上 下
275 / 292
人生の機微

我が子と歩む未来は

しおりを挟む
暮れも押し迫ったある日、佐知は年越しを一緒に過ごしたいという両親の気持ちを受け急きょ荷作り追われていた。雅和が旅立った後の一人取り残される泉を思うと佐知の胸は張り裂けんばかりだった

三人で囲むゆうべは今夜が最期だった。いつもと変わらぬ楽しい語らいが佳境に入った時だった。突然、泉が声を詰まらせながら言った。


「孤独なわたくしにこんな楽しい日々が訪れるなど思いも致しませんでした 佐知さんがこの家においでになってから、わたくしは以前にも増して幸せな日々を過ごさせていただきました

雅和さんはすでに息子同然でございましたから佐知さんはお嫁さんで秀和ぼっちゃんは初孫のようでございました これまでわたくしの願いなど絵空事に過ぎないと思っておりましたからこんな体験ができて本当に有り難く思っております 夫を亡くし子供のいない我が身の一生涯叶うはずのない夢そして描いていた家族を一瞬でも体感させていただけたわたくしは幸せ者です 仲むつまじいお二人を目の当たりにして夫が生きていたら、わたくしと主人もお二人みたいに仲良し夫婦だったろうと目を細めておりました そしてお二人が本当の息子、娘だったらと・・私にとってお二人はこのうえなく大切な家族でございます

ですから佐知さんここをご自分の家だと思ってお疲れになったら羽をお安めに・・また此処に必ずやお帰りになって下さいませ」


「・・ありがとう泉さん」


「血の繋がりを家族と呼ぶのなら俺たちは家族じゃない でも血縁であっても殺伐した家族ならそんな家族なんか俺には必要ない」


「私とは血が繋がっていない両親は私の自慢の家族 施設から引き取ってくれた母がまだ幼い私にこう言ってくれた

さっちゃん無理しないで、お利口さんでいなくていいのよ 私たちを親だなんて思わないで、ここは施設と同じ私たちは先生と同じそう思って少しずつ慣れてくれればいいのよ 此処がいやだったらまた園長先生のところに帰れるから心配しないでねって・・

今思うと笑えるんだけど私また施設に帰れるんだって飛び上がって喜んだこと覚えているわ でも不思議よね施設に帰ることなんかいつの間にかすっかり忘れて私は皆井家に溶け込んでいた 一緒に寝て起きて食べて笑って泣いて叱られてそんな日常の積み重ねが私たちを家族にしてくれた ここでの生活はあの時と同じ。だから私にとって雅和と泉さんは家族だわ 私はこの家で優しさに包まれて、その優しさにどんなに癒されたことかありがとう雅和、泉さん本当にありがとうございました」


「私こそお二人に夢を叶えていただけて嬉しく思っております」


「雅和、泉さんをこれからも大切にしてあげてね ここで暮らして雅和と泉さんは互いに必要な人だって事がよくわかったわ 結んだ縁を大切にしてほしいと言っていた美香さんもいま同じ気持ちで雅和と泉さんを見守ってくれているんじゃないかしら」


「美香さんか・・考えると俺たちの会話に美香さんの名前が出ないことってなかったよね」


「私の事を初めてできた親友だと言ってくれた美香さんは今も私を応援して見守ってくれていると信じているの だから美香さんを忘れるなんて考えられないわ」


「俺と佐知が今こうしていられるのは美香さんがいたから・・繋いでくれたから」


「美香さんがいなかったら私たちは二度と会うことも声を聞くことも・・」


若くして逝った美香は二人にとって生涯忘れえぬ人だった。SIGNPOSTのママが言った言葉を思い出しその意味する事がなんなのかを今になって知りたいと佐知は強く思った。

ふたりは生涯美香さんを背負って生きてゆかなければならない

佐知は頭でこの言葉を繰り返しながらはあの時のママに雅和と私の何が見えたのか知りたくなった


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...