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人生の機微
我が子と歩む未来は5
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雅和は国際業務の資格を取ったもののこのままでは宝の持ち腐れになってしまうと危惧していた。事務所案内に記載された実務経験実績の乏しい現状を何とかしたいと思っていた時、佐知の渡米でお世話になった井上から思わぬ誘いを受けた。井上は片腕でもあった社員の長期療養により戦力不足の窮地に陥っていた。井上は思うような人材に出会えず困窮していた。そんな時雅和から相談の連絡を受けた井上は無理を承知で現状を話し協力を仰いだ。雅和は迷うことなく井上の願いを承諾した。自分が代表である事務所を離れアメリカに渡ることは大きな決断だった。しかし重い病と闘いながら海外で医師免許を手にした気迫に満ちた西條の姿に触発されていた雅和に迷いはなかった
突然湧き出たアメリカ行きに泉は絶句し佐知はうなだれ肩を落とした。秀行を亡くし悲しみを隠し明るく振舞っていた佐知が見せた苦渋な表情が痛々しかった。しかし雅和の気持ちはぶれなかった。佐知をこのまま居座らせてはいけないことは雅和にもわかっていた 雅和は佐知のために正しい助けをしているのか、誤った手助けをしているのではないかと疑念を持ち始めていた。一方で佐知と秀和との生活を続けたいと願う自分もいた。雅和は佐知との関係が以前とは違ってきているような気がしてならなかった。このままでは築いた絆さえ崩壊する懸念を抱き始めていた。雅和は佐知にどうこう言う前に自分が変わらなければ何も変わらないのだと自分に言い聞かせていた。
「それでいつアメリカに」
「年明け早々に出発する」
「そんな大事なことどうしてもっと早く言ってくれなかったの わかっていたら私ここには・・」
「そうなるのがわかっていたから教えなかった 佐知は余計なこと何も考えずに休める場所が欲しくてここに来たそうだろう だったら俺がいなくても泉さんとこの家で体と心を癒せばいい、心が元気になれば体にも力がついてくる頭だってすっきりして先の展望が見えてくると思うんだ」
「雅和の気持ちも考えず迷惑ばかりでごめんなさい 私ね分かったの 私は雅和の優しさに甘えて、居心地の良いこの家に逃げていたんだって 雅和が秀行さんのように自分の人生をぶれることなく歩んでいるのを目のあたりにして、はっきりわかったわ 私はここを飛び出して秀行とゼロからの一歩を踏み出さなければだめなんだって」
「それはこの家を出るということか」
「うん、ちゃんと帰るべき場所に自分の家に胸はって戻らなければいけないんだって お世話になった病院に顔を出して院長夫婦にすべてを話し孫の秀和を会わせ、これでよかったのよねと秀行さんの墓前に手を合わせ報告しなければ新たな出発は出来ないと思ってた すべてを白日のもとにしたとき私がどう変わるのか、変わらないかもしれないけれどこれまでの人生にけじめをつけてスタートを切りたいの 恥じることなどないけれどたとえあったとしても逃げ隠れせず全てを認め真実のもと生きてゆくことが大切なんじゃないのかなって」
「俺は自分の生きざまのすべてを曝け出す必要があるのか疑問だな」
「人それぞれでしょうけど私はそれをやらなければ本当の意味でのスタートが切れないと思っているわ これから秀和と母子二人で生きてゆく私が過去を引きずっていては秀行も私も幸せにはなれないでしょ」
「佐知はもう幸せを掴んでいるだろう」
「そう私は幸せをつかんだわ でもそれは秀行さんがいたからつかめた幸せ、二人だったからこその幸せだった 秀行さんがいない今その幸せは思い出に姿を変えてしまった だから私は又幸せになる旅の足を止めないで先に進めなければいけないの 秀行さんの遺言でもある人生を謳歌し使命を全うするには過去を引きずっていては何も始まらないもの、私には命と同じ尊くて大切な秀和がいる だからわたしこれからは欲張って二人分の幸せを掴むつもりよ わたしは秀和と私の幸せがどんなものなのか見たいの、そしてそれをしっかりこの手に掴むわ、そのためにも区切りをつけて人生第二幕を突き進んで行こうと決めた 私は雅和の優しさに甘えすぎていた このままじゃダメってわかっていながら雅和の優しさにしがみ付きこの手を離せなかった」
「佐知はもうその手を離せたのか・・・だから此処から」
「えぇ、きっとそうね」
「佐知はすごいな 俺は美香さんがいなくなってから今以て美香さんとの過去から決別できずにいるのに」
「私だって決別しようなんて思っていない 私にとっての秀行さんは雅和と一緒で美香さんの存在と同じなんだもの 私たち二人には忘れろと言われても忘れられない人がいてその大切な人は、ずっと私たちの心のなかに生きているのよね だから決別なんかできるわけがないのよ」
「心に生きているか だからふとした時に近くにいるような気がするのかな」
「雅和が会いたいと思ったとき美香さんはきっと近くに来てくれているのかもしれないわ」
「SIGNPOSTのママじゃあるまいしオカルト話は勘弁してくれよ」
「何怖がってるの 私なら幽霊でもお化けでもいいから会いに来てくれたら嬉しいわ」
「おまえなぁ、愛する西條先生にお化けはないだろう」
「そうか、今ごろ秀行さん苦笑いしてるかな」
「お二人とも先ほどから眉間にしわを寄せて何やら難しいお話をなさっているご様子でしたのでお声掛けを控えておりましたがケーキが焼きあがりましたので少し中断なさっては お皿に取り分けましたから早く召し上がってくださいませ」
「ありがとう泉さん」
突然湧き出たアメリカ行きに泉は絶句し佐知はうなだれ肩を落とした。秀行を亡くし悲しみを隠し明るく振舞っていた佐知が見せた苦渋な表情が痛々しかった。しかし雅和の気持ちはぶれなかった。佐知をこのまま居座らせてはいけないことは雅和にもわかっていた 雅和は佐知のために正しい助けをしているのか、誤った手助けをしているのではないかと疑念を持ち始めていた。一方で佐知と秀和との生活を続けたいと願う自分もいた。雅和は佐知との関係が以前とは違ってきているような気がしてならなかった。このままでは築いた絆さえ崩壊する懸念を抱き始めていた。雅和は佐知にどうこう言う前に自分が変わらなければ何も変わらないのだと自分に言い聞かせていた。
「それでいつアメリカに」
「年明け早々に出発する」
「そんな大事なことどうしてもっと早く言ってくれなかったの わかっていたら私ここには・・」
「そうなるのがわかっていたから教えなかった 佐知は余計なこと何も考えずに休める場所が欲しくてここに来たそうだろう だったら俺がいなくても泉さんとこの家で体と心を癒せばいい、心が元気になれば体にも力がついてくる頭だってすっきりして先の展望が見えてくると思うんだ」
「雅和の気持ちも考えず迷惑ばかりでごめんなさい 私ね分かったの 私は雅和の優しさに甘えて、居心地の良いこの家に逃げていたんだって 雅和が秀行さんのように自分の人生をぶれることなく歩んでいるのを目のあたりにして、はっきりわかったわ 私はここを飛び出して秀行とゼロからの一歩を踏み出さなければだめなんだって」
「それはこの家を出るということか」
「うん、ちゃんと帰るべき場所に自分の家に胸はって戻らなければいけないんだって お世話になった病院に顔を出して院長夫婦にすべてを話し孫の秀和を会わせ、これでよかったのよねと秀行さんの墓前に手を合わせ報告しなければ新たな出発は出来ないと思ってた すべてを白日のもとにしたとき私がどう変わるのか、変わらないかもしれないけれどこれまでの人生にけじめをつけてスタートを切りたいの 恥じることなどないけれどたとえあったとしても逃げ隠れせず全てを認め真実のもと生きてゆくことが大切なんじゃないのかなって」
「俺は自分の生きざまのすべてを曝け出す必要があるのか疑問だな」
「人それぞれでしょうけど私はそれをやらなければ本当の意味でのスタートが切れないと思っているわ これから秀和と母子二人で生きてゆく私が過去を引きずっていては秀行も私も幸せにはなれないでしょ」
「佐知はもう幸せを掴んでいるだろう」
「そう私は幸せをつかんだわ でもそれは秀行さんがいたからつかめた幸せ、二人だったからこその幸せだった 秀行さんがいない今その幸せは思い出に姿を変えてしまった だから私は又幸せになる旅の足を止めないで先に進めなければいけないの 秀行さんの遺言でもある人生を謳歌し使命を全うするには過去を引きずっていては何も始まらないもの、私には命と同じ尊くて大切な秀和がいる だからわたしこれからは欲張って二人分の幸せを掴むつもりよ わたしは秀和と私の幸せがどんなものなのか見たいの、そしてそれをしっかりこの手に掴むわ、そのためにも区切りをつけて人生第二幕を突き進んで行こうと決めた 私は雅和の優しさに甘えすぎていた このままじゃダメってわかっていながら雅和の優しさにしがみ付きこの手を離せなかった」
「佐知はもうその手を離せたのか・・・だから此処から」
「えぇ、きっとそうね」
「佐知はすごいな 俺は美香さんがいなくなってから今以て美香さんとの過去から決別できずにいるのに」
「私だって決別しようなんて思っていない 私にとっての秀行さんは雅和と一緒で美香さんの存在と同じなんだもの 私たち二人には忘れろと言われても忘れられない人がいてその大切な人は、ずっと私たちの心のなかに生きているのよね だから決別なんかできるわけがないのよ」
「心に生きているか だからふとした時に近くにいるような気がするのかな」
「雅和が会いたいと思ったとき美香さんはきっと近くに来てくれているのかもしれないわ」
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「そうか、今ごろ秀行さん苦笑いしてるかな」
「お二人とも先ほどから眉間にしわを寄せて何やら難しいお話をなさっているご様子でしたのでお声掛けを控えておりましたがケーキが焼きあがりましたので少し中断なさっては お皿に取り分けましたから早く召し上がってくださいませ」
「ありがとう泉さん」
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