涙が幸せの泉にかわるまで

人生の機微

我が子と歩む未来は2

佐知はアメリカを離れる前日に電話で母と交わした会話を思い出していた　父は町内の集まりで一人留守番をしていた母は話し相手が現れたとばかり嬉しそうな声をあげた。帰国日を伝え実家ではなく雅和と泉の待つ家にしばらくお世話になることを告げると母は少し間をあけ話を続けた。


「西條先生残念だったわね　日本を発って佐知はアメリカでよく頑張ったわ　自分でもそう思うでしょう　だから佐知はこれからもどんなことがあろうと負けずに生きてゆけるとお母さんは信じているのよ　自信を持って自分の人生真直ぐ正しく生きてゆきなさい　強くなった自分を誉め信じて逃げ隠れせずこれからの長い人生をしっかり歩んでいってほしいと願っているわ　気持ちの整理がついてここに戻ってきたくなったらいつでも帰ってきなさい　あなたの事が大好きで可愛くてたまらないお父さんと一緒に待っているからね」


母の言葉が胸に響いた。自分の選択にやましさなどないと言いながら実のところ逃げているふしもあるのではないかと佐知は気づかされていた。


「もうすぐ家につくぞ　秀和はおとなしいな　佐知どうした顔青いけど大丈夫か」


「・・うん平気」


「長旅で疲れたんだろう　家に入ったら無理しないで泉さんに手伝ってもらうといいよ」


「うんありがとう　あぁ～家が見えてきた懐かしいなあ」


「荷物は俺が運ぶから佐知は秀和と先に行って少し休んだほうがいい」

「ありがとう、そろそろ秀行のおむつを交換してあげないと可哀想ね」


「リビングにベッド置いてあるからそこに寝かせるといいよ　あっ泉さんだ　車の音でわかったんだな　佐知みて、泉さんが窓から手を振ってるよ」


「どこ、ねぇ泉さんどこ」


「ほら二階のトイレの窓、泉さん掃除してたのかな」


「ほんとだ、泉さん小窓から手を振ってるわ　トイレから出て広いベランダに移動すればいいのにね」


「難解な泉さんらしいだろ　佐知早く気付いてやらないと泉さんずっとトイレから手を振り続けるぞ」　


「泉さ～ん、ただいま～」


車から降りて玄関に向かうと泉は扉を開けて両手を広げ満面の笑みを見せた。