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人生の機微
異国への旅立ち
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1ヶ月の渡米に向けた準備を終えた佐知に泉と雅和に支えられ暮らした家とさよならする日がやってきた 空港まで見送りに来てくれた笑顔だった泉の目には涙が溢れ出していた。涙をこらえた佐知の目に映る雅和と泉の姿がどんどんもやに覆われたようになっていった。左右に大きく手を振る雅和の姿がどんどん小さくなっていった。遠い昔体験した別れの時とは全く異なる笑顔の雅和がそこにあった。しかし今日の別れもあの時と寸分違わぬつらいものだった。涙を飲み込んだ佐知は飛びっきりの笑顔で搭乗口へと去って行った。佐知の姿が見えなくなっても立ちすくんだままの泉に雅和が声をかけた。
「泉さん、もう帰ろう」
「はい戻りましょう」
「泉さんにはいろいろ面倒かけてすまなかったね 毎日バタバタしていたけど結構楽しかったよね 明日からまた俺と泉さん二人の生活だ」
「本当に佐知さんとの生活は楽しゅうございました 笑顔など見せない雅和さんがずっと笑ってらしたのですもの あんなに楽しそうな雅和さんを見たのは初めてで、佐知さんと雅和さんは息もぴったりでとてもお似合いのカップルでした」
「お似合いって言われても佐知は秀行先生の奥さんも同然の人だからね」
「どうしてお二人がお別れになったのか・・いまとなってはとても残念でございますね」
「恋人ではなくなったけど俺たちは今もこうして繋がっている不思議だな」
「昔以上にお二人はいい関係を続けていらっしゃるのでは」
「あぁそうかもしれないな さぁ帰ろう泉さん」
佐知からアメリカ行きの希望を聞かされた雅和はアメリカに出向き知人の手を借りて佐知が滞りなく生活できるように手配をすませていた。住居から日用品にいたるまで抜かりなく準備は整っていた。
佐知は飛行機の窓に広がる雲海を見つめながら秀行との再会に胸を躍らせていた。アメリカに降り立った佐知を出迎えてくれたのはこの地で事務所を構える雅和の知人だった。井上と名乗ったその男性はみごとな白髪の紳士だった。井上は自分の運転する車でアパートまで送り届けてくれた。
「困ったことがあったらいつでもこの電話番号にかけてください 雅和君の父親と私は旧知の仲で大変お世話になったものです そのせがれの頼みとならばわが息子の頼みと一緒ですから」
「ありがとうございます お力をお借りしなければならない時は甘えさせていただきます今日はありがとうございました」
「いつでも電話して構いませんよ
では私はこれで失礼します」
渡された鍵で部屋に入ると古い建築物件で年代を思わせる作りではあったが佐知は一目で気に入った。10畳大のリビングに置かれたベッドに目が釘づけになった。
「これは・・・」
ベッドにくくり吊るされた遊具には見覚えがあった。それは雅和の愛娘明日香のお気に入りの遊具だった。疲れて寝入っている秀和を静かにそのベッドに横たわらせた。窓を開け放し佐知は日本とは違う空気を存分に味わっていた。
秀行さんが住むこのアメリカに私も秀和と来れたわ・・
人という宝物に恵まれこの地に来ることができた佐知は確かな幸せを感じとっていた。
「泉さん、もう帰ろう」
「はい戻りましょう」
「泉さんにはいろいろ面倒かけてすまなかったね 毎日バタバタしていたけど結構楽しかったよね 明日からまた俺と泉さん二人の生活だ」
「本当に佐知さんとの生活は楽しゅうございました 笑顔など見せない雅和さんがずっと笑ってらしたのですもの あんなに楽しそうな雅和さんを見たのは初めてで、佐知さんと雅和さんは息もぴったりでとてもお似合いのカップルでした」
「お似合いって言われても佐知は秀行先生の奥さんも同然の人だからね」
「どうしてお二人がお別れになったのか・・いまとなってはとても残念でございますね」
「恋人ではなくなったけど俺たちは今もこうして繋がっている不思議だな」
「昔以上にお二人はいい関係を続けていらっしゃるのでは」
「あぁそうかもしれないな さぁ帰ろう泉さん」
佐知からアメリカ行きの希望を聞かされた雅和はアメリカに出向き知人の手を借りて佐知が滞りなく生活できるように手配をすませていた。住居から日用品にいたるまで抜かりなく準備は整っていた。
佐知は飛行機の窓に広がる雲海を見つめながら秀行との再会に胸を躍らせていた。アメリカに降り立った佐知を出迎えてくれたのはこの地で事務所を構える雅和の知人だった。井上と名乗ったその男性はみごとな白髪の紳士だった。井上は自分の運転する車でアパートまで送り届けてくれた。
「困ったことがあったらいつでもこの電話番号にかけてください 雅和君の父親と私は旧知の仲で大変お世話になったものです そのせがれの頼みとならばわが息子の頼みと一緒ですから」
「ありがとうございます お力をお借りしなければならない時は甘えさせていただきます今日はありがとうございました」
「いつでも電話して構いませんよ
では私はこれで失礼します」
渡された鍵で部屋に入ると古い建築物件で年代を思わせる作りではあったが佐知は一目で気に入った。10畳大のリビングに置かれたベッドに目が釘づけになった。
「これは・・・」
ベッドにくくり吊るされた遊具には見覚えがあった。それは雅和の愛娘明日香のお気に入りの遊具だった。疲れて寝入っている秀和を静かにそのベッドに横たわらせた。窓を開け放し佐知は日本とは違う空気を存分に味わっていた。
秀行さんが住むこのアメリカに私も秀和と来れたわ・・
人という宝物に恵まれこの地に来ることができた佐知は確かな幸せを感じとっていた。
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