涙が幸せの泉にかわるまで

人生の機微

けじめと決意14

「お義母さんが元気になったので安心して帰れます　秀行さんは、もうお義母さんのことわかってますよ　だって本当の母親が誰か神様から聞かされたはずだもの」


「そうかしら　そうだと嬉しいわね」


別れ際秀和が部長（義母）に両手を伸ばし抱っこをせがんでいた。


「バァバ、バァバ」


「すみません家で母をバァバって呼んでるので」


「かまわないわよバァバで」


「本当にいいんですか　院長夫人はバァバじゃなくて私はグランマよって」


「貴子（院長婦人）さんらしいわね　でも私はバァバでいいのよ　さぁ秀和はバァバが抱っこしましょう　佐知さんバス停まで送らせてね」


「大丈夫ですか　無理なさらないでください　その体で秀和を抱いていくのは無理ですよ」


「重くてしんどくなったらバトンタッチするわ　だから心配しないでさぁ行きましょう　佐知さん、何か困ったことがあったら遠慮しないで連絡してちょうだいね　あなたの力になりたいの　とはいっても子育ての経験のない私じゃ心もとないでしょうけどね」


「そんなことありません　お義母さんは同じ女性の先輩　学べることはすべて伝授願いたいと思っています　酸いも甘いも噛み分け、一人で人生を生き抜いてきたお義母さんをわたしは尊敬します」


「尊敬なんておかしいわ　私は人の道を外れて家庭を持つ人の子供を産んだ女なの」


「愛の形は人それぞれ違います　世間に受け入れられない愛だからこそお義母さんは人の何倍も悩み苦しみ心を痛めてきたのでしょ　許されない院長との愛は打算を超越した純粋な愛だったのではないですか　院長の望むまま子供まで手放し罪のすべてを一人で一生背負っていこうと決め生きてきたお義母さんの罪はとうに許されていると思います　お義母さんが生きている世界は過去じゃないんですお義母さんも私もみんな今を生きています　だから私は過去のお義母さんを知りたいとは思いません　私が知る病院で働くカッコイイお義母さん、私服になった時のハッとするほど目を引く美しいお義母さん、そしておばあちゃんの優しい瞳を見せるお義母さんは私が知る今を生きるお義母さんの姿、お義母さんは私と秀和そして秀行さんの大切な家族、大切な人」


「いつも別れ際にこうしてあなたは私を泣かせる・・わたしはあなたにいつも泣かされるのよね」


「おやっ、鬼の目にも涙ですか　お義母さん」


「まぁなんてひどい事を、秀和はママのような大人になってはいけませんよ」


「大丈夫ですよお義母さん　秀和は秀行さんの血をたっぷり引き継いでいますから心配いりません」


「それなら心配ないわね　よかったわ秀和はお母さんに似ないで」


「お義母さん結構きついなぁ　病院で上司だった部長に戻ってる」


別れに部長の涙は見たくなかった。高笑いする部長につられて秀和も声をあげてご機嫌な笑顔を見せていた。まさしく血は繋がっていると佐知も思わず笑ってしまった。三人のにぎやかな声が天に届いたかはわからないが佐知は秀行がそばにいるような気がした。部長も何かを感じていたのだろう　　　　

「秀行が喜んでいる　そんな気がするわ」

そう言って穏やかに微笑んだ部長の横顔は息をのむほど美しく夕陽に包まれ女神のごとく輝いていた。