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人生の機微
おなじ屋根の下で3
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予定日が過ぎた五日目破水した佐知は泉に付き添われ病院へむかっていた。日が沈み始めた夕暮れ連絡を受けた雅和は仕事を中断して病院へ駆けつけた
佐知が分娩室に入って小一時間もしないうちに甲高い泣き声が静寂な院内に響き渡った。
病室に移動した佐知に泉が声をかけた。
「佐知さんおめでとうございます 大きな坊ちゃんでした 雅和さんも駆けつけてくれたのですが産声を聞いて安心なさり先ほど会社に戻られました」
「雅和も忙しいのに来てくれたのね」
「雅和さんが来てくれたので一度家に戻っておむすびを握ってまいりましたのよ 佐知さん朝から何も召し上がっていないですものね」
「ありがとうございます ひとつ頂いていいですか」
「ひとつと言わず沢山ございますから遠慮なさらずにどうぞ、先生が驚いておられました こんなに軽い初産は初めてだそうで、看護師さんは我慢強い妊婦さんですねと佐知さんを大層褒めておられましたよ」
「朝から経験したことのない激痛が来てたけどお産は初めてだから痛みの度合いがわからなくて我慢我慢と言い聞かせていたの でもあの痛みにはお手上げ、もう限界でした」
「朝から我慢なされていたなんて気づいてあげられなくてごめんなさいね 経験のない私ではやっぱり役不足でございましたね」
「そんなことありません 泉さんは、カルシウム不足といわれた私に工夫を凝らした魚料理を沢山作ってくれました 具合が悪くて起き上がれなかった時も私のそばに寄り添ってずっと手を握ってくれたわ 泉さんがそばにいるだけで不安が消えて身体が楽になったのよ だから役不足なんて思わないで下さい」
「嬉しいお言葉をありがとうございます 佐知さんのお役にたてたのなら何よりでございます これからもお力になりますから何でも申してくださいね」
「わたし・・本当に大変なのはこれからなんですよね 人として母として子供と共に成長していければいいのですが」
「栄養たっぷりのお食事を沢山お作り致しますからまずは体力をつけて頂きます 丈夫な体さえあれば何とかなるものでございますから」
「泉さんこれからもよろしくお願いしますね」
「こちらこそ宜しくお願い致します 佐知さんのお母様には私から坊ちゃんの誕生をお知らせしておきました」
「母は心配してひと月前からこちらに来て付き添うと言ってくれましたが何も知らない父に嘘をついてまで来てもらうわけには行かないので・・・父にはきちんと話さなければならないと思ってはいるのですが」
「そういう事情がおありだったのでございますね 電話で佐知さんのお母様たいそう喜んで泣いておられましたよ」
「母は私以上に泉さんに感謝しているの、母にかわりお礼を言わせて下さい泉さん、本当にありがとうございました」
泉は我が子を見つめる母親のように目を細め笑えんでいた。
妊娠中に決めていた秀和という名前を子供に命名した。秀の字を入れて欲しいといった秀行の希み通り「秀」そして実母と雅和の父・柳木沢の間に生まれ亡くなった兄、和由の「和」で秀和と佐知は決めていた
雅和が誕生した子が秀和と命名されたことをアメリカにいる秀行にメールで知らせると秀行からすぐさま男子誕生の喜びとねぎらう言葉が佐知の携帯に送られてきた。
雅和が佐知にかわり秀行とメールのやり取りをするには訳があった。重病で闘病中の秀行と佐知の交際ならまだしも妊娠となるとただでは済まないことは十分に察しがついた。関係に邪魔が入ることを恐れる二人のために雅和がひと肌脱いでいた。誰の目にとまっても問題ない暗号めいたやり取りで佐知と秀行を結ぶキューピット役をかって出たのだった。
思えばそんな生活も九か月におよんでいた。生体移植手術に成功した秀行は臨床研修に参加できるまでに回復していた。
息子と共に秀行がいるアメリカに渡りたいという佐知の思いは日ましに募っていった。佐知は再び雅和の協力を仰ごうとしていた。休日秀和をあやしていた雅和にアメリカ行きを告げると雅和は晴れた空に突然雨雲がかかったような顔を見せた。
佐知が分娩室に入って小一時間もしないうちに甲高い泣き声が静寂な院内に響き渡った。
病室に移動した佐知に泉が声をかけた。
「佐知さんおめでとうございます 大きな坊ちゃんでした 雅和さんも駆けつけてくれたのですが産声を聞いて安心なさり先ほど会社に戻られました」
「雅和も忙しいのに来てくれたのね」
「雅和さんが来てくれたので一度家に戻っておむすびを握ってまいりましたのよ 佐知さん朝から何も召し上がっていないですものね」
「ありがとうございます ひとつ頂いていいですか」
「ひとつと言わず沢山ございますから遠慮なさらずにどうぞ、先生が驚いておられました こんなに軽い初産は初めてだそうで、看護師さんは我慢強い妊婦さんですねと佐知さんを大層褒めておられましたよ」
「朝から経験したことのない激痛が来てたけどお産は初めてだから痛みの度合いがわからなくて我慢我慢と言い聞かせていたの でもあの痛みにはお手上げ、もう限界でした」
「朝から我慢なされていたなんて気づいてあげられなくてごめんなさいね 経験のない私ではやっぱり役不足でございましたね」
「そんなことありません 泉さんは、カルシウム不足といわれた私に工夫を凝らした魚料理を沢山作ってくれました 具合が悪くて起き上がれなかった時も私のそばに寄り添ってずっと手を握ってくれたわ 泉さんがそばにいるだけで不安が消えて身体が楽になったのよ だから役不足なんて思わないで下さい」
「嬉しいお言葉をありがとうございます 佐知さんのお役にたてたのなら何よりでございます これからもお力になりますから何でも申してくださいね」
「わたし・・本当に大変なのはこれからなんですよね 人として母として子供と共に成長していければいいのですが」
「栄養たっぷりのお食事を沢山お作り致しますからまずは体力をつけて頂きます 丈夫な体さえあれば何とかなるものでございますから」
「泉さんこれからもよろしくお願いしますね」
「こちらこそ宜しくお願い致します 佐知さんのお母様には私から坊ちゃんの誕生をお知らせしておきました」
「母は心配してひと月前からこちらに来て付き添うと言ってくれましたが何も知らない父に嘘をついてまで来てもらうわけには行かないので・・・父にはきちんと話さなければならないと思ってはいるのですが」
「そういう事情がおありだったのでございますね 電話で佐知さんのお母様たいそう喜んで泣いておられましたよ」
「母は私以上に泉さんに感謝しているの、母にかわりお礼を言わせて下さい泉さん、本当にありがとうございました」
泉は我が子を見つめる母親のように目を細め笑えんでいた。
妊娠中に決めていた秀和という名前を子供に命名した。秀の字を入れて欲しいといった秀行の希み通り「秀」そして実母と雅和の父・柳木沢の間に生まれ亡くなった兄、和由の「和」で秀和と佐知は決めていた
雅和が誕生した子が秀和と命名されたことをアメリカにいる秀行にメールで知らせると秀行からすぐさま男子誕生の喜びとねぎらう言葉が佐知の携帯に送られてきた。
雅和が佐知にかわり秀行とメールのやり取りをするには訳があった。重病で闘病中の秀行と佐知の交際ならまだしも妊娠となるとただでは済まないことは十分に察しがついた。関係に邪魔が入ることを恐れる二人のために雅和がひと肌脱いでいた。誰の目にとまっても問題ない暗号めいたやり取りで佐知と秀行を結ぶキューピット役をかって出たのだった。
思えばそんな生活も九か月におよんでいた。生体移植手術に成功した秀行は臨床研修に参加できるまでに回復していた。
息子と共に秀行がいるアメリカに渡りたいという佐知の思いは日ましに募っていった。佐知は再び雅和の協力を仰ごうとしていた。休日秀和をあやしていた雅和にアメリカ行きを告げると雅和は晴れた空に突然雨雲がかかったような顔を見せた。
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