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愛は陽炎(あいはかげろう)
ここにある愛5
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突然のお手紙をお許しください。忙しい仕事の合間に訪れてくれる秀行さんにはいつも感謝で一杯です。偽って生きていた私の姿を指摘してくれたのは秀行さんだけでした。秀行さんのおかげで今は心から笑えるようになりました。すでにご存じかと思いますが秀行さんと私たち夫婦は医大時代の友人でした。私たちの結婚と期を同じくして秀行さんとはそれっきり音信不通になりました。一時帰国していた私達は大切な懐かしい人からの手紙を手にしました。音信不通だった秀行さんからの手紙でした。その手紙は私たちの結婚を祝う言葉が書き添えられた詫び状のようなものでした。その後わたしの知らないところで夫と男同士の交流を続けていたようです。先日夫の遺留品が戻ってきました。その中に私がプレゼントした手帳を見つけました。そこにはこの現実を予想していたかのような内容が書かれてありました。
万が一僕に何が起こっても君は一人じゃない秀行が君の力になってくれる 君の人生は秀行に託してある
夫はこれと同じような手紙を秀行さんにも送っていたようです。秀行さんが会いに来たのは夫との約束だったからでしょう。愛するあなたという人がいる秀行さんに夫が託した願いはあまりに酷だったに違いないと本当に申し訳なく思っています。私を支えるのは夫との約束だからですかと秀行さんに尋ねたことがありました。秀行さんは迷いもせず言いました。
僕には愛する人がいる。幸せになろうと誓ったその人を深く愛している。彼女と築く人生に何ひとつの迷いもなかった君と再会するまでは。これからの人生を僕は君と共に生きてゆくと決めた。これは男同士の約束だからじゃない誤解しないでくれ。彼がいなくなったいま君を支えるのは僕に課せられた人生の課題のような気がしたんだ。うまく表現できないけど僕たちはいつも三人でひとつだった。君を中心に両脇にはいつも僕と彼がいた。どちらかが必ず君を守った。だから僕が君を守る事は必然でなんらおかしいことじゃない。でも今の気持ちをどんな言葉を並べようと佐知さんに届かないだろう。そんな彼女を思うと僕は・・
そう言って秀行さんはそれからというものずっと自分を責めているようでした。あなたを愛しているのに私と生きると言った秀行さんの気持ちをどうか察してあげて下さい。貴方という人がいるのを知りながら甘えすぎた私にも問題があったのかもしれません。どうぞお許しください。秀行さんと再会したときの私は偽って生きていなければ命さえ絶ってしまいかねない状況に置かれていました。幸いにも秀行さんのおかげで私は先の見えない不安から解放され再び生きる力をもらいました。そして一人で生きて行くなど自分の思い上がりだったと気づかされました。人は一人では生きられない。だからこそ私は夫と共に生きてきたのだと。私と秀行さんは学生時代に戻ったかのように阿吽の呼吸になっていました。でもこれだけは信じてください。秀行さんと私に昔のような身体のつながりはありません。事故の子宮破裂などで私は歩けないどころか子供も産めない身体になりました。女として全くなにひとつ機能しない身体なのです。貴方のもとに戻ってと言えなかった私を許してください。誰かの涙を踏み台にして幸せになろうとは思っていません。
いまも秀行さんはあなたを心から愛しています。貴方を思う気持ちに嘘はありません。私にはわかります秀行さんの愛はこれからもあなただけのものです。貴方の愛で秀行さんの決断を変えてください。誓った幸せをお二人で築いて下さい。私は実家に戻り断り続けた両親の援助を素直に受けるつもりです。私の愛する人はこれからも夫だけです。私達夫婦は秀行さんを傷つけてしまったけれど愛する人と結婚できて幸せでした。夫をあきらめ秀行さんと結婚していたら私は後悔していたと思います。だから秀行さんもあなたと結婚しなければきっと後悔を残します。秀行さんをしっかりつかんで離さないで下さい。お二人の幸せを祈っています。五十嵐杏子
翌日手紙をバッグにいれ佐知は出勤した。
「おはようございます 秀行さん仕事が終わったら時間とれますか」
「いつものところでいいかな」
「はい」
秀行に急な打ち合わせが入り佐知は、一足先にいつもの店で待つことにした。
万が一僕に何が起こっても君は一人じゃない秀行が君の力になってくれる 君の人生は秀行に託してある
夫はこれと同じような手紙を秀行さんにも送っていたようです。秀行さんが会いに来たのは夫との約束だったからでしょう。愛するあなたという人がいる秀行さんに夫が託した願いはあまりに酷だったに違いないと本当に申し訳なく思っています。私を支えるのは夫との約束だからですかと秀行さんに尋ねたことがありました。秀行さんは迷いもせず言いました。
僕には愛する人がいる。幸せになろうと誓ったその人を深く愛している。彼女と築く人生に何ひとつの迷いもなかった君と再会するまでは。これからの人生を僕は君と共に生きてゆくと決めた。これは男同士の約束だからじゃない誤解しないでくれ。彼がいなくなったいま君を支えるのは僕に課せられた人生の課題のような気がしたんだ。うまく表現できないけど僕たちはいつも三人でひとつだった。君を中心に両脇にはいつも僕と彼がいた。どちらかが必ず君を守った。だから僕が君を守る事は必然でなんらおかしいことじゃない。でも今の気持ちをどんな言葉を並べようと佐知さんに届かないだろう。そんな彼女を思うと僕は・・
そう言って秀行さんはそれからというものずっと自分を責めているようでした。あなたを愛しているのに私と生きると言った秀行さんの気持ちをどうか察してあげて下さい。貴方という人がいるのを知りながら甘えすぎた私にも問題があったのかもしれません。どうぞお許しください。秀行さんと再会したときの私は偽って生きていなければ命さえ絶ってしまいかねない状況に置かれていました。幸いにも秀行さんのおかげで私は先の見えない不安から解放され再び生きる力をもらいました。そして一人で生きて行くなど自分の思い上がりだったと気づかされました。人は一人では生きられない。だからこそ私は夫と共に生きてきたのだと。私と秀行さんは学生時代に戻ったかのように阿吽の呼吸になっていました。でもこれだけは信じてください。秀行さんと私に昔のような身体のつながりはありません。事故の子宮破裂などで私は歩けないどころか子供も産めない身体になりました。女として全くなにひとつ機能しない身体なのです。貴方のもとに戻ってと言えなかった私を許してください。誰かの涙を踏み台にして幸せになろうとは思っていません。
いまも秀行さんはあなたを心から愛しています。貴方を思う気持ちに嘘はありません。私にはわかります秀行さんの愛はこれからもあなただけのものです。貴方の愛で秀行さんの決断を変えてください。誓った幸せをお二人で築いて下さい。私は実家に戻り断り続けた両親の援助を素直に受けるつもりです。私の愛する人はこれからも夫だけです。私達夫婦は秀行さんを傷つけてしまったけれど愛する人と結婚できて幸せでした。夫をあきらめ秀行さんと結婚していたら私は後悔していたと思います。だから秀行さんもあなたと結婚しなければきっと後悔を残します。秀行さんをしっかりつかんで離さないで下さい。お二人の幸せを祈っています。五十嵐杏子
翌日手紙をバッグにいれ佐知は出勤した。
「おはようございます 秀行さん仕事が終わったら時間とれますか」
「いつものところでいいかな」
「はい」
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