292 / 315
人生の機微
けじめと決意13
しおりを挟む
「私もおなじでした 彼を失った後悔と未練は半端ありませんでした でもわたし本当に彼を愛していたのかわからないんです」
「愛はなかったと」
「愛はあったと思いたいけど私と彼は愛の女神に導かれたのではなく別の大きな力によって私たちには出会わなければならない特別な理由があったから出会った 振り返るとそんな気がしてならないのです」
「とても興味をそそる話だわ 何かしら複雑な事情がありそうね」
「そう考えるとすべて納得できるんです だって彼は私が最も嫌うタイプの男で絶対に好感など持ちようのない付き合うなんて論外の男性だったから」
「タイプでない男に出会って恋に落ちた 佐知さんはそこが腑に落ちないみたいね」
「だって彼は女の敵みたいな人でそんな初対面の彼に好意を抱くなんて考えられないし絶対ありえない事なんだもの」
「佐知さんが最も嫌うタイプは、というより彼はどんな人だったのかしら」
「彼は女にだらしなくて女を欲望のはけ口くらいにしか思っていない人で目的もなく怠惰な生活を送っていた最低で最悪な男で」
「そこまでにしましょう 彼への中傷はもうそのくらいにして、確かにそんな男だったら好きにはなれないわね」
「ずっと後になってから彼と私は驚くような関係で互いが繋がっていることを知りました」
「驚きの関係?」
「とても長い話になりますから搔い摘んでお話ししますね 彼の父親と私の生みの母は恋人同士でした 二人の愛は実りませんでしたが母は彼の父親の子供を身ごもり男の子を出産しましたその子は間もなく亡くなったのですが彼と私にとっては兄、母はその後父と結婚し私を産みほどなくして事故に巻き込まれ父と共に亡くなりました 幼い私は施設に預けられ今の両親に引き取られました 社会人になって懐かしいその施設を訪ねたとき実母から預かったという遺品を渡されこの事実が分かりました」
「あなたは幼い時から苦労したのね 佐知さんあなたの強さはそこにあったのね」
「私は今の両親に出会って温かい家族家庭を知りました 受けた両親からの愛を自分の子供に伝承出来る私は幸せです 今は産んでくれた実母にも感謝しています だから秀行さんも真実を知っていたらお義母さんに感謝の気持ちを伝えたかったと思います」
「人にはそれぞれ苦い人生があるわ でも明るく笑顔の尽きない佐知さんにこんな過去があったなんてね」
「忘れられなかった彼とその後再会できたのですがこの出会いも得たいのしれない力によって仕組まれたような再会でした いろんな事あっていま私たちは友達で彼はかけがえのない大切な人です」
「再会した彼は最低男を脱却していい男になっていたのね」
「はい資格を取り父親の仕事を立派に継いだ彼は改心して別人になっていて私とっても嬉しかった」
「結ばれなかったけど佐知さんとの出会いが彼の生き方まで変えたのかも知れないわね 佐知さんは彼と出会っていなければなんて考えた事がある?」
「私たちはどこかで必ず出会っていたそう思います いま私の目に映る彼はもう昔の彼じゃない 初めて出会った時と同じように再会にも意味があってその意味を知ることはむずかしいけどいつかわかる日が来ると思っています」
「再会こそが佐知さんと彼の始まりだとしたら?」
「はじまりそうなのかもしれませんね 再会したとき彼に抱いた感情は未練とかじゃなく始まりの感情だったかも お義母さんわたし去年の暮れに突然彼から二人の関係をもう一度しっかり考えて答えが欲しいと言われて・・わたし正直戸惑っているんです」
「再会が二人の始まりだとしたらあなたたちはもうその始まりを歩んでいることになるわね あなたは彼とのその歩みをずっとこれからも続けたいそう願っている友達として・・彼はそんな佐知さんの本当の気持ちを知っておきたい、というより彼はあなたの気持ちをわかっていていながらずっと自分にストップをかけていたんじゃないかしら いまそのストッパーが外れたから佐知さんの答えいかんで彼は自分の気持ちを軌道修正しようとしている 私には彼からの宿題はそんな風に読み取れるけれど」
「私はこのままの関係でいいと言ったのに彼は首を縦に振らず今後の関係を考えてほしいと譲らなかった これまでずっと私の気持ちには応えられないと彼は頑なに拒絶していたのに・・やっといい関係に落ち着いたいまになって・・今更どうしてそんなこと言って私を困らせるのか・・分からなかった」
「健気に頑張るあなたを一番身近で見てきた彼にとってあなたは彼の分身のようになっていたのかもしれないわ 彼はあなたの悲しみも喜びも全て自分の事のように感じていたのよきっと」
「彼は私とも深交のあった奥さんと子供を亡くしています 病院を辞めた身重の私を助けてくれたのはその彼です 彼の家でお手伝いさんと彼と三人で暮らした日々は他人の集まりだけど家族そのものでした 「こんな家庭を手にして亡くなったわが子にしてやれなかったことのすべてを秀和にしてやりたい」 彼の口からでたその言葉は叶わなかった私の願望・・なのに何故か分からないけれど手放しで喜べなかった」
「彼の目に自分が追い求めていた幸せが見えたということなら彼が抱えていた闇が晴れたということじゃないかしら 私はそう思うんだけど」
「彼の中にある闇が薄れたなら嬉しいです 彼は両親、愛する奥さんと子供大切なものを全部奪われました 唯一彼のよりどころは親の代から会社に務めていた泉さんでした 彼は身寄りのない泉さんを事務職からお手伝いさんとして家に呼び入れ最後まで看取るつもりでいるようです 彼にとって泉さんは母親のような人で私にとっても心強い味方お母さんみたいな人です 私が実家に戻ることを決めたとき二人は自分の家だと思っていつでも帰ってこいと言ってくれました いつでも待っていると言ってくれました 涙がこぼれ落ちそうになるくらい嬉しくて二人から受けた愛が深く胸に響きました 三人ですごした場所から去る日が来て私は家族と引き離されるような気持ちになったあの日を思い出すたび懐かしさと受けた愛情優しさに涙しています」
「沢山のよき出会いや人と巡り合い手を差し伸べてくれる人がいた佐知さんは幸せ者ね また来てねと待っていてくれる人がいるなんてうらやましい限りよ 実家に戻ったばかりの佐知さんにこんなこと言うのはおかしいけど身の置き所は此処じゃないと思ったら心赴くまま帰るべきところに落ち着くことね 迷っていてはだめ もし彼こそが佐知さんの戻るべき場所ならなおのことそうすべき」
「秀行さんは亡くなる前に彼に私と秀和を託していました 彼は事故で重傷を負い秀行さんに命を救ってもらいました それが縁で二人は男同士のつながりを持ったようです 私と秀行さんは付き合う前に互いのつらい恋愛話を語り合ったことがあって私の相手が彼だということも知っていました 秀行さんがアメリカに渡り私との関係が危うくなった時も彼が仲を取り持ってくれてアメリカ行きも彼が全部お膳立てをしてくれて実現しました 彼は私と秀行さんを結ぶキューピットでした」
「秀行は彼を信頼できる男と見込んだのでしょうね だから彼に」
「私と彼が一緒になることが幸せだと? 私を愛した秀行さんがどうしてそんなことを彼に託したのか」
「・・・きっと秀行は自分以外で佐知さんがこの世で愛する人がいるとしたら彼だけそう感じとっていたんじゃないかしら 彼にあなたと秀和を託したのは秀行からの佐知さんへの最期の贈り物、そう思えないかしら」
「わたし秀行さんに過去の恋愛なんか話さなければよかった 彼への思いを包み隠さず吐き出したりしなければよかった・・」
「つらい恋愛を互いに知り持ったからこそ秀行は佐知さんの思いを汲んであげたかったんじゃないのかしら 好きな人と痛みや喜びを分かち合い生きることがどんなに幸せか身をもって知った秀行だからこそ彼とあなたに向き合うチャンスを与えたかったのかもしれないわね 今度こそ背を向けたりしないでとことん向き合いなさいってね これが最後のチャンスと思って彼とのこれからをもう一度考えてみたら」
「お義母さんに聞いてもらえて心に整理がつきそうです 彼とのことは時間をかけて考えてみます」
「先はまだまだ長いわ 急がず慌てず諦めずしっかり考えてみなさい」
「そうします お義母さんこれからも秀和といたらぬ私をよろしくお願いします」
「こちらこそ宜しくおねがいしますね 秀行のことはつらいけど今日秀和と会えて現実を直視できたわ 無邪気な子供は人を癒す絶大なるパワーを持ってるのね」
佐知と秀和の訪問は部長の閉ざされた心に光が当てられ秀行の死から止まっていた秀行の実母である部長の時間は今日を境に緩やかに流れ出していた。
「愛はなかったと」
「愛はあったと思いたいけど私と彼は愛の女神に導かれたのではなく別の大きな力によって私たちには出会わなければならない特別な理由があったから出会った 振り返るとそんな気がしてならないのです」
「とても興味をそそる話だわ 何かしら複雑な事情がありそうね」
「そう考えるとすべて納得できるんです だって彼は私が最も嫌うタイプの男で絶対に好感など持ちようのない付き合うなんて論外の男性だったから」
「タイプでない男に出会って恋に落ちた 佐知さんはそこが腑に落ちないみたいね」
「だって彼は女の敵みたいな人でそんな初対面の彼に好意を抱くなんて考えられないし絶対ありえない事なんだもの」
「佐知さんが最も嫌うタイプは、というより彼はどんな人だったのかしら」
「彼は女にだらしなくて女を欲望のはけ口くらいにしか思っていない人で目的もなく怠惰な生活を送っていた最低で最悪な男で」
「そこまでにしましょう 彼への中傷はもうそのくらいにして、確かにそんな男だったら好きにはなれないわね」
「ずっと後になってから彼と私は驚くような関係で互いが繋がっていることを知りました」
「驚きの関係?」
「とても長い話になりますから搔い摘んでお話ししますね 彼の父親と私の生みの母は恋人同士でした 二人の愛は実りませんでしたが母は彼の父親の子供を身ごもり男の子を出産しましたその子は間もなく亡くなったのですが彼と私にとっては兄、母はその後父と結婚し私を産みほどなくして事故に巻き込まれ父と共に亡くなりました 幼い私は施設に預けられ今の両親に引き取られました 社会人になって懐かしいその施設を訪ねたとき実母から預かったという遺品を渡されこの事実が分かりました」
「あなたは幼い時から苦労したのね 佐知さんあなたの強さはそこにあったのね」
「私は今の両親に出会って温かい家族家庭を知りました 受けた両親からの愛を自分の子供に伝承出来る私は幸せです 今は産んでくれた実母にも感謝しています だから秀行さんも真実を知っていたらお義母さんに感謝の気持ちを伝えたかったと思います」
「人にはそれぞれ苦い人生があるわ でも明るく笑顔の尽きない佐知さんにこんな過去があったなんてね」
「忘れられなかった彼とその後再会できたのですがこの出会いも得たいのしれない力によって仕組まれたような再会でした いろんな事あっていま私たちは友達で彼はかけがえのない大切な人です」
「再会した彼は最低男を脱却していい男になっていたのね」
「はい資格を取り父親の仕事を立派に継いだ彼は改心して別人になっていて私とっても嬉しかった」
「結ばれなかったけど佐知さんとの出会いが彼の生き方まで変えたのかも知れないわね 佐知さんは彼と出会っていなければなんて考えた事がある?」
「私たちはどこかで必ず出会っていたそう思います いま私の目に映る彼はもう昔の彼じゃない 初めて出会った時と同じように再会にも意味があってその意味を知ることはむずかしいけどいつかわかる日が来ると思っています」
「再会こそが佐知さんと彼の始まりだとしたら?」
「はじまりそうなのかもしれませんね 再会したとき彼に抱いた感情は未練とかじゃなく始まりの感情だったかも お義母さんわたし去年の暮れに突然彼から二人の関係をもう一度しっかり考えて答えが欲しいと言われて・・わたし正直戸惑っているんです」
「再会が二人の始まりだとしたらあなたたちはもうその始まりを歩んでいることになるわね あなたは彼とのその歩みをずっとこれからも続けたいそう願っている友達として・・彼はそんな佐知さんの本当の気持ちを知っておきたい、というより彼はあなたの気持ちをわかっていていながらずっと自分にストップをかけていたんじゃないかしら いまそのストッパーが外れたから佐知さんの答えいかんで彼は自分の気持ちを軌道修正しようとしている 私には彼からの宿題はそんな風に読み取れるけれど」
「私はこのままの関係でいいと言ったのに彼は首を縦に振らず今後の関係を考えてほしいと譲らなかった これまでずっと私の気持ちには応えられないと彼は頑なに拒絶していたのに・・やっといい関係に落ち着いたいまになって・・今更どうしてそんなこと言って私を困らせるのか・・分からなかった」
「健気に頑張るあなたを一番身近で見てきた彼にとってあなたは彼の分身のようになっていたのかもしれないわ 彼はあなたの悲しみも喜びも全て自分の事のように感じていたのよきっと」
「彼は私とも深交のあった奥さんと子供を亡くしています 病院を辞めた身重の私を助けてくれたのはその彼です 彼の家でお手伝いさんと彼と三人で暮らした日々は他人の集まりだけど家族そのものでした 「こんな家庭を手にして亡くなったわが子にしてやれなかったことのすべてを秀和にしてやりたい」 彼の口からでたその言葉は叶わなかった私の願望・・なのに何故か分からないけれど手放しで喜べなかった」
「彼の目に自分が追い求めていた幸せが見えたということなら彼が抱えていた闇が晴れたということじゃないかしら 私はそう思うんだけど」
「彼の中にある闇が薄れたなら嬉しいです 彼は両親、愛する奥さんと子供大切なものを全部奪われました 唯一彼のよりどころは親の代から会社に務めていた泉さんでした 彼は身寄りのない泉さんを事務職からお手伝いさんとして家に呼び入れ最後まで看取るつもりでいるようです 彼にとって泉さんは母親のような人で私にとっても心強い味方お母さんみたいな人です 私が実家に戻ることを決めたとき二人は自分の家だと思っていつでも帰ってこいと言ってくれました いつでも待っていると言ってくれました 涙がこぼれ落ちそうになるくらい嬉しくて二人から受けた愛が深く胸に響きました 三人ですごした場所から去る日が来て私は家族と引き離されるような気持ちになったあの日を思い出すたび懐かしさと受けた愛情優しさに涙しています」
「沢山のよき出会いや人と巡り合い手を差し伸べてくれる人がいた佐知さんは幸せ者ね また来てねと待っていてくれる人がいるなんてうらやましい限りよ 実家に戻ったばかりの佐知さんにこんなこと言うのはおかしいけど身の置き所は此処じゃないと思ったら心赴くまま帰るべきところに落ち着くことね 迷っていてはだめ もし彼こそが佐知さんの戻るべき場所ならなおのことそうすべき」
「秀行さんは亡くなる前に彼に私と秀和を託していました 彼は事故で重傷を負い秀行さんに命を救ってもらいました それが縁で二人は男同士のつながりを持ったようです 私と秀行さんは付き合う前に互いのつらい恋愛話を語り合ったことがあって私の相手が彼だということも知っていました 秀行さんがアメリカに渡り私との関係が危うくなった時も彼が仲を取り持ってくれてアメリカ行きも彼が全部お膳立てをしてくれて実現しました 彼は私と秀行さんを結ぶキューピットでした」
「秀行は彼を信頼できる男と見込んだのでしょうね だから彼に」
「私と彼が一緒になることが幸せだと? 私を愛した秀行さんがどうしてそんなことを彼に託したのか」
「・・・きっと秀行は自分以外で佐知さんがこの世で愛する人がいるとしたら彼だけそう感じとっていたんじゃないかしら 彼にあなたと秀和を託したのは秀行からの佐知さんへの最期の贈り物、そう思えないかしら」
「わたし秀行さんに過去の恋愛なんか話さなければよかった 彼への思いを包み隠さず吐き出したりしなければよかった・・」
「つらい恋愛を互いに知り持ったからこそ秀行は佐知さんの思いを汲んであげたかったんじゃないのかしら 好きな人と痛みや喜びを分かち合い生きることがどんなに幸せか身をもって知った秀行だからこそ彼とあなたに向き合うチャンスを与えたかったのかもしれないわね 今度こそ背を向けたりしないでとことん向き合いなさいってね これが最後のチャンスと思って彼とのこれからをもう一度考えてみたら」
「お義母さんに聞いてもらえて心に整理がつきそうです 彼とのことは時間をかけて考えてみます」
「先はまだまだ長いわ 急がず慌てず諦めずしっかり考えてみなさい」
「そうします お義母さんこれからも秀和といたらぬ私をよろしくお願いします」
「こちらこそ宜しくおねがいしますね 秀行のことはつらいけど今日秀和と会えて現実を直視できたわ 無邪気な子供は人を癒す絶大なるパワーを持ってるのね」
佐知と秀和の訪問は部長の閉ざされた心に光が当てられ秀行の死から止まっていた秀行の実母である部長の時間は今日を境に緩やかに流れ出していた。
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

🍶 夢を織る旅 🍶 ~三代続く小さな酒屋の主人と妻の愛と絆の物語~
光り輝く未来
現代文学
家業を息子に引き継いだ華村醸(はなむら・じょう)の頭の中には、小さい頃からの日々が浮かんでいた。
祖父の膝にちょこんと座っている幼い頃のこと、
東京オリンピックで活躍する日本人選手に刺激されて、「世界と戦って勝つ!」と叫んだこと、
醸造学の大学院を卒業後、パリで仕事をしていた時、訪問先のバルセロナで愛媛県出身の女性と出会って恋に落ちたこと、
彼女と二人でカリフォルニアに渡って、著名なワイナリーで働いたこと、
結婚して子供ができ、翔(しょう)という名前を付けたこと、
父の死後、過剰な在庫や厳しい資金繰りに苦しみながらも、妻や親戚や多くの知人に支えられて建て直したこと、
それらすべてが蘇ってくると、胸にグッとくるものが込み上げてきた。
すると、どこからか声が聞こえてきたような気がした。
それは、とても懐かしい声だった。
祖父と父の声に違いなかった。
✧ ✧
美味しいお酒と料理と共に愛情あふれる物語をお楽しみください。

おれ、ユーキ
あつあげ
現代文学
『さよならマユミちゃん』のその後を描くスピンオフ作品。叔母のマユミちゃんが残してくれた家でシェアハウスを始めた佑樹、だがやってきたのは未知の感染症だった。先の見えない世界で彼が見つけたものとは――?80年代生まれのひりひり現在進行形物語!
風が告げる未来
北川 聖
現代文学
風子は、父の日記を手にしたまま、長い時間それを眺めていた。彼女の心の中には、かつてないほどの混乱と問いが渦巻いていた。「全てが過ぎ去る」という父の言葉は、まるで風が自分自身の運命を予見していたかのように響いていた。
翌日、風子は学校を休み、父の足跡を辿る決意をした。日記の最後のページには、父が最後に訪れたとされる場所の名前が書かれていた。それは、彼女の住む街から遠く離れた、山奥の小さな村だった。風子は、その村へ行けば何か答えが見つかるかもしれないと信じていた。
六華 snow crystal 8
なごみ
現代文学
雪の街札幌で繰り広げられる、それぞれのラブストーリー。
小児性愛の婚約者、ゲオルクとの再会に絶望する茉理。トラブルに巻き込まれ、莫大な賠償金を請求される潤一。大学生、聡太との結婚を夢見ていた美穂だったが、、
その男、人の人生を狂わせるので注意が必要
いちごみるく
現代文学
「あいつに関わると、人生が狂わされる」
「密室で二人きりになるのが禁止になった」
「関わった人みんな好きになる…」
こんな伝説を残した男が、ある中学にいた。
見知らぬ小グレ集団、警察官、幼馴染の年上、担任教師、部活の後輩に顧問まで……
関わる人すべてを夢中にさせ、頭の中を自分のことで支配させてしまう。
無意識に人を惹き込むその少年を、人は魔性の男と呼ぶ。
そんな彼に関わった人たちがどのように人生を壊していくのか……
地位や年齢、性別は関係ない。
抱える悩みや劣等感を少し刺激されるだけで、人の人生は呆気なく崩れていく。
色んな人物が、ある一人の男によって人生をジワジワと壊していく様子をリアルに描いた物語。
嫉妬、自己顕示欲、愛情不足、孤立、虚言……
現代に溢れる人間の醜い部分を自覚する者と自覚せずに目を背ける者…。
彼らの運命は、主人公・醍醐隼に翻弄される中で確実に分かれていく。
※なお、筆者の拙作『あんなに堅物だった俺を、解してくれたお前の腕が』に出てくる人物たちがこの作品でもメインになります。ご興味があれば、そちらも是非!
※長い作品ですが、1話が300〜1500字程度です。少しずつ読んで頂くことも可能です!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
大人への門
相良武有
現代文学
思春期から大人へと向かう青春の一時期、それは驟雨の如くに激しく、強く、そして、短い。
が、男であれ女であれ、人はその時期に大人への確たる何かを、成熟した人生を送るのに無くてはならないものを掴む為に、喪失をも含めて、獲ち得るのである。人は人生の新しい局面を切り拓いて行くチャレンジャブルな大人への階段を、時には激しく、時には沈静して、昇降する。それは、驟雨の如く、強烈で、然も短く、将に人生の時の瞬なのである。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる