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人生の機微
命つきるまで
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秀行と暮らした日々を佐知は決して忘れはしないだろう しかし乳飲み子の秀和の記憶に父秀行と過ごした日々が残るかといえば残念ながら皆無に近かった。短い年月だったがそこには夢にみた家庭があり血の通う家族が確かに出来上がっていた。記憶はなくとも秀和には父である秀行の思いがきっと伝わっていると信じたかった。秀和の体を脈々と流れる血こそが父秀行の記憶それでいいと佐知は思った。
アメリカでの医師資格取得を目前にしていた秀行が夢半ばにして力尽きたのは渡米してきてから二年が過ぎようとしていた晩夏だった。秀行が休日に撮り続けた家族のアルバムはとうに10冊を超えていた。そして心に残る思い出ははるかにそれを上回り語りつくせぬものだった。結末はどうあれ佐知は自分の選択に悔いはなかった。誰に問われても何一つ悔いなどないと胸をはり即答したであろう。
秀行危篤の知らせを受けた院長夫婦はアメリカに向かっていた。佐知に危篤の一報が伝わった時すでに院長夫婦は秀行に付き添っていたため看取ることはできなかったが事情を知る病院スタッフの計らいで秀和を連れての時間外面会を許されていた佐知は入院している秀行の病室で毎日会うことができた。徐々に衰弱してゆく秀行だったがそれでもいつもと変わらぬ会話に時折笑いさえおきていた。お互いの最期は笑顔で送りだそうと佐知は生前の秀行と約束を交わしていたその最後の時がこんなに早く来るとは医師すら頭を抱える突然の出来事だった。思い返せば最後に面会したときの秀行は笑顔で佐知にありがとうを繰り返していた。
「僕は本当に幸せ者だね心底愛した女性は僕の子供をこの世に誕生させてくれた その人は飛び切りの笑顔で僕を癒し支え続けてくれた 僕はその人の笑顔が大好きだったその笑顔を命ある限り僕は見ていたい佐知さん秀和と、もっと近くに来て笑顔を見せてほしい僕に与えられた命はタイムリミットを迎えようとしている 二人で約束したありがとうの言葉と笑顔でお別れしよう佐知さんありがとう秀和ありがとうパパに代わりママを頼んだよ」
「秀行さんお別れはまだまだ遠い先よでも私にもありがとうを言わせて秀行さんありがとう 秀行さんはいま自分を幸せ者だといったけど私も同じよ 秀行さん二人で幸せを探そうって約束してくれたでしょ、でもその幸せってすぐそばにあるのに私たちが気付けないだけなのかもしれないわ」
「考えてみれば幸せは見つけようとして探し出せるようなものじゃないね 君が言うように幸せは何気ない毎日のどこにでも普通に存在しているのかもしれないね」
「毎日が楽しいそれだけで幸せ、そういうことかしら」
「きっとそうだね 僕は佐知さんと秀和と過ごせる休日が楽しくてたまらなかった その思い出のすべてが幸せにつながっていた佐知さんありがとう うぅう・・・うっ」
「秀行さん苦しいの先生呼びますね」
アメリカでの医師資格取得を目前にしていた秀行が夢半ばにして力尽きたのは渡米してきてから二年が過ぎようとしていた晩夏だった。秀行が休日に撮り続けた家族のアルバムはとうに10冊を超えていた。そして心に残る思い出ははるかにそれを上回り語りつくせぬものだった。結末はどうあれ佐知は自分の選択に悔いはなかった。誰に問われても何一つ悔いなどないと胸をはり即答したであろう。
秀行危篤の知らせを受けた院長夫婦はアメリカに向かっていた。佐知に危篤の一報が伝わった時すでに院長夫婦は秀行に付き添っていたため看取ることはできなかったが事情を知る病院スタッフの計らいで秀和を連れての時間外面会を許されていた佐知は入院している秀行の病室で毎日会うことができた。徐々に衰弱してゆく秀行だったがそれでもいつもと変わらぬ会話に時折笑いさえおきていた。お互いの最期は笑顔で送りだそうと佐知は生前の秀行と約束を交わしていたその最後の時がこんなに早く来るとは医師すら頭を抱える突然の出来事だった。思い返せば最後に面会したときの秀行は笑顔で佐知にありがとうを繰り返していた。
「僕は本当に幸せ者だね心底愛した女性は僕の子供をこの世に誕生させてくれた その人は飛び切りの笑顔で僕を癒し支え続けてくれた 僕はその人の笑顔が大好きだったその笑顔を命ある限り僕は見ていたい佐知さん秀和と、もっと近くに来て笑顔を見せてほしい僕に与えられた命はタイムリミットを迎えようとしている 二人で約束したありがとうの言葉と笑顔でお別れしよう佐知さんありがとう秀和ありがとうパパに代わりママを頼んだよ」
「秀行さんお別れはまだまだ遠い先よでも私にもありがとうを言わせて秀行さんありがとう 秀行さんはいま自分を幸せ者だといったけど私も同じよ 秀行さん二人で幸せを探そうって約束してくれたでしょ、でもその幸せってすぐそばにあるのに私たちが気付けないだけなのかもしれないわ」
「考えてみれば幸せは見つけようとして探し出せるようなものじゃないね 君が言うように幸せは何気ない毎日のどこにでも普通に存在しているのかもしれないね」
「毎日が楽しいそれだけで幸せ、そういうことかしら」
「きっとそうだね 僕は佐知さんと秀和と過ごせる休日が楽しくてたまらなかった その思い出のすべてが幸せにつながっていた佐知さんありがとう うぅう・・・うっ」
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