは立ち向かうべきなのかな。」

茜は黙っている。

「やっぱりこのまま4人で暮らしていく道が安全なんじゃないかと思っちゃうんだよ。」

少し間を置いた後、茜が話し出した。

「輝はさ。僕たち3人。特に莉愛ちゃんと夢のことを守りたいって気持ちが強いんだよな。
僕も男だからさ。女の子たちを守りたいって気持ちはすごくわかるし。悪いことではないと思ってる。」

茜はさらに続ける。

「でも自分が守らなきゃいけないって思うのは良くないかも。一方的に守りたいってのはエゴな気がするんだ。
みんな大切な存在を守りたいって気持ちは一緒だし、実は女の子の方が強かったりもするから。
だから僕たちにできるのは一緒にどうしたいか考えて寄り添っていくことなんじゃないかな。」

茜が話してくれたことがすーっと腑に落ちた気がした。

「本当にそうかもしれない。ありがとう茜。」

俺の中で心の霧が晴れたと思えた。そして何か力が湧くような感覚がしたんだ。
その直後、頭の中にいくつかの映像が浮かび上がってきた。

黒のワンボックス。覆面をした4人組。
建物の周囲や1階の室内に可燃性の物を配置後、ガソリンまで撒いている。
最後に爆発物を仕掛け、ワンボックスに乗り込み少し距離を取った。

遠隔操作で起爆。爆発を見届け、逃げる者がいないかまで確認している。
車内には銃もあり、逃げる者がいたらその場で殺害するつもりのようだ。

主犯格と思われる人物が覆面を外した。赤い髪で右目に傷があり義眼の男だ。

少し眩暈がしてふらついた。

「輝。大丈夫?」

「大丈夫。俺、過去視が使えるようになったかも。」

「まじで。」

茜に今の映像の事を話した。

「赤い髪で義眼の男か。重要な情報でもあるけど足取りを追える手掛かりは今のところなしって感じだね。」

「そうなるな。」

「いったん帰って佐々木さんに現状を相談してみよう。」

拠点に帰って寝室で佐々木さんに声をかけてみた。
ちょっと間があったけど来てくれた。

「こんにちは。輝君と茜君。」

佐々木さんに挨拶してさっそく要件を話すことにした。

「俺、過去視が使えるようになったんです。それであの爆発を起こした犯人が赤い髪で義眼の男だと知ることが出来ました。」

「なるほど、もうそんな活動を始めることができたんだね。みんなの努力の賜物かな。
実は生活基盤を整えるのを優先していたから輝君の力に余裕が出るまではこちらから様子を伺うのを控えていたんだ。」

「お気遣いありがとうございます。みんな協力してくれて情報収集も開始できました。」

「それならこれからは私も積極的に力を貸せるようになる。輝君の希望通りに動くこともできるよ。」

「例えば赤い髪で義眼の男を見つけて欲しいと思ったら可能でしょうか。」

「なるほど。そこまでの事となると条件があるかな。」

「条件ですか?」

「まず茜君の宿題を終わらせて輝君の消耗を最小限に抑える事。そして扱えるようになった力を全て私に預ける事。その2つだね。
その間、輝君は能力が使えなくなる。そして調査には時間がかかるかもしれない。それでもよければ請け負うことが出来るよ。」

「分かりました。少し考えさせてください。」

「そうだね。茜君の宿題の進捗次第でまた考えればいいんじゃないかな。」

「はい。それに俺の意志というよりはみんなに情報を共有してみんなで決めたいんです。」

「うんうん。それじゃ今日はそろそろ休息をとったほうがいい。過去視はかなり負担がかかるはずだから。」

「はい。そうさせてもらいます。」

「今後は輝君の様子を伺うようにもしておくよ。それじゃまたね。」

そう言うと佐々木さんは帰って行った。

「茜。やばい。急に睡魔きた。」

「情報共有はやっておくから、ゆっくり寝ていいよ。おやすみ。」

俺はベッドに吸い込まれ、そのまま深い眠りについた。
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